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軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

軌道エレベーターが登場するお話(16) ミスター・ノーバディ

2016-06-25 23:08:28 | 軌道エレベーターが登場するお話

ミスター・ノーバディ
ジャコ・ヴァン・ドルマル監督
仏・独・加・ベルギー共同制作(2009年)



あらすじ 人々が不死となった2092年、記憶をなくした老人ニモ・ノーバディは、死を迎える最後の人類として脚光を浴びる。彼は死を目前にして、様々な人生をたどってきたという信じられない過去を語り出す。


1. 本作に登場する軌道エレベーター
 ほんのちょこっとしか登場しませんが、実写映画で軌道エレベーターが描かれるのは極めて珍しく、また映像が非常に綺麗なので取り上げました。本作では火星に人類が進出しており、ここに3本のピラーから成る軌道エレベーターらしきものが建造されています。主人公のニモが火星を訪れ、末端に宇宙船が接舷して、彼は地上との間をエレベーターで行き来します。ちなみにニモは「火星に遺灰を撒く」という恋人との約束を果たすためにやって来ました。
 
 ここで火星の軌道エレベーターの説明を。火星の静止軌道は対地高度約1万3600kmの位置になります。二大衛星の一つ「フォボス」の平均高度は約6000kmと静止軌道より低く、そのままだと軌道が交差して衝突します。ですがこれはSFの常識と言ってよく、火星の軌道エレベーターは大抵フォボスを「避ける」んですね。『楽園の泉』では、地球で建造するためのトライアルとして、まず火星にエレベーターを造るのですが、フォボスが衝突コースに重なる時はピラーを曲げて回避し、さらにこのアクションを観光客向けのショーにしようなんて話が出てきます。本作も静止軌道エレベーターであれば、フォボスを同じように回避していると思われ、さぞかし見ものでしょう。
 エレベーター本体が軌道運動をしているか疑問の描写もあるのですが、いずれにしても登場場面は短く、詳細は不明です。単なる作中の小道具に過ぎないので、科学的な検証や図割は愛します。とはいえ本作の映像技術はそれはもう見事で、軌道エレベーターの外観はなかなか美しいです。


2. ストーリーについて
 ニモは117歳の余命わずかな老人で、人類が不死(テロメアの減損を食い止める医療技術が確立してるみたい)を手に入れ、生殖不要で恋愛もしなくなった時代の「死んじゃう最後の1人」なんだそうです。実はこのニモ、複数の世界線?で様々な人生をたどってきた記憶をすべて有しているという、魔眼リーディング・シュタイナーの持ち主です。ダース・モールみたいな医師や記者に回想を語る形で、子供のころに「離婚した母親についていったら」「父親についていったら」「恋人と再会できたら」「できなかったら」などと、電話レンジ(仮)もなしに全部体験したと称し、色んなルートの人生を振り返ります。
 とにかく場面があっちへ飛ぶわこっちへ移るわ、はたまた『木更津キャッツアイ』みたいにシーンが巻き戻されて別のルートに入るわ、複雑な世界線をたどりながら物語が進みます。話を聞いてる医師や記者も、ニモ自身も何が真相なのか分からず混乱状態で、その混乱を見る側に押し付けてきます。

 彼の記憶や体験が多重化しているのには少々カラクリ(ネタバレは避けます)もあるのですが、それも含め本当なのか、単なる妄想か、ボケてるのか、あえて不可解につくってあるので、結局は観客一人ひとりの解釈に委ねられるところです。個人的には「単なる中二病的妄想だろう」という印象です。「どの人生も最高だった」とか言って何でも美化するあたり、「体験したくてもできなかった劣等感の裏返しじゃね?」と見てしまうのは、ひねくれ過ぎでしょうか。

 しかし結局は、アトラクタフィールドの収束によって118歳の誕生日に死を迎えることになり、いまわの際に沢山の矛盾した体験談を語って聞かせるという状況にたどりつくようです。中には若くして事故死したり何者かに殺されたりしちゃう(SERNのラウンダーか?)末路もあるんですが、それは彼がダイバージェンス1%の壁を超えてβ世界線に移動できたということなのでしょう。
 本作には、成功や失敗、後悔や反省などの思いをかみしめながら、多岐にわたる人生を重ねることで、「自分の意志で人生を選択することがいかに大事か」というテーマ性や「人はなぜ異性を愛するのか」といった問いかけも盛り込んであって、感動的なシーンもあります。ただ最終的にはよくわからないままです。まー、自分をだまし、世界をだまし通した狂気のマッドサイエンティスト・鳳凰院凶真の中二病レベルにはとうてい及ばないな、ということにしておきます。前から思ってたけど「狂気」と「マッド」がかぶってるのはネタなんだろうな。


3. 科学的な作品にあらず
 シュタゲネタはこのへんにしておきます。本作をSF扱いする声を散見しましたが、科学的な用語をちりばめているだけで全然SFじゃないです。それが別に悪くはないですけど、科学的な物語やSFとして期待すると、ギアナ高地で会得したという秘奥義スルーショルダー(肩透かし)くらいます。例えば、現在の宇宙論の中には、宇宙が膨張の限界に達すると反転して収縮を始め、「ビッグクランチ」に収束するというものがあり、収縮に転ずると時間の矢が反転するとも言われます。本作では2092年2月9日(!?)に膨張が終わり、そこまで生き延びた人間は時間の反転に伴い若返るんだそうです。
 実際にある理論では、宇宙の膨張が止まり時間が反転するのは、エントロピーが極大になり、そこから減少する方向に物理法則が逆転するからで、エントロピーの極大とは、すなわち人間を含めたあらゆる物質が、形状も位相もすべての秩序を失って全部混じり合った存在になる状態です。収縮の瞬間まで人間が生きることはない。このほかにもバタフライ効果(カオス理論)や量子力学、スーパーストリング理論など色々出てきますが、観客を煙に巻く道具に使われるに過ぎません。


4. 全体の感想
 最後に、本作には心打たれる部分もメッセージ性もあるし、映像も見ごたえがある。それでも、全体としていい印象を抱けなかった一作でした。観ていて、デヴィット・フィンチャー監督の『セブン』と同じ匂いを感じました。どこが共通するのかというと、観客を掌の上で転がして遊んでいるように思えるんです。このコーナーでは制作者批判は極力避けているのですが、本作は見る側を小馬鹿にしているように感じます。
 冒頭に登場する「ハトの迷信行動」も、特に意味はないのに勝手に脳内補完して自己満足し、「自分にはわかる!」と喝采を贈る観客を揶揄しているのではないか。これも私の勝手な脳内補完ですが、こういう手法はすでに出尽くしている感があり、昨今の難解なアニメに慣れた日本の観客などには食傷気味に感じるのではないでしょうか。
 今回は少々批判的な結びで筆を置きますが、こう感じるのは私だけなのか? 内容が複雑な上に2時間以上ある非常に長い映画で、ほとんどレンタルもされてませんが、ご覧になった方がいらしたら、意見を聞いてみたいものです。長くなりましたが、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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軌道エレベーターが登場するお話 番外編(4) 宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟

2015-12-23 10:04:48 | 軌道エレベーターが登場するお話


宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟

原作 西崎義展
宇宙戦艦ヤマト2199製作委員会
(2015年)

 
あらすじ 宇宙戦艦ヤマトは地球への帰路の途中、ガトランティス帝星の艦隊と遭遇。緊急避難でワープした先で、謎の天体に吸い寄せられる。調査のため降り立ったクルーたちは、そこで不思議な体験をする。人気を博した『宇宙戦艦ヤマト2199』の劇場版新作。

