尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「宮本から君へ」、異様な熱量

2019年10月12日 22時59分25秒 | 映画 (新作日本映画)
 真利子哲也監督、池松壮亮蒼井優主演の「宮本から君へ」は、全編に異様なほどの熱量があふれた作品だ。池松壮亮は有力な男優賞候補になるだろう。もちろん蒼井優もすごい熱量で、ほとんど二人の演技合戦が繰り広げられている。(蒼井優は今までずいぶん受賞しているから、賞レースではスルーされちゃうかもしれないが。)もともとは新井英樹のマンガで、有名らしいけど僕はマンガに詳しくないから知らなかった。去年映画化された「愛しのアイリーン」の原作者でもある。

 2018年に同じく真利子哲也監督、池松壮亮主演でテレビドラマされ、その時は池松演じる主人公宮本浩が営業マンとして奮起する姿が描かれたという。それが原作の前半で、映画は蒼井優演じる中野靖子をめぐる後半部分だという。真利子哲也監督は、日本映画界に数多い若手注目監督の中でも、2016年の商業映画デビュー作「ディストラクション・ベイビーズ」が半端ない傑作で深い印象を受けた。前作でも今作でも、画面に立ちこめる熱気が心をとらえる。

 もっとも熱気があふれすぎ、原作時点でも主人公宮本を「暑苦しい」と毛嫌いする人がいたらしい。映画でも「そこまでやるか」的な展開に付いていくのが精一杯な感じもある。原作前半を知らずに見たわけだが、時間が行ったり来たりするから、「何があったんだろう」的なミステリー的な興趣がある。冒頭で宮本がケガした腕を包帯で吊ったシーンがある。会社で「ケンカ」だと言っている。続くシーンではケガしてなくて、二人連れで女性の部屋に行く。そこに前の男・風間(井浦新)が乱入してきて、女はもう来るな、もう何度も宮本と寝たと突き放す。その後宮本が「中野靖子は俺が守る」と宣言する。その後になって、実はまだ体の関係はなく、この後で初めて結ばれるシーンが出てくる。
(池松壮亮と蒼井優)
 ここで予測するのは、風間がストーカーになって、宮本が対抗してケンカという展開なんだけど、これが全く違う。予想も出来ない怒濤の展開になっていくので、唖然として見つめるしかない。その間に宮本家を二人で訪ね、あるいは中野家(銚子にある)を二人で訪ねるシーンがある。結婚を「報告」するためだ。その時点で「妊娠」しているらしい。このような幸福な展開はその後全然変わってしまう。飛び込み営業に成功してた会社の飲み会に呼ばれ、ラグビーに参加するよう強要される。そして飲み潰れた宮本を会社の社長の息子、拓馬一ノ瀬ワタル)が送ってゆく。

 この後の展開は書かないけれど、宮本浩大丈夫かというか、池松壮亮どこまでやるの?的な描写が続く。こんなに肉体的にぶつかり合う映画としては、2017年に「あゝ、荒野」があった。その脚本を書いた港岳彦が、真利子哲也とともに今回の脚本を担当している。あの映画の菅田将暉も凄かったが、今回の池松壮亮も決して負けていない。むしろ体格差がある分、強烈なファイトを感じる。いま日本でラグビーのワールドカップが開かれているが、この映画を見てしまうと、なんだかラグビーって嫌だな、でかい相手とぶつかるなんてと思ってしまう。
(左から蒼井優、池松壮亮、井浦新)
 後半で起きる「事件」をきっかけに、宮本浩と中野靖子が正面から魂のぶつかり合いになる。その壮絶な演技は見る価値があるが、じゃあ見て寛げるかというと、なんかここまでむき出しの感情もなあ、と思うかも。見て快くなる映画ではなく、観客にも「毒」を与える映画だ。しかし、その毒は紛れもなく「日本社会」を反映している。このような暴力性が日本には潜んでいる。撮影は四宮秀俊、音楽は池永正二。ラストに流れる主題歌は宮本浩次。エレファントカシマシのヴォーカルで、原作者が主人公の名をそこから取ったという話。好きじゃない人もいるだろうが、破格のエネルギーに満ちた映画。
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