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軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

『機動戦士ガンダム00』の軌道エレベーターに関する誤解の検証(付記あり)

2013-11-01 22:02:58 | 軌道エレベーターが登場するお話
 前回の記事をご覧くださった方から、『機動戦士ガンダム00』に登場する軌道エレベーターは全長5万kmでいいのではないか、というご意見をいただきました。私の説明不足のせいで、そのように考えてしまったのかも知れないと反省しております。そこで、これを機に、長年気になっていた『00』の軌道エレベーターにまつわる不明瞭な点の解明と、広く浸透している誤解についての検証を試みたいと思います。はじめに断っておきますが、作品を貶める意図はありません。私は今なお『00』をこよなく愛する一ファンです。

1. 高軌道ステーションが高度5万kmではありえない理由
 大前提として「全長5万km」に間違いはないのです。TVシリーズ第2話のナレーションで、古谷徹さんが名言していますし、各情報媒体での設定紹介でも語られています。ここで指摘しているのは「高軌道ステーションは高度5万kmに位置しない」ということです。まずはこれを念頭においていただければ幸いです。
 さて、前回紹介した週刊『ガンダムパーフェクト・ファイル』の記事が「地表-高軌道ステーション:5万km」「軌道エレベーターの頂上に位置する(高軌道)ステーション」といった具合に、高軌道ステーションと高軌道部オービタルリングの高度を5万kmと記載しており、私はこれが間違っていると書きました。まずはこれについて補足説明を加え、誤謬を明らかにしたいと思います。記事は以下の2点の理由から間違っており、高軌道ステーションの高度は約3万6000kmの静止軌道上でなければなりません。

 (1) 高軌道ステーションは末端ではなく、その外側にバラスト衛星群が数珠つなぎに連なっている
 (2) 太陽光発電衛星がリングと同期するのは、静止軌道上しかありえない

 まず(1)についてですが、高軌道ステーションの外側には「バラスト衛星」という、傘の骨組みたいな物体が何重にも連なっており、これがカウンター質量の役割を果たしています。後で詳しく触れますが、本編2ndシーズンで軌道エレベーターが倒壊した際、このバラスト衛星を切り離して全体のバランス調整を図る場面が出てきます。ただし前回書いたように、作中ではこの部分の描き方がどうも中途半端というかカットが非常に少ないです。ていうか、『00』全編を通じて、高軌道ステーションより上はいつも見えそうで見えないカットばかりで、ほとんど描写がないんですよ! ( ゚д゚ )クワッ!!

 次に(2)ですが、高軌道リングに沿って直径約1kmの「太陽光発電衛星」(以下、発電衛星と略します)が無数に随伴しています。発電衛星はリングとつながっておらず、独立した人工衛星としてリングと同期、すなわち同じスピードで地球を周回しています。これは静止軌道でなければ成立しません。
 もし高軌道リングが高度5万kmの位置にあったら、地球の自転と一緒に回るリングやステーションに対し、発電衛星はもっと遅い速度で周回します。その速度差は秒速400mを超えてしまい、ステーションから見ると発電衛星が超音速ですれ違っていくことになります。両者が同期するのは唯一、静止軌道上だけです。単にリングだけなら5万kmでも不都合はなく、むしろ全体の安定にはその方がいいくらいなのですが、『00』の場合はリングに発電衛星が(同じ速度で)まとわりついているのが数多くのシーンから明らかです。
 それ故に、高軌道リングと、それに連結する高軌道ステーションの高さは静止軌道しかありえません。実際に1stシーズン第1話では、高軌道ステーション内では無重量状態が描写されており、これも静止軌道部の描写に当てはまります(微重力下や等速度運動をしていれば似た描写も可能だけど、低軌道ステーションやリニアトレイン内ではないのは見まがいようがない)。こうでなければ物理的に破綻してしまうので、もし設定が5万kmだと明言しているなら、それは設定の方が間違っていると言わざるをえません。
 で、ここまで述べてきたことについて、百聞は一見にしかずなので、以下の二つの図をご覧ください。



 『00』の軌道エレベーター及びオービタルリングシステム(ORS)について、破綻なく適切に説明しているのは右の方です。
 静止軌道よりも高い位置にリングを設定して安定度を高める理論もあるので、こうした考え方をするのもアリだと思うし、5万kmのリングが不可能だということはありません。しかしながら、無重量状態を現出できる静止軌道上に、何の施設も設けないということは、どう考えても不自然でしょう。これらを踏まえても、『00』においては、やはり高軌道ステーションと高軌道リングの高さは、高度3万6000kmの静止軌道に違いありません。これは、軌道エレベーターの基本原理の要であり、いわば「軌道エレベーター学」の必須事項です。ここが理解できているかどうかで、解説記事の書き方が変わってくるのでしょう。


2. 誤解が生じる背景の考察
 『パーフェクト・ファイル』以外でも、これまでに同様の矛盾を何度も散見しました。むしろ『300YEARS LATER』のように正確な方が稀有と言って良いくらいで、なぜこのようなことが頻繁に起きているのか? 何かおかしい。ずっと疑問に感じていました。以下は、入手できた限りの情報を元に推し量った、私なりの結論です。

 (1)『00』に登場する軌道エレベーターの全長は約5万kmである。この前提には問題ない。
 (2) しかし高軌道(静止軌道)ステーションから外側にバラスト衛星があることを示す設定資料には、バラストが1個だけしか描かれておらず(重ねて描くと1個ずつの形がわかりにくいから?)、その先は省略されている(下図参照)。あるいはバラスト衛星以外の何かが存在するかもしれないが、いずれにせよバラストが1個だけで終わっているとはとうてい考えられない(本当に1個だけだとしたら、それはそれで全長が「約3万6000km」におさまってしまうので高さが矛盾する)。なおこの図では、発電衛星も省略されており、バラスト衛星が1個だけで、あとは略されていることに不自然はないと思われる。


 (3) 上記(2)の設定画以外に、バラスト衛星がかなりの長さにわたって連なっていることを示す設定資料が極めて少ないか、あるいは存在しない。
 (4) そのため、(2)の資料を見た人は、高軌道ステーションにバラスト1個だけがくっついた略図を、完結した正しい図だと認識し、そこが全長5万kmの末端であると勘違いしてしまい、高軌道リングも含めて5万kmと記してしまう。本編で高軌道ステーションより上の描写がほとんどないのもこのせい。そしてこの状況が今日までずっと続いていて、放映も終了して久しい現在では、設定を正確に理解し、責任を持って定義できる人もいないのではないか。

――と考えています。


3. 証拠画像(2017.8.10付記)
 これまでの説明の証拠として、数少ない高軌道ステーションより上が描かれた画像を、本編より拝借してまいりました。静止軌道にある高軌道ステーションより上側が描かれることは極めて稀なのですが、本編では確かに、このように設定画通りバラスト衛星が1個しかない場面もあります。全編において確認できているのはこの1カットだけなのですが。



 しかし、これは設定画を鵜呑みにした間違いであろうと思われます。なぜなら、2ndシーズン#17「散りゆく光の中で」で、アフリカタワー「ラ・トゥール」がする崩壊するシーンで、次のようなカットが散見されるからです。



 複数付いてますね、バラスト衛星。ちなみに右の画像は、低軌道ステーションの下側のピラー外壁がオートパージされたため、全体の質量バランスをとるために、やはりオートでバラスト衛星の分解・放出が進行中のため、一番端がすでに輪っかだけになり、中央も分解しかかっている場面をを載せています。このあたりの描写も微妙に「?」がないわけではないし(TVシリーズ放映時の記憶とも若干異なる気もするのですが、これは私の記憶違いかも知れません)、わずか数秒のカットなのですが、最低限の説明描写はなされていると見受けられます。科学的に正しい描写はこちら。
 で、上記の週刊『ガンダムパーフェクト・ファイル』をはじめとする間違った解釈や図と、『機動戦士ガンダム00 300YEARS LATER』のように稀有な正しい例の違いは何なのでしょうか? 憶測の域を出ませんが、記事を書くにあたり、前者は資料だけで書き、後者は当時設定を理解している人に取材をした結果なのではないだろうかと考えます。同じ取材して書く立場の人間としての感触です。

 というわけで、『00』本編で、このように二通りの描き方がなされているわけですが、説明してきた通り、科学的整合性がとれる描写は後者の方であり、やはりバラスト衛星が1個しかついてない絵は、設定や科学的な基礎を正しく理解していないために生じた作画ミスであろう。やはり『機動戦士ガンダム00』に登場する軌道エレベーターは、高軌道ステーションの位置が高度3万6000kmの静止軌道部にあり、その外側は複数のバラスト衛星が連なる構造をしている。1個しかついていない描写は間違いであるというのが結論です。


4. 懺悔
 以上、上から目線であげつらってしまいましたが、私もあまり偉そうなことを言えません。『00』の1stシーズン放映当時の5年半前、「軌道エレベーターが登場するお話」で『00』を紹介した時、当時公開されていた図を元に、このような図を作図して載せました(当時はこのブログはなく、宇宙エレベーター協会のHPに同じコーナーがありました)。



 もちろん高軌道リングの高度を5万kmと誤解していたわけではありませんが、当時は放映開始直後で情報不足もあり、静止軌道の外側にあるだろうカウンター質量については「おおかた省略されているか、小さいけど超重いのがくっついてんだろう」などと、深く考えずに図だけ模倣していました。この場でお詫びするとともに、新しい図に張り替えておきました。

 そんなわけで、私も含めて伝達不足があったと思われ、それは率直に反省します。ですが、それでも『00』の軌道エレベーターは完成度の高い、学術的にも優れたモデルであることに変わりありません。これを機に、多くの人に『00』の軌道エレベーターの正しい姿を理解し、完成度の高さを再認識していただければ幸いです。

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軌道エレベーターが登場するお話 番外編(3)宇宙戦艦ヤマト2199(後編)

