尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

日米地位協定を考える2冊の新書ー『日米地位協定』『日米地位協定の現場を行く』

2024年04月22日 23時00分55秒 | 〃 (さまざまな本)
 日米地位協定を考える2冊の新書。まず山本章子宮城裕也日米地位協定の現場を行くー「基地のある街」の現実』(岩波新書、2022)を読んだ。今まであまり「沖縄の基地問題」や「日米安保条約」などの記事を書いていない。世界のすべての社会問題を書けないので。でも問題意識は持っていて、新書レベルなら買って勉強したいと思う。著者の宮城氏は毎日新聞記者で、山本氏は琉球大学准教授。その山本章子氏は『日米地位協定』(中公新書、2019)で石橋湛山賞などを受賞したと紹介されていた。果たしてその本を読んだのか、買ったけど読んでないのか。そうしたら他の本を探した時に出て来たのである。

 『日米地位協定の現場を行くー「基地のある街」の現実』というのは、まさに題名通りの本で「基地のある街」現地ルポである。宮城裕也氏(1987~)は沖縄県宜野湾市生まれで、沖縄国際大学卒業後、毎日新聞に入社した。つまり沖縄の「基地問題」を身近に知っていて、本土の青森県などで勤務したのである。青森赴任時は米軍基地のある三沢を訪れ取材を重ねてきた。その他に首都圏の厚木基地や山口県の岩国飛行場、そして自衛隊築城基地新田原基地、種子島近くの馬毛島、沖縄の嘉手納基地を取材してまとめたのがこの本である。各地の実情がよく判るので、読む価値がある。

 宮城氏が出た沖縄国際大学と言えば、2004年8月13日に起きた「米軍ヘリコプター墜落事件」を思い浮かべる人も多いだろう。宮城氏は高校2年生だったが、この事故がきっかけになって沖国大に進学して基地問題を学んだという。この事故は夏休み中だったので奇跡的に人的被害がなかったが、大学キャンパス内に米軍ヘリが墜落したのである。一つ間違えば大惨事になりかねなかった。それとともに、事故直後の米軍が一帯を封鎖して日本側の警察、消防、自治体関係者も中へ入れなかった。もっともその措置は「合法」である。「日米地位協定」があるからだ。さらにこの本で知ったが、国会審議を経ない「合意議事録」というのが根底にある。
(沖国大米軍ヘリ墜落事故)
 そのように米軍基地で起こることに日本側は発言権がないとなれば、全国で「民族派」の怒りが爆発するのかと思うと、もちろんそうではない。それどころか、この本で読むと「米軍基地とは共存していく」と思っている現地の声がかなりある。もちろん騒音問題などが揉めているところはあるが、全国各地で「基地は迷惑だから米軍は撤退して欲しい」と思っているだろうという思い込みは間違いなのである。それにしても、最近大問題になっている基地による水質汚染なども、日本とドイツでは対応が違うようだ。「国防」の名の下に「国民生活」が脅かされる。帯にあるように「日米同盟のもうひとつの姿を映し出す」本である。
(山本章子氏)
 じゃあ、その地位協定とは何だろうかと問うときに、山本章子日米地位協定』(中公新書)はまず読むべき本だろう。もっとも新書本と言っても短い学術書という感じなので、全員読むべしというのはちょっと大変か。それでも頑張って読めば、戦後日米「同盟」史のあらかたの流れがつかめるだろう。戦後のサンフランシスコ講和条約と同時に締結された「日米安保条約」。その時に結ばれたのは「日米行政協定」だった。そして、安保条約が改定されたとき(「60年安保」)、行政協定が「日米地位協定」に改められた。しかし、同時に非公開の「合意議事録」が作られたわけである。

 それからヴェトナム戦争、沖縄返還、「思いやり予算」と続き、1995年がやってくる。米兵による少女暴行事件が起こり県民の怒りが爆発した年である。それら全部を細かく紹介する余裕がないが、表面的には覚えているニュースの裏にこういうからくりがあったのかと思った。沖縄県は直接協定改定を要望している。ドイツ、イタリア、韓国と比べても、地位協定改定交渉を日本政府が全くネグレクトしているのは何故だろうか。しかし、現実にはなかなか難しいのだと思う。日本政府はジブチに自衛隊基地を置いていて、そこでは同じような「地位協定」を結んでいるからである。

 そして、問題はそれだけではない。地位協定を改定して、米兵が犯罪行為を起こした場合、直ちに日本当局が身柄を拘束出来るようになったとする。その場合、日本の警察、検察の取り調べ時には弁護士の同席が認められていない。そのような「野蛮な司法制度」を有する国に、米国民を委ねてよいのか。そういう声がアメリカで湧き起こり議会の承認が得られないに違いない。日本の様々な制度が国際的な人権水準を満たしていない現状があるのは間違いない。アメリカから見れば、日本は「アジアの後進国」であって「不平等条約の対象国」とまでは表面的には言わないだろうけど、底流にはそういう見方があるんじゃないか。

 なお、山本書でイタリア憲法に戦争放棄条項があると知った。Wikipediaのイタリア憲法を見ると、以下のような条文である。「イタリアは、他人民の自由に対する攻撃の手段としての戦争及び国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄する。国家間の平和と正義を保障する体制に必要ならば、他の国々と同等の条件の下で、主権の制限に同意する。この目的を持つ国際組織を促進し支援する。」イタリアも敗戦国で、国民投票で王政を廃止してから、新たな共和国憲法を制定した。この結果、ドイツがアフガニスタンに派兵し(数多くの犠牲者を出した)のに対して、イタリアは同じNATO加盟国であってもPKO活動以外に自国外に軍隊を送らないという。その制定過程や運用実態はよく知らないが、比較検討が必要だろう。

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