計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

2022年12月中旬の大雪

2022年12月20日 | 気象情報の現場から
 2022年12月18日夕方から20日朝にかけて、新潟・山形・福島の3県を中心に大雪に見舞われています。長らく続いている「ラニーニャ現象」に「負の北極振動」が重なり、さらに「日本海寒帯気団収束帯」が新潟県に延びたことが主な要因とみられます。

 第1図は、2022年12月18日15時における数値予報図です。
 日本海では等圧線が幾重にも(ひらがなの)「く」の字に折れ曲がっています。そこでは日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)が形成されており、その向かう先で大雪の傾向があります。


第1図・12/18の15時における数値予報図(気圧配置と降水量)


 第2図も、2022年12月18日15時における数値予報図です。
 この図では風向風速に注目してみます。北半球では、気圧の高い側から低い側に向かって、等圧線を右斜めに横切るように風は吹きます。また、等圧線も密集し、気圧の傾きが大きくなっています。日本海上の等圧線が「く」の字に折れ曲がる線(黄色破線)を境に、その北側では北西寄りの風、南側では西よりの風となっています。この2つの流れが日本海上で線状(帯状)にぶつかる領域が「収束域(収束帯)」です。


第2図・12/18の15時における数値予報図(気圧配置と風向風速)


 第3図は、日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)の模式図です。
 日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)は、朝鮮半島北部の山脈(約2700m級)によって寒気の流れが二分され、日本海上で合流する際に形成される風の収束域(収束帯)のことです。要は、二つの流れが合流する帯状(線状)の領域とイメージすると良いでしょう。
 各々の季節風の流れに伴って生じた雪雲が、この収束帯上に集まり、その延長線上の下流側に向かって移動します。まさに、雪雲が大群を成して押し寄せるようなものです。


第3図・日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)の模式図


 第4図は上空寒気のパターンの模式図です。上空の寒気に注目すると、日本付近に非常に強い寒気が流入しやすい条件が揃っていました。
 ヨーロッパから日本付近にかけてトラフーリッジートラフの位相(波列)となる「正のEUパターン」が形成されたため、日本付近では寒気の南下しやすい位相となっています。
 さらに「負の北極振動」に伴って北極付近に蓄積された寒気が中緯度地方に放出されやすい状態が重なったため、「最強寒波」と呼称されるような非常に強い寒気の南下につながったと考えられます。


第4図・上空寒気のパターンの模式図


 第5図は新潟県12時間降雪量(2022年12月18日18時~19日06時)の分布図です。
 日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)が県央~中越地方北部に向かって延びた影響で、この地域を中心に集中的な降雪域が見られます。一方、中越地方南部の南魚沼市では目立った降雪は見られませんでした。


第5図・新潟県12時間降雪量(2022年12月18日18時~19日06時)の分布図
※20cm以上を等値線の対象


 第6図は山形県12時間降雪量(2022年12月18日18時~19日06時)の分布図です。
 山形県は日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)の北側に当たり、北西寄りの風が強まりました。このため、朝日連峰と飯豊連峰に沿って降雪量の極大域となっています。山形県では西置賜から最上地方を中心に積雪の増加が見られました。

第6図・山形県12時間降雪量(2022年12月18日18時~19日06時)の分布図
※20cm以上を等値線の対象


 日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)については「こちらの記事」でも詳しく述べています。また、類似の事例として、2021年1月の上越の大雪も日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)が関与しています。
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いよいよ冬の到来か

2022年11月30日 | 気象情報の現場から
 天気図を見ていると、いよいよ冬の到来と思えるような状況が見えてきました。


 この日は低気圧や前線の接近に伴って、南西から暖かい空気も流れ込んだため、季節外れの陽気となりました。また、気圧の傾きも大きくなったため、風が強まりました。低気圧や前線が通過した後は、日本付近は冬型の気圧配置となりました。


 日本列島を境に南側では暖気、北側では寒気のコントラストが明瞭となっています。また、日本海上に形成された収束帯を境に、南側では西よりの風、北側では北寄りの風となっています。その上空の寒気も南下しています。

