本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

バビロン

2023-03-12 06:11:31 | Weblog
■本
19 日本人はなぜ「さようなら」と別れるのか/竹内 整一
20 「無理」の構造/細谷 功

19 世界の別れの表現は、Good-byeに代表される「神があなたとともにあらんことを祈る」という意味合い、「再見」に代表される「再び会いましょう」という意味合い、そして、「Farewell」に代表される「お元気で」という意味合い、のだいたい3つに分類可能だそうです。その一方で、日本人はもともとは「さようであるならば」という「前に述べられた事柄を受けて、次に新しい行動・判断を起こそうとするときに使う」、接続の言葉である「さようなら」を用いていることを題材に、日本人の世界観、死生観を過去の文献などを遡りながら解説してくれる本です。くどいと思うほどに丁寧に順を追って説明して下さるので、途中少しまどろっこしく感じましたが、その緻密な論理展開は参考になります。「自ら」と同じ漢字で表現される、「おのずから」という受け身で運命論的な側面と、「みずから」という主体的な側面とを行き来する、日本人の言語運用を、「さようであるならば」にも見出して、運命を受け入れつつも自分の意志も尊重する日本人の考え方についての理解が深まりました。「偶然性の問題」は私も最近よく考えるのですが、それを過大評価してニヒリズムに陥ることなく、かつ、過小評価してメリトクラシーの傲慢な非情さにも陥らない、謙虚さが重要だと感じました。死が無であり無でない、という感覚は正直わからない面が多いですが、日本の「さようなら」の背景にはこのような、あいまいさ、に耐える力があるということは心に留めておきたいと思いました。

20 名著「具体と抽象」の作者のコンサルタントの方が、世の中(主にビジネス上)の「理不尽さ」の構造について解説してくれる本です。「理不尽さ」の原因は、「対称性の錯覚」(本来同等でないことを同等だと思い込んでいること)にあると仮定し、コンサルタントらしく、さまざまな「非対称性」が構造化されています。そのほとんどは、究極的には「自分と他人」との非対称性(自分が他人を見る目と、他人が自分を見る目は決定的に異なっていること)にあると思うので、自分を俯瞰して見ることの重要性を再認識しました。他にも、「水は低きに流れる」「盛者必衰」などの昔から言い続けられている人間や組織の特性をビジネス環境に置き換えて説明してくれ、抵抗しても無駄な努力に終わることが多いという諦念を導き出してくれます。その一方で、「コミュニケーション」「公平」「教育」などの概念に限界や制限があると理解しつつも、「だからこそ」(相手を理解しようとするなどの)努力が必要であると訴える、ポジティブな側面も印象的です。要は、よく言われる「自分でコントロールできることとできないものを分けて、コントロールできることに努力を集中する」「自分や組織の思考の癖や歪みを考慮に入れて判断する」ことが重要なのだと思いますが、言うは易く行うは難しいこれらのことを、極めてロジカルに説明してくれるので、一歩一歩取り組めそうな気になります。「無知の知」が大切なことがよくわかる本です。


■映画
15 バビロン/監督 デイミアン・チャゼル
16 植村直己物語/監督 佐藤 純彌

15 「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督による1920年代の映画業界の混沌を描いた作品です。排泄物系のネタが多いことを筆頭にツッコミどころも多いですが、終始、ポール・トーマス・アンダーソン監督作品のようなハイテンションさで、個人的にはかなり気に入りました。アバターの続編と同じく、3時間超えの上映時間ですが、体感としては長さが全く苦になりませんでした(濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」のように、開始30分くらいで、タイトルクレジットが表示されたときはどうなることかと思いましたが)。音楽も素晴らしく、そのグルーブ感が短く感じた理由の一つです。マーゴット・ロビーの好感度を度外視した下衆い演技も素晴らしく、上流階級のパーティーでのご乱心シーンは痛快でした。この演技を権威ある組織が評価することは難しいかもしれませんが、何か賞をあげて欲しいほどです。ブラッド・ピットも怪演が評価された「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」からの良い流れを維持しています。ロバート・アルトマン監督の「ザ・プレイヤー」を思わせるような群像劇や、「アーチスト」でも描かれたサイレントからトーキーに流行が移り変わることによる悲哀、そして、「ニュー・シネマ・パラダイス」そのまんまのエンディングなど、映画をテーマにした過去作品への敬意も存分に感じられます。それでいて、デイミアン・チャゼル監督の作家性がこれでもかというほど感じられる力作です。ウエルメイドな「ラ・ラ・ランド」もよいですが、この破天荒なパワーは何にも代えがたい魅力だと思います。まだ若い監督なのに、キャリアの集大成的な作品にも思え、次回作が怖くもあり楽しみでもあります。

16 西田敏行さん主演の冒険家植村直己さんの生涯を描いた作品です。植村直己さんの不器用さや身勝手さなどの欠点を希釈することなく描きつつ、共感できる人物として描かれている点が好ましいです。植村さんが後に単独登頂にこだわる理由となった、登山家のエゴを真っ向から取り上げられている点も、私も学生時代に少し山登りをしていたのでリアルに感じました。撮影が困難だったであろう、山岳や極地の映像も素晴らしいです。一方、植村さんの著書を読んだことがあるので、映画向けに変な脚色がされていないことはわかるのですが、植村さんとその奥様との絆を描いたシーンは紋切り型で少し興ざめでした(よくある時代劇の夫婦関係のようでした)。とはいえ、植村直己さんの著書の印象に忠実に従った優しい作品だと思います。
コメント
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