尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

シベリア抑留死亡者名簿を作った人

2011年08月05日 21時50分10秒 | 〃 (さまざまな本)
 「積ん読」本もどんどん読まなくてはいけない。今日紹介する本は2年前に出た本。村山常雄「シベリアに逝きし46300名を刻む(七つ森書館)という本で、これは全員に勧める本ではない。それはこの本がシベリア抑留に関する一般的な概説書ではないからだ。シベリア抑留、あるいは戦後処理問題に関心がある人は、是非そろえておきたい本だと思うが、中身はかなり細かい名簿作りのディテイルが中心で、この問題にくわしくない人が最初に読む本ではない。(最初に書いておくと、概説書としてはまず栗原俊雄「シベリア抑留」岩波新書、白井久也「検証シベリア抑留」平凡社新書の2冊が近年に出てまとまっている。さらに深める場合は、高杉一郎「極光のかげに」岩波文庫、石原吉郎の詩やエッセイ、内村剛介の著書などなどを読んでほしい。)

 この本はシベリア抑留死亡者名簿を作った村山常雄というすごい人、素晴らしい人を紹介し、記念するという意味がある。新潟の中学教員だった村山さんは、退職後70歳になってパソコンを買い、シベリア抑留の死亡者の名簿を整備し始めた。ものすごい苦労のすえに、大部の名簿を自費出版し、2006年吉川英治文化賞、2009年日本自費出版文化賞を受賞。自費出版文化賞の選考委員だった色川大吉、鎌田慧両氏のすすめにより名簿そのものではない解説の部分を出版したのがこの本である。

 村山さんは自身もシベリア抑留体験者だが、そこでの死者一人ひとりの名を確定し、死亡地、死亡年月日等をまとめていくという、(本来なら国家が行うべき作業だが)、ものすごい苦労がある作業を一人で行ってきた。その思いの奥には、死者の数が問題でないとは言わないが、そしてもちろん多数の死者の方が重大ではあるが、その前に、誰が、どんなふうに死んでいったのか、その一人ひとりが重いのだという気持ちがある。単なる数で死者を語って欲しくないという思いだ。

 シベリア抑留の本質を語るのは大変なので、この恐るべき戦争犯罪、人権侵害のくわしい中身は是非前記の本を読んでほしいが、名簿を作るということはどういうことか?ソ連は戦後長らくこの犯罪的行為の死者を日本に報告しなかった。80年代後半になりゴルバチョフのペレストロイカ時代になって初めて、日本に断片的に何回かにわたり名簿が手渡された。しかもその名簿は、日本名がロシア語(キリル文字)で表記され、しかも長年月たっているために、誰と判断するのがとても難しいものだった。たとえば、同書から引用すれば、「トーイヨタキ・ホンデセロ」「コ(カ)ムチ・チュボ(バ)タ」とあるのは一体日本人の名前なんだろうかと思いながら、諸資料を当たりつつ、「富高平十郎」「坪田鋼一」と確定してという「解体新書」の翻訳みたいなことを延々と続けるということなのだ。「ヘボン」と「ヘップバーン」が同名だというようなもので、実に大変な知識と推理力と事務作業がいる。いや、すごい。これは驚くべき業績だと感銘を受けた。

 あとがきには、単純に平和と言わないでほしいと書いてある。言うのなら、「平和」の前に、必ず「不戦」「反戦」「非戦」などをつけ、「不戦平和」「反戦平和」「非戦平和」と言ってほしいとある。この言葉の重さははかり知れない。

 村山さんが打ち込んでまとめた名簿はホームページ上に公開されている。「シベリア抑留者死亡者名簿」である。この名簿の50音順「お」の7ページ、8361番、「尾形 眞一郎」は父健次郎の兄、つまり伯父である。1946年1月7日、チタで死亡。
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1 コメント

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Unknown (呉一郎)
2011-08-06 10:27:03
シベリアと聞くと、異国の丘が脳内を流れます。第二次大戦で犠牲となった方々が愛した郷土が、殆ど人為的に半分ぶっ飛んだという事実を見つめず、大本営発表を鵜呑みにし、菅の揚げ足取りや民主党批判を繰り出す右の方々には愛想が尽きます。愛すべきは国民より領土を守る政府ではなく、人と郷土だということが、改竄された教科書や連日のナショナリズムを煽りたてるドラマによって消し去られていますね。

権門上に傲れどもU+A0
国を憂うる誠なしU+A0
財閥富を誇れどもU+A0
社稷を思う心なし

ああ人栄え国亡ぶU+A0
盲たる民世に踊るU+A0
治乱興亡夢に似てU+A0
世は一局の碁なりけり

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