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チャコちゃん先生のつれづれ日記

きものエッセイスト 中谷比佐子の私的日記

着物が繫ぐもの 11

2018年08月31日 21時18分08秒 | 日記
山崎斌さんに「梅染」を依頼し
糸染めが出来上がるまで時間がかかるので
予定された仕事をこなし早速「染織紀行」に取り掛かった

山崎さんの生地長野県は染織の宝庫だと聞いている
その長野には養蚕や製糸工場もたくさんあり明治時代は日本の経済の中心であったとも
まずはどこにしようか
いろいろと情報をとってまず松本にある本郷織物を取材することにした

その前に新人小説家として売り出していた水上勉の「有明」という一文で天蚕の文字を見たのも刺激があった
所属している出版社は新人作家の売出しが上手で
新刊本が出ると一冊ずつ貰える

少女時代兄が小説好きでその兄に対して父は
「男たるもの小説にうつつを抜かすものじゃあない」
といっていたのを耳にしていたので小説に対して偏見がありあまり読んだことはなかった

しかし家には宮本武蔵や三国志、鞍馬天狗などが難しい本の間に挟まっていて
その殆どを読んでいたのであれは兄だけにいっていた言葉だろうと今は思う

というわけで小説が新鮮で新刊本が配られると仕事そっちのけで読みふけったものだ
後にその「知識?」を徴用されて名だたる女流作家の担当にされたこともあった
この出版社は小説と言ってもほとんどノンフィクション思考なので現場の様子もよく分かる

それではじめてのルポは「有明の天蚕」にしぼり
タイトルも「信濃路の紬」とした
(我ながら良いタイトルだと自画自賛)

とにかく着物のことは全くわからない
有明でみた天蚕は青虫みたいで怖かった
触ることもつまむこともできず両手を後ろに回し
どうしてこの蚕に価値があるのか全くわからない

小学生の頃夏休みの宿題で蚕を飼ったことがあり
無残にもキャベツやきゅうりをわざと与えて桑の葉だけしか食べないということをやっと理解した事がある

それなのにこの天蚕桑の葉ではなくクヌギの葉を食糧とするという
天敵の鳥の餌にならないように大きく広く網を張って保護していた

人間がその糸をほしいから保護しているのだ
天蚕でもなんでもないじゃあないの
と小生意気に思いながらも着物のことに無知なのでただただ説明を黙って聞くしか無い

天蚕は網で保護されているとはいえ
雨風 紫外線 または霜などに耐えて繭を作りその中の蛹を守る
繭は葉と同系色の美しい緑だ自分の体を天敵から守るための生き物の知恵だと説明された

でもせっかく作った繭を人は横取りしてしまうのだな
と何か解せないまま取材は続く つづく



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着物が繫ぐもの 10

2018年08月31日 10時02分11秒 | 日記
新年号から始めるということで
迷うことなく「梅染」になった
「桜斬るバカばか、梅斬らぬバカという言葉聞いたことあるかな?」
「ハイあります。花見をする時常に頭にこだまする言葉です」
桜は剪定する時期は難しいが、梅は花が終わったらすぐ切ったほうがいいと聞いたことがある

今年の剪定枝が残っているのでその枝を使おうということになった
小枝は剪定してすぐに使わなければ色が出ないが樹木は置いておけるのでありがたいそうだ

梅の木と樹皮を使う
枝の真ん中の赤い部分だけを別に使うと美しい赤ちゃんの肌のような色にそまる
樹皮をまるごと使うと「梅鼠」という粋な色に染まる
江戸時代はこの色が流行ったそうだ

「虚子にこんな句がある」

”紅梅の紅の通へる幹ならぬ”

「虚子は木の芯にが紅色と知っていたんですね」
「そうだろうね」
「ということは紅梅の樹木を使ったほうがいい色が出るということですか」
「そうとも言えるけど白梅は美しい白茶が染まりこれは清楚な色だよ」
「両方欲しいですね」
「紅梅白梅の縞を織るのもいいね」
「いいいいそれ行きましょう、決まりっ!」
「早いねははは」

