イワン・アサノヴィッチには2歳になる孫がいる。初孫の女の子で家族はミイとかミイタンと愛称で呼んでいる。
休日には家族中でよくやって来る。家に着くとパパ・ママの手を振り切らんばかりにして『じィじ!』と言いながら飛びついてくる。イワン・アサノヴィッチも『みーたん、イラッチャイ』などと言いながら破顔で抱き上げる。
そんな二人を冷ややかに眺めている嫁は『あ~あ、じィじとミイは相思相愛だから仕様がない。』と苦笑する。
たまにイワン・アサノヴィッチが外出中だと大変で、ミイは家族に『じィじは?じィじは?』と訊ねまくるのである。そんな話しを後で聞いたりするとますます孫が可愛くなる。
イワン・アサノヴィッチは脳外科手術で明日は入院である。今までに外科手術は6回ほど受けており、3回は入院を伴うものであった。内科の入院も手術も全くないのであるが外科手術はやたらと多いので慣れてしまっている。
今回の入院も手術後1週間で退院できるという比較的簡単な手術であり全く心配はしていない。しかし万が一、手術が成功せずに死ぬようなことがあったら…想像するだに悲しくなることが一つだけある。
2歳のミイである。我が家にやって来ても祖父は他界していない。『じィじは?じィじは?』と家族に訊きまくる姿が目に浮かび目頭が熱くなってしまうのである。そんなことは失笑を買いそうなので誰にも言えない、まして妻にはとうてい言えないのである。
『よくって、イワン・アサノヴィッチ!手術で死ぬかも知れない、すると残されたミイが不憫になるなんて、イワン・アサノヴィッチが悲劇ドラマを勝手に考えるのは自由ですけれど、そんなことは万が一にもなくってヨ。』と一蹴されそうである。
祖父母の家で休日の団らんを終えて帰る段、ミイはイワン・アサノヴィッチに抱きついてなかなか離れようとしない。そんな様子を眺めていた嫁は『ミイちゃん!そんなに甘えたらじィじは入院出来ないヨ。』と苦笑しながら含蓄のあるひと言。
嫁はイワン・アサノヴィッチのこころ秘かな”悲劇ドラマ”を知っているのかも知れない。