プーチン大統領は「戦争は西側が始めた」などと言っている。それが何を意味しているのか不明だが、何でも他人に責任転嫁するタイプは時々いる。論者の中には「NATOの東方拡大」が原因だとか、2014年のマイダン革命はアメリカによるクーデタだったとか言ってる人もまだいる。前者は事態の評価をじっくり考える必要があり、(ロシアにとって)「遠因」だった可能性はある。だが、それが隣国首都をミサイルで無差別に攻撃することを正当化できるわけがない。
後者は「マイダン革命」の正当な評価ではない。天安門事件や香港民主化運動も「アメリカの陰謀」なのだろうか。マイダン革命が不当なクーデタだったならば、ロシアが求めるべきは「ヤヌコビッチ大統領の復権」である。しかし、ウクライナの民心を完全に失ったヤヌコビッチは、ロシア逃亡後は全く公の場に姿を見せず「使い捨て」された。ロシアがやったことは、秘密部隊を送り込んでクリミア半島を奪取し、ドネツク、ルハンスクの両「人民共和国」を分離させることだった。これらはジョージアやモルドバで起こったことと同じで、ロシアは初めから武力で有利な現状を作りだそうとしてきた。
従って、ウクライナ戦争におけるアメリカの責任は直接的なものではない。だけど、今までの戦後史全経過を考える時、やはりアメリカの責任を指摘せざるを得ない。また、国連安保理の改革も必要だろう。いま、ウクライナに関する問題は、安保理の常任理事国であるロシアが拒否権を行使するから何も決まらない。そういう事態が続いているが、何もこれはロシアの「発明」ではない。むしろ今までアメリカがやってきたことを「学習」したとさえ言えるだろう。
今まで国連加盟国の領土が、他の国連加盟国に軍事力で奪われたことはあるだろうか。国連発足直後に起きた「パレスチナ問題」、つまりイスラエル建国や1950年の朝鮮戦争は、事情が複雑なのでちょっと別にしたい。そうすると、今回のようにロシアがウクライナの4州を併合したことに匹敵する事態は、1990年のイラクのクウェート侵攻(併合を宣言)と、1967年の第3次中東戦争によるイスラエルのヨルダン川西岸(ヨルダン)、ゴラン高原(シリア)の占領が挙げられる。
(ゴラン高原の地図)
1967年の第3次中東戦争では、国連安保理は占領地からの撤退を決議したがイスラエルは全く応じてこなかった。これは実現していない最長の安保理決議になっている。それに対して、イスラエルに制裁を科すことはアメリカが拒否権を使うので不可能である。それどころか、イスラエルは西岸地区に入植を進めているし、ゴラン高原に至っては1981年に「併合」を宣言した。国連や日本政府はその併合を認めていないが、アメリカは2019年3月にトランプ前大統領がゴラン高原に対するイスラエルの主権を認めた。イスラエルの安保理決議違反を棚上げして、ロシアの4州併合だけを批判することは「二重基準」と言うしかないだろう。
また、2003年のイラク戦争は明らかな国際法違反だった。それに先だって、当時のジョージ・ブッシュ(ジュニア)米大統領は、「ブッシュ・ドクトリン」を出して「自衛のための先制攻撃」は認められるとした。イラク攻撃の理由は、イラクのサダム・フセイン大統領(当時)が「大量破壊兵器」の開発を進めているという「疑惑」だった。それは結局証明されないままになり、疑惑は間違っていたとされている。アメリカはイラク領土の併合を行ったりしたわけではない。だが、「自国防衛のため、先制攻撃が許される」という理屈は、プーチンの主張とそっくりだ。要するに、同じじゃないかと言いたいんだろう。
(ブッシュ・ドクトリンを発表)
このイラク戦争を見て、ロシアや中国は「大国は何をしても許される」という先例を作ったと理解しただろう。その意味でもイラク戦争は非常に大きなマイナスを残している。その結果、国連安保理の「常任理事国」の身勝手が横行している。じゃあ、どうすれば良いのか。ウクライナはロシアの拒否権を取り上げろと言っているが、それこそロシアが拒否権を行使するから不可能である。アメリカも拒否権を放棄しないだろうし、5大国はその点では一致するはずだ。それに大国の拒否権をなくしてしまったら、アメリカや中国は国連を脱退するだろう。それを防ぐためにこそ、「拒否権」というアイディアが取り入れられたのである。
(国連安全保障理事会)
しかし、世界各国の政治制度には、様々な工夫を見つけることが出来る。例えば、アメリカでは両院で可決された法案に対して、大統領が拒否権を持っている。しかし、上院、下院双方が3分の2以上で再可決した場合、大統領の署名なしで有効な法律となる。また、アメリカや日本など民主主義国では最高裁判所が「違憲立法審査権」を持っている。5大国の拒否権をなくすことは無理だろうが、国連総会で4分の3以上の賛成があれば、拒否権を覆せるといった仕組みなら将来取り入れる可能性はあるのではないか。または、国連総会で過半数の賛成があれば、国際司法裁判所の判断を求めることが出来るとか。近い将来には実現不可能だが、今後の検討が必要だと思う。
