チャコちゃん先生のつれづれ日記

きものエッセイスト 中谷比佐子の私的日記

着物が繫ぐもの 85

2019年01月22日 14時28分31秒 | 日記
竺仙おやっさんの続き

仕事を着物に絞って三年365日を着物を着て過ごす実験を始めた(それは20年続いた)
江戸小紋だけでなく、また生地から染めるものだけでなく
取材に訪れたそれぞれの産地の着物を身につけるようになり
着物で自己表現の多様さを楽しみ
着物を通して日本の文化を語れるという一端の着物研究家に育ったと自負していた

ある日
私はワイんカラーのウールのマントを着て竺仙に行く

「なんだ?その赤ゲットは!」
「温かいのすぐ脱げて便利よ」
「その考え方はそれでいい、しかし比佐子さんらしくないね。人の目を意識して脱ぐ、着る、というのが日本の着物の原点だから」
「だって、このスピード時代に肩から滑らしてえー脱いでえーーたたんでえーーーご挨拶。なんてまどろっこしいわよっ!」
「立場があるでしょう?立場ガーーー比佐子さんの立ち居振る舞いが、これから着物を着る人のお手本にならなければね」
「そんな風に思っていないわお手本だなんて!」
「それが嫌だったら。もう雑誌に原稿を書いたり。テレヴィに出たり、講演をしたりするのはやめなきゃあね」
と厳しい口調で諭す

「ふん、私楽でいたい、もうサンプルはいや、お手本だなんてとんでもない考えよっ!」

ジーーと私の顔を覗きこんでいたおやっさん
「ちょっと待ってて」
といって奥に入り ややあって

「これ、今まで頑張ったご褒美、うちの会社のPRもずいぶんやってもらったし、ハイこれで着物に全く関係ないものを買いなさい」

ずっしりと思い封筒を私の手に乗せると、晴れ晴れと笑って、私の両肩をポンポンと叩く、その表情はやんちゃな娘に対する父親の表情であった

押し返そうとする私を制し、封筒をすばやく私のハンドバックに押し込んで
もう帰りなさいと言わんばかりに立ち上上がった

おやっさんの姿が涙でかすみ、ぼやけておやっさんの姿が消えても呆然と座り込んでいた

毎日着物を着て生活をするのに私は疲れていた
着物を通して感じる楽しみ方を忘れていた
若くして「先生」と呼ばれその重圧にも負けていた
殻を破るのに「反抗」という態度になっていたのだ

そして一カ月後

エルメスの単衣仕立てのコートをきて(いまだに着ている)ピンヒールを穿いておやっさんの前にたった
「ホー若々しいね輝いてるよ、初めて比佐子さんが洋服から着物に変わった頃の初々しさを思い出すね、いいねえ。」と絶賛

それからは着物の壁に当たったら仕立てのいい洋服を着て着物から遠ざかってみる
そうするとまた着物が新鮮に映ってくるのだ

これがおやっさんの教えだった



#チャコちゃん先生 #竺仙 #エルメス #トンボメガネ #着物
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