2013-09-30 00:48:20 | 軌道エレベーターが登場するお話

宇宙戦艦ヤマト2199
原作 西崎義展
宇宙戦艦ヤマト2199製作委員会
(2012年)


前編はこちら。

4. キャラ云々の続き(ガミラス、イスカンダル編)
(ガミラス)
アベルト・デスラー
 大ガミラス帝星総統。声をあてた山寺宏一さん、『宇宙戦艦ヤマト 復活編』では古代進の声を演じていたので、キャストが発表された時は何の冗談だと思ったものですが、古代より似合ってました。復活編が続いていたら一体どうなっていたのやら? ため息をつくような喋り方誰かに似てると思ってたらぶりぶりざえもんだった。
 旧作では裏表のない狂気の人でしたが、今作では人格的に何者だったのか、いまいち判然としない人物でした。ファンの間では諸評あったようですが、私はこういう二面性のあるキャラが好きなので、2199の中ではもっとも深みがあるキャラだったと思います。
 強大な星間帝国を統べる立場にありながら「ああつまんねえな」という態度丸出しで、シラケ世代の厭世的な指導者。明らかに帝国の運営を「くだらない」とシラケ切ってました。
 それもこれも、スターシャのためにやってるからなのでしょうか。彼の方法論では、宇宙の平和と統一には武力が必要であり(これは正しい)、口で理想を唱えるだけのスターシャに対し、自分はその汚れ役を買って出たようです。結局好きでやってるわけじゃないから心に虚無を抱え、いっつもつまんなそうにしてたのでしょう。
 「結局何がしたいんだよこの人」と思った人は多かったでしょうが、私には彼の言動は理路整然とし、正気を保っていたように見えます。帝国の統治という常人離れした所業をやるには、人間性を捨てて狂気を持たなければならないことを理解し、それに徹していたからです。
 しかしデスラーがそうするほど、スターシャの心は離れて行くのがわからないはずはないのに、それでも覇道に邁進したことは、彼の複雑な心理の表れに思えます。それだけに終盤で「欲しくなったのだよ、あの艦が」と発した裏には、波動砲を使って破壊と殺戮の限りを尽くしたにもかかわらず、スターシャに受け入れられたヤマトへの「嫉妬」があったのではないでしょうか。「私は戦争をしているのだ」という彼の最後の行為は、単なる私闘でした。
 最後は人格的に壊れた印象も受けましたが、これはデスラーが持つ振幅の範囲内であり、しっかり正気を保っていた。私の中では、ちょっと方向性はアレだけど、頑張りながら全然報われなかった人という位置づけになっています。

エルク・ドメル
 ガミラス軍上級大将。この男との闘いなくしてヤマトなし。今作では不利な条件(単艦のヤマトからすれば全然不利じゃねえだろと言いたくなるけど)で闘い、散っていきました。「このドメル、最後の最後で詰めを誤った」と反省してましたが、沖田艦長と無駄話して波動防壁を修復する時間を稼がせてしまうあたり、本当に最後の詰めが甘い。これは自己満足でしかなく、しかも「総員離艦」と言い放った時、格下の兵卒の表情は「イヤこの円盤が脱出艇なんスけど…」と言ってますねあれは。

ヘルム・ゼーリック
 ぶるああああ! この人はこれだけで十分ね。デスラーが「言いたいことはあるかね、ゼェェェェェェー」ってとこでモニターを撃って壊しちゃったんだけど、せっかく物真似してんだから最後までさせてやれよ。最後はよりにもよって、ゲールのような小物に殺されてしまった。

ミーゼラ・セレステラ
 宣伝相。アケーリアス文明の末裔だという民族ジレルの生き残りで、精神感応の能力を持つ。被征服民族だったらしく、レプタポーダで妹分のミレーネルと一緒にデスラーに解放され、忠誠を誓った。しかし忠誠というより、デスラーに精神的に依存しており、総統府に置いてけぼりにされたのに、ヤマト艦内で見境なくデスラーの元へ向かった。再会したら喜んでくれると思い込んでいたのか? 最後はそのデスラーに感応波を浴びせ、ギョッとして撃たれてしまい、この時ばかりはさすがのデスラーも狼狽し、「やっちまった」という表情全開でした。
 愛する人に殺されるというのは、本人にとって幸福なのか、不幸だったのか。彼女とデスラー、今やっていることの行く末に夢見た未来はないのだと、頭脳明晰な彼らに理解できないはずがない。そう考えると、「本当はわかってるけど後戻りできない」という、共通する精神性を感じます。
 閣僚の中でも差別されてたし、色々悲しい目に遭った苦労人ではありました。

ヒルデ・シュルツ
 2199キャラの出世頭 ( ̄▽ ̄) テロン討伐軍司令官シュルツの娘。孫の間違いじゃないのか!? あのハゲにこんな美少女の娘がいるとは宇宙の神秘だ。当初はホログラム映像だけで登場が終わるはずだったのが、予想外の人気が出て再登場に再登場を重ね、メイド服着てセレステラの侍女に就職。なんとフィギュアまで発売になった。人気が出た直後に公式サイトにアップされた画像はかなりデータが荒く、スタッフの「こんな人気出るとは思ってなかったんで用意してませんでしたサーセン」感が全開でした。最後にはヤマトに救われたガミラス人代表のような位置づけになってしまった。お前の親父殺したのあいつらだぞ。いっそのこと「デスラー・ユーゲント」なんてのがあって入団し、復讐を誓う残忍なキャラに変貌すれば面白かったのに(4/13付記:ありました。設定書見たら「デスラー少年団」と「ガミラス少女同盟」ってのがあるんだとか。設定凝り過ぎだろwww)。

レドフ・ヒス
 副総統。この人も株爆上げ。旧作では「デスラー機雷」がヤマトを沈め損ねると、

 デスラー「あの機雷はなんという名だったかね」
 ヒス「…ヒス機雷です (TдT)」


──とか散々な役回りで、さらに本土決戦に持ち込まれて敗色を悟り、デスラーにヤマトとの講和を進言したら撃ち殺されてしまった可哀想なお人でした。2199でも当初はセレステラやデスラーの侍女たちに小馬鹿にされていたのに、本人が目の前にいないと態度がデカくなりデスラーを罵倒。ヒルデを抱きかかえて助け、スターシャに対してヤマトを擁護してあげるいい人になりました。前半と後半で印象が違うという点では、南部に匹敵する。2199における出世キャラのベスト3は (1)ヒルデ (2)南部 (3)ヒス──だと思う。

ヴォルフ・フラーケン
 次元潜航艦UX-01艦長。さすがは旧作の続編『宇宙戦艦ヤマトIII』でヤマトに対し土つかずだったという潜宙艦のキャプテン、2199でも終始おいしいとこばっかり持ってった。最後に亜空間ゲート手前で浮上したシーンは劇場公開ではカットされてたので、わざわざ宇宙服着て顔出して、ゲールに「軍事法廷があんたを待ってるよ」とカッコよさ倍増。何と言いますか、粗野なんだけど気品がある。UX-01艦内自体が独立愚連隊みたいな雰囲気を醸し出していますが、副長のハイニもなんだか愛嬌があって憎めないキャラでした。藪改めヤーブを拾って仲間に加えてるし、いい奴だ。中田譲治さんの声がメチャクチャ渋い。とても別作品で「私はエロゲーが大好きだあああっ!」と叫んでいたお人とは思えない。

ハイドム・ギムレー
 親衛隊長官。側近の中でこの男だけは、デスラーがバレラスを破壊するつもりだったのを知っていて、上空の防衛線を甘くしてヤマトをバレラスに誘導した。セレステラやヒスは見捨てられたのに、何が分け目だったんでしょうね。独特の美意識にこだわっていたように見える人物(殺戮行為に美や快感を見出していたっぽい)。死生観も変わっていたのか、「なるほど、これが死か」と、さして恐怖を感じている様子もなく死亡。イマイチよくわからん人でした。

メルダ・ディッツ
 ディッツ提督の娘で軍のパイロット。 赤い機体が趣味らしい。地球の食べ物を食した初のガミラス人。地球のスィーツの味を知ってしまった彼女は、もう知らなかった自分には戻れない。ガミラスにスィーツ文化をもたらす人物として歴史に名を残すかも知れない。スタイル抜群だが、将来太るんじゃなかろうか。ガミラスはスィーツ文化が未熟であることを露呈した。

グレムト・ゲール
 ガミラス軍少将。ヤマトと何度も戦火を交えて生き残り、クーデターを画策したゼーリックを誅伐。バラン星の崩壊に巻き込まれた艦隊の残存兵力を再編し、軍を瓦解から救った名将。。。と、人物を知らずに結果だけ見れば、100年もたつと気まぐれな歴史の評価が180度ひっくり返り、こんな感じで教科書に載りそうなお人。本人は尊大、卑屈、卑怯、下衆などなど、およそ「小物」にふさわしい、人間性を否定するあらゆる表現が似合いそうな卑劣漢だったのですが、デスラーへの忠誠心だけは本物だったようで、ある意味忠臣の鏡なのかも知れない。自分の欲求に正直な人。それだけに死んじゃったのは残念だねえ。ちなみに旧作ではドメルの自決の巻き添えになって死亡した。

タラン兄弟
 「タラン、今までよく私につかえてくれた」
──と、『さらば宇宙戦艦ヤマト』で、デスラーにねぎらわれていた側近の将官。2199では兄弟に分割されてました。お互い兄弟が無事だったこと知ってたのかね?

