尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

10代が「改革の党」自民に投票する日-18歳選挙権⑤

2016年02月23日 23時49分43秒 |  〃  (選挙)
 投票率を見たので、続いて10代の「投票行動」を。もちろん、現時点では候補者や争点も出そろっていないので、当然これから変わっていく部分がある。そういうことがあるとしても、今のところどうなりそうかを予測しておきたいと思うのである。現時点では「若い世代も政治を学ぼう」キャンペーンみたいなものはあるが、「若い世代」に向き合った政策を打ち出している政党はないように思う。そうすると、このまま推移すると、「10代特有の事情」からしても、一般的な動向からしても、やはり半数程度は自民党に入れるのではないか。さまざまな調査結果からすると、20代の自民党支持率は高くなっている。10代だけ、他世代と全く違う投票行動を行うとは予想できない。

 先に結論を書いてしまったけれど、年長世代の思い込み、あるいは「期待」からすると、意外かもしれない。今の60代以上の世代だと、高年層が自民党、若年層が社会党や共産党が多い印象があった。当時の大都市に多かった「革新自治体」も若い有権者の支持が高かったと思う。昔の感覚からすれば、若い時期は反体制的なものであり、若い時は「革新支持」、それが社会経験を経ると「現実的」になり「保守支持」になると通説的に思われていた。

 また、一部の「脳内ヴァーチャル右翼」のような人々がいつもいて、教育界は左翼教員組合に牛耳られていて、反日偏向教育を行っているなどと気勢をあげる。そうすると、大学や高校に在学している若い有権者は、教師の影響を受けて民主党(日教組が支持)や共産党(全教が支持)に入れなくてならない。しかし、もちろんそんなことがあるわけがない。大体、そうだったら、戦後ずっと自民党政権が続いている理由が判らない。組合組織率も3割強しかないのに、そんな影響があるわけがない。

 それ以上に、若い世代だって自分で判断するわけだし、教師より親の影響の方がイマドキずっと大きいだろう。もっとも基本的なことは、若い世代(に限らないが)は、「学校で教えていること」は「世の中のタテマエ」の部分であり、「校門内だけで通じる」ものだと思っているだろうことである。そうじゃないとアルバイトもできない。大学生なんかだと、やっぱり自分の先生はサヨクなのかなと感じてレポートなどは適当に合わせていても、投票所では違う行動を取る場合も多いだろう。「秘密投票」も普通選挙の大事な要素だと学校でも教えているわけだし。

 では、「SEALDs」(シールズ)などの昨年来の若者の活動は影響しないのだろうか。いや、そんなことはないだろう。当然一定の影響はあると思う。だけど、新しく増える約240万の新有権者のどれだけに浸透するだろうか。昔の「60年安保」も「全共闘」も、絶対数から言えばその当時の若者のごく少数(1割程度)しか関わっていない。当時の大多数を占めていた「都市の若年層労働者」は無関係である。現在でも、「安保問題が最大の争点」だと考えているのは、少数の意識層に限られているだろうと思う。もっとも意識層以外の人でも、調査で聞かれれば「集団的自衛権には反対」「原発には反対」と答えるかもしれない。だが、そのことを最優先して投票行動を取るかどうか。他の世代ではそうなっていない。当然10代もそうだろう。それがリアルな認識だと思う。

 では、10代にとって「10代特有の事情」とは何だろうか。それは数年以内に「就職活動」があるということである。早ければ現役高校生の就職希望生徒、ついで専門学校や短大の就職、そして2020年前後に4年生大学生の就活がやってくる。20年近く、「就職氷河期」と言われてきた。それがこの数年ようやく上昇してきたのである。多くの国民の認識は「アベノミクスが一応成功しているからではないか」ということだと思う。いや、違う、「アベノミクス」は失敗するという学者もいる。確かに全然物価上昇率の目標など届かない。「デフレ」が終わったと言えない状況が続いている。大体、民主党政権でもGDPは上昇していた。日本経済は、リーマンショックや東日本大震災からの自律的回復を続けていると見るのが正しいのかもしれない。だけど、企業業績は向上し、就職事情も好転したのは間違いない。

 それに「復興」や「五輪」を契機にして、大学や専門学校が多い大都市では「求人難」がはっきりしている。それに伴い、「アルバイト賃金の上昇」が続いている。特に、クリスマス商戦がある12月のアップが大きい。当然、今年の夏の学生アルバイト事情も好調だろうと予測できる。高年齢層では、社会福祉や実質賃金の減少などがあるから、世論調査では「景気快復の実感はない」という声が強い。だけど、生計維持者ではない学生層にとっては、アルバイトの時給が上がっていることは、「アベノミクスの恩恵」と映るのではないだろうか。ほとんど唯一、そういう「アベノミクス実感層」である可能性がある。

 だけど、若い層は本来、保守的であることを嫌い、新し物好きではないのか。それはそうだろう。だから、民主党が新しい感じを持っていた時代には、若者は民主党に入れていた。イデオロギー的な対立軸がはっきりしていた時代には、資本主義経済体制を維持する自民党に対して、社会主義を主張する党が「革新」だった。だけど、とっくにそういう時代は終わっている。今は主に政策イメージで、決められる。民主党は一回政権を取って、その時代を忘れていない国民は、今では新しいイメージが消えてしまった。共産党は同じことを言い続けて古いイメージを持たれていたが、最近になって候補を若くしたことなどもあり、若い有権者にとって「新しく発見された」感じもある。

 一方、一番「新しい」イメージを持たれているのは、実は自民党ではないかと思う。「日本を取り戻す」というのだから、「新しい」というより「古い」というべきだろうが、それでも大体の事柄を「変える」と主張している。憲法を変えるし、古い労働法制を変えるとも言う。TPPでは「攻めの農業」と言い、教育や税制なども変えると言う。反対派(というか僕自身)から見れば、それは「悪く変える」ことでしょうと言うような内容ばかりである。でも、野党側があれもこれも「守る」と言うことと比べてみれば、イメージとしては、民主、共産、社民などが「保守党」、自民党こそ「革新党」に見えるわけである。

 労働法制を変えたり、「女性が輝く」というのは、どういうことだろうか。若者が正社員に採用されず、ずっと非正規で働かなくてはいけない。それはどうしてか。それは古い労働法制で守られた高年齢層がいるのと、中国などの影響である、と宣伝される。でも、実際にさらに企業よりのルールになれば、相当優秀な学生以外は正社員になれない。企業はむしろ外国人社員を採用するだろう。その上、今まで家計を支えていた父親もリストラされてしまいやすくなる。それでは困ると言うなら、主婦だった母親がパートに出ればいいというのが「女性が輝く」ということだろう…などと僕は思ってしまうのだが、そういう時に「中国が悪い」などと言えば安心できる人もいるのだろう。

 ところで、今後本格的に「若者政策」を打ち出す党もあるかもしれない。また、最近そういう機運もないではないが、やっぱり自民党がおごっている、議席が多すぎるから気が緩むのであって、少しお灸をすえておかないといけないというムードが高まるかもしれない。そうなると、若い層は「自民の投票」=ダサいとなるから、若者票は逃げていくだろう。それでも、経済事情が一定の好調を示しているかどうかがベースになる。若者層であっても、それが第一の投票基準(自分ではそう思ってなくても)になっていくだろうと思う。現時点での予測ということで。
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