半透明記録

もやもや日記

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『海へ出るつもりじゃなかった』

2006年07月03日 | 読書日記ー英米
アーサー・ランサム 神宮輝夫訳(「アーサー・ランサム全集7」岩波書店)


《あらすじ》
中国から帰ってくるおとうさんをハリッジで迎えるために、ウォーカー家の子供たちとおかあさんはピン・ミルに滞在していた。港で鬼号という船に乗っている若者ジム・ブラディングと仲良くなった兄妹は、おとうさんが帰るまでの数日を、彼の船の中で暮すことになった。港の中を穏やかに帆走していた鬼号だが、二日目の朝、鬼号は濃い霧に包まれたーー。


《この一文》
”「アホイ! ジョン!」
 「おとうさん!」と、ジョンはあえぐようにいった。「アホイ! アホイ!」 ”


怒濤の七作目です。これまでで一番ハラハラしました。

今回、ツバメ号の乗組員を乗船させてくれるのは、鬼号のジム・ブラディングという若者です。これから大学生になるという彼は、体はとても大きくて立派ですが、ジョンよりも少し年上のお兄さんといった感じでしょうか。自分よりも年下の子供たちを船に乗せてあげたいと言って、おかあさんと交渉してくれる親切な若者です。結局、兄妹は、海へは出ないということを約束した上で、ジムとともに港の中を巡る鬼号での船上生活を始めます。
ツバメ号の面々は、最初の冒険から丸二年が経ち、それぞれに成長しています(丸二年と言うことは、前作の『ツバメ号の伝書バト』と同じ夏ということでしょうか。あれは夏休みの始めの話で、これは八月下旬の話のようです。忙しいんだな)。末っ子のブリジットがだいぶ大きくなって、今作ではしっかりと話せるまでになっていました。しかし彼女はまだ小さいので鬼号への密航の企てはあえなく失敗に終わります。がんばれ、ブリジー。

さて、ウォーカー家のおとうさんは、海軍にいるのでなかなか登場しなかったのですが、今回はいよいよその姿を見ることができそうです。おとうさんは子供たちをとても信頼していて、彼らが経験を積みながら成長してゆくことを誰よりも望んでいるらしいことは、これまでの電報の文面や、何か決断しなければならない時に子供たちやおかあさんがしばしば口にする「おとうさんなら、きっとこういう」という言葉などからもよく分かります。そのおとうさんがいよいよ帰ってくるのです。

兄妹の誰もがおとうさんにはやく会いたいと思っています。しかし、深い霧に包まれて、鬼号は思わぬ災難に見舞われます。そして、スーザンの堪忍袋はついに決壊し、ジョンとスーザンは珍しく喧嘩までする羽目に陥ります。事態がいかに深刻かがみてとれます。いつもだったら、ロジャがトラブルを持ち込みそうになるのですが、今回のロジャは一番まともでした。冷静。肝が据わってます。見直したよ、ロジャ。まあ、最年少だから責任がかからない気楽さもあるのでしょうけれども、やたらとびびったりしないところは立派。ピンチでも食欲を忘れないところも本当に偉いと思いました。生命力が強いんだなー。頼もしいぜ。

本当に怒濤の七作目です。私は読みながら、動悸が激しくなるのを止められませんでした。なるべくネタバレしないように注意して記事を書いてみたつもりですが、物語のタイトルからいくらか内容は推察できるかと思われます。たまにはスリルが欲しい、という方には是非ともおすすめいたします。

あと一言、途中から小さな子猫が登場するのですが、それがとても可愛いのでした。