フランク・ブラングィン展
土曜日に、お友達のKさんに誘われて、上野の国立西洋美術館へ行ってきました。この日は朝は雨で、しかもものすごく寒かったのですが、待ち合わせの正午ころには晴れ間も見えて、上野公園はなかなか気持ちの良い空気でした。桜はほぼ散っていましたが、新しい緑が美しいですね。
さて、Kさんと落ち合うなりすぐに《フランク・ブラングィン展》をじっくり観てまわり、さらに「挿絵本から壁画まで――世紀末の美的生活空間とブラングィン」という、先日私が読了した『コルヴォー男爵』の河村錠一郎先生の講演を聴いてきました。面白かった!
ブラングィンは、油彩、エッチング、リトグラフ、木版画、陶器や家具あるいは壁画というインテリアデザイン、本の装丁などなど、幅広く芸術活動を行った多才な人であったらしく、展示品はどれも興味深いものばかりで楽しめました。
松方幸次郎(川崎造船所の初代社長、大金持ちの美術コレクター)との親交も深く、ブラングィンの作品の多くを松方氏が蒐集し、さらに《共楽美術館》という松方氏のコレクションを展示するための大美術館設立の計画にもブラングィンは深く関わったらしい(しかし、関東大震災と金融危機により頓挫)。
へー。
展示品を観ていくと、カーペット、皿、本の装丁などなどに葡萄のモチーフが多用されていることに気がつきましたが、ブラングィンさんは葡萄が好きだったんですかね? でも、葡萄というのは、何となくあのアール・ヌーヴォーな時代の雰囲気がありますよね。
私がもっとも惹き付けられたのは、おそらくこの展示会の目玉であるだろう大きな油彩《海賊バカニーア》、同じく《白鳥》の2作品です。展示室に入ると、まず目が吸い寄せられるほど、強烈に鮮やかな色彩。これはすごい。
《海賊バカニーア》は、かなり大きな作品なのですが、暗く深い海の色に対して朱色のような明るい旗、白くて汚れた舟、鮮やかなぼろをまとった屈強な男たち、ほとんど肌色のぼんやりとした遠景。
《白鳥》もまた、わりと大きな作品で、木陰に二羽の白鳥、手前が暗い草の影、ナスタチュームの花のオレンジ色、ひろげた翼の内側と胴体にはそのオレンジ色が反射し、陽のあたる部分の羽根は真っ白、奥はやはり肌色のようなぼんやりとした感じ。
あと、《煙草をくわえた男》という油彩も面白くて、これは帽子をかぶったおじさんが煙草をくわえているのですが、帽子のひさしが顔の上3分の1くらいに大きく影を作っていて、ほぼ正面を向いたおじさんの鼻の部分が、ものすごく浮き上がって見えました。私は斜めからこの絵を見た時には、てっきり立体になっていると思いましたよ。ものすごい陰影。絵って不思議ですねー。ブラングィンの作品は、ほかのものでも結構こんな感じで浮き上がって見えるのが(壁画装飾のための習作とか。よく見るとやっぱりただの平面なのでした)、かなり面白かったです。
ともかく、この《海賊バカニーア》と《白鳥》の2作品はすごく気持ちの良い絵でした。こういう絵とともに暮らせたら、きっと楽しいでしょうね。そう思うにつけても、私は美術品を美術館で展示することの不思議について少し考えてしまいます。美術館に置いてくれるからこそ私のような者も美術品に触れることができるわけですが、個人蔵を期間限定で貸し出すならともかく、美術館が作品を所蔵するとなると、美術品とともに生活するという喜びは失われてしまいますよね。そういう時のために複製があるんですかね。どうなんですかね。まあ、私としては、一瞬だけでもこれらの絵とともにある暮らしを夢見られて楽しかったです。
常設展を観る前に、河村先生の講演を聴きます。
コンスタンチノープル(イスタンブール)の地理から始まり、ブラングィンがかつてボスポラス海峡を抜けてルーマニアあたりまで行ったことがある、というお話だったと思いますが、時間が90分しかなかったので、大急ぎでお話が進んで行きました。ブラングィンが活躍した時代の背景や、同時代の芸術家たちとその影響関係、その中でのブラングィン作品の独特な魅力などについてが、私にも少しばかり分かりました。
予定時刻を30分近く延長してもなおお話し足らない感じで講演が終了し、私は持参した『コルヴォー男爵』に河村先生のサインをいただいてきました。良い記念になりましたね。
常設展では、松方コレクションを展示していましたが、すでに情報過多となった私とKさんは、閉館時刻も迫っていることもあり、じっくり観るというよりもすいすいと流れるように展示室を流れていきました。私はいくつか「あ、これ、いいなー」と思う絵があったのですが、もう…よく思い出せません; うーむ。すごいコレクションだということはよく分かりましたが。
館内をようやく一周して、ミュージアムショップでお買い物。お店には、なぜかベルギーのお菓子やビールが並んでいるので「何故?」と思ったら、ブラングィンさんはベルギー生まれの英国人だったんだそうです。あー、それで!
私はそしてビアグラスの可愛らしさに負けて思わず2つ購入。可愛い。Kさんがお買い求めのビールと合わせて、シロクマの小さなバッグをおまけに貰いました。
私はビールは飲めないので、このグラスにはアイスでも盛って、小さなサンデーでも作ろうかなと思っています(なんのためのビアグラス;)。
画像では小さく見えますが、口はそこそこ大きなグラス
可愛い
日も暮れてきた上野をそぞろ歩き、そのまま上野広小路あたりの韓国料理屋さんへ。私には初めての料理がいくつかあって、美味しかったです。というか、ものすごく満腹になりました。チャプチェって旨いものですね。
というわけで、土曜は非常に文化的で楽しい一日となりました。Kさん、どうもありがとう~~!