本編についてはこちら(前編)こちら(後編)。

1. 本作に軌道エレベーターは登場しませんが。。。
 もう感想書きたいから書くっていう自己満足でございます。強いて言うと、本作(以降、TV放映もされた全26話のシリーズを「本編」、『星巡る方舟』を「本作」と呼びます)では古代文明の遺跡ともいうべき天体が出てきて、幾重かの輪っかが取り囲んでいます。これオービタルリングかもよ! そうかもよ!? 。。。というコジツケが限界です。そもそも地球やガミラスの水準をはるかに上回る超古代文明なので、こういう状況で軌道エレベーターなんて意味がありません。なので軌道エレベーター関連についてはここまでにしておきます。

 かわりといってはなんですが、いちSFファンとして微妙に引っかかった点に触れようと思います。パンスペルミア仮説を平行進化の設定とゴッチャにして錯覚させていることです。本作では桐生美影とメリア・リッケがそっくりなことを例として、平行進化が一つの要素になっています。一応、これで森雪とサーシャ、ユリーシャがそっくりなことの説明もつくわけですが、これはパンスペルミア仮説とは何の関係もなくて、学術上の仮説と、ヒューマノイド型のエイリアンを登場させるためにでっちあげたSFの方便を取り違えちゃいけない。
 興味のある方にはスティーヴン・J・グールドの『パンダの親指』などをお勧めします。生物の進化というのは偶発的に生じたものが環境によって淘汰された結果に過ぎず、似た環境にあれば細部まで似た姿に収束していくなどという、そんな都合のいいものではないのがよくわかります。なお、パンフレットの説明では鹿児島大の半田利弘先生も「ガミラス人と地球人のように、DNAまで全く同じなんてのは偶然が過ぎる」と仰ってます。


2.ストーリーについて
 かなり古風な作品を観ている気分になりました。宇宙船が、超越的な存在によって謎の空間に閉じ込められ、そこで人間の内面を映し出すような体験をする……というやつです。『スター・トレック』とかこういう話多いです。大和ホテルのシーンが少々長かったので冗長気味に感じてしまったのもありますが、ある意味宇宙船が恒星間航行をするSF作品の王道ともいえるかも知れません。その古風な感じが、ヤマトには合うような気がしました。
 ジレルの人々が余所者に幻覚を見させた挙句自滅させる行為には、必然性がまったく感じられませんが、単なる暇つぶしなんでしょう。あるいは食用にしていた可能性もありますね。古代は性善説を過信する理想主義を説いて、シャンブロウの連中に隠遁をやめて船出を促すのですが、おめでたいお花畑の考えを押し付けるだけで後は放置。無責任過ぎるだろ! ヾ(`Д´*)ノ引きこもりの奴を、職業訓練もなしにいきなり社会へ放り出すようなもんじゃないか。しょせんは他人の人生だから、口で言うだけなら簡単だよな。この点だけは古代に対して不満全開です。

 このほか、本作はヤマトクルー同士の人間関係や個人の成長などについて、本編で尺が足りずに描写できなかった部分をいい具合に補足しています。何しろ旧作では病身の沖田艦長から代理を任命されるほどだった古代が、本編では主人公としても戦術長としても今一つ冴えなかったので、本作で彼の見せ場をつくって株を上げてくれました。また、森との関係が親密になっていったり(特にあの名物写真を撮る場面とか)、兄の守の思いを噛みしめる場面もあったり、「そうそう、本編にこういうシーン欲しかったよな」と感じさせる一編でした。詳しくは、下記のキャラへのツッコミで述べようと思います。ただし本作の新キャラは印象が薄いままで、あまり登場の意味を感じませんでしたが。


3.登場人物について
 ま、ここからが本番みたいなものでして、過去に2199を扱った時と同様、キャラに思いっきりツッコんで楽しませてもらいます。偶然とはいえ、前回扱わなかった桐生やバーガーなどが本作ではメインキャラになっているので、非常に具合がいいです。

●地球
桐生美影
 技術科員。狂言回し役として、ナレーションも兼ねた本作のヒロインを演じる。言語学に長けた才媛で、新見のスカウトで乗艦したらしい……のだが、性格は絵に描いたような(絵なんですけどね)典型的ツンデレ。まあ実際十代の少女だしなあ。ちなみにクライマックスを希望に満ちたナレーションで締めくくってましたが、父親の死のことは知ってるんでしょうか? 太陽系赤道祭の際に通信で知ったかも知れませんが、そうでなければ地球帰還後に訃報が待っているわけですし、どちらにしてもかなり気の毒です。斉藤が父親代わりになるのでしょうか。ご多幸を祈ります。ちなみに22世紀の日本の女子高生は、まだなおセーラー服を着ているらしい。

沢村翔
 戦術科航空隊員。航空隊では最年少のパイロット。ハメを外しがちな明るい性格みたいですが、戦闘時の気構え方などは、やはり本編より成長しているようにも見えます。きっと腕も上がっているのでしょう。
 さて、この沢村と桐生の絡みが本作の特徴でもあるのですが、そのきっかけは遅刻しそうになって通路に飛び出した桐生と、OMCISに向かってブラブラ歩いていた沢村の衝突。篠原に「これでパン加えてたら」って言われるほどのぶつかり。どこの少女漫画だ? 30年前のラブコメかよ! 大和ホテルでは空腹に耐えかねた桐生の前で強がって、レーション?を与えて好感度アップ。こういう時は、半分こするとさらに共感が高まっていいと思うぞ沢村、と言いたいところだが、

 沢村「食えよ」
 桐生「悪いよ、もうないんでしょ?」
 沢村「俺は男だから……ほら」
 桐生「……ありがと」(微笑みあう2人)


 周囲の困惑と空腹をよそにイチャイチャと、まったく青春全開してやがって、でもってお約束通り終盤には仲良くなってしまう。

「皮膚の下がかゆくなるような光景が繰り広げられていた。(略)
 なんなんだ、おまえら中学生か。なにがしたいんだ。
 西岡の苛立ちは最高潮に達する」(三浦しをん『舟を編む』より)


↑わたしゃ観ていて、この一節を思い出してしまった。もし次回作があるなら、この2人にはぜひ再登場して、その後どうなったか知りたい、っていうか破局してると面白いと思うのは私だけでしょうか。ごちそうさまでした。

斉藤始
 斉藤始キターーーーー(゜∀゜)ーーーーー! 空間騎兵隊月面方面軍副連隊長。冒頭、この男から始まるとは、実に憎い演出! なんか声もささきいさおさんの声色に少し似ていて、すごく合ってました。見るからに激しい気性ではあるものの、義に厚い人情家であるのが言動からにじみ出てますね。桐生とは、おそらくは彼女の父親である連隊長つながりで親しいらしく、兄妹のような間柄とのこと。すげえいかついお兄ちゃんだな。
 キリシマに救出されて地球に帰還後は、暴動を鎮圧する機動隊みたいなことをやらされていたみたいですが、最後のシーンにも登場して、必死で窮状を訴えるところにヤマトからの通信が入るラスト、最高だぜ! 今回は闘う出番はなかったけど、『さらば宇宙戦艦ヤマト』では白色彗星の都市を爆破する立役者となる人物だけに、2199でも続作での登場に期待してるぞ!
 それにしても、月面基地は敵空母艦載機にやられたっていうけど、ガミラスとの戦線は月軌道にまで迫ってたのか? 火星軌道近辺で外側で食い止めたんじゃなかったの? ヤマトが無事地球を離れ、護衛のキリシマも遭遇しなかったところを見ると、敵空母とやらは単艦で突出して威力偵察でもしてたんでしょうか? これでよく1年もったものです。

古代進・補足
 戦術長。ようやくその肩書や、将来の艦長たる素養を発揮する機会に恵まれた。本作では、旧作でもおなじみ「パパとママの思い出写真」を撮るシーンも出てきて、森との仲を深めている。古代は良くも悪くも人格的に非常に単純で、内面の変化が全然なさそうな人物だけに、アクションやセリフの表現への比重が大きいキャラだと思っていました。それだけに、やっと主人公らしい出番がきて良かったな古代(´;ω;`) ただし上述の通り、自分の価値観や精神性を相手構わず投影する中二病は相変わらずで、この辺はまったく成長していない。同じ職場にいたらものすごく暑苦しいと思う。最後「両舷前進半速、地球へ向け発進」と叫ぶが、戦闘終わったら真田さんに指揮権返上しような。

