軌道エレベーター派

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宇宙機の民主主義

2020-08-16 11:06:56 | その他の雑記
 今回は人工衛星などの宇宙機について小話を。言うまでもなく、人工衛星や探査機などはすべからくコンピュータを搭載しています。地上とのデータのやり取りや軌道、姿勢の制御など、当然演算が必要になるからですね。こうした宇宙機のコンピュータが、民主主義=多数決を採用しているケースがあるのをご存知でしょうか。

 宇宙からの放射線がかなり遮られている地上と違い、宇宙空間では放射線にモロにさらされます。こうした宇宙放射線のうち、透過力の強い粒子は宇宙機の演算機器の回路に干渉し、計算を狂わせることがあります。これを「ビット反転」などと呼びます。
 具体的には、演算は伝統的なノイマン式の二進法、つまり0か1であるため、ビット反転で0が1になったり、1が0になったりして計算が狂うんだそうです。

 半導体のコンピュータをそろばんに例えると、ビット反転とは宇宙を飛び交う放射線の粒子が機体内部を貫通し、計算中のそろばんの玉にぶつかって動かしてしまい、計算結果が狂うみたいな感じでしょうか。

 放射線はひどい時は回路を破壊してしまうこともあり、宇宙好きの人には、ビット反転はけっこう常識なんですが、一般の方はあまり聞き覚えがないのではないでしょうか。
 で、宇宙機はいったん打ち上げてしまうと、ほとんどの場合、修理は不可能です。このため、宇宙機は演算装置を3基搭載することがあるのです。月面探査衛星「かぐや」などがこの方式を採用しています。

 3基は同じ計算を行い、計算結果のすり合わせをします。3基とも同じ答えなら問題ないですが、もし計算中にビット反転が生じたとしても、複数の機器で同じ時間・同じ個所にトラブルが起き、同じ間違いが導き出されることは考えにくい。そこで異なる計算結果が出た時は、合致する2基の計算結果を「正」として運用しているわけです。
 答えが異なる1基はエラーが起きたとみなされるため、ビット反転は「シングルイベント」と呼ばれることもあります。

 宇宙機のコンピュータは過酷な環境にさらされるために、比較的シンプルな構造をしているケースが多いです。小型化するほどビット反転の危険は高くなり、ビット反転は大敵ともいえます。多数決はこれを回避するための工夫です。
 ただし長期的・確率的には3基でそれぞれビット反転は起きてしまうし、回路基板が極細の針でブスブス突き刺されるようなものですから、長期運用すれば結局は機能劣化につながり、3基の運用結果も信頼性が落ちていくそうです。

 とはいえ、宇宙機のトラブル回避策として、人類の知恵である民主主義の基本原則を用いるというのは、これまた偉大な知恵ではなかろうかと思います。

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