 この寒気が日本列島を広く覆うようになると、いよいよ冬の到来を実感できそうです。空模様も気温も目まぐるしく変わりそうです。
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2022年11月も半ばを過ぎて

2022年11月21日 | 気象情報の現場から
 ここ最近(2022年11月半ば)のラニーニャの影響と偏西風の蛇行、および成層圏の極渦をイラストに整理してみました。


 今年の梅雨に影響を及ぼした「負のIODインド洋ダイポールモード現象)」は減衰しつつあるようです。一方、相変わらずラニーニャ現象は続いており、熱帯の活発な対流の位置が平年より西側にシフトしています。また、偏西風(Jp)の蛇行も「負のEUパターン」となっています。

 この両者の影響が絶妙に合わさって、今の所は日本付近での寒気の南下はそれほど顕著ではないようです。・・・とは言え、今後の上空の動きからは目が離せません。

 冬の成層圏では北極付近は「極渦(低気圧性循環)」が広がります。しかし、この極渦は対流圏から伝播する波動(プラネタリー波)の影響で型崩れしやすく、夏の高気圧性循環に比べて不安定な一面を持っています。特に冬の極渦が分裂した隙に、高気圧性循環に本丸(北極付近)を乗っ取られると「成層圏突然昇温」を経て「負の北極振動」に発展することもあります。

 冬の本番はこれからです。準備は早めに進めておくと良さそうです。
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学会誌9月号届く

2022年10月04日 | 気象情報の現場から
 昨日、(公社)日本気象学会の機関誌「天気」9月号が届きました。

 今回、私の調査ノート「ニューラルネットワークを用いた山形県内の気温および降雪量の予測実験」が掲載されています。実に7年振り・2報目の「ニューラルネットワーク論文」となりました。

 これまで「ニューラルネットワーク」を用いた気象モデルの研究を報告してきましたが、その全てにおいて入力値・出力値共に「観測値(を基にしたデータ)」を使用しておりました。このため局地予報への応用の観点から、入力値に「数値予報データ(GPV)」を用いた取り組みについての期待も頂いておりました。しかしながら、「ニューラルネットワーク」の技術的な課題に直面しており、なかなか「この壁」を超えることができませんでした。

 そもそも「ニューラルネットワーク」を構成する素子「人工ニューロン」は「0」と「1」のデジタル信号を扱います。実際には活性化関数に「シグモイド関数(連続関数)」を用いることで、「0から1の任意の実数」を取り扱うことができます。一方、現実問題として「気象パラメータ」の取り得る値は「0から1の任意の実数」の枠に留まりません。この両者の「折り合い」をどうつけるのが良いのか、これが長年の課題でした(実は今でも課題です)。

 この問題に対する「アイデア」を提示し、「実際に試してみた」のが今回の取り組みです。

 また、これまで「ニューラルネットワーク」は基本的な「3層構造」を使用してきましたが、今回は新たに中間層の多層化を施した「4層構造」も導入しました。さらに、重回帰分析を用いた場合との比較を行いました。



 近年の学会発表(オンラインポスター)の集大成として、ようやく「調査ノート」として投稿・掲載に至ることができました。なお、オンライン「天気」における一般公開は、半年後になるそうです。
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フェーン現象と海陸風

2022年09月08日 | 気象情報の現場から
 総観スケールで南寄りの風の場となる時、北陸地方など日本海側の平野部ではフェーン現象に伴う気温上昇が顕著になることがあります。

 さて、新潟県内でフェーン現象による昇温が顕著になるのは、風向が主に南東~南寄りとなる場合です。一方、西南西~南西寄りの風になると、気温の上がり方は緩やかになる傾向があります。この他にも、フェーン現象の影響が限定的になるケースがあります。