そうと決まったら樹木を切り微塵に切り刻む作業を始めよう
とすぐ庭に出てノコを片手に作業が始まる

草木染をしていた生徒さんたちも集まってきて
それぞれ手際よく手伝ってくださる
生徒さんたちは「草木会」という会を作り年一回それぞれの作品展を渋谷の東横百貨店で行っていた

糸染したあとは
はじめにお遇いした「上田光乃」さんに卓上手織りを教わり
帯やショールなどを織って展示会に出品

なんとおばちゃまは
正式な機織りを色香女性に手取り足取り教わり
一年をかけて梅鼠の地色に茜の細い縞模様の着尺を織り上げ
その後も藍染に挑戦したりいやはやとんでもない染織作家になっていった

隣同士が幾年月の年月を経て草木染めで顔を合わせ
草木が作った縁で話し合えるなんて面白い
ご挨拶くらいしかしたことのない美しいおばちゃまというイメージから
力強い女流染織家への変貌は
「いくつになっても始まりがある」
ということを私に教えてもらった

この日は梅の木の粉砕で一日が終わり
残りの11ヶ月のおおよその順序を決め
会員さんが帰ったあと菊正で食事を御馳走になり帰途についた
(この二年間でみっちり日本酒を仕込まれてしまうとはこの頃はまで気づいていない)
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着物が繫ぐもの 9

2018年08月30日 08時00分00秒 | 日記
日曜日菊正宗を下げて柿生寺に
今日から完璧な仕事
これから12ヶ月の草木染めの内容を詰めなければならない
とにかく全く知らない領分のページ作りなので
ワクワク感と緊張感がないまぜになり心臓の鼓動も早い



「ヒサコちゃん?」
「うん?あっおばちゃま、どうしてここに?」
「知り合いかい?」おじさんもびっくり

「同じ隣保班(ふるいよねえ)の弁護士のお嬢ちゃん」(それはいいって)
おばちゃまは医者の奥様で、お風呂上がりに諸肌脱いで化粧水?をパタパタはたき込む姿がどういうわけか我が家の二階の廊下の窓から見えて、その作業が始まると兄が私をつれて覗く

姉たちによると「あれはヘチマ水よ」ということだった
そういえばその医者の庭には毎年ヘチマが日陰づくりに植えられていて
姉などはそのヘチマから化粧水を作るのをおばちゃまに教えてもらっていた

あの手作りの化粧水と草木染めのコンセプトが妙に合う感じでなるほどな思った

総勢8人の女性たちが染色を始めた
「いつ頃から教わってらっしゃるんですか?」
「ここの教室は昨年から始まったのよ」
話しかけたら気が散りそうなので皆さんの手元をただただ見る

全員が「茜染め」を行っている
ただ布に染める人はいなくて皆糸に染めている
私のようにハンカチに染めるのはズブの素人用なのだとわかった

素手でそれぞれ渡された桶に染料を入れ糸をぐらせては柔らかく静かに糸をもんでいる
糸を引き上げては染液に浸けて揉む
皆それぞれ性格が出るらしく
分量も同じ水の温度も同じつけたりもんだりする回数も同じ
なのに贔屓目でもなくおばちゃまのが一番美しい

それを休み時間にそっと「先生」に聞く
「いいとこに気がついたね、心根なんだね」
よく見てご覧Sさんは全身から力が抜けていて、それでいて糸から目を離していない
表情がとてもいい

化学染料は染料が無機質だから染料が糸に付着する
植物染料は有機質なので染料が静かに静かに奥の奥まで浸透していくんだと
「だからああやって糸をまるで我が子のように愛おしくもんでいるんですね?」
おばちゃまはあの化粧水を肌に染み込ませるように肌を愛おしく叩いていたが
あの動作と同じなんだ
と変に納得(そういえば未だに肌が美しい努力の甲斐がある)