(イスカンダル)
スターシャ・イスカンダル
 永遠の17歳。地球人やザルツ人と似たような肌の色なのに、青い肌を高貴なものとみなすガミラス人から、なぜか崇拝されているイスカンダルの女王。いやそもそも臣下も納税者もいない星で女王という肩書に意味があるのかと。どうせ自分の代で潰えるんだから、ガミラスと大統合でも大併合でもしてやればよかろうに。
 波動エネルギーを武力に用いた地球人に、コスモリバースシステムを渡すことを躊躇しましたが、ガミラスが隣にあることを黙っておいて、それで波動砲もなしでどうやってイスカンダルまでたどり着けというのか? それにこの人、ガミラスの国営放送で森をユリーシャと間違え、実物を見るとサーシャと間違えてました。上の妹と下の妹と赤の他人の区別がつかないような人の判断力など信じていいのしら?
 そもそも、デスラーに「あなたの言うとおりにするからやめて」と言えば、ぜーんぶ解決していた気がするのですが、色香で手玉にとるという芸当は苦手なんでしょうか。セレステラの言うとおり、どのみち自己犠牲はしない人なんでしょう。マジメに言うと、この人は本当に「口だけ」で、妹をパシリに使って死なせるし、自分じゃ何もしない人という気がします。デスラーの覇権主義による統治に不満なら、自分が呼びかけて各星系の代表からなる議会でも設ければよかったのだ。
 そしてコスモリバースの供与をためらっていたのは、古代守の記憶(あるいはコスモリバースの核となる意識か何か)を失いたくないからであり、波動砲のことは半分以上口実に過ぎなかったのではないか、とさえ思わせる、 深いエゴイズムを隠し持っていそうなキャラでした。いやまあ、地球人としては与えてもらう立場ですから、それでも文句は言えないんですけど。
 最後のあの仕種。。。サーシャ(妹ではなく古代守との間の子供)を宿してるのか? お前ケガ人相手に関係を持ったのかよ? 単にお腹が痛いだけだったのかな? とにかくちょっとねえ、救いの手をさしのべてくれたのに悪いんだけど、なんか色々文句いいたくなる人だったなあ。
 


ユリーシャ・イスカンダル
 ヤマトに「積み込まれ」ていたスターシャの妹。実際の地球の恩人ってこの人なんじゃないか? 「言葉ではなく、行動で…」って。。。結局金かよ! (´Д`) 遠回しにユスるヤクザじゃないんだから、こんな言い方されたら、日本人はそう考えてしまうのよ。とんでもない天然というかデンパ系で、お前の話周り置いてきぼりだぞ。友達いないんだろうな。ただしデンパの割にはM理論を完璧に理解していたらしく、真田さんと対等に議論を交わしたりして。。。やっぱりお前の話周り置いてきぼりだぞ。他人に憑依できるオカルト能力の持ち主。最後は新生ガミラスの統治に尽力するつもりらしいが、絶対政治向きじゃない。

5. BBY-01ヤマトの戦績に見るヒヤリ・ハット事案

ヒヤリ・ハット
 ヒヤリ・ハットは、結果として事故に至らなかったものであるので、見過ごされてしまうことが多い。(略)しかし、重大な事故が発生した際には、その前に多くのヒヤリ・ハットが潜んでいる可能性があり、ヒヤリ・ハットの事例を集めることで重大な災害や事故を予防することができる。(Wikipediaより)


国連宇宙軍BBY-01ヤマト 乗員999名 艦長・沖田十三宙将。人類初の恒星間航行能力を有する戦闘艦。真空偏極により航続距離は事実上無限であり、さらにワープ航行が可能。イスカンダルまでの往復において、ガミラスと幾度も戦闘を経験した。ここではヤマトの主だった戦闘記録を振り返り、ヒヤリ・ハット事案の有無を検証してツッコむものです。

メ二号作戦
 冥王星基地を破壊した作戦。山ほどある敵基地から艦載機で本丸を探し出し、砲撃を加えた。
 冥王星から新たな遊星爆弾を発射しても、次元波動エンジンが付いてるわけじゃないから地球に到達するまで優に1年以上かかるんじゃないのか(つまりヤマトの帰還の方が早いので、帰ってから対処を考えてもいいのではないかということ)、仮に1年以内に到達するほど加速してるなら、指数関数的な質量の増大で地球はイチコロではないのか、いやそもそも大マゼラン銀河は南天の天頂方向じゃないか、という疑問点は置いておきます。
 さて、ブリーフィング時に南部が波動砲で一掃することを具申し却下されますが、どう考えても南部が正しい。ただでさえ時間も資源も人命も惜しい、失敗の許されない立場なんだから、敵を冥王星ごと吹っ飛ばしてしまえば良かったのである。平時なら非難必至だけど、この場合は仕方ないよ。それができないなら冥王星をスルーしてしまった方が、まだマシとさえ言える。第一ヤマト本来の任務じゃないし、通信可能圏内なんだから国連ヤマト計画本部に判断仰ぐべきじゃね? (一任されてたんだっけ)
 そもそも地球を救うために冥王星を犠牲にして、何が問題なのだろうか? 2199の世界では人類は火星をテラフォーミングしたのですが、自分たちの都合で火星の環境を改造するのは良くて(しかも人類同士の戦争でボロボロにしてしまったらしい)、冥王星を消滅さてはいかんという理屈には説得力がない。冥王星救っても地球が滅びたら何の意味もないだろうが。だいたい、惑星間弾道弾に誘爆して結局冥王星もボロボロじゃねーか!
 さらに言うと、この冥王星での状況(反射衛星砲を使われる前ね)は、波動砲を使用するのには理想的だと思う。後述の七色星団やカレル163のような艦隊戦であれば、波動砲を撃った後の脱力状態で残党に攻撃される可能性があるけどれども、南部の言うように冥王星の場合はロングレンジで基地を破壊するんだから必要十分条件を満たしている(本作でも残存艦隊の奇襲を想定したために波動砲が使えなかったという指摘もあるのだけれど、だったら劇中で言ってくれよ)。
 それを沖田艦長、無数の拠点を偵察で調べるなんて成功率低すぎのバクチでしかない。実際、加藤が誤報を上げ、真田さんが注意喚起したにもかかわらず、「たとえ不確かでも、それに賭けねば勝てぬ戦もある」と、もう少しで戦力をそっちに割くところであった。賭けに出る状況じゃないし、賭けたら負けてたじゃん! 波動砲という選択肢があるのに運に頼った迂遠なやり方、作戦と言えんだろう。可哀想な南部 (´・ω・`)…代わりに私が言ってやる。いいじゃないか、星の二つや三つ! いいじゃないか、星の百や二百!!
 ただし冥王星を吹っ飛ばして、それがスターシャの知るところとなれば、逆鱗に触れてコスモリバースシステムはもらえなかったかも知れませんから、結果的にはこれで良かったのかも知れませんが。 私的には、エンケラドゥスのエピソードとくっつけて、「冥王星から友軍の救難信号を受信したから波動砲は使えない」という設定にすればよかったのだと思う。


次元潜航艦UX-01との対潜戦闘
 艦長不在で真田さんが指揮。潜宙艦の探知のため亜空間トランスデューサーでヤマトからピンガーを打つか、ソノブイで打つかで意見が割れ、結局母艦からピンして敵に居所を知らせてしまった。後に新見女史の言うには、真田さんは古代を死なせたくなかったんだとか。作戦の私物化じゃん。古代は古代で独断専行。結局、一士官の命令違反によって救われたのである。もう秩序崩壊状態。これ順序が逆(ソノブイで索敵しようとして、新見が勝手にヤマトからピンガー打って身バレ)だったらどうなってたか考えて欲しい。この頃より艦長自ら「それが命令であったとしても、間違っていると思ったら自分を貫く勇気も必要」と公言して憚らぬようになる。思ってても指揮官が言っちゃだめだよ(そのくせ七色星団では疑義を抱いた島や太田に「命令が聞こえんのか!」と怒鳴りちらしている。一体どうしろと?)。

カレル163星域会戦
 艦長不在で真田さんが指揮。ワープに入る直前にドメル艦隊の斥候艦に追撃を受け、まんまと罠に追い込まれた。戦略の基本中の基本である「戦場の設定」においてはヤマトは常に圧倒的に不利であり、これはもうワープ前に何とかするしかなかった。戦略的なマイナスを戦術で覆すのはまず不可能というのが定石なので、今回は闘う前に負けてたようなものですね。
 指揮を代わった沖田艦長は「敵正面に突入、これを突破する(略) 死中に活路を見出さねば、この包囲を破ることはできない」と一点突破主義で乗り切ろうとしますが、さらに包囲網の第二陣に追い込まれ、ドメルへの帰投命令がなければ沈んでいた。こりゃヒヤリハットどころじゃなく、運だけで助かったさいたる例でしたね。

バラン星の亜空間ゲート突破
 沖田艦長お得意の一点突破主義に、瑕疵の見当たらなかった稀有な例。ちゃんと戦闘の後、戦場を離脱するまでのことを考えてたからですね。これは文句無し。ちなみに、波動砲撃つ時は毎回この手を使えば、現場離脱が容易だと思うんだけど(特にメ二号作戦とか)、これはお約束ですね。

七色星団会戦
 劇場公開では短い感じがしたけど、TV放映で見たらなかなかボリュームを感じました。ドリルミサイル改め特殊削岩弾は、音も旧作とそっくりだったので感動したぜ! 今作ではガミラスの艦隊主力がバラン星から帰還中のため充分な兵力を割けなかったという、戦力差のバランスをとる展開を設けられました。しかし今作戦、まず最初の方針、

沖田「迂回コースをたどれば、それが油断となり、相手に反撃の時間を与えることになる」
真田「この危険な宙域を我々が突破するとは、敵も考え難いでしょう」
沖田「んむ」

