ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』(服部京子訳、創元推理文庫)が刊行された。昨年翻訳されて大評判になった前作『自由研究には向かない殺人』の続編である。この作品はイギリスの女子高生が探偵役になる小説で、フェアな謎解き、現代のSNSを駆使した推理、主人公の魅力など非常に素晴らしい小説だった。だから続編も早速読んだわけだが、全く期待を裏切らない傑作だ。邦訳だと「向かないシリーズ」という感じだが、原題は第1作が“A GOOD GIRL’S GUIDE TO MURDER”で、第2作が“GOOD GIRL,BAD BLOOD”なので、GOOD GIRLシリーズということになるだろうか。
この作品は前作から引き続く設定になっている。最初の方で1作目の真相が明かされているから、1作目から読まないといけない。前作は女子高生ピップが学校の自由研究として、町の未解決事件を調べる話だった。事件と探偵役ピップの細かな設定は前作の記事を参照。1作目は「ピップ大いに頑張るの巻」とでもいう感じで、ピップは二人の死者にまつわる驚くべき真相を明らかにした。その結果、ケンブリッジ大学への推薦入学も決まり、全国的にも注目された。イングランドのスモールタウン、小説の舞台リトル・キルトンでは、前作で真相が明かされたアンディとサルの追悼会が開かれることになった。
ところがその追悼会に出たまま、同級生コナー・レノルズの兄、ジェイミーが行方不明となる。今までに家出したこともある24歳、警察にも届けたが重大性を認めず捜査はしてくれない。しかし、突然スマホのやり取りも止まってしまい、コナーと母はいつもと違うと心配する。思いあまったコナーはピップに頼むことを思いつく。ピップは第1作事件に関するポッドキャストをやっているので、そこで情報を集めて欲しいというのである。ポッドキャストというのは米英の小説に時々出てくるけど、もともとはiPodなど携帯プレーヤーに音声データをアップして配信する仕組み。今では画像も配信できるというが、ピップは音声でやってるらしい。日本では聞かないけど、感じで言えば「人気YouTuber」というあたりか。
(原書)
しかし、ピップは悩む。前作の最後で大変な目にあって、心配した母に二度と「探偵のまねごと」はしないと堅く約束させられたのである。だから、ピップはまず警察に捜査を督促に行くが、相手にされない。その後もまったくジェイミーとは連絡が取れず、家族が心配するのも無理はない。ピップしか頼れる人がないといわれ、「義を見てせざるは勇なきなり」と持ち前の正義感と義侠心から捜索に手を貸すことになる。まずはコナーと母から情報を集める。何故か父親は大事視してなくて相手にしてくれないけど。ジェイミーのパソコンを見たいのに、パスワードを何度試しても入れない。まずは写真入りのポスターを作ることにする。
こうしてピップは再び捜査を始めてしまう。次第に明らかになるジェイミーの不審な行動。追悼会で彼は誰を見たのか。その夜、彼はどこに行ったのか。いろいろと判明するおかしな行動。最近のジェイミーには明らかにいつもと違う様子だったらしい。その原因には「ある女性」とのつながりがあったようだが、その人物の正体は何か。深まる謎の迷宮の中、時間だけがどんどん過ぎていく。しかし、ネット上で情報を集めることから、様々な誹謗中傷も殺到する。前作の事件で逮捕され起訴された裁判も思わぬ展開に。ついにピップは学校でも問題を起こしてしまう。
(2作を手にする作者ホリー・ジャクソン)
そしてピップやコナーらはある夜「秘かな行動」に出るのだが…。ラストの急展開、思わぬ真相はピップに深い衝撃を与えるものだった。そこは読んで貰うとして、前作では「女子高生頑張る」という明朗青春ミステリーの趣が強かった。事件は数年前に起こっていて、問題は「真相は何か」に絞られる。新たな死者が出るケースではなかった。しかし、今回は同時進行の事件である。もしかしたらピップの間違いで、助かる命が失われるかもしれない。その緊張感があり、また予想外に深い真相の衝撃がある。言ってみれば「ピップ大いに悩むの巻」とでも言うべき一冊だ。
もちろん夏バテ中でもスラスラ読める極上の小説で、530頁以上にもなるが長いという感じはまったくしない。(まあ前作を読んでない人はそっちからだから倍になるわけだが。)それを前提にして、ピップの周りでは何故こんなに事件が起きるのだろうか。シリーズ小説なんだから、そんなことを言っても仕方ないけど。でも、何やら映画『ダイ・ハード』シリーズのブルース・ウィリスみたいではないか。「世界で一番不運な女子高生」である。しかしながら、自由研究で未解決事件を扱う高校生なんて考えられるだろうか。そんな設定を支えるピップの性格は、かなり「面倒くさい人」なんだなとようやくはっきりしてきたと思う。ラヴィやカーラなど脇役陣も魅力的だが、今後ピップに幸せが訪れるんだろうかと心配だ。
