裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

漁夫の利

2009年07月29日 08時33分22秒 | Weblog
その電車に飛び乗ると、車内はすいてて、ちょこちょこと席が歯抜けになってました。
どこに座るかな、ここにすっか、と乗り口からいちばん近い空席に腰を降ろそうとしたのです。
美しい20台の女性と、ヘッドホンをした男子学生の、その間。
「ここ、いいですか」とその空いた席を見て、ギョッとしました。
「な・・・なんだこれ?」
ぼくは驚くと、実際に声をあげてしまうひとなんですが(知ってるか)、奇妙に非日常的な光景がそこにあったのです。
つまり、光り輝く500円玉と、10円玉がいっこずつ、その座席に寝そべっている。
周囲が気付かないはずは絶対にない。
「え?なに、これ?なにごと?きみらのとちがうの?これ」
両サイドのふたりに確認をとる。
ふたりは無言で首を横に振る。
今気付いた、という風情ではない。
明らかに牽制し合い、遠慮し合い、手を出せなかった、かの趣き。
おそらく、少し前までここに座ってた人物がポケットから落としていったのに、声をかけるタイミングを見誤り、その後はどう処置することもできず、気まずい空気を過ごしてきたにちがいない。
「えー?どうしよ、どうしたらいい?」
こんなときオレは、場違いと言っていいほどに気安く反応し、周囲を友だちのように扱ってしまうのだ。
「じゃ、オレたち三人の間にあるんだから、三方一両損の裁き(大岡越前)で山分けする?」
「それともジャンケンで勝負すっか?」
・・・などと提案しようと、かなり本気で考えたのだが、隣のふたりの態度があまりに冷ややかで、オレ一人大騒ぎしてるのもバカバカしい。
「もらっていい?」
いちかばちか訊いてみた。
「ええんちゃいます?」
ひとこと、学生はそうつぶやき、再びヘッドホンの中の音楽に立てこもる。
素知らぬ顔の麗しき女性は、すでに文庫本の字を追うのに没頭中(気になってるにちがいないのだが)。
「わーい、うれしいなっ」
と言って、頂戴してしまいました。
それにしてもこんな非常事態発生時、日本人は実に立ち回り方を知りませんね。
洒脱に、スマートに、とまでは要求してないでしょ。
自然にふるまえばいいのです。
こんなのは最低限のコミュニケーション能力とイマジネーションさえあれば克服できる事態なのに、突出を避けようとする民族の行動原理があるのか、どうすることもできません。
固まっちゃう。
シギとハマグリが警戒し合って、漁夫が結局利を得るあのお話を思い出すこの図式は、世界における日本の立ち回りを彷彿とさせて(大げさか)、ちょっと興味深いものがあります。
もっと局面局面での解決能力を身につけよ、日本人。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園