 こーゆーのを油断と言うんじゃないか? 実際、
ドメル「ヤマトの艦長が私の思った通りの男なら、必ず七色星団を突き進んでくる」

 完全に読まれとる。沖田艦長は「もし敵が、あの時の指揮官だったら」とまで考えてるのに、前回もう少しで沈められるところだったのを忘れたのか。ただし、仮に遠回りしても、ガミラスに艦隊を立て直す余裕を与えた挙句、食いつかれていでしょうから、どのみちドメルとの決着は避けられなかったのでしょう。
 七色星団での勝敗はドメルの落ち度によるところが大きく、イオン乱流に上手く誘い込んだ沖田艦長の素早い状況判断は見事でしたが、やはり運に救われた部分が大きいのは否めないですね。ドメルは戦略家、沖田は戦術家に資質が偏っているように見えます。強いてツッコミたいのは、先遣させた航空隊本隊の隙を突かれた時のために、母艦の守りとして山本のα2を残しておいたわけですが、α1も出しゃ良かったじゃん、とおもいました。
 それにしても、波動防壁ってすごい防御力だな。旧作のヤマトは、自己修復性金属オリハルコン製という初期設定で、だから第三艦橋が、ドメルに爆破されてもガミラスの硫酸の海で溶け落ちても、早々に復活してたわけですが、今回は防壁のお陰でかなり助かってますね。

ガミラス星本土決戦
 往路最後のワープアウト直後に第二バレラスからデスラー砲で狙われ、何とか回避してガミラス本星の総統府に突っ込みました。
 まず先に「こうした方が良い」という点を述べておくと、

 (1)デスラー砲は亜光速の標的は狙えないらしい
 (2)第二バレラスはガミラス-イスカンダル系(逆?)のL1にある

──という条件から、最善の策はイスカンダルに直行直帰。 ほかにやることないだろ。ウラシマ効果は置いとくとして、亜光速まで出せるならすぐ戦場離脱できるでしょ? 全速でイスカンダルの影、すなわちデスラー砲の死角に入って回避し、降下してスターシャの元へ直行。もらうもんもらって再び死角から宇宙に出て、重力干渉が起きない距離まで離れたらワープ、さっさと地球へお帰りなさい。第二バレラスなぞ相手にせず、無視してしまえばよろしい。余計な犠牲が出ないからスターシャも賛成してくれると思うんだけど。「イスカンダルを盾にはできん」などと、誰の得にもならない美学にこだわるならガミラスの影に入る。いずれにせよ、とりあえず惑星の裏側に逃げ込んで安全確保するというのは、第二バレラスの位置を見れば素人でも最初に考えることでは? 
 しかし沖田艦長は「敵の懐深く入らぬ限り活路は見出せない」とまたもや一点突破主義。さすが期待を裏切らない! 航空隊を軌道上に置き去りにして帝都バレラスに降下し、艦首にピンポイント・パリア。。。もとい波動防壁を集中させて総統府にダイダロス・アタックをかける。艦長番組間違えてます。(そういや昔DAICONのアニメで左右の腕がヤマトとアルカディア号という凶悪なマクロスが出てたな)

 ここで謎なのが、この後どうするつもりだったのか? いやマジで。全火力を総統府の内外にぶっ放せば破壊できるかも知れないから、総統府そのものをいわば「人質」にもできたかも知れませんが、そうせずに白兵戦を仕掛けようとしていた以上、沖田艦長はほかのことを考えていたと思われます。となると考えられるのが

 (1)総統府全体を実力で制圧・掌握する
 (2)デスラーにターゲットを絞り殺害するか人質にとる
 (3)同じくデスラーに肉迫して停戦交渉を行う

──といったところですが、専制国家である以上(2)と(3)が効率的で、ひたすらデスラー1人を倒すために全力投入すれば勝機はあったのか。。。どのみち敵の本土なんだから、ここで決着をつけないと残党に蜂の巣にされたのは必至なわけで、本当に一体どうするつもりだったのかしら?
 でもって「古代、突入部隊の指揮をとれ」、森がデウスーラII世のコアシップに乗っているとわかると、舌の根も乾かぬうちに「古代、君の戦術長の任を解く」と朝令暮改。白兵戦の指揮どうすんだよ(ああ、藤堂長官が空間騎兵隊を乗艦させていれば。。。)。ちなみにコスモゼロって、大気圏離脱してL1まで飛べる航続距離あるのか。

 二つ目の謎。艦首を総統府に突っ込んで視界が塞がれた状態で、どうやって波動砲の照準合わせたんでしょう? そもそも633工区の映像どこで撮ってたんだ? (波動砲の測距儀は艦長室の左右にあるから、これでは標的の諸元が得られない。南部がトリガーを引くのにビビりまくっていたのは、実はターゲットスコープに何も映ってなかったからではなかろうか?) 海自のLINK-14みたいなシステムでも積んでて、上空に残した航空隊からデータもらってたのかねえ?
 結局、総統は死んだ(と思われてる)し、ガミラス市民を救ったことで、お咎めなしでイスカンダルへ向かえたわけですね。ここでも結果オーライであったわけで、極端なことを言えば、デスラーの暴挙のお陰でヤマトは助かったようなものです。
 とにかく沖田艦長という人、「死中に活路」とか「食い破る」とか、いつも退路を用意してないといいますか、単に「それ、落とし所考えてないだけじゃね?」といように見えます。
 
最後の闘い:亜空間ゲート内での白兵戦
 艦長不在で真田さんry) 亜空間ゲート直前で追撃を受け、「このまま(ゲートに)突入する」。カレル163でまったく同じ罠にかかり、あわや沈むところだったのに全然学習してねえじゃねえか! 誰かツッコめよ。
 それで待ち伏せしていたデウスーラII世こと新型デスラー艦に真上から取りつかれたわけですが、煙突ミサイル撃て。ここで使わなきゃ煙突ミサイルなんて出番皆無だろが何のためのVLSだよう! 主砲も仰角最大にすれば三式弾撃てるんじゃね? 魚雷もホーミングで当てられるだろ。まあデウスーラに大爆発でも起こされたら艦長室が危ないけどな(だから言ったんだよ艦長室無防備過ぎるって)。

 ここでどうすべきだったのかは難しいところですが、まずは真田さん罠を疑えよと。あとは、接舷されたら砲撃しながら艦体を高速回転させ(ヤマトは推進系を使わずに艦をロールさせられる)ガミロイド兵を振り落とし、デスラー艦も引きちぎるとかできないものかね? 何にしろ、敵兵が降下してくるのを迎撃もせずに黙って見てるとは、艦橋の連中なにやってたんだよ。

 以上、主だった戦闘を振り返りましたが、一点突破主義でヒヤリ・ハットの連続です。ほとんど運だけで旅を終えられたようなもんだわな。単艦だからしょうがないけどさあ。。。しかし、最大の ヒヤリ・ハット要因は、健康に不安を抱えた人間が艦長を努めてることだろ。健康状態の虚偽申告って軍規に反するんじゃないかと思うんだが。
 土方は沖田の体調を見抜いていて止めたのですが、気迫に押され、

「ならばもう何も言うまい」

 いや言えよ。匿名で藤堂長官にチクれ。佐渡先生もドクターストップかけろ地球の命運かかってんだから。
 実際、片道しか体調がもたず、イスカンダル到着時には病臥していてスターシャに挨拶できず、礼を失したわけですし(そもそも一種の外交交渉なのだから文民を乗せとくべきでしょうが、非常時だからまあこれは全権委任ということなんでしょう)。もし航海の途中で病死して、真田さんの指揮でドメル艦隊と闘ったりしてたらヤマトは沈んでただろう。しかし、この状況と体調で勝利して帰還できたんだから、やっぱり沖田艦長はスゴイ人だ。

──とまあ、揚げ足をとってしまいましたが、ピンチに陥って緊迫しないと面白くないからね、わかってますわかってます。ファンだからこそ意地悪くツッコんじゃうんだけど、楽しませてくれたことに大感謝です。

 最後に沖田十三艦長の人物についてですが、キャストでもトップにあるように、この人こそ本作の主人公なのですよね。物理学の博士号持ってて、学者になりたかったんだけど(じゃなんで士官学校入ったんだ)軍人の途を歩んだという稀有な人物。22世紀の日本において、どんな人生を歩むと自分を「ワシ」と呼ぶようになるのでしょうか? 子供を戦役で亡くしていて、まったく表に出さなかったものの、家族への思いで航海を乗り切ったのでしょう。お疲れ様でした。
 最終話、「地球か…何もかもみな懐かしい…」というセリフは当然入ると思ってましたが、個人的にはその直前の「佐渡先生…ありがとう」も残してくれたのは嬉しかったです。BGMも同じ曲使ってたし、もう大人の事情で生き返らせんなよ絶対。
 森を甦らせた古代守に代わり、沖田艦長がコスモリバースの核になったと解釈していいんでしょうか。すると、ヤマトそのものになったわけで、ひいては地球の守り神のような存在と化したのかもしれません(真田さんが語った「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」というのは、軌道エレベーターの歴史に殿堂入りしているアーサー・C・クラーク卿の名言である)。

 七章の劇場公開では上映が終わると拍手喝采で、鼻すすってる人がたくさんいました。私も思わず目頭がうう。。。旧作への愛を感じさせつつ、21世紀のヤマトにふさわしい秀作として十分楽しませてくれました。お疲れ様です。

6.宇宙戦艦ヤマト2201はあるのか?
 こうして終了した『宇宙戦艦ヤマト2199』ですが、結論からいうと「2201を作れるように2199を作ってある。そのために玉虫色の解釈ができるシーンをたくさん挿入しました」というのがありありとわかる内容でした。
● ガトランティス帝国と国境紛争をしていて、収容所惑星で解放された中にはズォーダー大帝によく似た人物がいた
● 爆発したデウスーラからコアシップが浮上していたようにも見えた
● 次期艦長の土方が登場している
● 古代が将来の艦長っぽくなってきた(。。。らしい。単なる躁鬱病に見えるんだが)
● 沖田艦長がヤマトの守護神のような存在になったことで、『さらば』のラストシーンのような古代との対話もより自然になる
● スターシャが意味ありげにお腹に手を当てていた
最後の点は「ヤマトよ永遠に」の伏線なのですが、何か生かしようがあるかも。

