本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

アフター・リベラル

2021-07-11 10:55:28 | Weblog
■本
55 アフター・リベラル/吉田 徹
56 早く正しく決める技術/出口 治明

55 どこかで聞いたようなタイトルですが、リベラルについて学んでみたくて読みました。緻密に積み上げられた論理展開についていくのが大変な読み応えのある本でした。副題の「怒りと憎悪の政治」状況による社会の分裂が、なぜ先進国で深刻化しているのかを、一時は黄金期を迎えた「リベラル・デモクラシー」の変化を追いつつ丁寧に解説されています。市場経済が機能することで分厚くなった先進国の中間層が、グローバル化の進展により衰退し、経済的な優位性に代わる承認欲求を満たす手段として権威主義を選ぶ人が増え、社会に分断が生じていることが説明されています。また、その権威主義の拠り所になるそれぞれのアイデンティティを個々人がある程度自由に設定するようになると、その一体感が損なわれ、かえって個々人の孤立感が高まっていく危機感も示されています。多様な価値観の尊重と社会の統合をどう両立させていくかが課題だと思うのですが、その処方箋としては、筆者が指摘しているようにアイデンティティを過度に普遍のものと捉えない柔軟性と、その差異を理解するための上から目線ではない寛容性にあると思いました。記憶の功罪(アイデンティティの基礎となる一方で、あまりに記憶にこだわり過ぎると他人を許せなくなりかえって自身を不幸にする)に関する、カズオ・イシグロさんの「忘れられた巨人」についての考察は、私がこの本から感じた感想とは異なる視点を与えてくれたのでとても刺激になりました。

56 自分に活を入れたくなると、出口さんの本を読みたくなります。出口さんのこれまでの著書と同様に、「数字」、「ファクト」、「ロジック」で考えることや、人間の能力は所詮大したものではないという達観(その限られた能力の中で直観も含めていかに決断していくか、そして、小さく始めてその失敗からいかに速く学ぶかの大切さも強調されています)に全編が貫かれています。少子化問題など「重い課題」について、「数字」、「ファクト」、「ロジック」を用いて、解決法を考えるとはどういうことかを、ライフネット生命の新卒採用にも使われている問題を用いて具体的に説明して下さっているので、とても参考になります。ロジックの精度を上げるためには、その元になる変数(視点)を多く持ち深く考えることと、そのために議論するメンバーに多様性が必要なのだということもよく理解できました。


■映画
52 見知らぬ乗客/監督 アルフレッド・ヒッチコック

 レイモンド・チャンドラーが脚本に参加している、アルフレッド・ヒッチコック監督のサイコ・スリラーのお手本のような作品です。偶然列車で知り合ったサイコパスの男性に振り回される、主人公の混乱が見事に描かれています。比較的前半で、主人公の苦難に恋人家族が理解を示すので、スリラーではあるものの安心して観ることができます。この点は、この作品の長所とも短所とも言えると思います。さほど動きのないじわじわとした恐怖が続く展開から一転し、クライマックスの回転木馬のダイナミックな映像はとても効果的です。ヒッチコック監督の最高傑作ではないですが、随所に「上手いなあ」と思わせる演出がなされています。節度を持った緊張感とカタルシスが得られる、上品な作品です。
コメント
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