僕は医療関係者ではないのでお呼びではない。
だが二度のアナウンスでも誰も動く様子がなく、気になってきた。
仕方がないな、という表情でSさんが小走りに拝殿に向かった。
人が困っているのを黙ってみていられないSさんだから、素人ながらできることをと考えたのだろう、よし、僕もと続いた。
怪我人は賽銭箱を背に横たわっていた。
頭部から流血し、顔を青白くして目を見開いていたが、一刻を争うような状況ではなさそうだった。
だが、どのように対処して良いか知れず、関係者が手を出せずにいる様子である。
そこへSさんが躊躇なく歩み寄り、かがんで男性を膝に抱く。
「目もしっかりしてるし大丈夫、足を温めてあげて。」
場が活気づいて、毛布を用意するなど人々が効率よく動き始めた。
医師免許を持っている男性がやってきて、Sさんの後を引き継いだ。
程なく救急車が境内に入ってきて、ストレッチャーに男性を乗せて出ていくと、皆が一斉に息を吐き出したかのように緊張が緩んだ。
僕はことの次第に戸惑いながらも、男性の回復と場の浄化を祈った。
拝殿ではバケツに水が用意されて、褌姿の男たちがデッキブラシでコンクリートの床を勢いよく擦り流していく。
本殿からは神職が拝殿に斜めに体を傾け、祝詞を唱えている。
次の神楽へと進む前に物心両面の清めが阿吽の呼吸で滞りなく進められていく。
空気が変わった。
ここまでを確認して、一通りことが終わったと肩の力を抜いた。
遅い昼食を買いにコンビニへ向かうか、と時計を見るともう14時を過ぎていた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます