読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

なぜ絵版師に頼まなかったのか 北森鴻 光文社文庫

2010-12-13 23:09:24 | 読んだ
北森鴻は、蓮杖那智シリーズ、冬狐堂シリーズ、香菜里屋シリーズを中心として読んでいたのだが、今年1月40歳の若さで亡くなった。
それ以来、ちょっと気落ちしている。その後佐月恭壱シリーズを読んだのだが・・・
本屋でこの本を見かけたとき、すぐに手にとってしまった。

今度はどういう「仕掛け」なのか?
ということが、一番の興味であった。

で、その仕掛けであるが、

時は明治初期。
主人公は葛城冬馬。(物語の開始時には13歳)

そしてそれを取り巻く重要人物が、東京大学医学部教授・エルヴィン・フォン・ベルツである。
冬馬はフィクションの人物らしいが、ベルツは実在の人物。
文明開化のお雇い外国人として、日本の医学だけでなく美術・工芸品の収集に貢献したらしい。
そして、ベルツとともにお雇い外国人である実在の人物が数多く登場する。

この設定が素晴らしいのであるが、物語はちょっと甘い。
設定に物語が負けているパターンである。

とはいえ、北森鴻である。
そこそこに面白い。

物語は
「なぜ絵版師にたのまなかったのか」
「九枚目は多すぎる」
「人形はなぜ生かされる」
「紅葉夢」
「執事たちの沈黙」
の5編で構成されている。

主人公の葛城冬馬はこの5編で13歳から22歳になる。
その間、ベルツの給仕から東京大学予備門の学生、東京大学の学生、そして医学部を卒業してベルツの助手となる。
明治の時間の進み方の速さのようである。

いずれの物語も、いわゆる推理ものである。
その謎解きがなんとなくゆるいのである。
それはこの物語がコミカルであることもゆえんしているとは思うのであるが・・・

なお、短編の題名はすべて何かの題名をもじっているということだそうだ。
最後の「執事たちの沈黙」だけはすぐわかったのだが・・・
その「執事たちの沈黙」の最後では、続編があるような終わりかただったが、もう望めないものとなってしまった。
かえすがえすも残念である。

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