「茜には日本茜、インド茜、西洋茜と種類があるのだけど輸入のものは粉末になっているからはじめての人は染めやすいね」
「でも草木染めというくらいですから生きている材料を使わないと嘘になりませんか?」
「そうだよ全くそのとおりここではすべて生を使うのだから大変でもあるし人によって色の差も出るんだな」
染める人の心の有り様も体温も食べるものがアルカリ性か酸性かでも色が微妙に変わるという

凄い世界に足を入れてしまった (つづく)
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縄文

2018年08月29日 08時14分42秒 | 日記
遺跡の発掘には興味が尽きない
その時代の人たちの暮らしが手に取るようにわかるから
しその中で思いを込めて探すのが
染織に使われた道具

縄文遺跡からも時々筬やひがでているときがある
しかしそれは木製ではなく
石で作ったものだ

木製は弥生時代に現れる
人はまず衣を纏い食で生きながらえ、住で心と体を休める

徳島では縄文の遺跡が多くさっんしゅつされている
それを見ると私が思って居た以上に高度な知恵と生活を楽しむ心があったようだ

竪穴住居に入って見ると
外は炎天下の酷暑なのに涼しい
囲炉裏があり家族が団欒
近くに高床の倉庫がありそこに食料をたくあえてあった

さらに他国との貿易のためのカヌーがある
結構行動半径は広い
貨幣はないがの人たちは長の指導のもと生活をスムースに行なって居たのだろう

昔アメリカの「アーミッシュ」に行ったときのことを思い出した
集落、コミニュティ、おさ

時々我が先祖の生活に思いを馳せると自分の道筋が見える気がする
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囲炉裏で山女魚を喰らう

2018年08月28日 07時13分01秒 | 日記
「あらたえ」の取材の一歩は囲炉裏で山女魚焼いて冷酒で乾杯!
高松空港から1時間半
剣山へ向かってひたすら登っていく
左脇には穴吹川の清流
美しい
今日はこの川で捕れたヤマメをいただくのよね
と舌なめずり
同行は出版プロジューサーの長吉さん

彼とは大麻の検証委員会で一緒になりなにかと応援をしていただいている
今回形になってともに歩むことに感謝
ご本人自身も本をたくさん出版しているので頼もしい。

三木家に着くと早やパチパチと火の爆ぜる音
「わーい」
挨拶もそこそこあかあかと燃える囲炉裏のそばに陣取る
「軽装でと言っといたのに礼装で大丈夫かね」
三木さんの心配をよそに
あら不思議着物を着ているのに汗をかかない
「暑いけど暑くない」
もちろん涼しいわけではないのに汗もかかず心地よい

「朝まで泳いでいたのよね」
ありがとうありがとうと言いながら瞬く間に6匹
前歯が差し歯になってしまったので頭から喰らえないのが何とも悔しい。

既に刈り入れた「新米」を口にし徳島の子ナスの漬物で仕上げ
食後のアイスクリームの美味しさ
基本的にチャコちゃん先生はアイスクリームが苦手なのに
このアイスクリームは格別な尊さ

やっと本題の取材に入る

さて
い夏の囲炉裏の側で汗をかかないのは
家中の湿気をを火が飛ばすからだと解説された
古民家の四季を心地よく過ごす極意でもあるらしい。
日本人の衣食住の知恵のすべてを握って居たのが「忌部」の人たち

いよいよ本格取材が始まる

(写真撮る暇もなく山女魚に舌鼓をうっていた」)





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今日から本格取材

2018年08月27日 08時30分57秒 | 日記
着物と一緒に歩いて来てこのような本を出版するとは
もったいぶった言い方で恐縮
来年行われる「大嘗祭」に向けて
その歴史的背景と、なぜその大嘗祭に「あらたえ」という大麻の布が必要なのか
それをきちんと取材して次につないでいこうと思う
本は来年の春には出版される

