尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

カザルス「無伴奏チェロ組曲」-「定番CD」の話①

2018年08月28日 22時21分55秒 | アート
 レアものに続いて「定番CD」の話を何回か。レコードの時に一番聴いてたのは、多分モーツァルトだと思う。ずいぶん持ってた。フォーク系の歌やポップス、歌謡曲、海外のヒット曲などももちろん聴いてたわけだが、大体ラジオやテレビで聴いてた。LPレコードを買うとなると、クラシックやジャズなどが多かった。モーツァルトのことも後で書くと思うけど、あんなに素晴らしくて天国的だと思っていた音楽だけど、年を取ったらバッハの方がよく聴くようになった。中でも、他のCDを圧して一番よく掛けてるのは間違いなく、パブロ・カザルスの弾く「無伴奏チェロ組曲」だ。

 パブロ・カザルス(1876~1973)は、スペインというよりカタルーニャに生まれ、ほとんど1世紀近くを生きてプエルトリコで死んだ。1936年に起こったスペイン内戦以後、フランコの軍事独裁に抗議して祖国を離れ、1955年からプエルトリコに本拠を置いた。僕は「パブロ・カザルスの芸術」という10巻組CDを持ってるぐらい。すべてすごいと思うけど、バッハの「無伴奏チェロ組曲」は中でも一番。聞けば誰でも「ああ、あの曲か」と思い当たるはずである。

 これほど素晴らしい曲が、カザルスが「発見」するまで数百年間全く埋もれていたのだという。バルセロナの楽譜屋でボロボロの楽譜をカザルスが見つけて、この曲の素晴らしさを皆に認識させた。チェロの弾き方のことなど僕は知らないが、カザルスは「現代チェロ奏法」の創始者であり、チェロ奏法の革命家なんだという。そのカザルスが発見して以来、最も知られたチェロの曲はバッハの「無伴奏」ということになった。永遠の名演奏である。

 カザルスの演奏を聞くと、バッハの祈りのような響きに心が洗われる気がする。世界はなんと崇高なのだろう、というような思いが心を満たす。しかし、ロシアの偉大なチェリストかつ人権活動家だったロストロポーヴィチの演奏を聞くと、同じ曲でもこれほど違うのかと感じるのである。何という華麗で荘厳な世界だろうか。心が洗われると言うより、心が豊かな喜びで満たされる感じ。

 どちらが上ということは言えない。どっちも素晴らしい名演だろう。でもよく聴くのはカザルスである。全部の曲を二人で聴き比べることは出来ないが、ベートーヴェンのチェロ・ソナタの3・4・5番に関しては、ロストロポーヴィチのチェロ、リヒテルのピアノというCDがあって、これだけは完全にロストロポーヴィチ盤の方がいいと思う。リヒテルのピアノが大きいとも思うが。

 カザルスには語るべきことが多いので、もう一回別に書くことにしたい。名盤はいくつもあるけど、「鳥の歌ーホワイトハウス・コンサート」という素晴らしい名盤がある。1961年に、ケネディに招かれてホワイトハウスでコンサートをした時の演奏である。85歳だった。ところが、カザルスにとって、これは初めてのホワイトハウス訪問ではなかった。なんと1901年にアメリカ演奏ツァーを行った時に、ホワイトハウスへ行っていたのである。大統領はセオドア・ルーズヴェルト。それから何と60年。20世紀の二つの世界大戦を経て、再びカザルスはホワイトハウスを訪れたのである。

 このときの演奏が今でもCDで出ている。メンデルスゾーン「ピアノ三重奏曲」から始まり、クープラン「チェロとピアノのための演奏会用小品」、シューマン「アダージョとアレグロ 変イ長調 作品70」という二つの曲をはさみ、カザルスの「おはこ」であるカタルーニャ民謡「鳥の歌」が収められている。クラシックは判らないなんて思う人もいるかもしれないけど、聞けばすぐに「世紀の名演」だと判る名演だ。ホント素晴らしい人だなあと感嘆する。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「五日市憲法」発見から50年 | トップ | カザルス・トリオ「大公トリ... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (マッキー)
2019-08-18 22:18:03
若い頃あんまり好きではなかったけど
でも年を重ねて今、カザルスの偉大さを改めて思いつつチェロ組曲聴いてます
古い録音だからこそ
側で弾いてくれてるみたいに聞こえるのも好き
返信する
Unknown (マッキー)
2019-08-18 22:18:38
若い頃あんまり好きではなかったけど
でも年を重ねて今、カザルスの偉大さを改めて思いつつチェロ組曲聴いてます
古い録音だからこそ
側で弾いてくれてるみたいに聞こえるのも好き
返信する

コメントを投稿

アート」カテゴリの最新記事