本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

怪物

2023-07-16 05:38:22 | Weblog
■本
58 堤未果のショック・ドクトリン/堤 未果
59 ナショナル・ストーリー・プロジェクト Ⅰ/ポール・オースター

58 ナオミ・クラインさんが提唱した、戦争や自然災害、パンデミックなどのショッキングな出来事に乗じて、国家が強権的な政策(堤さんは「新自由主義政策」とおっしゃっています」を早急に成立させていく、「ショック・ドクトリン」という手法を引用しつつ、「マイナンバー」「コロナ対策」「脱炭素」といった、昨今の日本の政策の問題点や欺瞞について指摘されている本です。おっしゃっている内容は同意できるものも多いのですが、政府の「ショック・ドクトリン」的な進め方を批判しつつ、堤さん自体が根拠や出典をさほど丁寧に説明することなく(「地球が過去8年ずっと冷え続けている」という主張は、ここ数日の猛暑の実感からも、にわかには信じられません)、読者の恐怖心をひたすら煽る文体で迫ってくる点が少し気になりました。それだけ危機感が強いのかもしれないですが、この話法だと分断を加速するだけで、結局はもともとこの種の問題意識を持っている人にのみ伝わるメッセージとなり、場合によっては、ワクチン接種を一切拒否するなど、読者に悪影響を与える可能性もあると思いました。「脱炭素」を推進する側の「グリーンウオッシュ」的な動機を取り上げつつ、温暖化の真犯人は軍事産業である、と喝破されている点など、共感できる点も多いだけに、その点が少し残念でした。政府の主張にも筆者の主張にも全面的に信じることなく、自分の頭で考えることの大切さについてあらためて考えさせられる本でした。

59 私の大好きな小説家であるポール・オースターが、ラジオ番組のために全米に募集した、心に残る短い実話を集めた本です。日本でも内田樹さんと高橋源一郎さんが同様のプロジェクトをまとめた本を出されていたと思います。15年近く前に買ったままだったので、旅のお供に持って行って読みました。ポール・オースターらしく「偶然」をテーマにした話が多く、我々の想像以上に奇跡的な偶然が人には生じうる、ということが実感できます(落とした物や、音信不通になった人と、ずいぶん時が経ってから偶然出会うという話が結構多いです)。普通の人の話なので、玉石混交という感じですが、数ページの話なのでサクサクと読み進めることができます。個人的には、福祉宿泊所の住民のために、金曜日の夜に週末に停止される職場の冷凍庫から大量の氷を許可を得て持ち帰る老人の話が好きでした。その氷が、貧しい人々のささやかな宴会のきっかけとなり、一種のコミュニティとして機能していたそうです。こういう名もなき人のささやかな善意によって、意外と世界は保たれているのだと思います。


■CD
3 夢中夢 -Dream In Dream-/Cornelius
 
 小山田圭吾さんによるソロユニットの6年ぶりの新作です。過去2作のミニマムな音響重視の作風はある程度継続しつつ、本作は歌詞のメッセージ性が増し、インパクトとなるギター・ソロなども挿入され、久しぶりに動きのある作品という印象です。Cornelius初期作品の、テーマパークのような綺羅びやかな世界観には及びませんが、フリッパーズ・ギター時代を彷彿とさせる、カラフルで挑発的な感覚が少し戻ってきている点がファンとしては嬉しいです。サマーソニックでライブも観ることができるので、これらの曲がどのように演奏されるかが楽しみです。


■映画
46 怪物/監督 是枝 裕和
47 ラストレター/監督 岩井 俊二
 
46 坂元裕二さんがカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したことでも話題の作品です。視点となる登場人物が変化するにつれて、物語の全容が明らかになる脚本はもちろん素晴らしいのですが、なにより少年役ふたりのみずみずしい演技とそれを引き出した是枝監督の手腕が圧巻です。人間の嫌なところも、気高いところもむき出しに表現されているこの作品の中で、彼らの存在感が、作品全体に与える好ましさへの貢献度は絶大です。「偏見」がテーマの一つだと思いますが、その犠牲者にも加害者にも彼らがなっているという構造も、観る側に与える影響としては考え尽くされていると思います。エンディングは観客に委ねるかたちにはなっていますが、是枝監督がこの脚本を最初に読んだときの感想が、「この2人は『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカンパネルラだ」とおっしゃっている記事を見て、私の中の結論は出ました。脇役に至るまで、その他の役者さんの演技も素晴らしく、総合力としての完成度がとても高い作品です。高潔なのに難解になっていない点が素晴らしいです。

47 「怪物」と同様に川村元気さん製作の作品です。その影響か、この作品もプロデューサー側の企みが強く感じられます。同じく岩井監督作品の「Love Letter」に主演されていた、中山美穂さんと豊川悦司さんが、本作で全く別の汚れ役として出演されている点が、話題づくりの巧みさとして象徴的だと思いました。また、松たか子さんの底力もこの作品からは感じました。広瀬すずさんや森七菜さんといった旬の女優さんが出演されている中で、松たか子さんが、さほど力の入った演技をされていない印象にもかかわらず、最もチャーミングであった点に感心しました。コメディエンヌとしての存在感が圧倒的です。ストーリー自体は「Love Letter」とも呼応した、重層的な内容で、即応的な電子メールやメッセンジャーと比べて、時を越えて対話できるという、「手紙」というメディアの特徴をうまく用いた、繊細で上品な作品になっています。この作品も、庵野秀明さんも含めた俳優さんの演技がとても素晴らしく、映画において演技が占める重要さを実感できました。
コメント
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