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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『バービー』、グレタ・ガーウィグの才気横溢だが…

2023年09月20日 22時32分42秒 |  〃  (新作外国映画)
 映画『バービー』(Barbie)は日本ではそれほどヒットせず上映も終わりつつあるが、今年公開された映画の中でも極めつけの「問題作」に違いない。すでにワーナー映画史上最高のヒット作になり、女性監督作品として史上最高のヒットになった。確かにグレタ・ガーウィグの脚本、監督には才気がみなぎっている。この映画は8月に見たけど、今ひとつ見極めが難しかった。暑い日々が続き、疲れて途中でウトウトしてしまったこともある。ヴェトナムやフィリピンで問題になった「九段線」(中国が主張する領海を示す地図)がどこに出ていたか判らなくてもう一回見ようと思った。また見ても今度も判らなかったけど。

 グレタ・ガーウィグ(Greta Celeste Gerwig、1943~)は『フランシス・ハ』以来僕のお気に入りで、監督作『レディ・バード』も『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』も素晴らしく面白かった。今回の作品も自ら脚本を書いていて、冒頭の『2001年宇宙の旅』のパロディからノリにノっている。画面はピンク一色で、映画史上最もピンク色が氾濫した映画だ。そこは「バービーランド」で、女性は皆「バービー」、男性は皆「ケン」と呼ばれる「バービー人形」の国なのである。その国ではバービーが大統領も務めているし、最高裁判事も皆バービー。ケンは単なる「浜辺の人」である。
(バービーランドを一望)
 「定番バービー」(マーゴット・ロビー)は、考えること苦手系のカワイイだけの人形で、毎日毎日パーティに明け暮れるハッピーな日々を送っていた。しかし、何だか最近どうも変なことが起きている。「死」を意識するとか、足がフラットになっちゃうとか、困ることが多い。町外れに住む「変テコバービー」を訪ねると、持ち主の悩みが人形に移っているんだと言われる。それを直すには「リアル・ワールド」に行って、持ち主を見つけるしかないと言う。ここまでの進行が実にゴキゲンである。
(現実世界を目指すバービーとケン)
 バービーに気があるケン(ライアン・ゴズリング)も隠れて付いて来てしまい、二人はバービーランドから現実世界のカリフォルニアにやって来る。そこはバービーランドは全然違っていて、何やら判らぬがバービーは嫌らしい視線を浴びる。工事現場なら女性だけだと思うと、男ばかり。どうもおかしい。何とか学校で持ち主のサーシャを探し当てるが、彼女からはバービー人形は時代遅れで、女性の地位向上を50年遅らせた「ファシスト」だと罵倒される。しかし、彼女を迎えに来た母親のグロリアこそが子どもの人形で遊んでいた人間で、彼女の不安がバービーに伝染していたと判る。

 この間、ケンは現実社会は男性優位社会であることを知り、今までのバービーランドはおかしかったと思う。一方、マテル社(バービー人形の発売元)ではFBIからバービー人形が人間界に紛れ込んでいるから捕まえろと連絡が来て大騒ぎ。バービーとケンにマテル社幹部もバービーランドに集結して大混乱。ケンに洗脳されてバービーランドは男優位に変えられそうになるが、バービーたちは策をめぐらして男たちを分裂させようとする。そして最後は「個」を大事にする社会をともに作ろうという大団円。だけど、バービーはケンと結ばれるのは何かおかしいと思う。そして驚くべき決断をして、新しく生き直そうとするのである。
(演出中のガーウィグ監督)
 この後半の展開が図式的で今ひとつ面白くないと思う。バービーの「大演説」は、人形世界の出来事をミュージカル・コメディの形で訴える。しかし、内容的には「先進国」のフェミニズムそのもので、日本では特に新味がない。しかし、これが非常に刺激的な社会もあると思う。中国などで好調なのは普段は言いにくい主張を代弁しているからだろう。それに対して、中東世界で禁忌とされる「同性愛」が出て来ないのに上映禁止国が多い。いろいろ理由を付けているが、このような「多様性擁護」に危険な匂いを感じるのだと思う。いろいろと世界各国の状況をうかがえる映画でもある。

 では、日本では何故あまり話題にならないのだろうか。バービー人形に思い入れがないことが一番。楽しいフリして完全なフェミニズム映画だから、カップルで見てただ楽しめる映画じゃない。日本で受けにくいタイプの映画だろう。僕は完成度的に今ひとつと判断するが、この映画を見逃してはいけない。グレタ・ガーウィグの才気を十分楽しめる。今年の最も重要な映画の一つとして、いろいろと議論されるだろう。賞レースでも、いくつもノミネートされるに違いない。(なお、2019年にノア・バームバック監督との子を出産したグレタ・ガーウィグが重要作を任されるアメリカと比べて、呉美保監督が長編作品から遠ざかっている日本映画界には改善すべき点が多い。)
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