 まずは、2022年9月5日・正午の新潟県内の気温と風の分布です。

 北陸地方では南風に伴うフェーン現象が発生する一方、上越地方の沿岸部では海風の方が顕著となりました。この付近ではフェーンの弱化(フェーンブレイク)が見られました。南風をもたらす総観場の気圧傾度より、海風をもたらす気圧傾度の方が大きいようですね。

 続いて、翌日の9月6日・正午の新潟県内の気温・風の分布です。

 日本海を北上する台風11号の影響で、北陸地方は強い南風となりました。新潟県内では上・中越で南寄り、下越では南東寄りの風となり、フェーン現象に伴って平野部の昇温も顕著になりました。

 ここまでの内容を踏まえて、海陸風とフェーン現象の模式図を描いてみました。


 総観場では北陸地方でフェーン現象が発生し得る状況でありながら、平野部では海風の影響の方が優勢となるケースがあります。従って平野部の昇温ポテンシャルを予想する際には「海陸風とフェーン現象のどちらの影響が卓越するか」についても考慮する必要があります。


 今度は視点を変えて、フェーン現象を「山越え気流」と考えてみましょう。


 上段は低フルード数、下段は高フルード数の場合の流れです。山を乗り越えて吹き降りた流れが、カウンターフローとなる海からの風に打ち勝つためには、高フルード数であることが望ましいと考えられます。

 つまり、一般流に相当する南寄りの風が「ある程度強い」ことが条件となります。この流れが弱いと、山を乗り越えた流れが海からの風に押し戻されることになります。つまり、沿岸部~平野部では海風が卓越するため、フェーンの弱化が引き起こされます。
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梅雨の戻りと「シン・梅雨前線」?

2022年07月14日 | 気象情報の現場から
 さて、2022年の梅雨は短く「観測史上最早の梅雨明け」となりました。これに伴い、非常に厳しい暑さが続いておりましたが、今度は「梅雨の戻り」の様相を呈してきました。

 ラニーニャ現象と負のIOD(インド洋ダイポール現象)の影響で熱帯の対流の位置がシフトしたのに加え、偏西風も大きく蛇行した結果、チベット高気圧やオホーツク海高気圧が顕著となっているように見受けられます。また、オホーツク海高気圧と南下した太平洋高気圧の間に現れる湿潤域と暖湿気流に伴い、雨が降りやすくなっているようです。

 その背景について簡単な模式図を描いてみました。



(1)ラニーニャ現象の影響で、熱帯の対流の位置は西側(概ねフィリピン付近)にシフトします。

(2)負のIOD(インド洋ダイポール現象)の影響で、熱帯の対流は概ねフィリピン付近にシフトします。負のIODとは、熱帯付近の海面水温が(平年に比べて)「アフリカ側で低温、フィリピン側で高温」となる方向にシフトする現象です。

(3)活発な対流は上昇気流を形成します。これに伴い「下層では収束場、その上空では発散場」の流れを作り出します。また、北側に目を向けると、何やら偏西風の蛇行が大きくなっています。

(4)上空では発散場となるため、北側を流れる偏西風をさらに北側に押し上げます。この影響で「チベット高気圧」が顕著となります。

(5)偏西風がチベット付近で北に押し上げられた反動で、その東側では一旦南に下がり、日本付近で再び北上するように蛇行します。

(6)偏西風は日本付近で北上しますが、もともと蛇行が大きいので、「オホーツク海高気圧」が顕著になります。なお、日本付近の偏西風の蛇行には「台風4号から変わった低気圧」の渦も影響したと考えられます。

(7)「オホーツク海高気圧」が顕著となり、「太平洋高気圧」は南に押しやられます。そして、両者の間に「梅雨前線」改め「シン・梅雨前線」が現れる?
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観測史上最早の梅雨明け

2022年06月30日 | 気象情報の現場から
 2022年の「梅雨」はアッという間でした。北陸地方は6月28日に「梅雨明け」が発表され、翌29日には東北南部でも「梅雨明け」が発表されました。