この作品は前作から引き続く設定になっている。最初の方で1作目の真相が明かされているから、1作目から読まないといけない。前作は女子高生ピップが学校の自由研究として、町の未解決事件を調べる話だった。事件と探偵役ピップの細かな設定は前作の記事を参照。1作目は「ピップ大いに頑張るの巻」とでもいう感じで、ピップは二人の死者にまつわる驚くべき真相を明らかにした。その結果、ケンブリッジ大学への推薦入学も決まり、全国的にも注目された。イングランドのスモールタウン、小説の舞台リトル・キルトンでは、前作で真相が明かされたアンディとサルの追悼会が開かれることになった。
ところがその追悼会に出たまま、同級生コナー・レノルズの兄、ジェイミーが行方不明となる。今までに家出したこともある24歳、警察にも届けたが重大性を認めず捜査はしてくれない。しかし、突然スマホのやり取りも止まってしまい、コナーと母はいつもと違うと心配する。思いあまったコナーはピップに頼むことを思いつく。ピップは第1作事件に関するポッドキャストをやっているので、そこで情報を集めて欲しいというのである。ポッドキャストというのは米英の小説に時々出てくるけど、もともとはiPodなど携帯プレーヤーに音声データをアップして配信する仕組み。今では画像も配信できるというが、ピップは音声でやってるらしい。日本では聞かないけど、感じで言えば「人気YouTuber」というあたりか。
(原書)
しかし、ピップは悩む。前作の最後で大変な目にあって、心配した母に二度と「探偵のまねごと」はしないと堅く約束させられたのである。だから、ピップはまず警察に捜査を督促に行くが、相手にされない。その後もまったくジェイミーとは連絡が取れず、家族が心配するのも無理はない。ピップしか頼れる人がないといわれ、「義を見てせざるは勇なきなり」と持ち前の正義感と義侠心から捜索に手を貸すことになる。まずはコナーと母から情報を集める。何故か父親は大事視してなくて相手にしてくれないけど。ジェイミーのパソコンを見たいのに、パスワードを何度試しても入れない。まずは写真入りのポスターを作ることにする。
こうしてピップは再び捜査を始めてしまう。次第に明らかになるジェイミーの不審な行動。追悼会で彼は誰を見たのか。その夜、彼はどこに行ったのか。いろいろと判明するおかしな行動。最近のジェイミーには明らかにいつもと違う様子だったらしい。その原因には「ある女性」とのつながりがあったようだが、その人物の正体は何か。深まる謎の迷宮の中、時間だけがどんどん過ぎていく。しかし、ネット上で情報を集めることから、様々な誹謗中傷も殺到する。前作の事件で逮捕され起訴された裁判も思わぬ展開に。ついにピップは学校でも問題を起こしてしまう。
(2作を手にする作者ホリー・ジャクソン)
そしてピップやコナーらはある夜「秘かな行動」に出るのだが…。ラストの急展開、思わぬ真相はピップに深い衝撃を与えるものだった。そこは読んで貰うとして、前作では「女子高生頑張る」という明朗青春ミステリーの趣が強かった。事件は数年前に起こっていて、問題は「真相は何か」に絞られる。新たな死者が出るケースではなかった。しかし、今回は同時進行の事件である。もしかしたらピップの間違いで、助かる命が失われるかもしれない。その緊張感があり、また予想外に深い真相の衝撃がある。言ってみれば「ピップ大いに悩むの巻」とでも言うべき一冊だ。
もちろん夏バテ中でもスラスラ読める極上の小説で、530頁以上にもなるが長いという感じはまったくしない。(まあ前作を読んでない人はそっちからだから倍になるわけだが。)それを前提にして、ピップの周りでは何故こんなに事件が起きるのだろうか。シリーズ小説なんだから、そんなことを言っても仕方ないけど。でも、何やら映画『ダイ・ハード』シリーズのブルース・ウィリスみたいではないか。「世界で一番不運な女子高生」である。しかしながら、自由研究で未解決事件を扱う高校生なんて考えられるだろうか。そんな設定を支えるピップの性格は、かなり「面倒くさい人」なんだなとようやくはっきりしてきたと思う。ラヴィやカーラなど脇役陣も魅力的だが、今後ピップに幸せが訪れるんだろうかと心配だ。
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