本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ダンケルク

2017-09-16 11:05:30 | Weblog
■本
72 ちいさな城下町/安西 水丸

 安西水丸さんによる、あまり有名でない小さな城の探訪記です。私自身コアな城マニアではないのですが、ローカル鉄道に乗るのが好きで、乗り継ぎ時間を潰すのに城跡を巡る機会がたまにあるので、いつか読みたいと思っていました。この夏にこの本にも取り上げられている新宮城に行ってきたので、ようやく読みました。この本に登場する城では、他には岸和田城くらいしか行ったことがないのですが、安西水丸さんの豊富な知識と親しみやすい語り口やイラストで、知らない城にも行ってみたくなりました。当たり前のことですが、それぞれの城にはそれを治めた大名がいて、それぞれの地域に応じた政策が取られた結果が、今の各地方の個性となっていることを知ることができるので、地方創生のヒントのようなものも得られるかもしれません。城を治める大名は結構頻繁にかつ、かなり長距離の異動をさせられていたことを初めて知ったので、自分の歴史知識の薄っぺらさを反省しております。


■映画
54 パターソン/監督 ジム・ジャームッシュ
55 ダンケルク/監督 クリストファー・ノーラン
56 ニッポン無責任時代/監督 古澤憲吾

54 私が10代後半くらいから大好きなジム・ジャームッシュ監督の新作。これまでとは異なる穏やかな視線が印象的な作品と評判がよかったので観ました。ニュージャージー州のパターソンという街に住む、街と同じ名前のバス運転手の1週間を描いた作品です。特に大きな事件は起こらず、愛妻と過ごす家庭、乗客の会話に耳を澄ませながら運転するバス、夜の犬の散歩途中で立ち寄るバーといった、日々のルーティーンを、詩を作りながら淡々とかつ噛みしめるように過ごしている姿勢が、じわっとした感動を呼びます。印象的なストーリーや映像ではなく、さりげないセンスのみで勝負する、いかにもミニシアター系っぽい作品を久しぶりに観た気がします。スター・ウォーズでカイロ・レンを演じたアダム・ドライバーが、そこでの情念タップリの演技とは真逆の穏やかな心優しい主人公を好演しています。個人的には永瀬正敏さん演じる詩を愛する日本人観光客が、東京ではなく大阪から来たとわざわざ言わせるところに、ジム・ジャームッシュ監督らしいこだわりを感じて、大阪出身者としてうれしい気持ちになりました。

55 こちらも大好きなクリストファー・ノーラン監督の話題作。ハリウッド大作っぽい印象を纏いながら、これまで誰もやったことのないチャレンジングな試みをし、商業的成功と作家性を両立させる、いつもながらの志の高さに感嘆します。俯瞰的な神の視点だけでなく、登場人物と同じ戦場に巻き込まれたものとしての視点で戦争を描くことにより、CGやVR技術を用いなくても作品への没入感を観客にもたらすことができるということを見事に示しています。音圧の高い不協和音で、これでもかと緊迫感を煽る手法もうまく機能していて、冒頭から常に緊張したまま、あっという間の作品体験でした。心理描写はほとんどないですが、かといって傍観者的な視点でもなく、不利な戦況に翻弄される登場人物と同じように観客をその混乱に巻き込んでいく展開が斬新です。観る側にもそれなりの負担を強いる、ある意味観客を選ぶ作品かもしれませんが、画面から迸りまくる監督の才気に多くの人は魅了されると思います。

56 植木等さん演じる無責任な主人公が巻き起こす騒動を描いて高度経済成長期に大ヒットした、クレージーキャッツによるシリーズ作品の第1作目です。終身雇用が当たり前だった今よりはるかに会社への帰属意識が高かった時代に、会社をクビになっても、全く気にしない主人公の軽やかな姿に、当時の多くの人々がカタルシスを感じたものと容易に想像できますし、今の閉塞感漂う我々が観てもある種の癒し効果があると思います。それにしても、職場で自由にたばこを吸う姿、飲み屋や接待でのセクハラ発言、組合を軽視する経営者など、かなりデフォルメはされていたとは思いますが、現在のコンプライアンス基準からは完全にアウトなシーンの連続に、逆におおらかな気持ちになりました。自虐的な歌詞のヒット曲を植木等さんが楽しそうに歌う姿や即物的で野心的な女性登場人物を観ていると、世界的な競争が激化して会社員に要求されるものが厳しくなっている状況下でも、もう少し力を抜いて、したたかに生きてもいいのでは、と不思議な勇気が湧いてきました。
コメント
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