計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

エネルギーミニマムの法則

2009年11月04日 | オピニオン・コメント
 かつて私が大学4年から3年間在籍していた研究室の恩師は、(外界からの働きかけが無い限り)自然現象はよりエネルギーの高い状態からよりエネルギーの低い状態=エネルギーが最小値または極小値となる状態に向かって推移する事を「エネルギーミニマムの法則」と呼んでいました。ちなみに私の当時の研究室は機械工学の中でも異質のバイオメカニクス(生命・生体力学)研究室です。

 私の研究テーマは細胞膜の変形挙動を理論的に解明するものでした。この際に細胞膜の系の歪エネルギー(曲げ+せん断)の関数が極小値となるようなパラメータの組合せを計算する手法を用いていました。この理論的背景を講義される際に多用された言葉です。

 ちなみに、気象学の傾圧不安定理論によれば、場の有効位置エネルギーが擾乱の渦有効運動エネルギーに変換されます。これは南北間の温度差(熱的アンバランス)が傾圧不安定状態をもたらし、この不安定性を解消するべく擾乱を生じて、このアンバランスを解消せしめると言うものです。アンバランスによって生じる不安定性が位置エネルギーという形で蓄積され、この一部が有効運動エネルギーという形に変換(開放)した結果、より位置エネルギーの低い状態に収束するというプロセスを考えれば、なるほどエネルギーミニマムの法則は気象学にも適用できるものだ、と改めて感心しています。

 そして今や、この法則は自然科学のみならず社会現象にも通じるものではないか、とさえ感じています。かつて絶対的と思われていたある種の伝統的・封建的な価値観・社会規範やそれらに対する信頼(外界からの働きかけ=外部から与えられるエネルギーに相当)が音を立てて崩壊した結果、社会全体がエネルギーミニマムの法則に従って動き出し、その結果が「草食系男子」「肉食系女子」「少子高齢化」「ジェンダーフリー」等の社会現象として発現したのかもしれない、と見る事が出来るでしょう。これはまた社会が、従来はより画一的な社会規範や伝統によって一人一人の「個性」や「自由」を縛り付ける傾向が(少なからず)あったのに対し、現代では「多様な価値観」に対してより寛容になったと見る事もできるでしょう。

 しかし、何事も行き過ぎると新たな不安定状態(エネルギーの高い状態)を生み出すのでそれを解消するための擾乱を生じ、再び安定状態に推移しようとします。すなわち「男子の草食化」「女子の肉食化」「少子高齢化」「ジェンダーフリー」等も、「マクロな視点で見れば」、ある程度の所でバランスを取る形に収束(落ち着く)するのではないかと私は考えています。

 価値観の多様化についても、個々人各々は「自分は個性的だ」と認識しつつも、「マクロな視点からみれば」、その「個性」群の膨大な数にも関わらず、結局は大同小異の範疇に収まるだろうと思われます。その意味では、ある程度の均質性は維持されるので、今後暫くは多様性と均質性の絶妙な、かつ時代に合った新しいバランスを探る過渡期になるのでしょう。

 折りしも、この夏の衆議院議員選挙では政権交代が実現しました。同じ政党による政権があまりにも長く続き(一時的には交代はあったが)、ある種の不安定性(位置エネルギー)が蓄積され続けた結果、その過剰エネルギーを開放すべく「政権交代」という劇的な擾乱を生じるに至った、と見る事はできるのではないでしょうか。

 これは簡単に言えば、自然の流れに任せていればやがて落ち着くべき所に落ち着くという事です。但し、そのタイミングや詳細な状況を予測する術を持っているわけではないので、あくまで、エネルギーミニマムの法則で考えればこうなるだろう程度の話である事をお断りしておきます。勿論、境界条件に相当するグローバルスタンダードの変化とその影響が変動する以上、常に外部からの働きかけ(エネルギー)が与えられ続けると考えられるでしょう。この事を考えると、常に「収束しようとしている方向」が再び「新たな不安定化の方向」に変わり得るので、精密に予測する事は難しいのです。

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