たとえば、
 西暦2201年、地球の再生・復興を果たした国連宇宙軍は、新たな侵略に備えるための艦隊再建の名の下、スターシャとの誓約を破って(拡散)波動砲を装備した艦を量産。調子に乗って軍備増強の途をたどる。そのやり方に嫌気がさしたヤマトクルーたちの多くは軍を去るが、そこへ白色彗星帝国が攻めてくる。
 ガトランティスは、デスラー亡き後のガミラス(帝政から共和制に移行してるとか)の版図が力の空白状態にあるのにつけ込み、勢力拡大を図りガミラスやイスカンダルに攻略して瀕死の状態に追い詰め、次のターゲットを地球に絞ったのであった。
 で、増長していた地球艦隊は白色彗星に拡散波動砲をぶち込むが効かずに壊滅。かつてのヤマトのクルーたちはヤマトに集まり、地球の危機のためやむなく自ら波動砲の封印を解き、立ち向かう。。。とか。
 ちなみにデスラーはやっぱりガトランティスの子飼いに成り下がっているが、当然ヤマトと対峙することになる。2199は綺麗に終わったから、見たいような、見たくないような。。。もし作るなら、安易な予想をいい意味で裏切る作品にして欲しいよね。それからコスモタイガー出して。
 なお余話として、デスラーはガトランティスに制圧されたガミラスを実力で解放。引き止める人民に「私はもう君たちの主ではない」なんてスカして、宇宙のどこかへ去って行くのであった。さらにガルマンガミラスを築き、惑星破壊ミサイルを造って流れ弾を太陽にぶち込み、また地球を危機に陥れることになるのは言うまでもない。

 ──という原稿を書いた途端、来たよ「完全新作公開」。「2199」の「完全新作」だから、続編ではないのかも知れませんが、それはそれで楽しみです。ただ、旧作シリーズみたいに別の時間軸つくって続編を粗製乱造しないでね。
 来年公開とのことなので、観たらまた感想を書ければと思います。いやー、長くなった。ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。

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軌道エレベーターが登場するお話 番外編(3)宇宙戦艦ヤマト2199(前編)

2013-09-27 23:13:23 | 軌道エレベーターが登場するお話

宇宙戦艦ヤマト2199
原作 西崎義展
宇宙戦艦ヤマト2199製作委員会
(2012年)


 言わずと知れた僕らの『宇宙戦艦ヤマト2199』です。軌道エレベーターと言っていいか微妙なのですが、それっぽいものが登場するということで、番外編として扱うことにしました。ぶっちゃけ中身にツッコミまくりたいという欲求からのコジツケなのですが、とにかく始めましょう。

あらすじ 西暦2199年、星間国家ガミラスの攻撃で地球は汚染され、滅亡まであと1年と予想されていた。人類は救いの手を差し伸べてきたイスカンダル人から技術供与を受け、宇宙戦艦ヤマトを建造。ヤマトは地球環境を浄化させるシステムを持ち帰るため、16万8000光年離れたイスカンダルに旅立つ。1974年テレビ放映された人気アニメのリメイク作品。

1. 本作に登場する軌道エレベーターっぽいもの
 当初は『公式設定資料集Garmillass』を確認してから書くつもりだったのですが、発売日が延期になってしまったので、「もういいや」と映像から推測できる限りの説明をしたいと思います。
 地球とイスカンダルの中間位置にバラン星という星があります。旧作では人工太陽を随伴する惑星で、ガミラスの前線基地がありました。2199では、ここに近道ができる「亜空間ゲート」なるものがあり、地球方面-バラン星-大マゼラン銀河のそれぞれの間のゲートをつなぐ「ハブステーション」の役割を果たしています。このバラン星、中心部に何らかの反応炉らしきエネルギープラントを備えた半人工天体の浮遊惑星です。憶測ですが、自重で核融合を起こす手前の褐色矮星であるために、中心核にプラントを設置して、自然には起きなかった「点火」を誘発させたのかも知れません。
 このため、バラン星にはプラントを制御するための「鎮守府」が設けられおり、これが軌道エレベーターみたいに見えなくもない。(付記 その後資料集を確認したら、確かに「軌道エレベーター」とありました!)途中で屈曲した形になっているので、潮汐による張力でピラーを力学的に支えているわけではなさそうです。もっとも、2199の世界では重力制御が可能なので、問題はないのかも知れません。
 さらにオービタルリングがバラン星を囲っています。これまた憶測なのですが、これはダイソン・スフィアの一種ではないかと。ダイソン・スフィアは恒星を球殻で覆い、天体のエネルギーを余さず利用するシステムのことで、これをリング状にしたものがラリイ・ニーヴンの『リングワールド』(早川書房)に登場します。バラン星のリングはこれと同種のものであり、ゲートや鎮守府のエネルギー維持に活用されていると思われます。ですので、本作では本来の意味のORSの役割は果たしていないと思われ、そんなこともあって番外編にした次第です。なおこれらは元々古代文明アケーリアス(やっぱ商標の関係で名前変えたのかね)が残した遺跡であり、それをガミラスが使用しているとのことです。

 本編では、ガミラスのゼーリック元帥がクーデターを画策し、艦隊をバラン星に集結させたところで地球方面側ゲートからヤマトが出現。一時轟沈を装いながらマゼラン側ゲート手前で180度回頭し、波動砲でバラン星のプラントを撃って(いくら人工天体だからって、冥王星はダメでバラン星はぶっ壊してもいいのかよ)ガミラス艦隊に壊滅的打撃を与え、自らは反作用でゲートに後ろ向きに突っ込み、大マゼランまで跳躍を果たします。旧作にはないオリジナルシーン、いやお見事! 後述しますが、沖田艦長がちゃんとした戦術を展開したのはこの時だけだったのではないかと思います。
 はい、軌道エレベーター絡みの話はここまで。あとは思いっきりツッコミを楽しみます。


2. 登場人物について。新しくなってもヤマトはツッコミ甲斐がある(地球編)
 軌道エレベーターについての解説は済ませたので、あとはアンサイクロペディア風にキャラ別にツッコんで、勝手に楽しませてもらいます。まずは地球側キャラについてです(沖田艦長については、別の節を立てて次回述べます)。

古代進
 普通は殉職者にしか適用されない二階級特進で、ヤマト戦術長に就任。一応主人公だけど影薄すぎ。尖ったところのない人格者に設定変更されちゃって、イジリ甲斐のないキャラになってしもうた。戦術長の割にまともに戦術立案したのは冥王星くらいだし、七色星団から後は指揮らしい指揮をまったくとっておらず、最後の波動砲発射まで南部にもってかれた。「ユキーーーーッ!!」って叫ぶ時の表情は狂気じみてて怖いし。今風と言えば言えるキャラかも知れませんが、レギュラーの中で一番書くことがない人であった。

島大介
 ヤマト航海長。旧作の古代から性格を一部受け継いでおり、普段はチャラいようで、ガミラスの悪口になると激情家となる兄ちゃん。古代と同じく棚ボタ出世で、不幸にもいきなりヤマトの操舵士に抜擢された。全長333m(これは世界最大の軍艦である米海軍のニミッツ級空母と同じ長さであり、縦にすると東京タワーの高さに相当する)という巨大な宇宙戦艦の操舵を担っていたわけだが、大軍に突っ込むわガミラス総統府にダイダロス・アタックかけるわ、沖田艦長ときたら駆逐艦や強襲揚陸艦の所業を無茶ぶり。よくあれだけアクロバティックな操艦ができたものです。キャラ的にはツッコミどころは少ないんだけど、いやホント、ヤマトの勝利って島の操艦のお陰だよね。

森雪
 船務長。旧作ではナヨナヨしているくせに生活班長、看護師、電探と何でもこなすスーパー女だったのが、今作では一見気が強そうで意外にか弱いツンデレキャラに。巨乳→原田、熟女&メガネっ子→新見、ロリ→岬、戦う女性キャラ→山本と、それぞれ視聴者層の需用に応えていたのに対し、いわゆるヤマトガールズの中では埋没気味だったヒロイン。
 この女とんでもない奴で、1話で読み聞かせの形でガミラスとの開戦の経緯(しかも嘘)を解説するのですが、「地球は滅びの道を歩んでいるのです。科学者によれば、人類が滅亡するまでおよそ1年」って、子供になんて話してんだよ。「君たちあと1年で死ぬのよ? ねえどういう気分? ☆(ゝω・)vキャピ」って言われてんのに、次郎(島の弟)も「お姉さん綺麗な顔して病んでますね」くらい言い返せよ。大体いくら土方のコネとはいえ、1年分の記憶しかない人間を責任のある立場につけていいのか?
 結局サーシャたちと瓜二つなのは偶然なの? 「お、今回はそっくりなのは何かの伏線なのか、これは楽しみ」と期待させといてそりゃあないだろう。とはいえ、精神攻撃を受けた時に次元波動エンジンを再起動させて艦を救ったり、ガミラスに囚われて第二バレラスを自爆させたりと、かなり活躍してくれました。1年前は事故に遭い、航海中に誘拐され、終盤では銃撃されて1回死んでと(これは旧作もだけど)、大変な苦労人ではあります。

真田志郎
 ヤマト副長兼技術長。この人なくしてヤマトなし。旧作では眉毛がなくてまるで任侠みたいな顔だったけど、今作ではカタギに。推進用に供与された次元波動エンジンをいじくり、当時ガミラスさえ未完成だった波動砲を開発した。志郎。。。恐ろしい子! きっと空間磁力メッキも出番がなかっただけで造ってあったのだろう。
 しかし、一体誰がこの人を副長に選んだのだろうか? 詳しくは後編で述べますが、艦長不在で指揮中、同じ手口で2度も罠に追い込まれるわ、潜宙艦に位置知らせるわ、戦闘の局面になるとまるっきりニワトリ頭で正しい判断を下した試しがない。山南あたりを副長にすべきだったよなあ。ちなみに「シロシンタ」の名で活躍する投稿マニアらしい。「心のお話」とか出てきたので、てっきり旧作と同じくサイボーグで、機械化された自分の心の有無について悩んでいるのかと思っていたのですが、サイボーグネタは無かったですねK田さん。

