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『年刊SF傑作選 3』

2009年02月20日 | 読書日記ーSF
ジュディス・メリル編 吉田誠一訳(創元推理文庫)


《収録作品》
*「不安全金庫」 ジェラルド・カーシュ
*「恐怖の七日間」 R・A・ラファティ
*「玩具店」 ハリー・ハリスン
*「木偶」 ジョン・ブラナー
*「電気と仲よくした男」 フリッツ・ライバー
*「生贄の王」 ポール・アンダーソン
*「クリスマスの反乱」 ジェイムズ・ホワイト
*「世にも稀なる趣向の奇跡」 レイ・ブラッドベリ
*「あのころ」 ウィリアム・F・ノーラン
*「狂気の人たち」 J・G・バラード
*「アンジェラのサチュロス」ブライアン・クリーヴ
*「人形芝居」フレドリック・ブラウン
*「地球人、ゴー・ホーム!」マック・レナルズ
*「分科委員会」 ゼナ・ヘンダースン


《この一文》
“「それで?」
 「それで、戦争が必要なのだ。――いや、待った! 〈死の商人〉とか〈独裁者は外敵を必要とする〉とか、宣伝文句めいたことを言っているんじゃない。闘争は文化に内在していると言いたいのだ。生活様式そのものによって民衆の中に醸成されている破壊欲にはけ口を与える必要がある。その生活様式は人間の進化の方向と合致していないのだ。」
  ―――「生贄の王」(ポール・アンダーソン)より ”




初めて知った作家の作品が多くありました。『SF傑作選』とありますが、これはSFだろうか? というものもあります。どちらにしても面白ければそれでいいのでありますが。


私は次から次へと夢のように読んだものの中身を忘れてしまうので、備忘録としてそれぞれの作品について一言ずつ書いておこうと思います。というわけで、以下に簡単なまとめ。


*「不安全金庫」(ジェラルド・カーシュ)
先日別の記事にも書きましたが、今私がもっとも気になっている作家のひとり ジェラルド・カーシュの短篇。タイトルの通り、「不安全」な「金庫」のお話。この場合、「不安全」なのは「金庫」の中身です。弗素八〇+(プラス)という危険な物質が、地球を吹き飛ばしてしまいそうになります。


*「恐怖の七日間」(R・A・ラファティ)
かなりユニークでユーモラスな短篇。意味はよく分からないのですが、物質を消失させることのできる魔術的な道具を使って、クラレンスという子供が街中の人や物を次々消し去ってゆき、人々は大混乱! というお話。


*「玩具店」(ハリー・ハリスン)
空中に浮かぶ模型ロケット船。それを持ち上げているのは実は目に見えにくい黒い糸、という詰まらない仕掛けの手品セットを売り歩く若者。しかし彼には実は狙いがあって……というお話。
せっかくの技術と知識を、なかなか自らの儲けにつなげられない技術者の切なる願い、といったものを感じさせられます。


*「木偶」(ジョン・ブラナー)
これはかなり怖かった。ある病院でウィルズはひとつの実験が行っていた。ベッドに眠る被験者達は、夢を見そうになるとそれを妨害されるようになっている。脱落者が続出する中、ひとりの男だけがずっとその実験に耐えている。しかし、同時にウィルズの周りでは奇妙なことが起こり始めて……というお話。
なんとも不気味。胸が悪くなるような読後感です。面白かった。


*「電気と仲よくした男」(フリッツ・ライバー)
とぼけたタイトルがいいですね。内容もわりかしとぼけていますが、ちょっと恐ろしい。高圧線の電柱のすぐそばの山荘を借りることになったレバレット氏は少し風変わりな人物で、彼は電気をこよなく愛しており、しかも電気と話ができると言う……というお話。世界中を駆け巡る電気と話せるレバレット氏が、ある日、電気から「電気の世界連邦が成立した」と告げられて、びっくり仰天するところが最高に面白かったです。


*「生贄の王」(ポール・アンダーソン)
びっくりするほど皮肉な結末。
人類はその争いの場所を地球上から宇宙へと移していた。地上での戦闘は無くなったが、宇宙での戦いは熾烈を極め、宇宙飛行士たちはいずれも悲惨な最期をとげる運命にあった……というお話。
短いですが、かなり深刻で、考えさせられる物語です。「生贄」であるのは敵、味方にかかわらずすべての宇宙飛行士であり、彼等は地上の平和のためにその命を犠牲にしなければならない。敵のユネシアン軍に捕らえられたアメリカ軍のディーアス中尉は、ユネシアン艦のロストック将軍とある取り引きをする。ロストックの驚くべき提案によって、宇宙飛行士たちは新たな、自分達の道を選択できるかもしれない……それなのに。うーむ。悲しい結末です。


