読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

裁くのは俺だ 大藪春彦 徳間文庫

2009-06-17 22:46:42 | 読んだ
近頃は、学ぶようなもの、考えさせるもの、長いもの、などを読む気が起きない。
その理由はわかっているのである。

で、こんなときには「バカバカしいもの」を読みたい。
バカバカしいというのは、陽気にバカバカしいということだけではなく、陰気でもいいのである。

で、フッと思いついたのが逢坂剛の「ハゲタカ」シリーズである。
あの禿富鷹秋の理不尽さ、無法さはバカバカしいではないか。
しかし、ハゲタカシリーズの第4弾はまだ文庫になっていない。

どうしようかと本屋の棚の前で考えていたとき、思いついた。
『大藪春彦』がいるではないか!

大藪春彦にはまったのは高校時代からだ。
「野獣視すべし」の伊達邦彦、「蘇る金狼」の朝倉哲也、「汚れた英雄」の北野晶夫は憧れの主人公であった。

彼らは、正義なんて考えない。ただひたすらに「金」を得ようとし、策略を練り、身体を鍛え、人を殺し女を犯すのである。(北野晶夫だけはちょっと違うが)

どんなに努力しても彼らのようにはなれない。
彼らは強い心を持ち続けることができる。
自分にはできない、だからこそ、彼らは憧れの主人公であった。

そして、彼らが彼らの思うままに行動することがなんとも言えず「快感」なのである。

人が押さえつけられている「欲望」が彼らによって、物語の中とはいえ「開放」されるからではないか、と思うのである。

そんな大藪春彦ともしばらくご無沙汰していた。
しかし、今の私の感情あるいは状況では、大藪春彦の小説こそピッタリである。

というわけで本書「裁くのは俺だ」を購入した。

主人公は毒島徹夫。保守党の大物・川崎信夫に雇われた怪文書屋である。
彼が川崎の政敵である、江川総理のスキャンダルをマスコミに公表すべく作った文書を川崎の元へ運ぶ途中から、物語は始まる。

凄惨なリンチ、当たり前のようにごく自然の成り行きのように行われる殺人と強姦。
これでもかというように繰り返される。

文字の上だからこそそれが「快感」になる。

そしてマニアックな拳銃と車の表現。

「二基のダブル・チョーク・ウェーバー・キャブが唸りを上げて夜気を吸いこみ、排気音は腹にひびく轟音をあげた。タコとスピードのメータの針がはね上がり、毒島の背はシートに推しつけられる。」

なんと小気味のよい、そしてテンポのある描写だろう。あらためて感心してしまう。

「シリンダー状の弾倉も、近ごろの中折れ式でないリヴォルヴァーの多くが、スウィング・アウト式と言って銃体の左側に振り開くの対し、弾倉は開かずに、ローディング=エジェクティング・ゲートというものがついていて、そこから一発づつ装填したり排莢したりする。」

って、何を言っているかわかりますか?
わからなくても、なんとなくカッコイイではないか。

そして、いつもの主人公たちと同じように、どんなに痛めつけられても毒島の食欲も旺盛である。

「ソーセージ1キロとパセリ30本ほどを黒ビールで胃に押しこんだ」
り、
3日間も傷のため眠っていたのに
「スープにクラッカーを放りこんで、左手に持ったチェダーチーズをむさぼり食った」あげくに、病み上がりだからという制止を聞かず「3個目の1ポンドのチーズに手を伸ばす」のである。

というわけで、
「そりゃないでしょう!」
とか
「あんまりじゃないの!」
なんていうツッコミをいれる間もなく、物語を読み終えてしまった。

そして胸につっかえていたモヤモヤが、アララというまに消えていたのであった。

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