《収録作品》
狼狂シャンパヴェール(ペトリュス・ボレル)
ある厭世家の手記(アルフォンス・ラッブ)
幻燈だよ! 摩訶不思議!(グザヴィエ・フォルヌレ)
白痴と《彼の》竪琴(グザヴィエ・フォルヌレ)
地獄の夢(ギュスターヴ・フローベール)
魔術師(アルフォンス・エスキロス)
悪魔の肖像(ジェラール・ド・ネルヴァル)
屑屋の悪魔(ヴィクトール・ユゴー)
夜のガスパール(アロイジウス・ベルトラン)
魔法の指輪の物語(フィロテ・オネディ)
サン=ドゥニの墓(アレクサンドル・デュマ)
第二の生(シャルル・アスリノー)
降霊師ハンス・バインラント(エルクマン=シャトリアン)
二重の部屋(シャルル・ボードレール)
鷹揚な賭博者(シャルル・ボードレール)
前兆(A・ド・ヴィリエ・ド・リラダン)
ヴェラ(A・ド・ヴィリエ・ド・リラダン)
ロキス(プロスペル・メリメ)
星間のドラマ(シャルル・クロ)
《この一文》
“しかし、僕が、人間たちのなかで、あるいは人間たちからはなれ、これ以上生きながらえることがあるとすれば、それは、君がえらぶ道を、僕がえらぶということなのだ。
――「狼狂シャンパヴェール」(ペトリュス・ボレル)”
このあいだ、前からずっと欲しかった『フランス幻想小説傑作選』の第2巻を入手しました。予想していた通り、面白くてたまりません。
何度も言うようですが、私はフランス小説が好きです。ですから、ほかに何冊か読みかけの本があるのですが、どうしても我慢できずに先に『傑作選』のほうを読み出してしまうわけです。これはもうしょうがない。
今回読んだ第2巻には、だいたい19世紀くらいに活動したロマン派の作家たちの作品が主に収められているようでした。物語は面白ければただそれだけでいいと考えがちな私は、そういう文学史的な流れについては全く興味も理解もなかったのですが、あとがきを読むと、彼らロマン派の作家、とくに小ロマン派の作家は、のちのシュルレアリスム作家たちに多大な影響を及ぼしたらしい。なるほど、そう言われると、私がこれらの作品に惹かれる理由も分かるというものです。ちゃんと流れているのです。私が自覚するしないにかかわらず、私自身はやはり系統の中に属しているらしいのです。面白いなあ。
そして、いままで知らなかったのですが、ユゴーって結構面白いということが分かりました。ここに収められた物語に登場する「騎士ペコパン(←美男)」の名前のインパクトによって、なんだか他のも読んでみたいと思い、さっそく『死刑囚最後の日』と『ライン河幻想紀行』を買ってきました。ここでは1章のみ抜粋でしたが、『ライン河』のほうには「ペコパン」の他の全部が収められているらしい。こうやって次第に、有名な作家や作品に対して感じていた愚かな先入観を取り払われてゆく私。そのうち『レ・ミゼラブル』も読めるかも知れません。
というわけで、どれもこれも傑作揃いの本書ですが、私が特に打たれたのは、ペトリュス・ボレルの「狼狂(リカントロープ)シャンパヴェール」です。これは先に読んだ『フランス幻想小説傑作集』(これは、『フランス幻想文学傑作選1~3』と『現代フランス幻想小説』に収められた作品からいくつかを選び直し、再収録したもの)にも収録されていたので、そのときにも衝撃を受けましたが、ふたたび読んでもやはり衝撃的でした。
ちなみに作者のペトリュス・ボレルという人は、あとがきにあったゴーチエの描写によるとこんな人物だったそうです。
「ロマンチスムの理想の最も完璧な見本であり、バイロンの作中人物として
モデルにもなれそうなペトリュスは、皆から讃美され、天才と美貌を誇り、
肩に外套(マントー)の垂れを撥ね上げ、仲間を従へて歩き廻り、その後に
曵かれる影法師を踏むことは禁制とされていた」
おお、なんというダンディ……!! しかしその後の彼の没落ぶりがまた悲しみを煽ります。人生とはいったい何なのでしょう。
さて、主人公の男シャンパヴェールは、社会や人生に対して激しい呪詛と憎しみを吐き散らします。物語はまずシャンパヴェールが親友ジャン=ルイに宛てた遺書の形式をとって始まります。とにかく、シャンパヴェールのジャン=ルイに対する恨み節が凄まじい。この部分はかなり興味深いものでした。
読めばすぐに分かりますが、この物語にはあまりに激しい憎悪が渦巻いています。私は魂ごと揺さぶられました。私もまたかつてはシャンパヴェールやその愛人フラヴァであったことを思い出してしまう。いや、今もなお彼らであり続けながらもそれを自らの奥深くに隠して、私はまるでジャン=ルイ同様に生に執着するようになり、まるで何もなかったかのごとく恥ずかし気もなくこの世の幸福のことを言ったりする。これは私の呪詛であり憎しみであり悲しみである。深く突き刺さった棘がいまだ抜けず、この先も決して抜けることはないことを、激しい痛みによって知るのです。いつかこれが私にとどめを刺すのだろうか。もしもそうなったら、その時には私もやはり彼らと同じようにこう叫ぶに違いない。
「無の世界へ!」
多くは失意のうちに人生を終えなければならなかった彼らの生み出した物語が、依然としてこれほどに強い魅力を放っているのは、いったいどういう理由なのでしょうか。私を掴んで放さないこの力はどこから来るのでしょう。何もかもすっかり滅んでしまったって構わないのだけれども、それでも私は今はまだこの手を伸ばさずにいられない。遠くへ瞳を彷徨わさずにはいられない。彼らが私を手放すか、私が自ら彼らの手から逃れるその時までは。
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