軌道エレベーター派

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『ガンダム Gのレコンギスタ』の軌道エレベーターの検証

2014-09-15 13:28:54 | その他の雑記
 先月、話題の『ガンダム Gのレコンギスタ』の先行上映を観て参りました。何しろ軌道エレベーターが登場する新作というので、楽しみにしておりました。宇宙世紀の後の「リギルド・センチュリー」が舞台で、軌道エレベーター「キャピタル・タワー」の防衛部隊「キャピタル・ガード」の候補生が主人公だそうです。今回はその『Gレコ』について少々。

1.「軌道」派勝利!
 まず最初に強調しておきたいのは、

宇宙エレベーターを守る組織「キャピタルガード」のパイロット候補生・ベルリ・ゼナムの冒険を描く
(3月20日 朝日新聞デジタル「富野由悠季監督:“ガンダムの父”が8年ぶり新作」)

宇宙エレベーターを守る組織キャピタルガードのパイロット候補生ベルリ・ゼナムの冒険を描いた作品
「富野由悠季、ガンダム最新作に自信!『今うぬぼれているところ』」(3月20日 シネマトゥデイ)

──という具合に、制作発表がされて間もない時期は「宇宙エレベータ(ー)」という表記一色だったのが、公式サイトでは「地球と宇宙を繋ぐ軌道エレベータ、キャピタル・タワー」
さすがサンライズさん、わかってらっしゃる。ハハ! 愉快愉快 ( ゜∀゜ )

。。。とはいえ、ガンダムエースで始まったコミックには「宇宙昇降機」に「うちゅうエレベーター」とルビが振ってあるし、先行上映のパンフにも思いっきり「宇宙エレベーター」って書いてあるんだけどね。。。今も混在しているようです。ストーリーはある程度観るまで感想を保留します。引っかかるのがキャピタル・タワーです。


2. キャピタル・タワーへの疑問
 「キャピタル・テリトリー」が有するキャピタル・タワーは、旧時代の遺構を再利用しており、リギルド・センチュリーにおける貴重なエネルギー源「フォトン・バッテリー」(ミノフスキー物理学を応用した封じ込め技術による核融合炉よりオトクなのだろうか?)を宇宙から運んでくる場所として、神聖視されているそうです。タワーは3本のケーブルが宇宙へ伸び、中心に挟まれるようにして昇降機「クラウン」が往復する構造です。複数あってけっこう頻繁に発着している模様。なお、タワーは「スコード教」という宗教団体(?)が牛耳っているようです。
 このクラウンに、ミノフスキークラフトが使われています。また、タワーに144基設けられている「ナット」という中間ステーションも、ミノフスキークラフトで高度を維持しています。なかなか個性的なデザインで魅力的ですが、ここで言いたい。

 ミノフスキークラフトがあるのに、
 軌道エレベーターを使う必要がどこにあるのか?


作品に難癖をつける気持ちはありません。しかし軌道エレベーターの設定や整合性に関しては、どうしても気になります。
 本作の世界では「宇宙世紀時代の技術体系を進歩させてはならない」という掟が存在するそうですが、軌道エレベーターより進歩したミノフスキークラフトを使ってるんですから、キャピタル・タワーを使う理由に「技術発達を自制した結果」は当てはまらない。クラウンを自律航行できる輸送船として使う方が手軽で安上がりでしょうし、宇宙世紀にホワイトベースが存在した以上、この時代のタブーにも触れないはず。
 それでも使われるキャピタル・タワーの、本作の世界観における位置づけについて、先に私なりの結論を述べますと、「ミノフスキークラフトがあるから、軌道エレベーターはかえって非効率である。それはわかってるのかも知れないけど、もともと遺構の再利用だし、スコード教を威厳付けして神格化するためのシンボルとして、あえてミノフスキークラフトと併用しながら使用している」と解釈しています。
 ようは儀式の道具です。宗教団体はアナクロな儀式をよくやりますし、フォトン・バッテリーの供給という実利もあるので、この時代の人々には不自然ではないのかも知れません。つまり、スコード教は一種のカーゴ・カルトであり、キャピタル・タワーは「ご本尊」といったところですね。

 本作のストーリーは、その世界観に従って楽しみます。そう踏まえた上で、別途、軌道エレベーター研究の見地からモデル検証をしてみたいと思います。


3. 検証
 なぜキャピタル・タワーを使う必要がないのか? 結論から言うと、重力に引っ張られない物をエレベーターで運ぶことに意味はないということです。これを、大まかに下のような理由に分けて説明します。

 (1) クラウンはミノフスキークラフトで宙に浮く
 (2) だとすれば、いったん加速すれば無限に運動を続ける
 (3) それをケーブルで拘束して動かすのはエネルギーの浪費である