徳川彦左衛門
 沖田艦長の信頼厚い機関長。地球に残した家族との通信で、闇物資に手を出すなと怒ってたけど、自分はOMCSでたらふく食ってでっぷり肥えた体で何を偉そうに。

南部康雄
 戦術科砲雷長。旧作よりもイケメンだし、古代よりも遥かにキャラが立っていた大艦巨砲主義者で、なんだかんだで愛されキャラ。「三式弾なら実体弾なので射撃可能です」→「三式弾は射程が短い!」、「いいじゃないか星の一つや二つ」→「ダメだ!」(いやこの場合はいいじゃないか。2199屈指の名言だと思う)、「まあまあ君たち」→「お前は黙ってろ!」と、物語前半は皆に否定されてばっかりだったのに、七色星団会戦では「任せろ、俺は大砲屋だ!」と、特殊削岩弾(ドリルミサイル)を狙撃して敵空母を誘爆させ、何とガミラス本星では本編最後の波動砲発射という大役を果たした! 最後のデスラー艦との艦砲戦でも、古代は艦橋にいなかったから南部が砲術指揮をとっていたに違いない。名セリフも連発して大出世だ。
 この男は2199の中で一番の勝ち組じゃなかろうか? 実家の南部重工は大金持ちで、帰還後はアンドロメダや主力戦艦の建造特需で大儲け間違いなし。ヤマトの砲手を務めたのだから、軍人としても民間に天下りしても一流のキャリアで、帰還後の人生は前途洋洋でしょう。ヤマトクルーの中で一番面白い奴だった。森には歯牙にもかけられなかったが、悪いこと言わんからモリタ製薬の御令嬢にしとけ。

新見薫
 技術科情報長。真田さんの補佐役で、色気ムンムンの美熟女という席を独占。回想シーンの学生時代もサーバント×サービスの人みたいで可愛い。悪だくみをする時だけギラリと光る特殊メガネを装着し、クーデターの画策、特殊削岩弾の反転、ガミロイド兵の殲滅と良くも悪くも大活躍。古代より南部の方がキャラが立ってたように、森よりこのお方の方が注目株でした。
 古代守の恋人だったそうで、旧作のように彼が生きていて、スターシャとドロドロの三角バトルになるのを見たかったんだが。
 ちなみにクーデターの時は島や藪を色仕掛けで籠絡しておいて、その島と星名に一杯喰わされ、形勢不利と見るや「もうやめてよ、こんなこと!」と、あたかも自分は反対してたかのように、巧みにポジションを変えて保身に走る変わり身の早さ。さすが頭脳明晰だけど、
お前がそれ言う? (゚Д゚ )
 こんなあざとい姿を見て泉下の守はどう思うことか…「汚れちまった悲しみに…」
 クマさん柄のマグカップとハンコ(古代と島のバツ当番表参照)を愛用。ちなみに技術科では桐生美影も可愛かったのう。

佐渡酒造
 ヤマトの艦医で、佐官待遇の軍属。今度は誤診すんなよ。

加藤三郎
 戦術科航空隊長。古代と島を殴りつけたが、その後二人が飛び級で上官になってしまった時は面食らっただろう。単純で喧嘩っ早いけど、スジの通った熱血漢で人情家という、2199の中では古典的・正道的キャラ。太陽系赤道祭で坊主の格好で表れ周りをドン引きさせていたが、やっぱり太田にかつがれたのだろうか? 航海中に原田とくっついて子供までできた。下世話な話ですが、原田と一体ヤマト艦内のどこで子作りしてたのか? 原田は岬と同室なので、おそらく士官として個室を与えられていたのであろう加藤の部屋に原田が夜這いをかけていたと考えられる。寺の息子のくせしてこの破戒僧! 駄目だよーさぶちゃーん。

原田真琴
 這いよれ!ニャル子さんばりのアホ毛が特徴の巨乳衛生士。佐渡先生に付き従って乗艦しましたが、こともあろうにメイド服を持ちこんでいたコスプレ趣味の持ち主。制服のタイツ部分のファスナーを締めず、セパレートのスカート状にしたり、イスカンダルで水着シーン(この水着も制服のパーツらしい)を提案したり、最終話では花嫁姿を披露したりと、見られるの好きなんだろうね。法衣や袈裟を持ってた加藤とゴールインしたのは当然の成り行きか。マジメに言うと、二人の子供が、ヤマトのお陰で復活する地球で生きて行くのだから、クルーも報われると思う。

山本玲
 戦術科航空隊員。女性に設定変更された。髪が長かった頃の姿は確かに旧作の山本っぽい。コスモゼロを乗っ取ったのにお咎めなしで、そのままα2のパイロットに収まってしまった。ホントにヤマトの規律ってどうなってるんだよ。そのくせメルダとのドッグファイトでは、α2が勿体ないからってファルコンで出撃した揚句、機体をオシャカにしてしまった。さすがに今度は営倉入り(あたり前だ)。気があった古代を森にとられてしまったが、森に火を付けたのは山本自身だったんじゃないかと。艦の修理にかこつけて古代とイチャイチャしてるところを目撃し、森は「他の女のものだと思うと欲しくなる」とばかりに対抗心を燃やし、ある時期から積極的になったのである。マゼランパフェがお好み。人類史上初めて異星人と女子会を開いた人物。

岬百合亜
 船務科の士官候補生。ユリーシャに憑依されたお陰で記憶がとぶわ、ラジオヤマトも放ったらかしになるわでハタ迷惑だったことだろう。しかしユリーシャ憑依中の方が髪下ろしてて可愛かった。「まさかイスカンダル人が憑依していたなんてさ~」って南部、憑依というオカルト現象についてはスルーかよ。まあ次元波動エンジンの副次的効果なのでしょうが。森に憧れているらしいんですが、将来はどちらかというと山本か新見みたいなキャラになると思う。

相原義一
 船務科員。旧作では雪国出身でホームシックにかかり、1人で地球に帰ろうとして宇宙服のまま漂流する(それをスケスケのネグリジェ姿でくつろいでいた森が発見するのである)という、かなり気弱な人でした(最終話の母親を心配する下りはその名残りなのだろう)。岬に気があったらしいが、実社会では女子高生だぞこのロリコン! どのみち星名にとられちゃったんだけど。

榎本勇、岩田新平、遠山清
 メ2号作戦で冥王星の海で艦内に浸水した際、「宇宙船で溺れ死んだりしてみろ、シャレにならんぞ!」と激を飛ばしていた榎本さん。アンサイクロペディアでもツッコまれてましたが、そういう自分は帆のない宇宙船の掌帆長って、シャレそのものじゃねえか。しかも修理が終わると「これで地べたに足付けて闘えますよ」と、シャレを言いたいのか禁じたいのか。
 この榎本さんにパワハラを受けていた岩田と遠山、ブリッジクルーよりもよっぽど印象が強かっただけに、最後の最後で何の前フリもなく射殺されるという末路。いやもう可哀そうとしかいいようがない。アケミちゃん未亡人決定、お気の毒です。太陽系赤道祭で裸の大将のコスプレ見たかったぞ遠山。

藪助治→ヤーブ・スケルジ
 旧作では、イスカンダルで森を拉致して艦から脱走した機関士。今回は反乱の挙句、ドサクサにまぎれてレプタポーダに残ったと思ったら、何と次元潜航艦UX-01に乗艦していて、エンジントラブルから艦を救った。劇場公開ではカットされてたから本当にびっくりしたぜ! 戦艦はダメで潜宙艦ならいいというのはよくわからないが、ある意味、腕一本で宇宙を渡り歩くたくましい人間ということだよね。さすが俺たちの藪!
 もしヤマトが撃沈されて地球が滅びたら、地球人の生き残りは彼だけになってたかも知れないのだから、ある意味貴重な人材だ。もし続編が作られたら、ヤマトの危機に駆けつけるのを期待してるぜヤーブ。

AKB48
 何の話かと思われるでしょうが、乗ってるんだよ、ヤマトにAKBのメンバーが! 大島(夏樹)、柏木(紗香)、篠田、梅田、峯岸、岩佐の6人(その後宮澤、松井、板野など、ほかにもそれらしき人物に気づきましたゴメンナサイ。さらにいるかも)。卒業したせいか顔面センターの人はいない。いずれも下士官か軍属あたりと思われ、太陽系赤道祭などに登場してました。それぞれ面立ちが実物をとらえていて可愛い。公式設定資料集Earthで柏木が特に大きく載っているのは、デザイナーか編集者がゆきりんファンなのかしら? 「由紀」という名前は森雪からつけたって本当なのかね? でも鼻はニンニクじゃない。最終話で新見女史の近くで噂話していて目立っていて、OMCSのモブが多いみたい。ヤマトの歴史に足跡を残したとは、本人たちは知っているのだろうか? AKB。。。恐ろしい子!!!