後者は「マイダン革命」の正当な評価ではない。天安門事件や香港民主化運動も「アメリカの陰謀」なのだろうか。マイダン革命が不当なクーデタだったならば、ロシアが求めるべきは「ヤヌコビッチ大統領の復権」である。しかし、ウクライナの民心を完全に失ったヤヌコビッチは、ロシア逃亡後は全く公の場に姿を見せず「使い捨て」された。ロシアがやったことは、秘密部隊を送り込んでクリミア半島を奪取し、ドネツク、ルハンスクの両「人民共和国」を分離させることだった。これらはジョージアやモルドバで起こったことと同じで、ロシアは初めから武力で有利な現状を作りだそうとしてきた。
従って、ウクライナ戦争におけるアメリカの責任は直接的なものではない。だけど、今までの戦後史全経過を考える時、やはりアメリカの責任を指摘せざるを得ない。また、国連安保理の改革も必要だろう。いま、ウクライナに関する問題は、安保理の常任理事国であるロシアが拒否権を行使するから何も決まらない。そういう事態が続いているが、何もこれはロシアの「発明」ではない。むしろ今までアメリカがやってきたことを「学習」したとさえ言えるだろう。
今まで国連加盟国の領土が、他の国連加盟国に軍事力で奪われたことはあるだろうか。国連発足直後に起きた「パレスチナ問題」、つまりイスラエル建国や1950年の朝鮮戦争は、事情が複雑なのでちょっと別にしたい。そうすると、今回のようにロシアがウクライナの4州を併合したことに匹敵する事態は、1990年のイラクのクウェート侵攻(併合を宣言)と、1967年の第3次中東戦争によるイスラエルのヨルダン川西岸(ヨルダン)、ゴラン高原(シリア)の占領が挙げられる。
(ゴラン高原の地図)
1967年の第3次中東戦争では、国連安保理は占領地からの撤退を決議したがイスラエルは全く応じてこなかった。これは実現していない最長の安保理決議になっている。それに対して、イスラエルに制裁を科すことはアメリカが拒否権を使うので不可能である。それどころか、イスラエルは西岸地区に入植を進めているし、ゴラン高原に至っては1981年に「併合」を宣言した。国連や日本政府はその併合を認めていないが、アメリカは2019年3月にトランプ前大統領がゴラン高原に対するイスラエルの主権を認めた。イスラエルの安保理決議違反を棚上げして、ロシアの4州併合だけを批判することは「二重基準」と言うしかないだろう。
また、2003年のイラク戦争は明らかな国際法違反だった。それに先だって、当時のジョージ・ブッシュ(ジュニア)米大統領は、「ブッシュ・ドクトリン」を出して「自衛のための先制攻撃」は認められるとした。イラク攻撃の理由は、イラクのサダム・フセイン大統領(当時)が「大量破壊兵器」の開発を進めているという「疑惑」だった。それは結局証明されないままになり、疑惑は間違っていたとされている。アメリカはイラク領土の併合を行ったりしたわけではない。だが、「自国防衛のため、先制攻撃が許される」という理屈は、プーチンの主張とそっくりだ。要するに、同じじゃないかと言いたいんだろう。
(ブッシュ・ドクトリンを発表)
このイラク戦争を見て、ロシアや中国は「大国は何をしても許される」という先例を作ったと理解しただろう。その意味でもイラク戦争は非常に大きなマイナスを残している。その結果、国連安保理の「常任理事国」の身勝手が横行している。じゃあ、どうすれば良いのか。ウクライナはロシアの拒否権を取り上げろと言っているが、それこそロシアが拒否権を行使するから不可能である。アメリカも拒否権を放棄しないだろうし、5大国はその点では一致するはずだ。それに大国の拒否権をなくしてしまったら、アメリカや中国は国連を脱退するだろう。それを防ぐためにこそ、「拒否権」というアイディアが取り入れられたのである。
(国連安全保障理事会)
しかし、世界各国の政治制度には、様々な工夫を見つけることが出来る。例えば、アメリカでは両院で可決された法案に対して、大統領が拒否権を持っている。しかし、上院、下院双方が3分の2以上で再可決した場合、大統領の署名なしで有効な法律となる。また、アメリカや日本など民主主義国では最高裁判所が「違憲立法審査権」を持っている。5大国の拒否権をなくすことは無理だろうが、国連総会で4分の3以上の賛成があれば、拒否権を覆せるといった仕組みなら将来取り入れる可能性はあるのではないか。または、国連総会で過半数の賛成があれば、国際司法裁判所の判断を求めることが出来るとか。近い将来には実現不可能だが、今後の検討が必要だと思う。
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