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もやもや日記

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『ツバメ号の伝書バト』

2006年07月02日 | 読書日記ー英米
アーサー・ランサム 神宮輝夫訳(「アーサー・ランサム全集6」岩波書店)


《あらすじ》
夏休みになり、ツバメ号のウォーカー兄妹、ドロシアとディックのDきょうだいは湖へやってきてアマゾン海賊のブラケット姉妹と合流した。フリント船長が不在の間、8人の子供たちは丘陵地帯へ遠征し、強力な土人タイソンおばさんとたたかい、ライバルの謎の男「つぶれソフト」を偵察しつつ、日照りで水不足のハイ・トップスを掘り進む金鉱探しという新しい冒険を開始した。


《この一文》
”「どうしようもないわよ。」と、スーザンがいった。「ティティの性質は知ってるでしょ。あの子は物事にとっても敏感なのよ。わたし、きのうの晩、あの子が病気になるかと思ったわ。」 ”



さて、とうとう六作目です。やっぱりいつものメンバーが揃うと安心します。私の好きなDきょうだいは、優しくて大らかで彼らの才能を十分に評価しているウォーカーとブラケットの子供たちと一緒にいるほうが、活躍の場を多く与えられるようなので嬉しいです。特に、今回のディックは皆から信頼を受けて学者や技術者として大活躍していました。よかった。よかった。

これまでのシリーズでも、子供なら誰でも一度はやってみたいと思うことを次々と実現してきた一同ですが、今回はついに金鉱探しです。いいなあ、ロマンだなあ。私も掘りたい。洞窟とか鉱山とかってロマンですよね。隠されたお宝を掘り当てたいと願うのは、子供だけではなく大人も、フリント船長じゃなくても思うところであります。ツバメ、アマゾン、Dきょうだいは新たに「SAD鉱山会社」を立ち上げて、金鉱を掘ろうと奮闘します。しかも今回の彼らは、ただの「ごっこ」をして遊ぶのではなく、鉱山のかわら屋ボブからの確からしい情報を得ています。いやが応にも盛り上がります。

さて、二作目『ツバメの谷』の時にも、ティティのオカルト資質が描かれていましたが、今回も彼女はそのたぐい稀な能力を発揮していました。それが、ジョンでもスーザンでもないというのは、とても納得です。やはりティティはどこか特別なところのある女の子です。一方、弟のロジャは、だいぶ大きくなってきたせいか、少しばかり生意気になってきました。行動力が増してきたので、手に負えなくなる日も近いでしょう。今回も、ロジャはとってもはじけていて、物語をぎりぎりのところまで盛り上げてくれます。スーザンは気の毒に……心労が絶えません。

物語は、金鉱探しというだけでも盛り上がりますが、例によって様々の要素が巧妙に組み立てられてラストまで一気に突っ走ります。そして、鉱物を題材にしているということもあり、化学の勉強にもなるなあという感触でした。ロマンが加わると、化学変化だって楽しく学べますよね。学生時代の私は、物質の化学反応をなかなか理解できませんでしたが、「王水は金をも溶かす」というところにはときめいたので覚えてました。ともかく、ディックが活躍するので、色々な科学的実験が次々と行われて、非常に興味深かったです。

ところで、このシリーズでは毎回なにかしらピンチの局面があるのですが、今回のは本当にピンチでした。子供たちが成長するとともに、冒険も少しずつ大がかりになり、乗り越えなければならない困難も深刻さを増しているのでしょうか。ロジャからは特に目が離せませんね。

それと、今までのシリーズでは、子供たちの周囲には好意的で親切で物わかりの良い大人しか登場しませんでしたが、かつてブラケット姉妹を悩ませた「大おばさん」のような人物はこの辺には住んでいないのだろうかと疑っていたら、今回ついに登場しました。タイソンおばさんです。何と言うか、土人の中の土人という感じでした。SAD鉱山会社にとっては、これもある意味で大ピンチです。

さらに、鉱山をうろつく謎の男が彼らの前に現れます。得体の知れぬ男、伝書バト(三羽のハトの名はホーマー、ソフォクレス、サッフォー。なんて素敵なんだろ)による秘密の通信、南米からの到着が待たれる未知の生物ティモシー、枯れた渓流、そして大昔の鉱夫によってうち捨てられた無数の鉱坑ーー。うーむ。こんなに面白要素が揃っていて、盛り上がらないわけがありません。そしてもちろんとっても面白かったのでした。もうシリーズの半分まできたので、勢いづいて後半も読んでしまいます。今年の夏は「ランサムまつり」です。