 ちなみにヤマトの乗員が日本人ばっかりなのは単なる「お約束」であり、22世紀の未来において多国籍じゃないのはリアリティがないという声もあるようですが、純軍事的にみれば、命令の上意下達が齟齬なく行われるためには、部隊は母国語が同じ人員で統一された方が効率的なのは言うまでもない。DQNネームの乗員がいないのも多いに結構。これでいいのである。いや、やっぱりヤマトはこれでなくちゃいかんのである。

 ──好き放題書いてたら、地球側だけでとんでもない行数になってしまったので、次回に続きます。後編はガミラスとイスカンダルのキャラうんぬんと、ヤマトの戦闘の仕方について述べようと思っています。TV版最終回の今月30日にアップ予定です。

後編に続く

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軌道エレベーターが登場するお話(12) 十五年の孤独

2013-06-18 10:12:48 | 軌道エレベーターが登場するお話
十五年の孤独
七佳弁京
『書き下ろし日本SFコレクションNOVA6』収録
(河出書房新社 2011年)


あらすじ 老朽化で廃塔が決まった軌道エレベーターを利用し、15年かけて静止軌道まで人力登攀の企画が実施される。子供の頃、宇宙にいるという「風宇鳥」の話を聞かされた本井は、人力で宇宙へ出る、この人類初の試みにチャレンジする。

1. 本作に登場する軌道エレベーター
 本作では、人類初の静止軌道エレベーター「ツィオルコフスキー塔」と、20年後に建造された「アルツターノフ塔」、さらにその15年後に完成した「アーサー・C・クラーク塔」の3基が存在しています。「シェフィールド塔はないのかっ!?」と思って読み進めたら建造中とのこと。
 いずれも赤道直下の海上に建造されたらしく、最も古いツォオルコフスキー塔は輸送能力も低く実装も簡素な、典型的な第1世代モデル。アルツターノフ塔は自己修復機能を持つ生体カーボンナノチューブをピラーに用い、年間5万tの輸送能力を持つ1.5世代モデルで、クラーク塔はさらに進化した超伝導素材のテザーをリニアで昇降するため、1.5~2.5世代に分類できます。各塔の基礎理論は、エドワーズモデルをベースとしているのが見てとれます。
 アルツターノフ塔は物資、クラーク塔は人員輸送にそれぞれ特化しており、宇宙進出が飛躍的に進んだとのことです。ただし、ツィオルコフスキー塔とクラーク塔の地上基部は数kmしか離れていません。ツィオルコフスキー塔は老朽化して撤去することが決まっており、作中で明言されてはいませんが、クラーク塔はツィオルコフスキー塔を足場にして造られたと考えるのが妥当でしょう。高度500kmで両塔の間にワイヤーが張られている描写が出てきます(これを伝って行き来するのですが、地上500kmの綱渡りって!((((;゜Д゜))))まあ曲芸みたいな渡り方したんじゃないでしょうが)。このワイヤーが臨時的なものか常設なのかはっきりしませんが、ほかにも色んな高さで結合しているはずです。そうでなければ、高度が増すほど逆ハの時になって間隔が開いてしまい、静止軌道においては20km近くも離れてしまうからです。ということは、2基で一つの2.5世代モデルとみなすこともできます。いずれにしても、実利的な発想で面白いです。



 本作の主人公・本井は、老朽化したツィオルコフスキー塔を人力で登攀します。ボブスレーのようなクライマーをピラーに取り付けるのですが、コレ、要するに上向きに取り付けた自転車のようなもので、手足でペダルを漕いで上昇するんです。いや面白い! 最初に「軌道エレベーターを人力登攀」というふれこみを見た時、てっきり昇り棒を昇る感じを想像したのですが、こんなやり方とは、著者の想像力の豊かさがうかがえます。
 このボブスレー型クライマーのすぐ後に、「スパイダー」という電動のサポート用クライマーが随伴します。休息や飲食、排泄の時にはクライマーごとスパイダーに収容され、カプセルホテルのような役割を果たす。スパイダーは地上との間を往復して食糧や着替えなどを運んでくれます。高度に伴う重力低減やヴァン・アレン帯からの防備などのため、スパイダーは交換され大型化していきます。よく練られてますね。本井はこのような装備で、人類で初めて人力で宇宙へ出るという行為に挑戦します。
 もし本作の世界で単座式の宇宙船やクライマーなどがほかに使われていないとすれば、単独で宇宙へ出たのは米マーキュリー計画で1963年に「アトラス9」に搭乗したゴードン・クーパー以来ということになります。ただし特定の筋肉ばかり15年間も使い続けたら、本井の肉体はクライマーに順応したいびつな体格になるでしょう。1Gの重力に耐えられない体になってしまう可能性もありますね。

 ところで上述のように、本作は「ツィオルコフスキー」「クラーク」など、軌道エレベーター史上の大御所や名作の名称をたくさん盛り込んでいます。ツィオルコフスキー塔の静止軌道ステーション「楽園の泉」と本井との間のやりとりがなかなか小粋です。

 「感謝する。<楽園の泉>」
 「マイケルだ。楽園で会おう」
(84頁)

 マイケルカッコよすぎる。ハリウッド映画みたいだ。「リスペクト」「オマージュ」などというパクリが氾濫する昨今、こういう遊びをやり過ぎると「新人作家がおこがましい」などと反感を買いそうですが、本作では自然な感じで鼻につきません。軌道エレベーターが出来たら実際にこんな名前が付けられるんじゃないかと、けっこう本気で思えるんですよね。

 軌道エレベーターを伝って人力で宇宙へ出るというネタは、実は仮面ライダーカブトに先を越されているのですが、運用を終えた後の使い途に着眼したのも実にユニーク。各塔の設定や名称も面白く、これだけでも一見の価値ありです。

2. ストーリーについて
 主人公・本井の父親は軌道エレベーターの事故で亡くなるのですが、本井は幼い頃にその父親から「風宇鳥」の話を聞かされます。重力に打ち勝ち、自力で宇宙に出た人の前に姿を現すという、一種の都市伝説です。風宇鳥への好奇心も手伝い、彼は15年かけて軌道エレベーターを静止軌道ステーションまで人力で登攀するという、放送局の企画に応募し選ばれます。年齢はおそらく20代後半~30代前半くらい。それで15年を宇宙で、それも一人で過ごすんですから、青春も家庭的幸福も完全に放棄してますね、これは。

 しかしながら、『十五年の孤独』と銘打ったタイトルこそ渋くてカッコいいものの、本作は必ずしも本井の孤独な日々を描いた物語ではありません。途中で人恋しくなったり、後悔したり、鬱気味で取り乱したりと、孤独を噛みしめる描写は出てくるのですが、本井は生来のペシミストの印象が濃い。彼の孤独癖と、本作の状況がもたらす孤独は別の問題であり、軌道エレベーターを登ろうが登るまいが、彼はもともと「ぼっち」に違いない。ぼっち? これがスクールカーストものでおなじみのぼっち!?(byエレナ)

 。。。茶化すのはほどほどにして、では何を描いているのかと言うと、本井の人生の宿題を片付ける、仕切り直しの旅といったところでしょうか。30頁ほどの短編からうかがえる限り、彼のメンタリティには名誉欲や金銭欲、自己鍛錬から陶酔感を得たがるチャレンジ精神などは見出せません。彼を宇宙へ駆り立てたのは子供じみた「飢え」であったように見えます。
 明確な言葉で自覚はしていなくとも、軌道エレベーター登攀によって、何かしら自分は変われるという期待を抱いていたことは疑いない。父親を亡くした時、本井は「なにかを強く願ったのだが、これは覚えていない」(55頁)といいます。やがては願いを抱いたこと自体も思い出さなくなりますが、記憶の奥底にしっかり居座り続けていた。それは風宇鳥の伝説と不可分なものとなって、「答えは宇宙にある」という方法論を本井の中に創り上げていたようです。そんな心の作用から、半ば無意識に軌道エレベーター登攀という、図らずも巡り合わせたチャンスに飛びついたのでしょう。
 見ようによっては、本井は精神的な発達が停滞していて、15年という時間をあっさり犠牲にするのも、ある意味未熟で単純な価値観によるものです。これを単にスケールがでかいだけの、(沢木耕太郎の本に感化されてフラリと旅に出るような)安易な自分探しや現実逃避願望と片付けることも可能かも知れません。
 ですが、誰しも「あの日以来時計が止まったまま」という体験の一つや二つは抱えています。得てしてそんな記憶は日常の精神活動の中に埋没させ、なあなあに済ませてしまうものですが、本井はそれをよしとしませんでした。不器用というか、お世辞にも利口とは言えない生き方ですが、彼にとってはそれを得なければ前へ進めないほどの何かが宇宙にあり、何事も得るには代償を支払わなければならない。15年間の孤独はそのために彼が支払った対価です。本作は終始切ない雰囲気が横溢していますが、決して孤独な寂しい物語ではなく、むしろ微かに温かみを感じさせる、再生へ歩みだそうとする人間の物語です。本井は静止軌道までたどり着けるのか? 風宇鳥は本当にいるのか? 顛末はぜひ読んでみてください。

3.滋味深い一作
 本作は密度の濃い一方、無駄の省き方が上手でまとまりが良い。本井がピラーを登りながら成層圏やヴァン・アレン帯などの境目を通過する描写を織り交ぜ、節目のツボを抑えて15年という歳月の経過を冗長なものに感じさせません。また別れた恋人を定期連絡の担当に据え、15年の間に彼女の容姿が劣化。。。いや成熟を増していったり、出産や子育ての報告をするといったファクターを織り込むことでカレンダーの役割を果たさせるとともに、本井のいや増す孤独感を引き立てる存在にしています。
 何よりも、人力で宇宙へ出るなんて、軌道エレベーターだからこそできる、それでいて余人にはなかなか思いつかない使い方のアイデアです。トンデモ小説になりかねないそのアイデアを、空想科学小説として致命的な破綻なく仕上げており、私が考える良質な物語の条件を満たしていて楽しめました。軌道派というのも実に結構。

 本作の末尾には、参考文献としてエドワーズ博士の『宇宙旅行はエレベーターで』(オーム社から再版予定)をはじめ、『軌道エレベーター』(現在は早川書房)、『宇宙エレベーター 宇宙旅行を可能にする新技術』(オーム社)、『楽園の泉』(早川書房)が掲載され(金子先生、石川さん、見てますか!)、そして宇宙エレベーター協会(JSEA)のホームページが挙げられています。
 JSEAのサイトは今年度にリニューアルしたのですが、以前は基礎知識に関するコンテンツの多くを私も執筆しました。もし著者が目を通していてくれたのならうれしいですし、私たちの活動がこうした形で実を結ぶのはスタッフ冥利に尽きます。このような良質な作品が続々出てきて欲しいし、その誕生に少しでも貢献できればと思うばかりです。

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軌道エレベーターが登場するお話 (11) 南極点のピアピア動画