島大介・補足
 航海長で操舵士。本作においても、戦術面では勝利に一番貢献したであろうはずなのに、相変わらず地味な扱い。過重労働もいいところだ。でも戦闘の最中、山崎とのやりとりで操艦と機関の呼吸を合わせているシーン、和解して信頼関係をすっかり取り戻しているという感じでとても良かった。それにしても、古代と森、山本と一緒の時のズレっぷりときたら、空気読め。

森雪・補足
 船務長。艦橋の後部にある展望室のような場所で古代と逢瀬を重ねていたらしいが、島や山本の闖入をいいことに「山本さん、一緒に撮ろ! (`∇´)」なんて無邪気を装って写真を撮影。このセリフを額面通りに受け取ってはいけない。これは「この男はもう私のもんよ」という山本に対する勝利宣言であり、証拠写真を撮ったのである。どれだけ山本をみじめにすれば気が済むのであろうか? ちなみに森に関して依然として引っかかっているのは、「お前は結局1年以上前の記憶を失ったままなのか? 軍人になる過程の記憶もないまま幹部をやってるのか?」という点ですね。

山本玲・補足
 航空隊員。古代への気持ちには、往路でおおむねケリをつけていたのかと思ってましたが、帰りも引きずってたんですね。完全に森の引き立て役になっていて、なんかすごい可哀想。かわりに終盤のドッグファイトでは、すっかりコスモゼロα2を愛機にして活躍してました。今ならメルダと一騎打ちしても勝てるかも。

新見薫・補足
 技術科情報長。なんか老けたな。ヤマト随一の美熟女だったのですが、本作ではデスクワークが祟って体力がないことを露呈するわ、守のことがこたえたのか、思い出にすがって生きているように回顧主義的になるわ、「女子を引退しました」臭が強くなって、いわゆる「ヤマトガールズ」に入れるにはちょっとキツい感じになってしまった。「弟の進にかつての守の姿を重ねて見守るように」なったのだそうですが、桐生に対してもちょっとヒスっぽそうな厳格教師の役まわりになってるのも一因ですね。

南部康雄・補足
 大艦巨砲主義の戦術科砲雷長。今回も砲撃戦で活躍……と言いたいところだが、そもそも命令系統を無視してガトランティス機を撃墜した張本人。一士官の独断で戦端を開くなど、帰還したら国会に証人喚問必至、内閣総辞職レベルの絶対あってはならない外交上の大問題である。しかしあえて擁護したい。彼は戦闘に飢えていたのだ。波動砲が使えなくなって不安がっていましたが、本音は違う。一度波動砲のトリガーを引いてしまって、虜になってしまったのであろう。ヤマトの安全などどうでもいい、お前は波動砲を撃ちたいのだろう? (・∀・) 南部、お前はそれでいいんだ! 続作ではアンドロメダあたりに乗った方がいい。拡散波動砲が2門も付いてるぞ。

沖田十三と土方竜・補足
ヤマト艦長と国連宇宙軍空間防衛総隊司令長官。
 沖田艦長、本作では艦長室から一歩も出ず引きこもり。外の戦闘なぞどこ吹く風、優雅にレコードを聴いて余生を過ごしていらっしゃる。土方に至っては、腕組んで突っ立ったまま一歩も動かなかった。実にアニメーターさん思いです。しかし物理的にも動じないのがよく似合うこの2人、出番少ないくせに存在感たっぷりでした。


●ガミラス
フォムト・バーガー
 ガミラス軍中佐。三段空母ランベアの最上級の将校として、ドメル艦隊の残存兵力を統率することになった。「やんちゃ坊主」という言葉が似合いそうな、どこか憎めないこのキャラ、本編公開時から結構好きだったんですよね。七色星団で直接死ぬシーンが出てこなかったこともあり、本編について書いた時はこの男に言及しなかったのですが、今回の機会を得られたので正解だったようです。
 ガミラス人として被征服民族への差別意識は刷り込まれているようですが、自分で決めた筋や礼節は意地でも通すタイプ。不器用で融通が利かず、偽悪者を演じてるようで、かなり義侠心の厚い性格のようです。ヤマトでは加藤三郎に似た気質の持ち主かも知れません。
 。。。が、本編を丹念に見ていると、バーガーは途中からキャラ付けが変更されたように見えます。本編の前半では、「ガトランティス、恐るに足らず~」などと敵を舐めきって増長したり、レプタポーダで差別意識を露骨に見せたりと、根っからのお調子君で、当初は本作のメルヒのようなキャラ付けだったのだと思います。それが新作に登場させることになったので、愛されるキャラに路線変更されたのだと私は考えています。結果的により愛嬌のある人物になって実に結構。バーレン曰く、昔は「生真面目で礼儀正しい若者じゃった」と言いますが、絶対今の性格の方がいい。
 最後はヤマトと共同戦線を張り、ガトランティスを撃退。

「お前らもガミラスの漢なら、(略)俺を信じてついてこい!」

 最高にカッコよくて、はっきりって古代を食ってしまっている。続作が作られるなら、デスラーだけでなくバーガーにも、ヤマトの応援に駆け付けてほしいものです。

ヴァンス・バーレン
 ガミラス軍大尉。ガルントのパイロットで、特殊削岩弾ことドリルミサイルをヤマトの波動砲発射口にくらわした古強者。今回はバーガーとネレディアの後見人のような役回りを演じてます。バーガー同様、憎めない感じの人物でした。死んだりしなくて良かった。

ネレディア・リッケ
 戦闘母艦ミランガルの艦長で大佐。2199では数少ないガミラスの女性の軍人。この人もまた人格者で、バーガーへの思いやりや温かみがよく伝わってくるキャラでした。過去の戦績が非常に優秀だったらしいので、闘い方も見てみたかったものです。それにしても、メルダ・ディッツといい、ガミラスの女性軍人は色気のある人が多いな。彼女ではなくメリアを選んだのは、バーガーはロリ好みだったのだろうか。

クリム・メルヒ
 ツヴァルケのパイロットで少尉。陰険な奴だが、最後は沢村と共闘して散っていった。本作では嫌われ役かつ使い捨てに用意されたという感じで、ちょっと気の毒でした。

●ガトランティス
雷鳴のゴラン・ダガーム
 小マゼラン方面大都督。ガトランティスの軍人には二つ名があるんですね。会敵必戦の猛将と言えば聞こえはいいですが、もう好戦的な蛮族の見本のような奴で、三国志の呂布みたいな直情径行型。激情に駆られて副官を斬り殺すという残虐極まりない男。こんなんで、よくまあ組織の中で出世できたもんだわ。
 この男の言動には終始「焦り」が付きまとっているように見えましたが、低い身分の出自で、そのコンプレックスのせいのようです。しかし本人の趣味なのか、ガトランティスの軍人が皆そうなのかは不明ですが、艦橋に太鼓の楽隊をそろえてるわ、チャートの上で酒盛りするわ品がない。これじゃサーベラーに見下され、ネレディアにも「蛮族」呼ばわりされて当然の感じ。こんな奴が上官になったら不幸というほかない。自身の愚行により死ぬべくして死んだ人物。
 ガトランティスの人たちって、見かけが『スター・トレック』のクリンゴン人みたい。

白銀のシファル・サーベラー
 ガトランティス帝国丞相。このキャラばかりは旧作キャラの方が良かった。はっきり言おう、本作のサーベラーはトウが立っててケバい上に、ジゼルのレーレライとかぶり過ぎ。大帝の威を借る高慢な女ですが、情婦でもあるっぽいですね。旧作では総参謀長でした。続作での活躍に期待。