 特に、6月下旬は「太平洋高気圧」の勢力が特に強く、その勢いで梅雨前線も押し上げられてしまったようです。その背景について簡単な模式図を描いてみました。



 ポイントを簡単に書くと・・・

(1)ラニーニャ現象の影響で熱帯域の活発な対流が西側(フィリピン付近)にシフト。

(2)この対流の上空では顕著な発散場となるため、その北側を流れる偏西風がさらに北にシフト。

(3)偏西風が大きく蛇行して持続し(シルクロードパターン)、太平洋高気圧も西側に勢力拡大。

(4)正のPJパターン(フィリピン付近で対流が活発になり、日本付近の高気圧が強化)が成立。

(5)太平洋高気圧に押し上げられて、梅雨前線の北上が進み「梅雨明け」。

 このような背景で一先ず「梅雨明け」は発表されましたが、この後「梅雨の戻り」の可能性も予想されております。

(9月2日・追記)
9月1日、気象庁から梅雨入り梅雨明けの確定値が発表されました。
この結果、北陸地方・東北南部は共に「特定できない」に改められました。
https://www.data.jma.go.jp/cpd/baiu/index.html
6月下旬のケースは「梅雨明け」から「梅雨の中休み」の位置付けに変わったようです。
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梅雨なのに…猛暑日

2022年06月24日 | 気象情報の現場から
 今日(6/24)の新潟県内は、厳しい暑さに見舞われました。最高気温35℃以上を観測した地点を挙げてみますと・・・

・十日町:37.1
・大 潟:37.0
・小 出:36.9
・糸魚川:36.8
・高 田:36.7
・安 塚:36.5
・柏 崎:36.1
・長 岡:35.8
・湯 沢:35.4
・津 南:35.2
・三 条:35.1
・守 門:35.0

 正午時点の新潟県内の気温分布を見てみますと、上・中・下越の広い範囲で30℃を超えており、特に上越地方を中心に35℃を超えている地域が見られました。



 今日は日本海の低気圧や前線に向かって、太平洋高気圧の縁辺から顕著な暖気が流れ込んでいました。上空では1500m付近で18℃以上の暖気となっており、これは地上で30℃以上の目安でもあります。

 さらに、暖気の流れが山を乗り越える際の「フェーン現象」の影響も加わったため、真夏日を超えて猛暑日となる地点が現れました。それにしても、この時期にしては太平洋高気圧の勢力が強いように見えます。



 そういえば、まだラニーニャ現象が継続しているんですね・・・。
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2022年度の幕開け

2022年04月01日 | 気象情報の現場から
 新年度、あけましておめでとうございます
 2022年度が幕を開けました。

 昨年11月半ばから続いた約4か月半に及んだ降雪予報期間もようやく終わり、安堵した心境で新年度を迎えています。

 さて、現在は「データサイエンス」の分野が脚光を浴びています。昔のプログラミング言語の一つである「FORTRAN」が主流だった頃は、「科学技術計算」という言葉がありました。「データサイエンス」も本質的には「科学技術計算」の延長上にありますが、想定される対象分野がより広がっているものと認識しています。しかし「対象を『数理モデル』の形に表現し、将来の予測に役立てる」という基本は変わらないでしょう。

 また、「数理モデル」の構築に際しては「4種類の表現」を使い分ける必要があります。それは「言語」「イメージ」「数式」そして「プログラミング」です。対象を「言語」や「イメージ」を通して理解し、これを「数式」を用いて定量的に表現します。この「数式」を基にアルゴリズムを構築し、最終的に「プログラミング」の形に落とし込むのです。

 このような「数理モデル」の一つの現れとして「人工知能(AI)」が挙げられます。私も今では「機械学習」の一環である「ニューラルネットワーク」の応用に取り組んでいます。

 過去記事「最近の雑感(2017年09月22日)」の中で、「『予報』とは『決断』である」という言葉を紹介しました。これは、未来における可能性を「予測」し、何を・どのように伝える(報じる)べきかを「決断」すると言う趣旨です。AIが「予測」を担い、その結果を基に人間が「決断」するものです。さらに「決断」には「意思」と「責任」を伴います。

 将来は「AIが天気予報を担うだろう」と言われて久しい中、そのような時代における「気象予報士」の「レーゾンデートル」とは何なのか?この問題について、ふと思いを巡らすことがあります。AIが天気予報を行うようになれば、気象予報士は不要となるのだろうか?

