尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」

2020年06月17日 22時32分32秒 |  〃  (新作外国映画)
 ごひいきのグレタ・ガーウィグ監督のアカデミー作品賞候補作「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」を見た。3月末の公開予定だったが、2ヶ月以上遅れた。期待して待っていただけのことはある傑作だ。ルイーザ・メイ・オルコットの有名な「若草物語」(Little Women)の何度目かの映画化だが、続編以後の物語も織り込んで自在に脚色している。歴史を超えて自由を求める魂の響きを聞こえてくる映画だ。アメリカ東部の美しい風景をとらえた撮影も素晴らしい。

 「若草物語」は4人姉妹の物語だが、キャストは以下の通り。長女メグ(マーガレット)にエマ・ワトソン、次女ジョー(ジョゼフィーン)にシアーシャ・ローナン、三女ベス(エリザベス)にエリザ・スカンレン、四女エイミーフローレンス・ビューという顔ぶれ。上の二人しか知らないが、エイミー役のフローレンス・ビューが印象的で、アカデミー助演賞にノミネートされた。イギリス出身の新進女優で今後に注目。母がローラ・ダーン、ちょっと意地の悪い大叔母にメリル・ストリープ、隣家の青年ローリーティモシー・シャラメと豪華助演陣に囲まれた4人姉妹を見てるだけで楽しい眼福映画。

 次女のジョーが「女性作家になるまで」が映画のテーマである。「若草物語」は読んでないので、時代設定などが最初はよく判らなかった。父が最初出て来ないのは、南北戦争中で北軍の牧師として従軍中なのである。母と姉妹で助け合って、苦難の日々を生きている。ジョーが書いた劇を皆で楽しむクリスマス、母は貧しい隣人へ食物を贈る。そんなに裕福ではないが、隣家は大金持ち。父母が亡くなって祖父と暮らしている隣家の青年ローリーと知り合い、遊んだり舞踏会に行ったりする。ローリーは活発なジョーに惹かれるが、ジョーは作家になることを夢見て、幸せは結婚ではないと思っている。ジョーとエイミーは喧嘩もするが、やがて大叔母はヨーロッパ旅行にエイミーを同行させる。
(エイミーとローリー)
 筋を追う物語ではないので、ストーリーはもう書かない。ただ原作を知らないと、最初は時間があちこちに飛んで判りにくいかもしれない。アカデミー賞には、作品賞の他、主演のシアーシャ・ローナン、助演のフローレンス・ビュー、脚色のグレタ・ガーウィグ、作曲のアレクサンドラ・デスプラがノミネートされたが、受賞したのは衣装デザイン賞ジャクリーン・デュランだけだった。グレタ・ガーウィグは前作「レディバード」では監督賞にノミネートされたが、今回は残念ながら候補に入らなかった。しかし才能は十分以上に証明している。それにしても、確かに衣装デザインは下の画像を見て判るように素晴らしいものがあった。服装をみるためだけでも見る価値がある。
 
 生きてゆくことは楽しいことばかりではない。悲しいこともあるし、思うようにならないことも多い。そもそも女性作家が世に出ることは可能なのか。女の幸福に結婚は不可欠なのか。「」と「お金」と「自己実現」。人生では次第に「お金」の持つ意味が大きくなっていく。避けがたい現実の中で、自己実現と愛はどうなるのか。現代につながるテーマ性を内に秘めた映画なのである。ただ、ベースに「姉妹という女性同士の深いつながり」があって、今ひとつ僕にはつかみにくい感じもあった。

 原作者のルイーザ・メイ・オルコットは1832年に生まれて、1888年に亡くなった。「若草物語」は1868年、日本では明治維新の年に刊行された。奴隷制に反対したり、晩年には女性参政権を主張するなど、オルコットは進歩的な考えの持ち主だった。それは「コンコード派」の中で育ったからである。マサチューセッツ州コンコードに集まった作家、思想家のグループで、オルコットは「森の生活」の著者ソローに教わった。思想家エマソンや「緋文字」の作家ホーソーンらもいて、父はその仲間だった。
(ルイーザ・メイ・オルコット)
 そういう背景は知らなかったが、オルコットは単に「少女小説」を書いた作家ではなかったのである。僕は「若草物語」を持っているが、読んだことはない。持っているのは学校で販売した旺文社文庫のセットを親が買ったからだ。しかし、当時は「少年向け」「少女向け」のジェンダーバイアスが今よりもずっと強くて、僕も「十五少年漂流記」(ジュール・ヴェルヌ)は読んだけど、「若草物語」には手が伸びなかった。萩尾望都を読んだりするのは大学生の頃で、「赤毛のアン」は読んだけどオルコットは視野の中になかった。グレタ・ガーウィグは小さい頃から「若草物語」が大好きだったそうで、アメリカにもそういう読書好き少女が今もいるんだと思った。性差や年齢を超えて一見の価値がある。
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