*「クリスマスの反乱」(ジェイムズ・ホワイト)
クリスマスにサンタからプレゼントを貰うのを楽しみにしている子供たち。しかし、彼らはクリスマス当日を待ちきれない。サンタはどこにプレゼントを隠しているのだろう? そして、みんなでその秘密を探るのだか……というお話。子供たちにはそれぞれ特殊な能力があるらしく、子供らしい好奇心だけで危険な場所に寝間着のまま侵入してしまうので、ハラハラさせられます。とんでもない結末になるかと恐れましたが、意外とハッピーエンドでした。良かった。


*「世にも稀なる趣向の奇跡」(レイ・ブラッドベリ)
ウィルとボブのふたりの生涯はどうもツキに見放されたみじめなものだったが、ある日、砂漠で不思議な蜃気楼の街に遭遇する……というお話。
幻想的です。ブラッドベリって、センチメンタルな物語が多いような気がしますね。


*「あのころ」(ウィリアム・F・ノーラン)
ある日、蝶が〈ラ・ボエーム〉をハミングし、赤ん坊を抱えた大きな斑猫が二本足で駆け抜けていき、ネズミとちょっとした会話をし、友達のウォリーはラクダになってしまった。わたしは急いで精神科医のメーローシン医師に会いに行こうと思うのだが……というお話。
妙に面白かった。こういうのは好きですね。気持ちの悪い夢みたいな、カラフルなイメージのお話です。


*「狂気の人たち」(J・G・バラード)
……バラードって!!
『結晶世界』を読んだことがありますが、バラードはこれで2作目。世界ではとうの昔に精神科医による医療行為は禁じられていた。彼はかつてそれを犯したために投獄され、今さっき出所してきたばかりだった。彼はもう仕事には関わりたくないと思っているのに、彼の前には次々と患者が現れて……というお話。
お? 面白くなってきたな……というところで終了! バラードって!!
私はどうもバラードとは相性が悪いようです……。


*「アンジェラのサチュロス」(ブライアン・クリーヴ)
おとぎ話のような不思議な短篇。
水浴びをしていたアンジェラは、ある日美しい少年と出会った。驚くほどに美しい彼はしかし〈半人半獣(サチュロス)〉で、彼らの恋はなかなか成就できなくて……というお話。
おとぎ話のようなのですが、ところどころが確かに現代社会らしくて、奇妙な味わいでした。面白かった。


*「人形芝居」(フレドリック・ブラウン)
非常にユーモラスな作品。
チェリーベルに恐ろしいものがやってきた。ロバにまたがったデイド・グランドという老人と、そのロバに引きずられて運ばれたガーヴェインという人間に見えなくもないが、真っ赤な皮膚と青緑色の髪や目を持つ無気味な人物。
オチに至るまでの二転三転が愉快です。


*「地球人、ゴー・ホーム!」(マック・レナルズ)
地球上のあらゆる旅行地に行き尽くした地球人におすすめする、火星旅行ガイド。ふざけた火星紹介には笑えます。地味に面白かったです。


*「分科委員会」(ゼナ・ヘンダースン)
こういう風にあっさりと他者と分かりあえたらいいのですが――。
当然空から降り立ったリンジェニの黒い大きな宇宙船。建設された壁を挟んで、戦闘と和平交渉が繰り返されるが、彼らの目的は不明なままだ。そんな折り、セリーナの5歳の息子スプリンターは、壁の下を掘って、向こう側へ忍び込み、そこで自分と同じくらいの毛だらけのドゥーヴィーと出会い……というお話。
男たちが始めから対立しあって交渉を続けるなか、セリーナとミセス・ピンクという、それぞれの種族の子供の母親の交流を通して和平に至る、という、こんなうまい具合にすべての紛争が解決すれば世話はないわなと思わざるを得ません。しかし、まるで道徳の教科書のような模範的な、未知の他者に対して楽観的・肯定的に過ぎる態度でもってあらゆる危機に有効に対応できるのか、というだけではとうてい反論になりません。どうしてこういうことの実現が難しいのか、そこを考えなくてはならないのでしょう。理想論だ、と無闇に反発するだけでは不足です。



さて、次は『傑作選』の4と6も読まないと。