――ということです。以下、検証していきます。

 (1) クラウンはミノフスキークラフトによって宙に浮く
 本作を観るまで、「ミノフスキークラフトは大量輸送には向いていないのかな?」と漠然と思ってたんです。船便と航空便のような棲み分けで、巨大な質量の輸送はタワーに依存しているとか。しかし、軌道エレベーター自体がミノフスキークラフトを使っている以上、「ミノフスキークラフトより軌道エレベーターの方が安上がり」というのは当てはまりません。
 ミノフスキークラフトのお陰で、クラウンは単体で宙に浮く。これを従来のIフィールドではなく、本作では「MMF」という無重量の場を発生させることで可能にしているようです。このMMFが「重力に反応しない(相互作用を起こさない)」のか、「何らかの反発力で重力を相殺している(言っといてなんだけどたぶんこれはない。反発力を発生させてるなら、上のナットが下のナットを押し下げる力を加えちゃうから)」のか不明ですが、いずれにせよ、風船のようにフワフワ浮けるのは確かなようです。現にナットも同じ原理で、ケーブルに負荷をかけずに浮いてるんですから。

 (2) だとすれば、いったん加速すれば無限に運動を続ける
 宙に浮くということは、一度クラウンに力を加えると、慣性の法則で等速直線運動を無限に続けるはずです(もちろん大気中では空気抵抗があるが、50kmも上昇すれば問題にならない)。クラウンにちょっとした推進器を付けるか、地上から打ち出して初速を与えるだけでよろしい。もし(1)で述べたように反発力で浮遊している場合は、上昇するほど重力が小さくなるので、結果的に宇宙へ飛び出そうとする力が強くなり、重力の軛を離れるには有利です。
 もちろんキャピタル・タワーの主目的は、フォトン・バッテリーを地上に「下ろす」ことですが、降下も重力を無視できる方が当然楽です。ちなみにミノフスキー粒子が形成する格子状の場の中では慣性制御もできるという説もありますね。

 (3) それをケーブルで拘束して動かすのはエネルギーの浪費である
 このように重力の制約を受けずに宙に浮くものを、ケーブルづたいで動かすなど、エレベーターを空っぼで動かしてるようなものです。あるいは、ビリヤードの玉をキューで突けば端まで転がっていくのに、ベルトコンベヤーに載せて運ぶようなものと言えばいいでしょうか。電気の無駄遣いだわ、駆動部との摩擦でブレーキがかかるわ、熱が蓄積されるわ、コリオリで余計な力がかかるわ、エネルギーロスで勿体ないだけです。いや本当に、本っっっ当に勿体ない。ケーブルいらないじゃん。空飛べんのにエレベーター乗ってどうすんだ器用貧乏が。
 ひょっとしたら、フォトン・バッテリーを下ろす際はミノフスキークラフトを切って、位置エネルギーを利用して回生で発電しているかも知れませんが、結局一部ないし全部を昇りの電力やナットの運用に回すわけですから(スプライト現象を利用してるらしいが、軌道エレベーターの真価をきちんと理解していれば、そんな必要もないのはわかるはずです)、ミノフスキークラフトのお陰で空荷のようなものとはいえ、どのみち浪費です。仮にその回生のエネルギー収支が昇りと下りでトントンだとして、

 「ミノフスキークラフトのコスト」+「軌道エレベーターのコスト」<「フォトンバッテリーで得られる利益」

の不等式が成り立つなら、単純に

 「ミノフスキークラフトのコスト(初期加速を含む)」<「フォトンバッテリーで得られる利益」

の方が左辺の項が少ないので、ミノフスキークラフトだけで運んだ方が安くつくのは明白でしょう。下の式の左辺に、初速を与えるエネルギーを一つの項として足すべきかも知れませんが、クラウンがミノフスキークラフトの揚力で動くという記述も散見したので(だったらなおさらケーブルいらない)、カッコの中に入れました。いずれにせよ、極めて小さな力で済む。ガス気球を付けるだけでもいいし、極論すれば、大気さえなければ手で押すだけでもいずれ宇宙に到達するのですから。

 本当はこんな現象ありえない。そんなのわかり切ったことです。だからこそ、ミノフスキークラフトのようなご都合主義のトンデモ技術が存在しないからこそ、軌道エレベーターが必要なんじゃないか。それを、ミノフスキークラフトのおかげで軌道エレベーターが可能になるなど本末転倒です。軌道エレベーターには、そんな架空の原理など必要ないのだ。

──以上の理由から、どうしてもキャピタル・タワーにハッタリ以上の意味が見いだせません。軌道エレベーターの真髄を活かせていない。採算性だけを見れば、『Gレコ』の世界で軌道エレベーターを使うのは愚かな選択であると結論せざるをえません。出だしから、軌道エレベーターの存在意義を履き違えているのです。