 私は言わば「AI天気予報の実現に加担している」側になります。その立ち位置からの見解として「気象予報士のレーゾンデートルが失われる事は無く、むしろ求められる役割が変化する」と考えています。

 まずは「『誰が』『どうやって』予報するのか」が変わります。従来の概念では、「人間が」「天気図やデータを自分で解析して」予報を行うものでした。それが現在では、「人間が」「機械に」「予報をやらしめる」形に徐々にシフトしています。もちろん、人間も天気図やデータの解析は行います。ただし、それは機械が予測した結果を理解し、または必要に応じて修正を加えるためのものです。

 また「人間」の役割はこれで終わりません。さらに、「機械が行った」予報の結果を活用して「社会に役立てる」こと(社会実装)が求められます。機械は詳細な計算を行います。この計算結果を人間社会の中で役立てるためには、両者の「橋渡し」を担う存在が必要です。まさに「機械が行う専門的な予測計算」と「その応用分野」の双方に深い理解を持つ存在です。

 このことは「天気を予報して何を実現したいのか?」という根本的な問題に辿り着くのです。予報を通して実現したいことは何か?そのためにはどのような予報が必要なのか?その予報を行うためにはどのような数理モデルが必要なのか?そんな所にも新たな活躍のチャンスがあるのかも知れません。

 それでは、新年度も宜しくお願い申し上げます。
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2021年1月の上越の大雪を振り返る

2021年12月20日 | 気象情報の現場から
 この週末は本格的な降雪となりました。現在はラニーニャの状態が続いています。北極振動も次第に正から負に転じ、冬型の気圧配置も強まりました。

 さて、昨シーズンに遡る事2021年1月7日~11日は上越を中心に大雪となりました。この時は「ラニーニャ現象」および「負の北極振動」に加えて「日本海寒帯気団収束帯」も新潟県に延びる形となり、さらに「この気圧配置が持続した」ことが、その背景にありました。

 まずはこの5日間の新潟県内の降水量の分布を見てみましょう。上越市高田周辺では200mm以上、新潟市秋葉区の新津周辺では100mm以上の極大域となっています。



 続いて、この5日間の降雪量と1月の降雪量(1か月分)の平年値を比較してみましょう。新津では5日間で平年の1か月分相当、高田では平年の1か月分を大幅に超える降雪に見舞われました。また、山沿いの地域よりも平野部を中心に大雪傾向であったことが判ります。



 さらに、この5日間の気圧配置の移り変わりを見てみましょう。7日に低気圧や前線が日本の東に抜けた後、8日~10日にかけて冬型の気圧配置が続きました。日本海上では等圧線は概ね縦縞模様となっていますが、幾重にも「く」の字に折れ曲がる所が見られました。この辺りに日本海寒帯前線集束帯(図中・赤太線)が形成されたことがうかがえます。


(※気象庁発表天気図をもとに加工・加筆)

 この日本海寒帯前線集束帯(JPCZ)が新潟県付近に向かって延びており、この形が持続したことが大雪の背景と考えられます。

 さて、冒頭の降水量の分布では、上越地方と下越地方に極大域が現れました。つまり、中越地方は極小域に対応し、相対的に降水量は少なかったということになります。この点についても少し考えてみましょう。


 この事例では日本海寒帯前線収束帯(JPCZ)を境に、その北側では北寄りの風、南側では西寄りの風となります。この両者が収束する所で上昇気流を生じ、対流が活発になります。また、水蒸気が海面から供給されることに鑑みると、主に北寄りの風に伴って輸送されると見ることができます。

 これらを踏まえて北寄りの風の流れに注目すると、中越地方から見たちょうど風上側には佐渡島があります。つまり、佐渡島によって北寄りの風の流れが妨げられ、中越地方では(上越や下越に比べると)風の収束や水蒸気の補給が顕著ではなかった可能性が考えられます(それでも、十分「大雪」でしたが)。

 いずれにしても、これからの時期は大雪への警戒と備えが必要です。
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自家用乗用車を全てEV化した場合の電力は?