あらたえは大麻の繊維で織られる
しかも四国徳島の山の中、海抜700メートルの山中
大嘗祭の時だけに生産されるものだ

その場所では太古の昔から大麻だけではなく
日本にあるあらゆる野菜の原種が今だに大事に保存されている
つまり
日本民族の農業の根本が現存している

「きものという農業」という本を出版した時
初めて農業を本格的に勉強し取材した

無知の極みだが「大麻の栽培」が日本では禁止されていることを知った「なぜ?」
大麻に詳しい方に話を聞き
法律にも及び栽培を許可されている大麻農家にも取材で何回も足を運んだ

栽培を禁止される理由が今ひとつ理解出来ない
そこで出会ったのが「あらたえ」の存在

日本の敗戦後、連合軍は「天皇制」の廃止を視野に入れていたと聞く
大嘗祭に使う大麻繊維のあらたえはー

あらーーーここまで書いたら飛行機に乗る時間⁉️
スミマセーーん

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着物が繫ぐもの 8(タイトル変更)

2018年08月26日 10時42分46秒 | 日記
というわけで
わけがよくわからないけど
つまり私は生まれて初めて「着物」に正面から向き合う決心をしたのであった

美しく染まった黄色のハンカチ
(その後映画のタイトルにもなったな)

小田急線に乗り新宿に向かう各駅停車の車両の中で
(着物って単なるフアッションではなくて民族衣装というジャンルでもなく、日本人の思考そのものに訴えるものがあるのだわ)
なにか大きな道の偉大な世界に足を踏み入れたような興奮を覚えた

結局次の日
「ねえねえ見てこのハンカチlきれいでしょう?なんで染めたと思う?」
「黄色の染料だろう?きのう一日どこほっつき歩いていたんだ!連絡もなく」
ああそうだったあまりにも未知なる世界にはまりこんでいて連絡なんて思いつかなかった

「公衆電話のないところにいたんです。これから説明します」
(公衆電話でしか連絡が取れなかった幸せな時代だ)

体験したばかりの、またデスクすら知らない日本の色の世界の話に、デスクの周りに一人二人と人が増えてその中で得意になって受け売りを説明する私

聞き終わったデスクが
「チャコそれページに企画しろ、さあ皆一時間後編集会議をすろぞ」
(やったやったおじさんとねってきたんだものふふふ)

「草木染め12ヶ月というページを作ります」
カラー2ページ見開き、一ページはその月の草木の材料と解説そして染の手順、もう1ページは染めた着物を着た女性の写真。あと5ページを染織紀行。

草木染め12ヶ月の案はすんなり通ったが、
着物というものに興味の全くない連中は「染織紀行」に関しては反対意見が多い
しかし日本人の手仕事というものは延々とつながってきた日本人の魂のようなもので、島崎藤村もそう言っていたーーーと(この名前は通行手形だ)
熱弁を振るいなんとか企画は通ったがページは3ページに減らされた。
(まいいか)

「チャコ来月のフアッションページと表紙の撮影はどうするの?」
「ああーー来月までは私致します、次から担当を外してください、それから遊軍の仕事も」
「勝手ネ」と先輩編集者に睨みつけられた
(だってこれからの仕事のほうが絶対面白い、誰かの力になると思うし、譲れないよ)

「いつから始める?」とデスク
「染には時間がかかるので染織紀行から取り掛かります」
「じゃあ草木染めの方は新年号からだね」

早速山崎斌さんに電話をする
「今度の日曜日は染色を教わりに来ている人も多いのでその手順を見ると参考になるな朝からおいで」
「ハイ菊正持って伺います」
「ははは」 続く


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着物に学んだこと 7

2018年08月25日 10時18分57秒 | 日記
「では干しておきましょう。お帰りになるまでには乾くでしょう」
と洗面器に張った水に私が染めた(偉い!)ハンカチをさらっと浸して
ハンカチをピンピンと手のしし、ほし竿に干して木の洗濯バサミでとめてくださった
(その一連の作業を流れるように仕上げる色香女性、手が指が白魚のように美しい何者?)

