本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

小説家を見つけたら

2023-03-05 06:34:14 | Weblog
■本
17 サラリーマン生態100年史/パオロ・マッツァリーノ
18 寺山修司全歌集/寺山 修司

17 日本文化史研究家のパオロ・マッツァリーノさんが、過去の文献や映画等を元に、サラリーマンと呼ばれる人々の生活がどのように変化してきたか(あるいは変化していないか)を解説してくれる本です。経費の使い方や秘書の扱いなど、コンプライアンス的に改善されたものがある一方で、メンタルヘルスの状況や新入社員の捉えられ方など、現在とあまり大差がないものがあるということがよくわかります。パオロ・マッツァリーノさんがよくおっしゃる通り、人間の本質とは100年程度ではそう大きく変わらないのかもしれません(その一方で法律や見せかけの規範は大きく変化している気がしますが)。同じく、通勤地獄の緩和や宴会での芸の強要など、サラリーマンにとって改善されたものがある一方で、謎のビジネスマナー(コロナ禍にリモート会議でのマナーなんてものも出てきましたね)や自己啓発セミナーなど、あまり本質的でない部分で振り回され続けていることもよくわかりました。会社で過去を持ち出して、精神論で説教する人の話はあまり真に受けない方がよいです。パオロ・マッツァリーノさんの相変わらずの軽妙な語り口で、読み物としても面白いです。

18 寺山修司さんの作品は「書を捨てよ、町へ出よう 」と「ポケットに名言を 」しか読んだことがなかったので、どんな短歌を詠まれるのだろうと思い手に取りました。血と土の匂いがする句の一方で、青空やもぎたての果物のような瑞々しい句もあり、その幅の人さに驚きました。肉親についての愛憎入り混じる句も印象的です。半分くらいの句は、正直あまり理解できなかったので、何度か再読したいと思います。
 跳躍の選手高飛ぶつかのまを炎天の影いきなりさみし
 中年の男同士の「友情論」毛ごと煮られてゐる鳥料理
の二句が特に印象に残りました。


■映画
13 斬る/監督 三隅 研次
14 小説家を見つけたら/監督 ガス・ヴァン・サント

13 独特の無常観が漂う時代劇です。エピソードの羅列でストーリーがテンポよく進みます。上映時間も71分と短く、説明しつくさない構成がクールです。その一方で、主人公は天才剣士であるにもかかわらず、その技を習得する過程が全く描かれていないので、説得力に欠ける面もあります。人間の命よりも面子や忠義が優先された時代の、歪さと尊さが血なまぐさくかつシャープに描かれています(上の本17で「人間の本質とは100年程度ではそう大きく変わらない」と書きましたが、命の重さは当時からずいぶんと変わった気がします。逆に、戦争状態になると一気に軽くなる危険性があるとも言えますが)。俯瞰とズームが入り混じる落ち着かない感じのカメラワークも、今となっては新鮮かつ効果的です。監督や俳優を中心に、創り手側の個性がむき出しで表現されている作品だと思いました。ある種パンクロック的です。

14 2000年の作品ですが、メリトクラシーや差別といった現在に通じる問題を巧みに取り上げた素晴らしい作品です。才気あふれる黒人少年と、偏屈な白人老小説家との心の交流という、ありそうでなかった組み合わせの妙を味わえます。学力が優秀な黒人の子どもが、周囲の友人に認められるために、あえて不良行為を行うという話を読んだことがありますが、そのあたりの微妙な問題や、その一方で、今の境遇から抜け出し夢を叶えたいという思いとの葛藤も丁寧に描かれています。老小説家を演じたショーン・コネリーの、この種の映画にありがちな偏屈さ一辺倒ではなく、可愛げや弱さを適度にまぶした演技が素晴らしかったです。少年の圧倒的な能力を利用しようとしたり、妬んだりする人間の醜さを執拗に描く一方で、支える側の人々の優しさが随所に描かれている点も、ガス・ヴァン・サント監督の優しい眼差しが感じられて好感が持てました。友情に年齢差は関係ないということと、家族愛や古い仲間との友情といった、ベーシックなものの大切さに気付かせてくれる作品です。エンドロール背景のストリートバスケの映像にしみじみとした気持ちになりました。
コメント
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