十二月の月明かりの夜空は冷たく透きとおり
今夜は途切れのないクリスタルだったから
心はどんな感情も結ぶことができなかった
刹那を刻む情動の発火が先行して
時制のコマンドは壊れ
数えきれない昼と夜が入り混じり
呼ぶ声も応える声も
どれが自分かわからなかった
いつかあなたといた空があり
今夜もあなたといた
もうすぐ消えようとしている灯を照らすように
病室の外の月はこんなにも綺麗に輝いていた
光が触れた情景が
永遠に保たれるものなら
空の彼方のどこか
はるかに遠ざかりながら
あなたとぼくは
いつまでも同じ場所にいるのでしょうか
真夏の太陽の下で冷たい清流を泳ぎ回り
焼けた岩肌に腹ばいになりながら
川瀬に潜ったあなたの姿を追っていた
あなたは隆々の腕っぷしを見せつけるように
並んで泳ぐ二匹の鮎を一刺しにして銛を突き上げ
こぼれるような笑顔を投げて寄こした
青空を映した水面には
白い雲が流れ
澄みきった光と風のなかで
少年の心は満たされ
水辺には夢と区別されない
黄金の時間が流れていた
横たわったベッドでか細く息をつぎながら
あなたはその意味を受け取る力なきものに
ふり絞るようにわずかに手を握り返した
帰る場所も、留まる場所も、送る場所も
だれも教えてくれないさびしい時代のシグナルが
月の光がつつむこの街に巨大な不在を告げていた
病室を出てから上流の懐かしい土地へ向かった
真夜中の時間、そこにも待ち受けてくれる人たちがいた
ヘッドライトが照らす暗闇の川べりの道を
影が走り、風がわたり、木々がそよぎ、
月明かりの夜空と無明の現在が溶け合っていた
永遠の遠ざかりの臨界に萌すものがあるのでしょうか
心なるものの応えなき応答のいとなみにおいて
冴えわたった月の輝きが
なにかに召喚を促していました
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