4. 軌道エレベーター不要論に伴う疑問
 これは以前書いた「軌道エレベーターが無意味になるケース」の⑴に該当します。軌道エレベーターのメリットは、地球の重力を振り切るのにロケットより効率がいいということです。しかしキャピタル・タワーのクラウンは、ミノフスキークラフトによって、すでにその制約から解放されています。宙ぶらりん状態なのだから、自由運動ができる輸送船にして運べばいいでしょう。ケーブルの保守やナットを設ける必要もありませんし、キャピタル・ガードも護送船団方式で防衛すれば良く、「ケーブルを切断されたら一巻の終わりだ」といった、タワー全体の防衛に戦力を割かなくて済む。現に1話で海賊に襲われたんですから、クラウンが自分で逃げられる方がいい。そして何よりも「あらゆる衛星やデブリと衝突する」という、軌道エレベーター特有の問題も回避できます。
 ついでに言うと、キャピタル・ガードのモビルスーツにミノフスキーフライトが装備されてなくて、役目を果たせるのか? クラウンとナット以外の箇所が襲われても現場に急行できないのでは? 宇宙世紀にΞ(クスィー)ガンダムに搭載されるほど小型化されていたのに。

 そもそも、フォトン・バッテリーを運ぶのに、供給元である月にマスドライバー造って打ち出し、あとは地球の重力井戸に引かれるままに落とすだけじゃいかんのか? ミノフスキークラフトを併用して加減速や落下地点を調整すれば、任意の位置に軟着陸させるのも可能でしょう。わざわざ地球の自転に同期させ、エレベーターに載せるというのも無駄が多い。実際、月からタワーまでは輸送船かカタパルトで運んでるんじゃないの? 「そのまま地上に下ろせばええやん(´・ω・`)」とツッコむ人がいても良さそうなものですが、まさか月面エレベーターやザックトレーガーがあるのでしょうか? だとしたらますます無駄です。

 キャピタル・テリトリーが非効率な軌道エレベーターを使うのは勝手ですが、アメリアやイザネル(いずれもリギルド・センチュリーの世界に存在する国家で、アメリアはキャピタル・テリトリーと敵対関係にある)は、どうして指をくわえて独占を許しているのか? ミノフスキークラフト輸送船による流通イノベーションを見せつけて市民を洗脳から解き、スコード教の権威を失墜させて独占状態を崩して、国力を弱体化させてやればいいのに。これ言っちゃおしまいなんだけと、ろくに中身もわからないフォトン・バッテリーなんかに依存すること自体、この時代の為政者たちが阿呆過ぎる。エネルギーの安全保障の重要性を何だと思ってるんだ。原発でも水力・火力発電所でも造って自給自足すりゃいいじゃん。火も起こせんのかこの世界の人間は?
 ただしフォトン・バッテリーの由来には謎があり、それは物語の肝のようでもあります。キャピタル・テリトリーの優位性は、タワーよりむしろ月(トワサンガ? 金星のビーナス・グロゥブも含む?)の状況の方に本質があるのかも知れません。月はキャピタル・テリトリーや友邦のゴンドワンに掌握されているのでしょうか。その辺は物語の展開とともに明らかになることを期待したいものです。

 以上、私の下調べ不足、読み解き不足であれば、このサイト上でお詫びして正しい情報を掲載しますので、情報をお持ちの方はぜひお知らせください。私自身、もっと知りたいのです。ただしその場合は出典を示してくださいね。


5. その他
 最後に余談ですが、アメリアと言えばカクリコンの愛人。。。もとい、『∀(ターンエー)ガンダム』の前半の舞台となった大陸の名前ですね。リギルド・センチュリーは宇宙世紀とターンエーの「正暦」の間に挟まれているそうで、「この後ターンエーの世界につながっていくのかな?」と誰もが考えることでしょう。ということは、本作の世界は結局、最後に月光蝶でシッチャカメッチャカにされてしまうのかしらん? キャピタル・タワーはターンエーにおける「世界樹(アデスの樹)」に成り果てるのかも知れませんね。『ターンエー』はストーリーが収拾つかずに終わっちゃったので、Gレコはもう少し筋の通ったお話を期待したいものです。
 あとは、海賊部隊のノーマルスーツが、クロスボーン・バンガードの時代のものによく似ていてカッコいいです。

 随分長々とツッコんでしまいました。富野監督は「大人は観るな」 とおっしゃっているそうで、予防線を張っているのかも知れませんが、まさに私のようなスレッカラシな大人のことなんでしょう。さらにキャピタル・タワーのデザインを 「宇宙エレベーターを研究している方々への嫌がらせ」 とまで述べています。
 全然嫌がらせじゃないんですが、思うに、フォトン・バッテリーの由来はソイレント・グリーンのようなおぞましいものであり、スコード教の実態はかなり醜悪な組織として立ち位置が変化していって、その象徴たるキャピタル・タワーは最後には破壊されるのかなー、と漠然と考えています。そうすることで、軌道エレベーターにケチをつけるお話なのではと。結構結構。こんな軌道エレベーターの体を成してないトンチンカンな代物、壊してしまうがいい。
 私はキャピタル・タワーのデザイン自体は好きですけど、今回の検証で、軌道エレベーター派としての興味とこだわりから、その「嫌がらせ」にささやかな抵抗を試みたつもりでもあります。
 ですがストーリーを楽しむことは、まったく別のことです。これからじっくり堪能していきたいと思います。たぶん。おそらく。ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。
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