4. BBY-01ヤマトの戦績に見るヒヤリ・ハット事案 星巡る方舟編
 ヒヤリ・ハットは、結果として事故に至らなかったものであるので、見過ごされてしまうことが多い。(略)しかし、重大な事故が発生した際には、その前に多くのヒヤリ・ハットが潜んでいる可能性があり、ヒヤリ・ハットの事例を集めることで重大な災害や事故を予防することができる。(Wikipediaより)

 ヤマトの主だった戦闘記録を振り返り、ヒヤリ・ハット事案の有無を検証してツッコむこの企画、本編に引き続き、本作についてもやってみたいと思います。

惑星カッパドキア地表でのワープ
 本作でヤマトは、ガトランティス艦隊との交戦を避けるために惑星カッパドキア(誰が付けたんだこんな名前)に降下。その表面というか内部でエネルギーを吸い取る異星生物に取りつかれ、現状離脱のためにワープをします。ヤマトを遭難に追い込む状況設定としては上手い。でも、これは本作最大のヒヤリハット事案というか、これだけはやってほしくなかったなあ。
 決まりがあるわけではないのですが、「惑星表面では直接ワープできない」というのは多くのSF作品のお約束となっています。巨大な重力の近くでは空間跳躍の出入り口が歪められ、あさっての場所にワープアウトして迷子になるとか、異空間に閉じ込められるという理屈です。「地上から直接ワープすりゃいいじゃん」というツッコミを回避する方便なのですが、一般相対性理論では重力は時空の歪みであり、人為的に時空を歪めて近道をするワープの理屈と折り合いをつけやすいので、SFの一般常識に近い扱いを受けています。
 どの作品にも個別の設定があるので、必ずしもこの制約に縛られる必要はありませんが、2199の場合、本編でカレル163の重力勾配によりワープアウトの場所が引きずられる現象が起きたので、本作にも当てはまります。ヤマトは本編でもしょっちゅう迷子になってましたが、自ら地表でワープするのは、地球への道しるべを失ってはならないヤマトにとって禁じ手だったと思わずにいられません。一応南部が「無茶だ!」と危険を指摘してますし、だからこそシャンブロウに遭遇もしたわけですが、所詮は個人的な好みの問題とはいえ、ちょっと引っかかりました。

 ちなみに、じゃあどうすりゃ良かったかというと、上述の通り状況の作り方は良いと思えるだけに難しいのですが、一つ忘れているのが、サレザー恒星系で見せたように、ヤマトはあっという間に亜光速を(それもウラシマ効果を無視して)出せるので、それで逃げちゃうのがいいと思うんです。。。でもそれは、触れてはいけないお約束という、無言のプレッシャーを感じます。あとは、カッパドキアの地表ではなく影に入り込むとか、でしょうか。

●火焔直撃砲対策
 火炎直撃砲改め火焔直撃砲。発射したエネルギー塊を敵の直前に空間転送させ、命中させるという代物です。これに関して言うと、真田さんが砲撃の出現点を予測するという、空間磁力メッキに匹敵する反則技を繰り出してきちゃったので何も言えんわ。。。いくら七色星団の体験があるとはいえ、序盤で手をこまねいて死にそうな目にあったのに「古代たちがシャンブロウに降り立って、ヤマトに戻ったらそれを無効化する新技術ができてました」とは、なんというご都合主義。「敵の新兵器の優位を無効化する新技術を後出しする」なんて展開、戦術上の知恵も工夫もありゃしない、ていうかミもフタも底もない……志郎……やはり恐ろしい子!
 。。。ですので、ここではあえて、予測が不十分だったとか、この反則技が使えず、あくまで既存の設定と戦術で対抗することを考えてみたいと思います。

 さて、この火焔直撃砲、観察しているといくつかの特徴が推察できます。
(1) 既存の兵器の射程外の標的を攻撃できるが、センサー類のレンジ内でなければならない。
 これはまあ当たり前の事でして、いくら砲撃をジャンプさせられても、標的がどこにいるかわからなければ当てようがない。
(2) 跳躍以外の誘導はできない
 ミサイルと違い、砲撃自体は発射するだけのようです
(3) 連射できない
 これもお約束。乾坤一擲の一発なので、つるべ撃ちのまぐれ当たりを期待できない。しっかり標的の諸元を特定し、その前面に出現させなければならない
(4) ベクトルを変化させられない
 一番気になるのはこの点。砲撃を通常空間に出現させる際に、標的の前方に出すだけなので、空間転送の際に向きを変えて後ろから当てるとかいう芸当はできないようです。

 ──以上の点から、火焔直撃砲は「標的をしっかり特定し、その前面に砲撃が出現するようにきちんと設定して撃たなければならない」と思われます。じゃ、これを回避したいなら上下左右にフラフラ動いて、狙点を固定する余裕を与えなければ命中率はかなり落ちるんじゃないのかねえ? もちろんこちらも反撃の的を絞りにくくなるわけですが、もとよりレンジ外から撃ってくるのでこの場合は考慮の必要がありません。そうなると、これは通常の砲撃の回避と同じであり、火焔直撃砲の設計思想というのは、単に大口径・長射程・高射速なだけの大鑑巨砲主義に過ぎない。そんなわけで、ものものしく登場した火焔直撃砲ではありますが、新兵器で戦局が覆ることはまずない、というセオリーを反復しただけでありました。

●メガルーダとの一騎打ち
 で、クライマックスの戦闘シーンでは、ロケットアンカーをメガルーダに打ち込み、まるで軍艦同士の白兵戦とでもいわんばかりに、チェーンでつないだままアクロバティックな超近接砲戦を展開。古代はいかにも勝算ありげに臨むのですが、全部島の操艦のお陰だろうが! 島の苦労を全然考えないところ、確かに沖田艦長の薫陶よろしきといったところでしょうか。
 さてこの状況、ヤマトもメガルーダも宙ぶらりん状態のため、ロケットアンカーのチェーンがピンと張った時に、質量の小さい方が大きい方に引っ張られて不利なのではないかと思います。この場合はヤマトの方が重そうなので有利かも知れませんが、これに加えて重力アンカーで踏ん張ることはできなかったのでしょうか? 波動砲用のストッパーだから後ろに下がらないようにするだけで、直線方向にしか役に立たないのですかね?
 とはいえ、お互いに射程に収めた瞬間の最後の一撃、なんでパワーのあるショックカノンではなく「三式でいく」のかよくわからんが、実体弾の方がカッコいいので、最後の決め手にするのはこっちの方が正しい。そう、ヤマトはこれでいいのである!


5. ここまでやったら続きを作らねばファンは納得できません
 偶発的事態とはいえ、ヤマトはガトランティスと戦端を開き、相手方に犠牲を出してしまった。ガトランティス本星に、ヤマト、ひいては地球に攻め入る口実を与えてしまったようなものです。ヤマトの立場からすれば正当防衛も成り立ちますが、そもそもガトランティスの民族的気質には、こういう理屈は通じなくて、口実さえいらなさそうな感じですね。
 これで地球がただで済むはずないだろう? 考えてみてほしい。ヤマトが帰還して地球が救われたのはいいけど、クルーから「ガミラスとは講和を結べたんですけど、ガトランティスと交戦しちゃいました m(_ _)m サーセン」なんて報告受けた日にゃあ、上を下への大騒ぎですわ。ヤマトはコスモリバースシステムと一緒に、新たな火種を持ち帰ってしまったわけです。
 この後どうなるのか、見せてもらわないと納得がいかん!! というわけで、もう十分すぎるほど、続編を作る状況が整ったというか、製作側には義務さえ生じたように思えるのは私だけでしょうか。地球側だって、ガトランティスに備えてアンドロメダや主力戦艦などの拡散波動砲の搭載艦を建造する理由ができたじゃないか。
 とにかくも、本作がヤマト2199の最後の作品なんて、ファンは納得しないですよ。前菜だけ食べても、かえって空腹になるわ! (((゜Д゜)))クワッ こうなったら作ってもらわないとね、『宇宙戦艦ヤマト2201』。期待してます。
 自己満足で長々書きましたが、ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

