尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

桜町弘子トークショーと「骨までしゃぶる」

2012年07月06日 21時43分56秒 |  〃  (旧作日本映画)
 池袋の新文芸坐で加藤泰監督の「骨までしゃぶる」と「明治侠客伝 三代目襲名」を見た。去年渋谷のシネマヴェーラ渋谷の特集で加藤泰作品はほとんど再見した。このブログでも、「加藤泰の映画①」「孤独なヒーローが心に沁みる-加藤泰の映画②」と2回書いた。その時に上映されなかった2本で、同時に「骨までしゃぶる」の主演女優、桜町弘子さんのトークショーがあった。

 桜町弘子さんは、1937年生まれの75歳。今でもお元気そうで、加藤監督の思い出を語っていた。今では名前を知らない人が多いだろうが、東映映画の娯楽作品で町娘をやったり、任侠映画でも活躍した。本人も言っていたが、すごい美女女優ではなく、個性的で「おきゃん」な感じの役を一生懸命やってるイメージが強い。「骨までしゃぶる」は唯一の主演作で、今回初めてラピュタ阿佐ヶ谷で自分の映画を見て、クレジットの最初に、「桜町弘子」と一人で出てるのを見て心が震えたと言っていた。
  (桜町弘子、昔と今)
 「骨までしゃぶる」では、新人だった夏八木勲とお昼抜きで「自主練習」をしたけど、監督は全然評価してくれなかった。「車夫遊侠伝 喧嘩辰」では内田良平の車夫と3回結婚式をあげる破天荒なカップルを演じているが、冒頭の人力車ごと川に投げ込まれる場面、2月の京都の撮影で寒くて大変だった、内田良平ともあまり仲良くなれなかった。そんな思い出話を昨日のことのように語っていた。

 「骨までしゃぶる」は1966年の東映作品で、任侠路線全盛に向かう東映で作られた異色作品。あまり上映機会がなく、僕も今回初めて見たが、内容にちょっとビックリ。貧しい農家の娘が遊郭に売られる。1900年という設定である。そういう映画は多いが、大体好きな男ができてもヤクザだったり、身請けの金のために男が犯罪を犯したり、結ばれそうになったときに結核を発病したり…。そして、前借金がどんどん増える悪辣な仕組みの中で、より遠くの遊郭に売られていったり、病気になって苦しんでいくことになるのである。そういう女の悲劇を描くというのが、大体「売春婦」の描き方の定番。

 この映画では、お金が増える仕組みや定期的に医者に診てもらう仕組みなど、洲崎遊郭が舞台だけど、遊郭の仕組みをきちんと描く。そこに「救世軍」が自主廃業できるというビラをまきにくる。大審院判決などを引用し、娼妓をやめることができると宣伝する。そして、桜町と大工の夏八木は、救世軍の力を借りて「自主廃業」しようとする。こんな「女の闘い」映画があったのか。「廃娼運動」をきちんと描いた映画も珍しいし、救世軍を描くのも珍しい。感動的な映画だった。

 「明治侠客伝 三代目襲名」(1965)は、たぶん4回目だと思うけど、「沓掛時次郎 遊侠一匹」と並ぶ最高傑作だろう。鶴田浩二と藤純子の「桃のラブシーン」など、忘れられない名場面がいっぱいである。「わいはわいであって、わいでないんや」という鶴田の名せりふも、心に沁みる。僕はこの映画が昔から好きなんだけど、なんで好きなんだろう。名作中の名作には違いないけど。共同体的な心性を刺激する設定が、決まりに決まったローアングルの画面に展開されると、普段は「個人主義的」なんだけど、どうも心の底で「はまってしまう」感じである。(2017.11.8改稿)
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