2012-06-11 23:18:00 | 軌道エレベーターが登場するお話
南極点のピアピア動画
野尻抱介
(早川書房 2012年)


 あらすじ 彗星が月に衝突して、携わるはずだった月面探査の夢が遠のいた上に、恋人にも去られて落胆していた蓮見省一は、衝突によって変化した地球周辺の環境を利用して宇宙へ行く計画を立てる。省一は彼女への気持ちを歌にし、ボーカロイドに歌わせて動画共有サイト「ピアピア動画」にアップ、想いを伝えて一緒に宇宙へ行こうと試みる。ピアピア動画でつながった人たちが世界を変える短編集。

1. 本書に登場する軌道エレベーター 
 軌道エレベーターが大きくかかわるのは第2編『コンビニエンスなピアピア動画』で、丈夫な糸を吐き出す新種のクモの発見をきっかけに、何とも奇想天外な経緯で軌道エレベーターが造られちゃいます。建造というより「形成」に近い。
 その方法や構造自体が物語の肝なので、ここでは詳細に申し上げませんが、本書に登場するのは、極軌道を周回する極超音速スカイフック型の軌道エレベーター。静止軌道エレベーターではないので、いつもの定義書に従えば第2~3世代の傾斜軌道エレベーター、あるいは軌道エレベーター学会に基づいて分類すると、直立型のスカイフックとなります。
 建造の足場は低軌道上の小さなテザー衛星で、最初はちょっとした実験から始まり、それが衛星軌道上に重心を持ち続けたまま上下に成長。やがては、その位置エネルギーを対価に上下移動すれば、ロケットコストを下回るほどの経済効率を上げられるだけの質量を有するようになります。当初は成長に確たる方向性を持っていなかったのが、質量の増大によって潮汐の影響を受け、上下方向に自立するようになったことがうかがえます。
 構想は『星ぼしにかける橋』(絶版)に登場する「スパイダー」(軌道エレベーターのケーブル敷設機で、一部に生物素材を利用している)にヒントを得ているらしく、作中でその点に触れていますが、本書の場合は「ありゃりゃ・・・出来ちゃった」みたいな感じ。どういう意味かは、ぜひ読んでいただきたい。この話を読んだ時は、それはもうびっくりした。こんな方法で軌道エレベーターが造られるとは! こんなのアリかよーう!?

 矛盾や疑問もないわけではない。特に「さらに成長すれば、いよいよ下端の速度がゼロになって軌道エレベーターの完成です」(134頁)などというセリフが出てくるのですが、最初に打ち上げた衛星は「高度800kmの極軌道上で活動を開始した」(123頁)と書かれています(だから、やがて全長が本州くらいに成長した軌道エレベーターが日本からも見えるようになる)。地球の自転に対しほぼ垂直方向に動いてるんだから、これではいくら成長しても「下端の速度がゼロ」にはならないんじゃないか?
 あえてフォローするなら、この衛星はテザーに電流を流して磁気との作用で姿勢制御できるようになっていて、日大や神奈川工科大などが実験している、エレクトロダイナミックテザーマニューバなどと同じですね。ですので長い時間をかければ軌道傾斜角を変えていくことも不可能ではないかも知れませんが、終盤でも北海道の上空を通過する場面があり、結局軌道面シフトはされていないようです。結果として矛盾はセリフのみで、描写自体には問題はないことになりますが。

 そのほかにも、終盤では下端が高度約130kmにまで下りてきているのですが(この時点で重心が高度約4000kmにあり、ということは全長2万km近くに達しているものと思われる)、それだと大気との摩擦でつんのめって、エレベーターが「躓いて」しまうのではないでしょうか。一応、「低い側が大気圏にかかると、電流を通して加速させ、軌道速度を持ち上げた」(131頁)という記述はあるのですが、その「低い側」が高度130kmにまで達したら、そうもいきません。
 「宇宙」と呼ばれるのは高度約100kmから上を指すのが一般的ですが、厳密には、「大気圏」と呼ばれる層はもっと高くまで伸びています。そして100kmから上でも、極めて希薄ではありますが大気の微粒子が漂っており、かなり低い軌道を周回する衛星などは、文字通り空気抵抗がかかります。
 たとえば、高度約400kmを周回する国際宇宙ステーション(ISS)も、実はこの空気抵抗のために少しずつ落下しており、何十kmか落下したら、ロシア製の推進機器「ズヴェズダ」を使って持ち上げるなどしています。また、軍事用のスパイ衛星には寿命が1週間程度のものがありますが、この抵抗が理由の一つでもあります。ですので、本書の軌道エレベーターが成長し、下端の高度が地上に近づくにつれて、この抵抗でブレーキがかかることになるわけですが、これもまた電磁気的なマニューバで調整・回避しているのでしょうか?
 また、いくら姿勢制御が出来ても、巨大になればそれだけ不安定になって、高度な技術が要求されるでしょうし(私がスカイフック型を好まないのはこれが理由)、細かく見れば首をかしげないわけではありません。一応、物語の上では「自然と色々な条件が重なり、人為的な介入は最小限でバランスがとれる状況に落ち着いている」という感じになっています。

 いずれにしろ、これは少々意地悪く見た指摘であって、全体として要所となる基本原理はクリアしており、作中の説明には致命的な破綻はないように見えます。これはすごい、すげえよ。ノリで軌道エレベーター造りやがった。いやまさか、こんな展開アリなんてもう。。。最後のエピソードでは、成長したこの軌道エレベーターに取り付いて、男女が宇宙へ行くことになります。


2.すごいハードSF
 本書はまず、彗星が月に衝突し、残滓の一部が地球周回軌道に散らばったという前提がある。その環境を利用して色々と面白いことをやろうという、マニアというかオタクというかディープな人々が、ネット動画共有サイト「ピアピア動画」と、ヴァーチャルアイドルのボーカロイド「小隅レイ」を通じて団結したり、利害を共有したりして、とんでもないことをやってのける。そのつながりが、さらに壮大な発見や世界の変化をもたらすという、それはそれは希有壮大なお話であります。ピアピア動画はニコニコ動画、小隅レイは初音ミクがモデルですね。
 こんなノリにもかかわらず非常にリアルというか、本書のアイデアや科学的考察には目を見張るものがあり、極めてレベルの高いハードSFになっています。そもそも、彗星の衝突という現象によって、地球圏に一種の流体層が形成されるという舞台設定からして面白い。表題作の第1編『南極点のピアピア動画』では、それを利用して青年が宇宙へ行こうとします。
 でもって、最低限のSF的構想以外は、利用する道具などはほぼすべて実在の技術に即している。CAMUIロケット(なんと植松電機を実名で出してる!)やら、ヴァージン・ギャラクティックが使っているホワイトナイト(ただし作中では2ではなく3)やらiPhoneやら。。。
 

 第3編『歌う潜水艦とピアピア動画』では、小隅レイの声を潜水艦から発振してクジラとやり取りするのですが、クジラの生態や潜水艦の性能など、十分な裏付けに基づいているのがうかがえます。略字だけですが「産総研」も登場しますし、こういうマニアックな情報が好きな読者の心を上手くくすぐるんですよね。
 ある時期を境にグングン英語が上手くなったりするように、どんな分野でもある「峠」を超えると、その知識の使い方が巧みになることがあります。本書は作中で使う多彩な分野の知識や言葉について、その峠を越えた玄人臭さを感じます。

 でねー、変テコな箇所があるのも、こりゃあ折り込み済みですな。アイデアに脱帽する一方で、ツッコもうと思えばいくらでもできるのですが、「とか言いつつこういうの好きだろ、え?」と、その辺わかって書いてるんじゃないかと。だから「こんな邪道なやり方で軌道エレベーターが出来てたまるかああああっっ! こんなフザけたもん認めぞ私は!」とツッコんだ後に(笑)と付け加えたくなる。邪道上等、そのおフザケを楽しむのが本書の醍醐味なのでしょう。だから皆さん、読んだらどんどんツッコミましょう。


3.ストーリーと人物について
 機械好きの大学生、コンビニ店員などなど、登場人物たちは全員日本人。専門職もいますが社会的には凡人っぽく身近な雰囲気で、作品に庶民的というか長屋話的なテイストがあります。私は終始一貫、この登場人物たちに強く感じていたことがあります。
 社会的凡人と書きましたが、彼らには分野こそ違えど共通のメンタリティがある。趣味なり嗜好なり、もうそれをやらずにいられない何かを持っていて、それが常軌を逸した奇行であろうと構わずに、並々ならぬ情熱を注ぐ。ひるがえって私や宇宙エレベーター協会(JSEA)の友人たちは、オービタってるうちに知り合って、一緒にJSEA立ち上げて、色んな活動やって、んでもって毎度毎度飲み会やったりしてと。。。あー、つまりですね、

 同じニオイを感じるんです我々と!

 お陰でこっちも筆が踊る踊る。ただ、唯一心配なのはこの作品、「胸熱」とか「wktk」とか、ネット上のスラングがたくさん出てくるので、あっという間に風化してしまい、わずか数年で旧時代の見本のような作品になってしまうのではないかということです。
 ネット用語の進化と絶滅の速さ、および生存率の低さといったら、ひと昔前とは比べ物にならないわけです。上記の言葉だって、ひと世代あとの読者にはさっぱり意味不明で、注釈なしでは読解できない古文みたいになってるかも知れません。たとえば、いまどき「逝ってよし」「キボンヌ」とか使ったら、もう痛いもんね(まあこりゃ当時も痛いか。。。書いてて恥ずかしいや(ノ∀`)。そういう意味では今(だけ?)が旬の作品かも知れないわけで、これだけ見事なSF作品が、言葉の流行り廃りの中に埋没していかないのを祈るばかりです。

 濃い庶民の力で宇宙時代が到来してしまう実に稀有壮大なお話。それでいて、登場する男女たちの、真摯で甘酸っぱい青春も盛り込んでいて、何とも愛すべき作品です。オービタってる人なら、きっと読めばわかってもらえると思います。

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