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軌道エレベーターが登場するお話(15) ルパン三世 11章第7節のエレベーター編(上)

2015-09-26 18:29:47 | 軌道エレベーターが登場するお話

ルパン三世
11章第7節のエレベーター編(上)
原作 モンキー・パンチ 作画 山上正月
双葉社(2012年)


あらすじ 窃盗の犯行中に言語が混乱するという事態に遭遇したルパン三世は、テレパシーの研究に興味を抱き、研究の鍵と世界を制するという「聖なる武器」を手に入れるため、謎の軍隊に占拠された軌道エレベーター「アザムスゲート」に忍び込む。人気コミックの最新長編。


 間もなく新しいTVシリーズも始まるルパン三世。天下の人気作に軌道エレベーターが登場しました。いやいや面白かったよ、教えてくれてありがとうO澤君! 本作はまだ未完で、普段このコーナーでは作品に最後まで目を通してから取り上げるのですが、今回はTV新シリーズ開始記念ということで、例外的に扱ってみたいと思います。

1. 本作に登場する軌道エレベーター
 本作でルパン一味は、さる資産家の女性からの依頼もあり、軌道エレベーター「アザムスゲート」へ潜入、宇宙へ向かうことになります。その辺の理由づけがいまいち説明不足気味で、上述の「あらすじ」は少々こじつけて要約したのですが、後半で明らかになるのかも知れません。
 さてこのアザムスゲート、アフリカ北部の「ニジアリア共和国」に「地上基点=アースステーション(ページによっては「アースポート」の表記も)」と呼ばれる地上基部があり、ここから宇宙へピラーが伸びているのですが、最初に設定の致命的欠陥に触れておきましょう。一番てっぺんの「最上階」が高度約3万6000kmの「スペースポート」。そう、この軌道エレベーター、静止軌道で終わっててカウンターマスがない。これじゃ物理的にありえない、どういう原理で建ってんだよう! と言いたくなりますが、後述する理由から、マジメにツッコんでいいものやら首肯しかねます。作品がまだ未完なので、現時点では「おかしいんじゃね?」 というのが精一杯ですが、この点ばかりはどうこじつけた説明をしても、無理があり過ぎる気がします。辻褄を合わせることもできないわけじゃないので、後半で説明がなされれば報告します。

 しかしこれさえ除けば、細部に疑問点はあるものの、設定は非常に凝っていて丁寧な仕事を感じます。ピラーは円筒と六角柱を基本ユニットにしてつなげたようなデザインで、なかなか美しい。途中にたくさんの中間施設があり、多くは昇降機が交差する待合所の役割を果たしています。このうち高度500kmのステーションには、iPS細胞の研究をしている生物化学関連の施設があり、峰不二子が科学者を装ってここに潜り込んでいます。当サイトの定義では第2世代モデルに分類されますね。こうした設定画を3DCGデータでモデリングしてつくっているらしく、アザムスゲートの外観が登場するシーンは非常にダイナミックです。『機動戦士ガンダム00』の軌道エレベーターに似ていると感じるのは私だけでしょうか。ちなみに全体の運用を人工知能が司っています。

 また作中の運用などの描写も、たとえば研究施設での重力が無重量なのか低重力なのか、漫画だと判然としないものの、好意的解釈をすれば大きな矛盾はなく、全体としてよく出来ていると感じます。特に面白いのは、ルパンが高度50kmの施設に侵入するために、スペースシップ・ツーを意識したようなサブオービタル機を使い、機体からヘリウム気球を放出してアプローチするというくだり。(気球がパージ後に相当減速していると受け止めれば)相対速度差をよく心得ているし、高度50kmで気球からエレベーターへ綱渡りみたいな真似をするのも、新鮮味があるシーンで見ごたえがあります。
 その気になればツッコミ所満載ですが、全体としてよく練られていて楽しませてくれます。なお作中では、世界統一国家を目指すテログループ「117」がアザムスゲートを掌握し、エレベーターの「天上に掲げられた聖なる武器」を手にして、何かを企んでいるようですが、詳細は続巻で明らかになるのでしょう。

 それはいいのですがこの作品、呼称が「軌道エレベーター」と「宇宙エレベーター」が混在して一貫性がない。編集者はチェックしてないのだろうか? 軌道に統一してください。


2. ストーリーについて:ルパン三世はSFと相性がいい
 私の読んでいるのは本当に『ルパン三世』なのだろうか? 最初の30ページくらいで自信を失いそうになる1作です。何しろこの作品では、ネコが人語を解するのである。

 「俺たちネコには人間の話す意味が何となくわかる」(32頁)

わかるのか、何となく!? しかもそのネコたちはかつて「警察ネコ」部隊を構成していて、ルパンに敗北して用済みにされたんだとか。カバーにも次元と同じくらいネコが大きく描かれとる。こんなメルヘンな世界に登場する軌道エレベーターの科学的整合性を、生真面目に検証してツッコんでも、こっちが痛い奴扱いされるだけじゃないか! (´Д`) というわけで、前節では毒舌が鈍った次第です。

 本作のサブタイトルは旧約聖書「創世記」の一節を指しており、以下のようなもの。

 さあ、われわれは下って行って、そこで彼らの言葉を乱し、
 互に言葉が通じないようにしよう
(日本聖書協会『口語訳旧約聖書』より抜粋)

 人々が天に届く塔を建設しようとしたところ、神様が彼らの言葉を乱して散り散りにさせてしまったというエピソードで、その町の名が「バベル」。あまりにも有名なお話であり、現代では "Babel" という単語がそのまま「混乱」の意味を持つほどです。そして軌道エレベーターをひもとく時、バベルの塔が引き合いに出されるのは、もはやこの分野の常識と言っていいでしょう。
 本作はこのエピソードになぞらえるように、人間同士で言語理解が不能になったり、逆に動物の言葉が理解できたりというトラブルが頻発します。おそらくは、アザムスゲートの最上階にその原因に関係した何かがあり、クライマックスでは「117」がそれを発動させ、人類を言語の混乱によるパニックに陥れるのでしょう。
 。。。で、この混乱によりネコたちが喋れるようになるんでしょうね。擬人化された動物というのは、得てして人間の内面を過剰に美化したアナロジーであり、人間社会を皮肉る役回りを演じるものです。おそらくは、本作のネコたちは滑稽にパニクる人間を出し抜いて活躍するに違いない、うーむ。

 しかしネコは置いといて、実はルパン三世という作品は、SFと非常に相性がいいのだと私は考えます。ルパンは大して物欲もなさそうだし、窃盗を働くのは、目標を設定し達成するゲームを楽しんでるんでしょう。単なる愉快犯ですが、そうしないと義賊っぽく描けなくて安っぽいキャラになってしまうという一面もあるに違いない。
 それがなぜSFと相性がいいのかというと、こういう怪盗モノとでも言うべきジャンルの主人公は、自然と「話題性のあるモノ、新しいモノが好き」という嗜好を持つ。だから話が続くうちに「未知の力を秘めた超古代文明の秘宝」とか「新しい知識やエネルギーを凝縮した新装置」などが登場することが多い。
 つまり彼らを動かすのはスリルや冒険心、そして「未知への好奇心」であり、それはSFファンに通じる精神だと思うわけです。現にルパン三世は、劇場版第1作でクローン技術、『DEAD OR ALIVE』ではナノマシンなど、肝になるネタに最新科学などが取り入れられています。そして軌道エレベーターという天に伸びる塔は、ルパンのようなチャレンジャー型の主人公にとって、いかにも「俺が制覇してやるぜェ」的なガジェットです。そう考えると、本作に登場するのは時間の問題だったのかも知れません。最初はびっくりしたし、ツッコミどころ満載なんだけど、そういう部分も一緒に楽しむべき作品ですね。