2021年10月30日 | 気象情報の現場から
 昨今、ガソリン車を廃止してEV車を普及させるという動きが現れています。確かにEV車が普及すれば、自動車からのCO2排出は無くなるので、その意味では「クリーン」と言えるでしょう。しかし、EV車を動かすためには電気(電力)の供給が必要です。

 つまり、CO2が自動車の排気口から排出されるのか、発電所から排出されるかの違いであり、いずれにせよ大なり小なりCO2は排出されるのではないか、とふと疑問に思うのです(今回はこの疑問は横に置いておきます)。


 とは言え、今後EV車が普及するのであれば、電力需要が高まるのは必至です。そこで、今回は国内の自家用乗用車が全てEV車に置き換わった場合の電力需要を概算してみます。


 簡単のため、国内のガソリン乗用車を「1台の乗用車」に集約して考えます。この乗用車が長距離を走行することで、大量のCO2が発生します。そこで、国内のCO2排出量が年間M[万t/年]である場合、上記の「1台の乗用車」がどれだけの距離D[km]を走行すれば、Mの排出を実現できるのかを考えます。この距離Dは、ガソリン乗用車から排出されるCO2の排出量M、燃費F、さらに燃料の消費によって発生するCO2の量Cから求めることができます。

 続いて、将来のEV乗用車を「1台の乗用車」に集約して考えます。この「1台の乗用車」をガソリン車と同じ距離Dだけ走行させるのに必要な電力量Jを求めます。これは走行距離Dと電費Eから求めることができます。

 これを計算式に表すと次のようになります。


ここで、各パラメータに以下の値を代入すると

 M = 9697[万t/年][1]
 F = 22[km/L][2]
 C = 2.4[kg/L][3]
 E = 6[km/kWh][4]

ガソリン乗用車の走行距離は

 D ≒ 8890×108[km/年] = 8890[億km/年]

と求められ、

EV乗用車に同じ距離を走らせるために必要な電力量は

 J ≒ 1482×108[kWh/年] = 1482[億kWh/年]

と求められます。

 さて、日本国内の年間発電量が約10000億kWh[5]に達します。つまり、1482[億kWh/年]という値は、年間発電量の約15%に相当します。例えば、この電力量を原子力発電で賄うことを考えてみましょう。

 一般的な原発1基当たりの出力は約100万kWと言われています。そこで設備使用率を80%、年間8760hだけ稼働するとして、1基当たりの年間発電量は次のようになります。

100×104[kW/基] × 0.80 × 8760[h/年]
= 700800×104[kWh/年・基]
≒ 70×108[kWh/年・基]
= 70[億kWh/年・基]

従って、EV車の電力量を賄うためには

 1482[億kWh/年] ÷ 70[億kWh/年・基] ≒ 21.17基 ≒ 約22基(※端数繰り上げ)

すなわち、原子力発電で約22基分に相当します。イメージとしては「世界最大級と言われる柏崎刈羽原発(7基)の3倍」です。

【reference】
[1]https://www.env.go.jp/council/38ghg-dcgl/y380-08/mat03.pdf
[2]http://guide.jsae.or.jp/topics/277499/
[3]https://www.ecofukuoka.jp/q_and_a/216.html
[4]https://www.zurich.co.jp/car/useful/guide/cc-evcar-mileage-battery/
[5]https://sustainablejapan.jp/2021/06/23/electricity-proportion/13961
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真夏に二つの高気圧の背景

2021年08月23日 | 気象情報の現場から
 8月の気圧配置と言えば「日本付近は太平洋高気圧に広く覆われる」形(夏型の気圧配置)が連想されます。しかし、最近の気圧配置は「日本付近がオホーツク海高気圧太平洋高気圧に挟まれる」ような形となっています。

