尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「マダム・マロリーと魔法のスパイス」

2014年12月03日 22時53分32秒 |  〃  (新作外国映画)
 とても気持ちのいい映画。「マダム・マロリーの魔法のスパイス」は、もうロードショーが終わりに近づいているが、問題作とか傑作というほどではないかもしれないが、昔の映画みたいに「いい映画を見た」感が残る。スティーヴン・スピルバーグ製作、ラッセ・ハルストレム監督。いつもの通り、ハルストレムの映画は感じがいい。景色が美しく、人間関係が面白く、ラブロマンスもある。それ以上に料理が素晴らしく美味しそうで、異文化理解、地産地消をうたいあげるメッセージ性も隠し味。
 
 インドのムンバイでレストランをしていたコックの一家が、暴動で放火されヨーロッパに移る。インド人だから英語は話せるからイギリスに行ったが、寒くて野菜がまずい(これが笑える)ので、1年後に大陸へ。ぼろ車で放浪してる時にブレーキが故障して、ある村に滞在する。そこが気に入って、レストランを開こうとするが、真向いにミシュランで一つ星のフレンチ・レストランが。しかも、そこにオーナーが、ヘレン・ミレンで、レストランに人生を掛け、町長にも訴え、両者は戦闘モード。でも、フレンチで副シェフのマルグリットと、インド青年の料理の天才ハッサンが仲良くなっていき…。

 展開は予想通りなんだけど、とにかくこの町が美しい。フランスでもスペインに近い「ミディ・ピレネー」地方でロケしたという。驚くほど素晴らしい町である。さすがに、向かい合って張り合うレストランという設定どおりの建築はありえないので、両方の建物を見つけた後、インドレストランの向かいにはフレンチの外壁だけセットを立てたという。そこのマーケットの魅力も素晴らしい。インド料理のスパイス、フレンチの芸術品のソース、野菜、肉、魚にくわえ、キノコやウニまで出てきて、日本人にはうれしい。見てるだけで美味しそうで、実に楽しい。地産地消の美味しさを目で味わえる。

 ヘレン・ミレンと言えば、「クイーン」でアカデミー賞。何せエリザベス女王だから、高貴というか尊大というかの役柄はお手の物。でも、「ヘイトスピーチ」「ヘイトクライム」は絶対に許さない。自分の店のシェフが、インドレストランに「フランスはフランス人のもの」と落書きし、放火するという事件が起きると、すぐにクビにして、落書きを雨の中、自分で消し始める。ハッサンの天才ぶりは出来過ぎているけど、その結果両者の和解、すべて幸せなラストに至るから、まあ良しとしようではないか。

 ラッセ・ハルストレムはスウェーデン出身の監督で、「アバ/ザ・ムービー」などを作ったが、1985年に劇映画「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」を作って世界的に認められた。日本でもベストテンに入選している。90年代になるとアメリカに招かれ、「ギルバート・グレイプ」(1993)を作った。ジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオの兄弟を描いた傑作で、知恵おくれの少年役だったレオナルド・ディカプリオを発見した映画。その後も「サイダーハウス・ルール」、「ショコラ」、「シッピング・ニュース」など文芸映画の名作を監督した。「HACHI 約束の犬」もこの人で。ちょっと「ハートウォーミングな名作」路線ばかりになって、最近は引き受け過ぎの感じもあるけど、今回の「マダム・マロリーと魔法のスパイス」は久しぶりに会心の作ではないか。これも原作があるというが、料理と景色が目玉だから、映画の方がいいのではないかなあ、きっと。スパイス嫌いだとダメかもしれないが、夫婦やカップルで見たい映画。
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