3.ルパンにはもう実体がない
 押井守監督は、幻となったルパンの完結編で「ルパンは存在しなかった」という哲学的?なストーリーを提案して没になったんだとか(Wikipediaより)。この見出しで言っているのはそういう意味ではないんですが、本作を読んで「ルパンもただの"器"になったんだなあ」と改めて実感しました。「お前本当は四世か五世なんじゃないのか」と言いたくなるくらいの長寿シリーズですが、現在は色んな制作者が色んなルパン像を描いています。最近じゃコナンと共演したり、久々に実写映画化されたりしてますし。今やルパンのイメージは作品ごとにアップデートされ、私が子供の頃に刷りこまれたルパン像じゃないのですよね。
 色んなアメコミヒーローや007シリーズが刷新されていき、日本でも腐女子に人気だという『ヤング・ブラックジャック』などの例を見ても、古典的名作コミックの人物像が、時代にアジャストした姿になっていくのは宿命のようです。こういうライセンス生産みたいなやり方は、今や珍しくなくなりました。

 つまり、ルパンというキャラクターや作中の世界観は、作品ごとに多彩な酒が注がれる器と化し、代わりに確たる人物像が失われていった。スケベで意外とインテリで、無欲な義賊という角の取れた残滓がかろうじて器の底に残っているという印象を受けます。もう実体がないから作者や演者により変更の余地が生じ、長く受け継がれていくことが可能になるわけですね。これは商品として必然的な生存戦略なのでしょう。
 ちょっとさびしくもあるのですが、もちろん今後新たなルパンも誕生しうるわけで、軌道エレベーターが登場し、ネコが会話するという本作も、そういう新境地を開いた意欲作と受け止めましょう。久々に出会った『ルパン』に、色々なものを感じた1作でした。

 そんな本作ですが、次巻の発売日は「某年某月吉日」だそうです。決まってんの吉日だけかよ!もう受け狙いでやっとるとしか思えん。早く出してもらえることを待望しております。

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軌道エレベーターが登場するお話(14) マザーズ・タワー

2014-09-05 22:17:38 | 軌道エレベーターが登場するお話
マザーズ・タワー
吉田親司
早川書房(2008年)


あらすじ 「マザーズ教団」の代表・葵飛巫女は未知の難病に冒され、教団代表を退く。彼女を救うため、4人の男たちが手を組み、軌道エレベーター「マザーズ・タワー」(母なる塔)の実現を目指す。


1. 本作に登場する軌道エレベーター
 ネタバレになるので、これから読む方は飛ばしてください。本作では当初、モルジブ諸島のガン島沖に地上基部を設けます。ここは昔からの有力候補地です。典型的なブーツストラップ式による静止軌道エレベーター(作中では「軌道エレベータ」。以下OEVと略記)を計画し、基礎理論に忠実なプランを進めるのですが、物語中盤で破壊されます。そこでいったん捨てたオービタルリングシステム「パンジャンドラム」の建造案へ方針変更します。
 パンジャンドラムは、高度600kmに磁性流体の循環で構造を維持するリングを設け、カーボンナノチューブと「疑似ダイヤモンド結晶繊維」製の2重のピラーを東京に吊り下ろし、「スパイダー・トレイン」が昇降する構造です。東京には「摩天楼都市<朱雀>」という1000m級の超高層建築物が造られており、ここを地上基部に利用します。リングはポール・バーチ、ピラーはB.C.エドワーズらの理論に基づいていると思われ、当サイトの定義に従うと3.5世代モデルになります。『銃夢』(木城ゆきと作 集英社、講談社)とほぼ同じですね。リングでピラーを支えるのは大変でしょうが、既存の理論に従っており、詳しい人は「ああ、この手でいくのか」と思うでしょう。
 で、リングを造ってから、地球に輪投げするようにかぶせるのですが、直径4万3771kmの輪っかの動かし方が判然としなかったり、「接合部を自在に操れば、エレベータ自体を望む都市の直上に持って行ける」(347頁)というのが、作中の説明だけでは不可能なはずだったりと、疑問点も少なくありません。それに、リングまで病人を宇宙へ運ぶのはいいけど、十分な医療設備や備蓄が整っていて長期滞在できるのでしょうか(私の読み解き不足なら公式にお詫びしますので、ご指摘ください)。
 しかし、全体的に物理的破綻や致命的な矛盾はないようです。『楽園の泉』『まっすぐ天へ』など、OEV実現がメインテーマの作品を、私は「建造もの」と呼んだことがあるのですが、本作は交渉ごとから技術的課題のクリア、建造開発、初運用まで、トータルプランを扱った久々の「建造もの」と言えます。
 惜しむらくは、非常に大事なファクターを避けている。参考文献に『まっすぐ天へ』が挙げてあり、強い影響を受けていることがうかがえます。「ゆくゆくはカーボンナノチューブ製の巨大なネットを造り、デブリを丸ごと駆除できる」(267頁)というくだりは同作のアイデアを拝借したものでしょう。にもかかわらず、最大の問題である「運用中の人工衛星との衝突」に触れていない。
 本作はマザーズ・タワーの真の目的を伏せつつ、強引に計画を進めるので、世界中の国々や企業から「うちの衛星の邪魔になるからやめんか」と反対されないはずがない。『楽園の泉』が書かれた頃とは宇宙の利用環境も違うし、「1人の女性のため、どんな困難も乗り越えてOEVを実現する」というテーマ性から言っても、触れずにスルーしていい問題ではないと思うのです。
 世界観に沿う解決策が見つからなかったか、字数を割く余裕がなかったか、あるいはその両方なのでしょう。どのみち片付ける課題にあまり寄り道してられませんが、『楽園の泉』以降の科学的所見を取り入れた意欲作であるだけに、少々ずるい気もするし、残念でもあります。
 反面、こういう視点は大事だよなと感じたのが、

 軌道エレベータは、富裕層専用の"ノアの箱船"に他ならないのだ(202頁)
「軌道エレベータはリッチマンしか昇れない虚飾の塔でしかないわ」(300頁)

といった批判です。実際、OEVは十分な数がないと貧富の二極化を加速させるだけでしょう。オイシイことばかり吹聴するのはフェアじゃない。これからの「建造もの」には、こういう見方をどんどん取り入れ、乗り越える知恵をシミュレートして欲しいものです。本作の場合は、最初から女性1人の専用車ができりゃいいというのが本音ですが。


2. ストーリーと人物について
 宗教団体が信仰のためにOEVを造るお話かと思っていて(OEVの実現主体として、宗教団体は有力候補だと考えているので)、発刊当時から気になっていたのですが、読んでみたらだいぶ違ってました。とはいえ「惚れ込んだ女のため」というのは立派な動機ですよ、うん。

 末期患者の子供たちを看取る、通称「マザーズ教団」代表の葵飛巫女(あおい・ひみこ)は、跡目を譲り勇退するのですが、実はアルツハイマーに似た原因不明の病にかかっており、宇宙であれば病状が改善する可能性がでてきます。この病気は全地球的に増加傾向にあり、物語のキモでもあります。
 金儲けに長けた商売人、「電脳技師」、特殊部隊出身の元軍人、医師の4人の男が飛巫女とかかわりを持ち、心奪われ、依存するようになります。日々弱っていく彼女を宇宙へ安全に運ぶため、彼等はマザーズ・タワーの建造を決意します。4人とも突出した才覚の持ち主ですが、社会集団になじめないアウトローで、異性へのトラウマを抱えているようです。特に、やたら虚勢を張る商売人の飛鷹昭人はそれが顕著で、

 「女に心など許したりはせん。これまでさんざん裏切られてきた。もう二度と信じるものか。
 あんな騒々しい生き物は2次元の中だけで十分
(215頁)

3次元の女に何をされたんだお前は。また技師のイスマイル・ナンディは少々マゾ気質もありそうです。4人ともエディプス・コンプレックスというか、母性愛や、自分を律して戒めくれる存在に飢えていたのであろうことが、言動からうかがえます。

