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勝田文さんの漫画3冊

2010年10月12日 | 読書日記ー漫画




ここ半年くらいの間に集めた、勝田文さんの漫画を3冊。


 まずは『プリーズ・ジーヴス』(第一巻)

《内容》
P.G.ウッドハウス原作の英国ユーモア小説の漫画化。
おとぼけご主人バーティは次から次へとおかしな事態に巻き込まれてしまうのだが、その有能すぎる執事ジーヴスは華麗に主人を窮地から救出(し、うまいところは自分のものにしたりも)するのだった。

《この一文》
“シャ、シャルロット!
 どうだい これからいっしょに
 格差社会について 語り合わないかい ”
  ――#4より


勝田文さんの漫画の雰囲気は、この作品にもよく合いますね。品の良いおとぼけ感が溢れています。「これから格差社会について語り合わないかい?」(←デートのお誘い文句;)なんていうさりげないひとコマが最高に面白いですよ!

絵柄は柔らかくて繊細な線によって構成されていますが、キッチリとめりはりもあって、相変わらず素敵。私はこの人の漫画が好きです。

原作の小説も読んであったので、こちらの漫画にはあの愉快な世界がわりと忠実に再現されてあるのがよく分かりました。小説を読んで私が想像していたよりも、ウースター君はちょっと情けなさ5割増くらいな感じでしたけど。可愛いですね。

面白かった!!
2巻も楽しみ。



 『ウランバナ』


《あらすじ》
お寺の隣にある花屋の娘・佐保。彼女の日課はインドの王子の情報チェック!! 王子に恋した佐保の不毛な思いは届くのか!? 禅寺ご近所さんの心温まるロマンチック・コメディー。
他に「近くの他人」「ダブル プレイ」収録。

《この一文》
“「あっ あれ きっと〝さりぃ〟よ…!」
 「(え?あ、あー、ブログの…)なんでわかんの?」
 「直感ッ…!」 ”
  ――「ウランバナ」より


インドの王子さまにマジで恋する女の子のお話なのですが、そんな夢みたいなお話を、夢みたいな美しさの中に展開させ、ちゃんと夢みたいに終わらせているところに、勝田さんの力量の凄さが滲み出ているかと!!

私がいつも凄いと思うのは、勝田さんの漫画にはある種の幻想性が漂っているのに、主人公たちはちゃんと地に足がついていて、ダメダメな行動に走ったりして落ち込んだりもするけれど、最終的にはしぶとくたくましく生きていくんですよね。それを、さりげなく爽やかに描いているところが、私の勝田さんを素晴らしいと思うゆえんのところです。

この「ウランバナ」の佐保さんも、本心では王子さまと結ばれるわけがないと分かっているのですが、でも…! というところが、とても感動的でもあり、すんなり共感できますね。美しいものに憧れる気持ちをなくしてしまうことは出来ない。
また、佐保だけでなく、その周囲の人々にもそれぞれのドラマがあって、そのたくさんのドラマを一つのお話の中に組み込んであるところも流石。この人の漫画は本当に面白いんだなぁ。あと、王子さまが格好よすぎ! 夢に見そうな素敵さ。

同時収録の「近くの他人」もじわじわと面白い作品。主人公の女の子の、「変に気を使ったおかげで、かえって大惨事」という状況は、私にもなんとなく分かるなぁというものでした。



 『あいびき』


《あらすじ》
銭湯にあるのはマイナスイオンだけではない――!? 半年前に離婚し、家業の地域密着型銭湯「山の湯」で働く鞠(まり)。そこでは、様々な人情劇が繰り広げられていた…。
他に「木俣くんの手品」「サマー・ジョブ」「ペイ・デイ」「妹の花火」収録。

《この一文》
“ここは…すごく居心地がよくて…
 いい人もいやな人もいるから…
 どんな人だっていていいと思える所だったから… ”
  ――「あいびき」より



そうか、人情劇なのか!
裏のあらすじを写していて気がつきましたが、勝田さんの漫画に溢れているのは「人情劇」の雰囲気だったんですね。なるほどー。あー、そうだ、そうだ。
というわけで、この「あいびき」はまさにそんな人情劇。舞台はやっぱり銭湯。銭湯じゃなきゃなりませんよね。うん。人情劇は面白い。そうか、私は人情劇が好きなんだな(意外にも)。

同時収録の「木俣くんの手品」という作品が、特に秀逸でした。これは面白い。私はとても好きな感じです。
随分前にお母さんが出て行って、お父さん(新渡戸稲造似の)と二人暮らしのたまき(メルヘンイラストレーター)。うんちく好きの木俣くんとお付き合いをしているたまきはもう27歳で、なぜか今さら母親を捜してもらおうと探偵に調査を依頼するのだが…。

これはツボッた。地味ながら、たまらなく良いお話です。「手品」がうまく使われています。しみじみします。すごくしみじみとしてきます(もちろん良い意味で)。


そうかー。人情か。どうして勝田さんの漫画を好きになったのかと思っていましたが、人情が溢れているからだったんですね。どの作品を読んでも感じられるこういうあたたかな眼差しがあるから、私はなんだか落着くんだな。そうだったのか。


「どんな人だっていていいと思える」


私もこうやっていてもいいのかな。と少しは思えてくるのでした。