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『フランス幻想文学傑作選1 非合理世界への出発』

2007年08月06日 | 読書日記ーフランス
窪田般彌・滝田文彦編(白水社)


《収録作品》
空気の精(シルフ)…クレビヨン・フィス
オリヴィエ…ジャック・カゾット
血税の島…ルイ=セバスチヤン・メルシエ
賢者の石…ルイ=セバスチヤン・メルシエ
西暦二千四百四十年…ルイ=セバスチヤン・メルシエ
片目のかつぎ人足…ヴォルテール
ルソーのからっぼの墓…レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ
フランスのダイダロス…レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ
ロドリゴあるいは呪縛の塔…D=A=F・ド・サド
州民一同によって証言された不可解な事件…D=A=F・ド・サド
トリルビー…シャルル・ノディエ
不老長寿の霊薬…オノレ・ド・バルザック
教会…オノレ・ド・バルザック
ブリュラール船長の実人生…ウージェーヌ・シュー
検察官…シャルル・ラブー
オネステュス…ジュール・ジャナン
オニュフリユス…テオフィル・ゴーチエ
文学における幻想的なものについて…シャルル・ノディエ


《この一文》
”もし私が富の恐るべき不均衡について述べ立てたら、もし私が気さくで洗練された外観の下に隠された、冷酷かつ尊大なあなた方の道徳心について語ったら、もし私が貧者の赤貧洗うがごとき状態とか、正直さを失わないばかりに貧者が貧困から抜け出せないでいることやらを描いてみせたら、もし私が、不徳義な人間が手に入れる金利やら、その男がずる賢くなるにつれて享受する尊敬の度合いやらを数え上げたら……、あまりにひどすぎる結果になることは間違いない。だから、おやすみと申しましょう。私は明日発ちます。いいですか、明日発つのです。不幸にならないこれほど多くの方策がありながら、これほど不幸に悩む都会にこれ以上長くいることなどできませんからな。
  ―――「西暦二千四百四十年」ルイ=セバスチヤン・メルシエ  ”

”読書は、われわれに未知の友を与えるが、同時にまた、読者とはなんという友であろう! 親しい友人でありながら、われわれの作品を一行も読まない人もいるのだ! 著者は、この作品を、知られざる神に捧げることによって、負債を返し得たと信じたい。
  ―――「不老長寿の霊薬」オノレ・ド・バルザック  ”

”「真実は一つずつ世界の中に投げ与えてやらねばならない。手をひらいて突然それを普及させようとする、そんなことは罪だ。あまりに大きな真実は焼きつくすもので、光り輝きはしないのだ」
  ―――「オネステュス」ジュール・ジャナン  ”



面白いの面白くないのって、私は転げ回りそうなほどに、しかしそのエネルギーをもちろん私の身体を意味もなく転がすことなどに浪費せず、文字を追う集中力とそれに伴って激しさを増す動悸に耐えるために使い、熱中しました。あー、面白い! 面白い! フランス小説は最高ですね。

このあいだ買っておいた『フランス幻想文学傑作選1』を読みました。すごい、つまらない話がひとつもない! それどころか、大当たりです。ああ、続く2と3もなんとしてでも入手せねば!

とくに面白かったのは、ルイ=セバスチヤン・メルシエという人の作品です。私はこれまでには、おそらくこの人の作品を読んだことはないと思うのですが、もう、やたらめったらに面白かったです。収められた3作品はいずれも「夢」を扱った物語で、幻想的であると同時に風刺的、それがかなり辛辣であるので私はびっくりさせられました。
「血税の島」はとても印象的です。文字どおり血液を税として納めなければならない土地へ連れてこられた「私」が見る悲劇の数々。結末の一言には震えが走ります。導入部から夢の内部への移行の仕方もあっさりとして的確で、ここからして私は参りました。すごいぞ、ほかの作品も絶対に探します。

そして、ブルトンヌの「フランスのダイダロス」も異常に面白い。ある種のユートピア小説と言えるのでしょうが、全編に渡ってとにかく物悲しさがつきまといます。なんでこんなに悲しいのか。しかし、書きっぷりはむしろあっさりとロマンチック、軽やかでさえあって、すらすらと楽しみながら読み進むことができるのです。だけど、なんだかやっぱり悲しい。くー、やられた。この人の作品もこれまでには読んだ記憶がないですが、名前には見覚えがあります。どこで見たのだっけ。

オノレ・ド・バルザック「不老長寿の霊薬」も、ある場面では思わず声をあげるほどに面白かったです。もう、どうしたらいいんだ!

ノディエの「トリルビー」は別に本を持っているので読んだことがあるはずなのに、まったくきれいさっぱりと忘れていました。意外な結末に驚きました。こんな物語を忘れてしまうなんてことがあるだろうか…大丈夫か、私。

ジャック・カゾットは『悪魔の恋』という作品を以前からずっと読みたいと思っていますが、まだ手を付けていません。ここに収められた「オリヴィエ」は、言葉を使うかわりに音楽で意思の疎通をはかる人々の国という面白い設定がなされていて、なかなか興味深かったです。

ヴォルテールの「片目のかつぎ人足」は、途中で「エエッ!?」という展開になって、「エエッ!?」という感じで終わるので、驚きます。短いですが、面白いです。


こんな感じで、猛烈に面白かったこの一冊。
勢いづいて、ほかのフランス小説集も読んでしまおうか!