尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「ジョルダーニ家の人々」

2012年09月08日 00時11分33秒 |  〃  (新作外国映画)
 岩波ホールのイタリア映画「ジョルダーニ家の人々」。6時間39分という大河映画である。長いからなかなか行けなかったけど、14日で終わってしまうからようやく行った。

 岩波ホールは、かつてはあれほど貴重な映画を初公開してくれたわけだが、ミニシアターがあちこちにできたあたりから、高齢女性客向けのラインラップが多くなってきた。ベストテンにもしばらく入選していない。(調べたら多分2005年のイラン映画「亀も空を飛ぶ」以来、一本もないと思う。)ということで、若い映画ファンには岩波ホールを知らない人が結構いるようだ。今日もまだ大学はやってないだろうに、若い客は誰もいなかった。(女性が8割ほど。)岩波ホールを知らないで、東京で映画ファンと言えてしまうのも困ると思うので、紹介しておく次第。(地下鉄神保町駅の真上。大体神保町書店街を知らない大学生自体があり得ないと思うけど。)

 もっとも1日1回上映。13時40分に始まり、21時15分まで。途中3回休憩という長大な時間を要するので、なかなか行くのも難しい。一般当日券3000円、学生2800円というのも高い。まあ映画4本分あると思えば、安いとも言えるけど。僕は岩波ホールの会員組織エキプ・ド・シネマが1974年に発足して以来の会員なので、会員の前売り券を買っていた。それだって普通よりずいぶん高いので無駄にするわけにはいかない。

 僕はイタリア映画が大好きで、数年前の「輝ける青春」という長大な作品も素晴らしかった。つい最近では、ナンニ・モレッティの「ローマ法王の休日」が佳作だった。(カトリックでは「教皇」と言って欲しいと要望し、教科書はみな「ローマ教皇」なのに、どうしていつまで「法王」と訳すんだろうね。)「ジョルダーニ家の人々」はテレビ映画が劇場公開されたものだが、現代イタリアのローマに住むある家族の数年間の激動、痛みと赦しの日々を丁寧に描いている。僕は全く長さを感じなかった

 父はなんか高給の仕事らしく、母は医者だったけど子どもが出来て辞めた。姉はカウンセラーで妊娠中、長男は国家公務員でPKOで派遣されていたけれど今日帰国する。次男は建築科の大学生。三男は高校生で彼女がいる。それから悲劇、心のやまい、出会い、別れ、同性愛、難民問題、アフガンやイラク戦争、ロシア・マフィア、麻薬などなど、いろいろ関わってきて…。最後になると、血のつながらない子どもをかかえ、イラクから来た難民を含めた「大家族」になって終わる。おやおや、という感じだけど、大河ドラマでやはりテレビ的で少し描写が判りやすすぎる感じもするけど(映画芸術的には時間を半分に削れると思う)、登場人物と親しくなっていくのでこのくらい時間があった方がいい。

 日本の感覚からすると、えっと思うシーンもいくつかあるけれど描写も美しく、イタリア語の響きもステキ。数年間を描くので、何人かの登場人物には悲劇も起こるが、「家族の絆」が見応えがある。今の日本より深く結ばれている感じ。それと隅々の描写を見ていて、「やはりヨーロッパは豊かだな」という思いもする。経済状況はイタリアも大変なんだけど、アメリカ映画だとアメリカも大変だなあとか「貧しい」(料理なんか)と思う時も多いけど、ヨーロッパの映画を見ると、貧困を扱うケン・ローチやダルデンヌ兄弟の映画なんかを見ても、街がきれいだなと思う瞬間もある。それが日本と違う。日本だと自然は美しいが、日常を写すと広告だらけだから。
コメント
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