本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

はじまりのうた

2023-07-23 07:06:14 | Weblog
■本
60 日本社会のしくみ/小熊英二

 タイトル通り「日本社会のしくみ」を、主に日本の雇用慣行がどのような歴史的経緯により形成されてきたかについて、欧米諸国との比較を通じて説明された本です。日本社会は「大企業型」(大企業や官庁で正社員・終身雇用の人生を過ごす人たち)、「地元型」(家業の第一次産業や自営業を継いだり、地方公務員や地場産業に就職したりするなど、地元から離れない生き方をする人たち)、「残余型」(都市部の非正規労働者や中小企業に務める人など「大企業型」「地元型」以外の人たち)の三つの類型によってできていて、その全体の構造を規定しているのは「大企業型」にみられる日本型雇用のあり方にあると筆者が考えていることから、「日本の雇用慣行」の分析に主眼が置かれているようです。日本の年金など社会保障制度は、「大企業型」(厚生年金や退職金で基本的に十分な社会保障が得られる)、「地元型」(国民年金だけだと不十分だが、地域の相互扶助などで一定の社会保障が得られる)を中心に考えられており、そこからこぼれ落ちる「残余型」の増加(地方自営業者の減少が非正規労働者の増加の一因になっているようです)が、日本における格差拡大の原因の一つになっていることがよくわかりました。「大企業型」の求人数はさほど変化はないが、大卒者(しかし、日本は学歴の高さよりも偏差値などによる大学入試の難易度が重視されるため、大学院進学率は欧米と比較して低い)が増加しているので、大学という学位に期待する職を日本社会が提供しきれておらず、また、すでに「大企業型」に所属する人たちにも望むようなポストや賃金を提供できなくなっているので、非正規社員が増加しているという構造も理解できました。最近の人手不足を契機に、「残余型」の人たちの環境が改善することを望みます。また、「大企業型」の既得権の削減や、国による社会保障制度の強化など、一定の痛みを伴う分配を次世代のために許容しなければならないとも思いました。「日本社会のしくみ」を構造的に理解するための知的刺激が得られる本です。


■映画
48 はじまりのうた/監督 ジョン・カーニー
49 ガンファイターの最後/監督 ロバート・トッテン、ドン・シーゲル

48 キーラ・ナイトレイ演じる失恋したシンガーソングライターと、マーク・ラファロ演じる落ち目の音楽プロデューサーが、協力しながらアルバムを制作していく過程で、それぞれの心の傷を癒やし再生していく姿を描いた作品です。こじんまりとした印象ながらも、随所に心を打つシーンがある佳作です。特に、二人が一つの音楽プレイヤーを共有しながら、好きなプレイリストを聞きつつ、ニューヨークの街を練り歩くシーンがとても素敵です。若くて魅力的な女性とやさぐれた中年男性の友情(恋愛感情の芽生えをほのめかすシーンはあるものの恋愛関係には発展しません)というありそうでなかった関係性を描いた点が秀逸で、私のようなおじさん世代にも希望が持てる内容です。商業的成功や恋愛関係の修復という安易な結末ではなく、主人公の成長に焦点を当てたエンディングも好ましいです。キーラ・ナイトレイのさりげない魅力が堪能できる作品です。

49 昔気質の保安官が、住民を守るためによかれと思い取った強権的な態度により、街を近代化し経済的発展を目指す住民と対立し疎まれる悲劇を描いた西部劇です。日本の農村地帯の閉塞感にも通じるものがあります。街の負の側面を一人で引き受け続けたために、その露見を恐れた住民から危害を受ける主人公が切ないです。一方、主人公の直情的ですぐに暴力的手段に訴えかける欠点も描かれており、バランスが取られています。テーマの暗さと時折挿入される牧歌的なシーンとのアンマッチさに、居心地の悪い思いもしました。アクションシーンも歯切れが悪く、エンディングの後味の悪さとともに、エンターテインメント作品としては失敗作だと思います。かといって、ヒューマンドラマとして深みがあるわけでもなく、なんとも中途半端な印象です。ドン・シーゲル監督の影響か、主人公のストイックなクールさは格好いいです。
コメント
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