ジュディス・メリル編 宇野利泰訳(創元推理文庫)
《収録作品》
*「新ファウスト・バーニー」ウィリアム・テン
*「ジープを走らせる娘」アルフレッド・ベスター
*「二百三十七個の肖像」フリッツ・ライバー
*「とむらいの唄」チャールズ・ボーモント
*「ユダヤ鳥」バーナード・マラマッド
*「二つの規範」フレドリック・ブラウン
*「明朝の壷」 E・C・タブ
*「カシェルとの契約」ジェラルド・カーシュ
*「酔いどれ船」コードウェイナー・スミス
《この一文》
“悪行にたいして、人の受ける罪は、その結果を見つめ、苦しまなければならぬことだ。
――「二百三十七個の肖像」(フリッツ・ライバー)より ”
『年刊SF傑作選』の4巻です。
編者のジュディス・メリル氏が6巻の前書きでも書いていましたが、この「SF傑作集」に収められた作品は、いわゆる「SF小説」だけでなく「幻想小説」「怪奇小説」とも分類できそうなものも多いようです。どのように分類したらよいのか分からないけど、とにかく不思議な物語。第3巻に引き続き、どれもこれも奇妙な味わいです。面白かった。
*「新ファウスト・バーニー」(ウィリアム・テン)
これはとても奇妙な物語。果たして事件は本当に起こったのか……?
バーニーのオフィスに見知らぬうすぎたない小男がやってきて「二十ドルを五ドルで買わないか?」ともちかける。バーニーはいったん男を追い返すも、結局ふたりはおかしな取り引きを結ぶことになり……というお話。
取り引きの内容がずんずんと大きくなっていってハラハラします。バーニーは最後には地球を売り渡すところまでいってしまいます。彼の視点で語られる一切はしかし、あくまでも彼の推論に過ぎず、いったいどこまでが真相に行き当たっているのか分からないところが面白い。
*「ジープを走らせる娘」(アルフレッド・ベスター)
どうやらアメリカに核爆弾が落ち、街中の人間が瞬時に消滅したらしい。無人の街を、金髪の娘がジープで走り回っていると、ある日彼女はひとりの男と出会い……というお話。
核汚染ということに関してその認識はちょっとナメ過ぎではないかという疑念もわきますが、ともかく大惨事のあとに生き残った女と男の物語でした。無人の街での生活の様子は興味深く読むことができます。ショーウィンドーをぶち破って店に侵入し、サイズの合うスカートや食料品を持ち出すのですが、お金はちゃんと払う…みたいな。
かなり面白かったです。ただ、どう言っていいのか分かりません。そこはかとなく怖い物語でした。たまたま生き残ったふたり、互いのことをまったく知らないふたりは、どうやって相手のことを信用したらよいのでしょうか。
*「二百三十七個の肖像」(フリッツ・ライバー)
フリッツ・ライバーは、第3巻収録の「電気と仲よくした男」で初めて知ったのですが、どうやらこの人の作品は面白いようです。この「二百三十七個の肖像」もかなり面白かった。
名優フランシス・ルグランドは引退後、大量の肖像画を遺すことにした。彼の死後、一人息子のフランシス・ルグランド・ジュニアは酒に溺れ、屋敷に引きこもっていると、父の肖像が話しかけてきて……というお話。
うーん。面白い。どことなくとぼけた味わいがあって、私は好きです。妙に面白い。他のも読みたい。
*「とむらいの唄」(チャールズ・ボーモント)
これはたいそう不気味でした。
ロニーは子供のころ、ソロモンをはじめて見た。どこからともなくソロモンが現れると、村中の人々は彼のあとについて歩いた。彼の行く先を知りたかったからだ。なぜならソロモンには「人の死期が分かる」からであり、彼の訪問を受けた家からは必ず死者が出た。しかしロニーはそれを信じることができず……というお話。
こ、怖い!!
とにかく気持ちが悪かったです。あー、怖い。
*「ユダヤ鳥」(バーナード・マラマッド)
冷凍食料品のセールスマン、ハリー・コーエンの家の窓に、一羽の痩せた鳥が飛び込んできた。カラスに似たその鳥は「ユダヤ鳥」と名乗った。しゃべる「ユダヤ鳥」シュワルツとコーエン一家との生活が始まり……というお話。
「反ユダヤ主義者」というのがキーワードですね。マラマッドもユダヤ人ではなかったでしょうか。
*「二つの規範」(フレドリック・ブラウン)
フレドリック・ブラウンという人は、洒落た、遊び心のある人だったのでしょうか。第3巻収録の「人形芝居」も、人をおちょくったような展開のお話でしたが、この「二つの規範」もまた独特です。
スクリーンに男女が映っている。おれは彼らのあまりに大胆な行動に、思わず画面に目が釘づけになってしまうのだが……というお話。
*「明朝の壷」( E・C・タブ)
最初は盗まれた壷をめぐるミステリーかと思ったら、まさかの超能力ものでした。面白かった。
ある古美術商から高価な壷が盗まれた。犯人を追うCIAの特別捜査課員のグレグソンは、勘の鋭い男だったが、追っているのは未来を知る能力のある人間で……というお話。
状況が二転三転して、とても面白かった。未来を変えることは可能か? という大きなテーマを扱っていました。閉塞のなかにも希望の持てる短篇。
*「カシェルとの契約」(ジェラルド・カーシュ)
別記事でも書いたので、感想は省略。
*「酔いどれ船」(コードウェイナー・スミス)
これはまだ読んでいません。明日までに図書館へ返さないといけないので、間に合えば読みたいですが、どうも気が乗りません。
第3巻と第4巻を読んでみた感触では、どうも借りて読むよりも所有していた方が落ち着いて読めそうな感じです。うーん。持っておきたいなあ。しかし、また増えてしまうしなあ。
とりあえず、まだ第6巻も借りてあるので、それを読んでしまいたいと思います。