尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

アクションスター千葉真一の訃報

2021年08月22日 17時39分19秒 | 追悼
 千葉真一の訃報が伝えられ、死因が新型コロナウイルスによる肺炎だというので驚いた。8月19日没、82歳。ワクチンは自らの意思で打っていなかったという。ここ数年東映のアクション映画で活躍した俳優が続々と鬼籍に入っている。高倉健菅原文太松方弘樹梅宮辰夫など。そのたびに「昭和の名優がまた一人亡くなりました」などと報道された。名優が「有名な俳優」なら当てはまるだろうが、「名演技をした俳優」と解釈するなら疑問があると思ったりした。千葉真一に関しては、さすがに「昭和の名優」とは報じてないようだ。
(千葉真一)
 千葉真一とはどういう俳優だったんだろうか。僕は千葉真一は日本映画史上最大のアクション・スターだったと思う。日本のアクション映画の歴史は大体が「時代劇」だが、時代劇のアクションはほとんどが様式化された舞踊のようなものだ。危険なシーンはスタントマンが演じている。それに対し、体操選手であり、極真空手少林寺拳法等の有段者だった千葉真一は、アクションシーンを自ら演じた。さらにアクションを演じる俳優・スタントマンを育成する日本アクションクラブ(JAC)まで創設した。真田広之、志穂美悦子らを輩出したJACこそ千葉真一の最大の功績ではないか。なおJACは1991年に日光江戸村に売却されたと出ていて驚いた。

 テレビ「キイハンター」(68年~73年)で人気を得、共演の野際陽子と結婚した。また「仁義なき戦い」シリーズの大友勝利の演技で評判を呼んだ。そういうことは訃報で振り返られるが、僕は千葉真一の真価はそういう有名な映画じゃないと思う。ある時代まで世界中で「会社システム」で作られた新作娯楽映画が毎週のように公開されていた。時にはスターが集結した「大作映画」も作られたし、中には社会派・芸術派監督の映画も存在したが、多くの映画は後に顧みらることもない「プログラム・ピクチャー」だった。千葉真一もそういう娯楽映画の栄光と悲惨を身を以て担ったことに一番の価値があるんじゃないかと思うのである。
(「仁義なき戦い」の大友組長)
 その意味では、東映で70年代半ばに数多く作られたカラテ映画こそ、千葉真一の代表作ではないか。任侠映画路線が下火になった70年代半ばの東映映画を千葉の映画が(「実録映画」と共に)支えていた。1974年からの「激突!殺人拳」シリーズ、「直撃!地獄拳」シリーズなど数多く作られ、荒唐無稽ながらも小沢茂弘や石井輝男監督の手堅さもあってなかなか面白く見られる。さらに千葉が大山倍達を演じる「けんか空手」シリーズも作られた。それらのカラテ映画はアメリカや東南アジアでもヒットし、「Sonny Chiba」(サニー・チバ) として千葉真一は世界に知られた。ブルース・リーの急死以後、千葉真一が世界一のアクションスターだった。
(「激突!殺人拳」)
 その後「大作映画」の時代には、「柳生一族の陰謀」や「戦国自衛隊」「魔界転生」などでも大活躍した。そういう大掛かりな映画は僕は好きじゃないんだけど。それよりは中島貞夫監督の「沖縄やくざ戦争」(1976)が壮絶だった。中島監督とは1969年の「日本暗殺秘録」でも組んでいて、その小沼正(血盟団事件)役の演技は大きく評価された。また「仁義なき戦い」や「柳生一族の陰謀」の深作欣二監督とも初主演映画の「風来坊探偵」シリーズ(1961)からの長い付き合いだった。まだ深作も千葉も手探りだったが、次の「ファンキーハットの快男児」シリーズ(1961)では千葉アクションも深作演出も軽快に躍動している。

 90年代になると本格的なハリウッド進出を試み、JACも売却し日本残留を望む野際陽子とも離婚した。そして数多くのアメリカ映画、香港映画などに出演したが、中には未公開のものも多く、日本国内では大きな評価を受けたとは言えないだろう。その中では友人でもあったクエンティン・タランティーノ監督の「キル・ビル」への出演が話題となった。この映画は全編が「女囚さそり」「修羅雪姫」など日本映画へのオマージュみたいな映像が続くが、千葉の役も「100代目服部半蔵」というから笑っちゃう。さすが歴史の浅いアメリカ人だけあって、100代目って何時代の話だよと思ったけど、まあ全体が荒唐無稽なんだからいいか。
(「キル・ビル」)
 本人はまだまだ元気で活躍するつもりだったようだが、やはりワクチンを打っておくべきだったと思う。世界的に知られたアクションスターという意味では、間違いなく「不世出」のスターだった。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 東京都のパラリンピック学校... | トップ | 「セヴンティーン」2部作、テ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

追悼」カテゴリの最新記事