 最近の大気の循環場を見ていると、次のような構図が「おぼろげながら」浮かんできました。


 熱帯付近の活発な対流が平年より北上しているようです。この影響で、偏西風の蛇行も日本上空で北に盛り上がる形となっています。この偏西風の盛り上がり(リッジ)に伴って、日本の北側でオホーツク海高気圧が顕著に現れました。

 一方、太平洋上空では偏西風が南に盛り下がり(トラフ)、この影響で太平洋高気圧もやや南下傾向にあるようです。
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梅雨末期のような「秋雨前線」

2021年08月13日 | 気象情報の現場から
 お盆の時期となりました。
 人の移動に伴うCOVID-19の感染拡大も気になる所ですが、秋雨前線の動向にも注意が必要です。まるで「梅雨末期の大雨」を彷彿とさせる状況です。関係機関から発表される気象情報・防災情報をこまめに確認することを心掛けましょう。


【参考になりそうな過去記事】
3種類の線状降水帯
バックビルディング型の線状降水帯
梅雨前線の構造
湿舌と梅雨前線
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暑い日が続いております。

2021年08月07日 | 気象情報の現場から
 猛暑日とも言えるほどの暑い日が続いております。

 最近の当地(北陸地方の日本海側)の非常に厳しい暑さは、直接的な要因としては「台風や熱帯低気圧に伴う南からの暖かく湿った空気の流入やフェーン現象の影響」とも言えるでしょう。

 しかし、その背景をさらに探ると「熱帯の活発な対流が北に寄っている」ようにも見えます。この影響で偏西風が北上し、高気圧が北日本で顕著となる傾向が見られます。

 この結果、日本付近の海面水温も平年よりも高めで推移しています。台風や熱帯低気圧にとっては勢力を維持しやすい環境となっているので、その点も気掛りです。
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火力発電の様々な方式

2021年07月20日 | 気象情報の現場から
 梅雨明けしたと思ったら、一気に真夏の暑さが続いています。過去の記事「電力需要と気温の関係」でも紹介しましたが、夏場は気温が高くなると電力需要も増加します。冷房を稼働するために多くの電力を用います。

 そこで、今回は主な火力発電の方式ついて書いてみます。学生時代は工学部機械系に在籍し「工業熱力学」も勉強していたので、熱サイクルの観点から興味深い話題です。現在の火力発電は大きくわけて3種類の方式があります。

蒸気タービン発電
 高温・高圧の蒸気の流れによりタービンを回す。
 熱サイクルは「ランキンサイクル」がベース。

ガスタービン発電(GT)
 高温・高圧の燃焼ガスの流れによりタービンを回す。
 熱サイクルは「ブレイトンサイクル」がベース。

複合サイクル発電(GTCC)
 ガスタービンの排ガスの余熱で蒸気タービンを駆動。
 熱サイクルは「ブレイトンサイクル」と「ランキンサイクル」のハイブリッド型。

 さらに、二酸化炭素削減の観点から、次のような新技術の研究開発が進んでいます。

石炭ガス複合発電(IGCC)
 石炭を蒸し焼きにして生じる可燃ガスを複合サイクルの燃料として使用

水素ガスタービン発電
 ガスタービン発電の燃料を一部水素に代替 → 水素専焼GTCCを視野


【1.蒸気タービン発電】

 お湯を沸かして、その蒸気でタービンを回すものです。汽力発電とも言います。燃料は主に石炭・重油・LNG(液化天然ガス)を用います。


 ランキンサイクルの構成は次の通りです。
 1 → 2 :水をポンプ(Pf)で押し上げる(圧縮)
 2 → 3':ボイラー(B)で加熱し、水を全部蒸気に変える
    ※沸点に達した液相(飽和液)→液相と気相の共存(湿り蒸気)→全て気相(飽和蒸気)
 3'→ 3 :飽和蒸気を過熱器(S)でさらに加熱し、過熱蒸気に変える(エロージョン防止のため)
 3 → 4 :高温・高圧の過熱蒸気をタービン(T)に導き、その膨張によりタービンを回転させる
 4 → 1 :膨張後の蒸気を凝縮器・復水器(C)に導き、冷却して水に戻す

