尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜」

2020年03月23日 22時45分47秒 | 映画 (新作日本映画)
 テレビCMでも宣伝しているドキュメンタリー映画「三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜」を早速見てしまった。すごく関心が深いというよりも、単に時間的に見やすかっただけだが、思ったよりも面白かった。大手シネコンで拡大公開しているが、どこか単館で上映すべき映画じゃないか、果たして見る人がいるんだろうか、すぐに上映終了になっても困るなという心配もあった。それも早く見ておこうと思った理由だ。そうしたら暖かな休日ということもあるだろうが、案外観客が多くて驚いた。ウイルス対策で隣同士は空けてチケットを売るとか言ってたはずが、隣にも客が来たのでビックリ。

 僕は今「思ったより面白かった」と書いた。実は「討論 三島由紀夫vs.東大全共闘―美と共同体と東大闘争」という本は読んでいるのである。2000年に角川文庫に入ったものをかつて読んだけれど、その圧倒的なつまらなさに驚いた。今回はTBSが取材していたフィルムが新たに発見され、それを基にして映画を作った。当時TBSは学生運動の取材に力を入れていて「学生班」があったという。一方、三島側も新潮社のカメラマンを呼んでいて、よく使われる写真(下の画像)は新潮社が撮ったものだという。

 本で読むと「臨場感」が少ないのもあるが、討論の観念的上滑りが今では読むに耐えない感がした。しかし映像だと、表情やしぐさなどを通して「身体的」な理解が可能になる。そして、それ以上に議論が空転すると実録映像を切って、解説映像を加えることで見る側の気持ちが途切れずにいられる。その意味で、「実録」というよりも豊島圭介監督(1971~)を中心にしてドラマ的に再構成されたものだ。豊島監督は今まで劇映画やテレビドラマを作ってきた人で、それが生きたかもしれない。

 ところで、映画を見て一番の感想は「煙いなあ」ということだ。当時は特に男性の喫煙率が高いから意外ではないが、子連れで参加した芥正彦(演出家、劇作家)もいた。幼児が壇上にいたのに誰も喫煙を注意しないのである。芥は妻がその日仕事だったので、子どもを連れてきたらしい。壇上がヒートアップし過ぎないよう、子どもがいてもいいと思ったらしい。それも判らないではないが、今見ると「虐待」である。三島由紀夫も人工的な「肉体改造」を行っていたわけだが、今ならばそういう人は禁煙が常識だ。三島がずいぶん喫煙しているのにも驚いた。
(左=芥正彦)
 議論自体はここでは触れない。というか、あまり覚えてない。今となっては、「全共闘」も「楯の会」(三島が作った私兵組織)も意味を失っている。三島は討論の中で「全学連」と言うことが多く、「全学連」と「全共闘」の相違を意識していない感じがする。この違いを理解出来ない人が今は多いらしいが、「全共闘」は左翼セクトとは違う(「隠れ新左翼」はいたかと思うが)。今見ると、戦後思想の異端だった「全共闘」と「三島」が「価値破壊者」、あるいは「反知性主義」としての共通性が多く見えてくる。

 映画を見るだけでは「三島の魅力の優勢勝ち」だ。本を読んだときは「引き分け」に思ったが、映像で見ると三島の反応の良さに感心する。中でも触れられているが三島は「からっ風野郎」(「やくざ映画」と紹介されているが、確かにヤクザ役だが、増村保造監督の作品である)という劇映画に出ていた。「大根役者」というにも当たらない無様な演技だった。その後「人斬り」、自ら作った「憂国」などにも出ていて、映像で三島を見る機会は多いのだが、それらで見る違和感と違ってユーモアたっぷりで余裕も感じさせる。大学の討論会によく出ていたらしいが、議論の方が得意だったということだろう。

 三島由紀夫は1970年11月25日に自衛隊に乗り込み割腹自殺をした(いわゆる「三島事件」)わけだが、思えば2020年は「50周年」になるのである。今生きていれば95歳になるので、映画に出てくる瀬戸内寂聴は97歳だから瀬戸内の方が年長ではないか。この映画のコメンテーターの多くは、理解を深めるという意味ではあまり参考にならない感じだが、取りあえず気分転換にはなる。

 三島はこの時に有名な言葉、「君たちが天皇と一声言えば共闘できる」と言ったわけだが、50年経って映画に出てくる内田樹を初め多くの人が「天皇主義者」を自認するに至った。しかしこれは「共闘」じゃなくて「屈服」(現代的大衆社会に適応した政治制度に対する)だと思う。僕はこの討論会に出ていた小阪修平(評論家、「思想としての全共闘世代」など、2007年没)が生きていればどんなコメントをするだろうと思ってしまった。
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