 一方、彼等を虜にした葵飛巫女。教団で慈母師(グランマ)と呼ばれていますが、どういう育ち方したら、こんな高飛車な女ができあがるのか? ズケズケと相手を挑発しながら、弱さやエゴをチラリと見せつける話術で、他者をコントロールする達人。また量子コンピュータを使って「予言」をしたり、教団の防衛のため武力行使をいとわなかったりと、気持ちだけでは何もできないことを知悉している策士でもあります。
 こういうプラグマティストのキャラは好き。。。なはずなんですが、飛巫女の場合は上品っぽく振る舞っても、なぜか妙にはすっぱな印象を受けました。病で弱っても打ちひしがれたところを見せず、毅然とした人物には描けている。代わりに、慈母師と呼ばれる割には「慈」が見えない。飛鷹たちの献身ぶりの方が、慈愛の深さが表れていました。
 私には、飛巫女が男たち4人と本質的に同じ種類の人間に見えます。常に飢餓感を抱え、「足を知る」ことがない。自分の中に規範を設定することが下手で、何か・誰かの「ため」、あるいは「せい」でないと立ち位置をつくれない虚勢家なのではないか。飛巫女のテンプレートな言動は、そう解釈した方が心理を追いやすいんですよね。性格設定とは異なるでしょうが、そんな印象を受けました。

 さて、そんな飛巫女のため、男4人は金策とネゴ、技術開発、戦闘、彼女の治療という役割を分担し、マザーズ・タワーを計画。ハッタリかまして有力者を抱き込み、資源の強奪もいとわず、紆余曲折の末に建造までこぎつけます。飛巫女の掌の上で転がされているようでもありますが、惚れた女に身命を捧げるのに、何の遠慮が要りましょうか。飛巫女は飛巫女で、男を4人も手玉にとって、慈母というより女王様です。ああっ、私のこともビシッと叱ってくださいグランマ! (´д`)


3. 軌道エレベーター愛を感じます
 全体として、アニメ化でも意識しているかのような、派手な戦闘シーンやメカアクションが多い展開です。OEVの奥深さをひもといて読者を引き込むのは『楽園の泉』がやってしまってるので、別の持ち味で勝負しているのでしょうか。青臭い雰囲気は好みではないし、余剰次元や地球外生命など、やや詰め込み過ぎの感もあるのですが、読んでいてひしひしと感じます。著者の軌道エレベーターへの情熱が。

 「なあに、きっと簡単でしょうよ。スリランカを南方へ700km移すよりはずっと易しいです」
 「『キトの郊外に直径400mの穴を掘って"ビーンストーク"をホールインワンさせるよりもな』(252頁)

オービタってるじゃないかお前ら! こういう遊びのほかにも節タイトルに『カーリダーサの塔』『ビーンストーク』などと付けたりしています。著者は『SFマガジン』のコラムで、『楽園の泉』をベストSFに挙げており、「自分の『楽園の泉』を書きたくて、こんな作品を世に出したんじゃないのかな」と思いました。そういう気持ちが行間からにじみ出ていました。

 OEVのアイデアは、SFの世界ではもはや古典に属すると言っていいでしょう。今後、OEVをメインガジェットにして個性豊かに描くにはどうすればいいか、制作者は新たな思案を求められる時代になったとも言えます。そんな中で、原点回帰しつつも独特の展開を織り込んだ本作は、貴重な1作かも知れません。

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軌道エレベーターが登場するお話(13) 翠星のガルガンティア

2013-12-15 21:24:32 | 軌道エレベーターが登場するお話
翠星のガルガンティア
原作 オケアノス
「翠星のガルガンティア」製作委員会
(2013年)


 この春に放送され、続編製作が決まった人気作品です。今回は、普段以上にネタバレが多いので、未見の方はご注意ください。特に今再放送中ですので。

あらすじ 人類銀河同盟の兵士レドは、友軍からはぐれて宇宙を漂流する。人工冬眠から目覚めた時に彼がいたのは、人々が洋上生活を営む未知の惑星だった。どこへ漂着したのか理解できず戸惑うレドに、乗機チェインバーが告げる。「太陽系第三惑星、地球。これまで記録においてのみ存在を示唆されてきた、人類発祥の星である」

1. 本作に登場する軌道エレベーター
 本作の世界では、海面上昇で陸地の大半が没した未来で、人類が船団で洋上生活を営んでいます。おそらくは私たちの世代の直系の子孫であろう人類は宇宙へ進出し、残された人々の文明レベルがアナログ生活に退行したと考えられます。ですので軌道エレベーターそのものは存在していません。
 しかし、レドは旧文明の研究所だった海底の遺跡で、過去の歴史のデータを回収し、再生した映像に軌道エレベーターが登場します。おそらくは静止軌道エレベーターであり、これが複数建造されていた上に、マスドライバーやロストロム・ループのようなものも映っていて、質量を宇宙へ輸送するために様々な手段を併用していた様子がうかがえます。
 旧文明の人類は、急速に寒冷化する地球から脱出するため、新たな居住地を求める勢力と、生体改造による宇宙への適応を主張する勢力に分かれて争い、再生映像の中で静止軌道エレベーターが破壊されるシーンも登場します。この抗争が、人類銀河同盟と敵性体「ヒディアーズ」の生存競争につながっていくことになるのですが、それはここでは割愛します。
 そして物語終盤、ガルガンティア中央部に残されていた旧文明の遺構に、船団長のリジットがキーを差し込むと、インターフェイスに"Orbital Mass driver system"という文字が表示されます(彼らは読めない)。ガルガンティアでは「天のはしご」と呼ばれ、海水をリアクション・マスに用いる打ち上げ機構です。かつては宇宙に物体を打ち上げるために使用していたと思われますが、半壊してそこまでの機能は失われており、彼女は敵対する船団を攻撃するためにこれを砲台として使用します。
 このように、本作には軌道エレベーターの登場はほんのわずかで、このため今回は説明図も省きます。しかし、重力制御でも実現しない限り、「宇宙への移民」というプロセスは、やはり軌道エレベーターなくしては不可能であろう、これはSF作品の常識になりつつあるのはないか、と思います。もっと設定を詳しく知りたいものですが、さらっとしか出てこないということは、それだけ説明不要で当たり前のアイテムになったのであり、喜ばしいことでもあると思うのです。


2. ストーリーについて
 この作品には、「オリジナリティって何だろう?」と考えさせられました。舞台設定は映画『ウォーターワールド』みたいだし、雰囲気やキャラは『コナン(名探偵じゃない方)』や『ナディア』みたい、主人公は『ボトムズ』みたい、チェインバーの動きは『レイズナー』みたいと「みたい」の連続で、どこかで見たような設定ばかり。ストーリー展開も「レドが人々と触れ合って情緒豊かになって、同盟に懐疑を抱くようになるんだろうな。ヒディアーズの正体はクジライカで、人間の末裔なんだろうな」などと先が読めてしまうほどでした。
 にもかかららず 画面の中から漏れ出てくる圧倒的な個性に1話から引きずり込まれてしまった。これは、ちょっとしたシーンにも深い設定を用意しているというだけでなく、それをいかに見せるかに心を砕いているためだと思います。濃縮果汁の一滴と言いますか、ほんのちょっとしか出てこないマシンキャリバー(チェインバーを含む人類銀河同盟の人型兵器)の集団戦闘のカッコよさや、異星人とのファーストコンタクトにも等しい、ガルガンティアの人々とレドとの、試行錯誤しながらの(でも意外に知的な)コミュニケーションの描き方をはじめ、ありきたりの設定でも「この後どうなるんだ?」としっかり思わせる部分を丹念に作り込んでいる。素材を生かすかどうかは、料理の腕次第なんだなあと思わずにいられません。