 ちなみに、何かと話題の「原子力発電」はボイラー(B)と過熱器(S)を原子炉で代替したもので、原理的にはランキンサイクルです。


【2.ガスタービン発電】

 思いっきり圧縮して高温となった空気に燃料を吹っかけ、爆発させて(?)そのガスの威力でタービンを回すものです。燃料は主に灯油・軽油・LNG(液化天然ガス)を用います。内燃機関(エンジン)の一種でもあります。

 ブレイトンサイクルの構成は次の通りです。
 1 → 2 :空気を圧縮機(CG)に取り込む(断熱圧縮)
 2 → 3 :圧縮された空気と燃料を燃焼室(CH)で混合する(等圧燃焼)
 3 → 4 :混合ガスをタービン(T)に導き、その膨張によりタービンを回転させる(断熱膨張)
 4 → 1 :ガスを排出(等圧排気)
(3の状態では1000℃近い高温に達し、4の状態でも500℃近い高温となっています)


【3.複合サイクル(コンバインドサイクル)発電】

 ガスタービン(ブレイトンサイクル)の排ガスの余熱で、蒸気タービン(ランキンサイクル)を駆動する方式です。


 ブレイトンサイクルから出る排ガスの余熱を熱交換器(HE)で回収し、ランキンサイクルのボイラー(B)と過熱器(S)を代替する仕組みです。ブレイトンサイクルで燃料を投入すれば、ガスタービンと蒸気タービンを連続して運転することが可能となります。

 つまり、1度の燃料投入で2段階の発電が可能となるため、ガスタービンと蒸気タービンを単体で運転するよりも、効率良く発電が可能です(熱効率が向上します)。


【4.石炭ガス複合発電】

 石炭ガス複合発電(IGCC)は、石炭を蒸し焼きにして生じる可燃ガスを複合サイクルの燃料として用います。発電量1kWh当たりのCO2排出量を、従来の石炭火力発電よりも15%程度の低減されるようです。


 ブレイトンサイクルを運転するためには、燃焼により非常に高い温度(1000℃近く)を実現することが求められます。そこで、まずは石炭から可燃ガスを取り出します。この可燃ガスを燃料として、ブレイトンサイクルの燃焼室に投入します。後は複合サイクルの運転と同様です。

 さらに、IGCCの発展形として「IGCC+CCS」の研究も進められているようです。


 上述のIGCCに、新たにCO2を回収し地中に閉じ込める技術(CCS)を組み合わせるものです。この技術により発電量1kWh当たりのCO2排出量は、従来の石炭火力発電より80~90%の低減が期待されています。とは言え、いろいろな課題もあるようです(ここでは割愛します)。


【5.水素ガスタービン発電】

 ガスタービン発電の燃料を水素に代替する研究も進んでいます。まずは、燃料の内30%を水素で代替する方法が試されました、この場合、発電量1kWh当たりのCO2排出量は(一般GTCCに比べて)10%程度低減するようです。


 この方式は燃焼室(CH)を改造または交換するだけで、既存のガスタービン施設に適用できるのが利点です。また、ガスタービンの後に蒸気タービンを連結することで複合サイクルに発展させることもできるでしょう。


 というわけで、将来的には「水素専焼GTCC」の実用化、引いてはCO2ゼロの実現も視野に入れているようです。もちろん、燃料用水素のサプライチェーンなど課題も残る一方、今後の進展に期待と興味を持っています。

 最後に、エネルギー問題に関しては様々な議論があることは承知しています。確かにどの選択肢を採るにしても、必ずメリット・デメリットの両方が存在します。既存の選択肢で議論することも大切ですが、将来の可能性を考慮し、新たな選択肢を用意することもまた大切なことと感じています。
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