 しかし何と言っても本作を面白くしているのは、チェインバーの立ち位置でしょう。

 「当機は、パイロット支援啓発インターフェイスシステム。
 貴官が、より多くの成果を獲得することで、存在意義を達成する」


チェインバーは作中何度もこのように繰り返します。コマンドに従属する単なる兵器ではなく、マシンキャリバーは兵士の促成システムの一環を担っているらしく(『ぷちっとがるがんてぃあ』によると睡眠学習までさせてるらしい。夢くらい好きに見させてやれよ)、チェインバーはレドを護り、知識を授け、時に彼の心理を映す鏡となり、ガルガンティアの人々との意思疎通を助けて、成長を導く保護者・教師的な存在になっていきます。
 レドと同じように、チェインバーも友軍とのリンクが断たれたために独自に論理を発達させざるを得ず、ガルガンティアに身を寄せてからは特に、同盟の規範よりも「レドの生存」を優先して自らの行動規範を構築していったようです。それは結果的に、異質な社会に放り込まれたレドが、自立して新たな生き方を切り開くことの後押しになっていきます。まるで「レドの幸せとは何か?」と考えていたかのようにさえ見えます(クーゲル中佐のストライカーとこんなにも差がついたのは、あっちは指揮官機だからだろうか?)。
 そして最後の戦いで、敵機と刺し違える覚悟をしつつもエイミーたちとの再会を希求するレドに対し、「兵士に不適格」として軍籍を剥奪し、コクピットをパージしたチェインバーの論理は明らかに詭弁であり、彼(あえて「彼」と言おう。チェインバー自身、この時から自らを「当機」ではなく「私」と呼んでいる)が「機転を利かせた」にほかなりません。

「この空と海のすべてが、あなたに可能性をもたらすだろう。
 生存せよ 探求せよ その命に、最大の成果を期待する」


 単独で敵と結着をつける直前、チェインバーがレドに告げた別れの言葉は、なんと慈愛に満ちていることか。レドが人間らしさを得ていったように、彼もまた心を得たのではないかとさえ思えてきます(前回述べたように、彼に本当に心があるかどうかは問題ではない)。
 知と生は等しい、不可分なものであり、生きることは知ることである。これがこの物語のテーマの一つなのではないか、と私は受け止めています。実に実に真摯で、美しいお話だったな、というのが観終えた印象です。
 ちなみに『ぷちっとがるがんてぃあ』のチェインバーはかなりイヤミな性格で、レドを小馬鹿にして泣かせている。



3.「翠星のガルガンティア」ぷちっと経済学
 ところで、レドはガルガンティアの生活を「非効率」と言うのですが、本当にそうか? 本作は背景設定の奥深さを感じますが、物理的な問題(たとえばあれだけ巨大だと、波によるねじれとかで連結器に巨大な負荷がかかって危険だろうに)は置くとしても、ガルガンティア船団の物質的な豊かさは常軌を逸している。 情報不足で私が誤解してたらごめんなさい。その上でツッコミます。
 色とりどりの服や装飾品まで身につけ(ラケージ様のあのカブいたお姿は略奪品だろうからいいとして)、わかめパンのような加工食品(干物はまだしも)を食べて、大量の紙を消費し(つまり紙が貴重品でない)、酒まで飲んでいる。ほかにも家畜を育てて焼き肉にしてタレかけて食っとる。これはすなわち、繊維を調達し、小麦など穀類を育てて家畜を飼育(確かにその場面あるけど)できる規模の農業生産力を有することを意味します。
 農業白書などによると、1kgの牛肉を得るには10倍近い穀物が必要だといいます。全長4kmといえば大きく感じて、船には階層があるから延べ床面積の合計はその何倍にもなるでしょうが、継代種子を得て連作障害を回避するには休耕地も必要だし、農場経営には全然足りないでしょう。嵐や時化で塩水かぶったら農地が全滅しちゃいそうだし、そんな環境では家畜なんて絶滅危惧種だよ。このほか製紙工場や酒の醸造所まであることになる。娼窟まであるし(男娼ばっかの)。 このコンパクトな空間にこれだけ多様な1~3次産業が成立しているというのは、現代の市場経済システムを超越してますよ。
 食料以外の鉱物資源の類は旧文明の遺跡から頂戴するとしても、とうてい船団内でエネルギー収支が釣り合った系が成り立っているとは思えない。それでもアリというなら、推定できる「画面に映ってないガルガンティアの真実?」は次の通り。

 (1) 実は陸地の住民と取引している
 (2) 人間、家畜、植物、水、土壌すべてが旧文明のテクノロジーで改良されている
 (3) 使い捨ての奴隷的階級がいて生産を支えている――こんなところか?

 ぶっちゃけ(1)なら全部解決する。(2)は理屈付けとしてはちょうどいい。海にヒカリムシがいるように、ガルガンティアの時代の環境は、遺伝子操作やナノマシンの混入など、旧文明のバイオテクノロジーで改良された生物の末裔で成り立っているのかも知れません。このため人々が意識的でなくても自己調整され、持続可能だとか。彼らは動物のように体内でビタミンを合成でき、壊血病にもならないのかも知れない。とにかく、どこかで辻褄を合わせているのでしょう。(3)はクーゲル船団のようなケースであり、人類銀河同盟の縮図ですが、実はガルガンティアの人たちも底辺層から搾取していたのだ…とか。

 だがそれでも、生産力だけでは決して解決しない疑問、それは貨幣経済が成立していることです。レドはバイトをして、紙幣とコインでお給料をもらいます。ということは造幣局と中央銀行まであんのか!
 確かにガルガンティアほどの大きさだと、お金がないとそれはそれで不便ですが、よしんば造幣機能があっても、離合集散を繰り返す船団では市場が不安定すぎる。そもそもお金とは単なる数字であり、存在しない価値です。それに価値を与えているのは政府による信用保証であり、治安維持機構や需給調整機能とセットでなければ成り立たない。一応徴税制度はあるらしいけれども。
 実際、通貨危機が起きても不思議じゃない事態が生じています。物語中盤で、フランジさんたちの船団30隻ほどが離脱しますが、するとどうなるか? 離脱組には造幣機能がなく、ガルガンティアでしか使えないお金を持ってても意味ないから、その前に物資に換金しようとします。するとガルガンティアでインフレと品不足が起きて市場が混乱します。これを解決するには、通貨当局が市場介入して政府備蓄を放出する必要がありますが、船の寄り合い所帯でそれができるんでしょうか? むしろ信用不安が加速するでしょう。
 ほかの船団との共通貨幣も、上位機関や為替取引市場がない以上ありえない。造幣機能のある船団が貨幣を乱発し、ほかの船団から物資を買いたたく危険もあるし、資源不足とか疫病とかの危機に陥った船団は、すぐに貨幣の信用保証を放棄してしまう。一体どうやって経済を維持しているのでしょうか?
 これはハイテクや物量で解決できる問題じゃないです。しかし、逆に言えばアタマで解決すべき問題なので、通貨の破綻を回避できる、何らかの知恵がある、ということなんでしょうね。だとすると、やっぱり相当効率の良いシステムを構築しているとしか思えないんですが。。。レド、お前はガルガンティアの真の姿を知らないだけだ。
 くだらんツッコミ失礼しました、また来週…はない。ぷちっとがるかんてぃあ!


4. 続編に期待
 てっきり、本作は後半で人類銀河同盟が地球に目を付けて攻め込んできて、レドは地球の側につくのではないか、なんて展開になるんじゃないか、と思っていたんです。その時、ヒディアーズ(クジライカ)との共存が物語の鍵になるのであろう、と。何しろ裏設定が相当ありそうな感じがするもので。でも一方で「1クールじゃ無理だよな」とも思ってました。だからこそ、やはり続編制作決定はいちファンとして嬉しいですね。
 続編で軌道エレベーターに関することや、何か面白いことがあったら、また取り上げようと思います。放送を楽しみに待ってましょう。

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