「この洗面器の水はなんですか?」
「これ?ふのりですよ」
「ああー母がよく使っています染色にも必要なのですか?」
「仕上げに使うと色が安定するのですよ」

「あっちへ行こう」
おじさんがあの小川を引いた家の方を指差す
(えっまた日本酒?)

と思いきや机の上には本の山
一番上に「初恋」という題名の本
手に取ると「山崎斌著」と読める
「あれーおじさんいえ先生は小説もおかきになるんですか?」
もともと小説家志望4冊ほど書いて出版しているという
「しかしね友人が島崎藤村、若山牧水という錚々たる人たちで物書きは彼らに任せることにした」
自分の天命はもっと違うところにあると思ったのだという

と昭和8年に山崎斌さんが出版した「日本草木染譜」という和綴じの書物を渡された
「初版の序」に島崎藤村からの寄稿文が載っていた

原文を紹介する

これはウイリヤム・モリスの仕事に近いと思って、以前にわたしは山崎斌君の思い立ったことを生活と芸術と労働との一致に結びつけ、その前途にふかく望みを寄せたことがあった
木の皮、草の根、その葉からも、その実からも染むべき材料を採って、織るべく、着るべきことをしっていたわたしたちの先祖が手工業のいとなみは、君によって生き返るいとぐちを得た。
荒無を切り開くほどの愛と忍耐とがなかったなら、君の仕事もここまでは進み得なかったであろう。

今や君の草木染圖説一巻が成る。

遠く奥羽の野の末まで、紫の一もとを探り求めるほどの君の熱心から、この一巻がうまれた。
これは、土と木と草の香りでいっぱいだ。
おそらく後の代の人もこの愛すべき書物から得るところは多かろうと思ふ。

わたしは山崎君の平正を知るところから、更に君の仕事の成長を希ひ、進んではかの光悦の腸(はらわた)を探り古人が遺したこころざしにもかなひたまへと書いて贈る
島崎藤村 昭和8年夏の日、麻布飯倉で

この序文を読む間山崎斌さんは私をじっと見つめていた
わたしはお二人の深い友情と愛に胸が一杯になり涙をためた目で
「わたし日本の着物の奥にこういう文学的なこと思想や高い志が隠されていたと思っても見ませんでした」

「この草木寺にお邪魔して本当に感謝です
先生におあいしたこと宝です」

「ははは、先生でなくおじさんでいい。ありがとう」つづく





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着物に教わる 6

2018年08月24日 10時10分41秒 | 日記
ややあって
「整いましたよ」
と先ほどの色香の女性
土間の(この時代既に土間は珍しかった)中央に7輪がありアルミの鍋から湯気が立ち上がっていた
「これひょっとして玉葱の皮ですか?」
「ようわかったな」
「あらー黄色の色が出ている」

玉ねぎだけではない、さつまいも、黒豆、小豆、台所に転がっているもの皆色素を持っているという
「つまり私達はその色素もお腹の中に入れているということですね」
「そうじゃよその色素は体の中のいろんな器官に反応するから五行の食事をすると病気知らずじゃね」
「なんですかその五行って」
「今度来るときまで調べてご覧今日はそちらの話はせん」
(エッやはり通うことになるんだわ)

鍋の汁を大きな桶に移す
びっくりあの玉葱の皮がこんな美しい色を持っていたなんて
灰汁のはいった桶も側に持ってくる

(実家ではかまどでご飯を炊いていたので灰は貴重で漬物とか洗濯物、柱やガラス磨きに使うので、母は常に上澄みを作り置きしていたから灰汁には驚かなかった)

「この灰にもどの植物の灰がいいというのがあるのですか?」
「あるよ、椿の木で作る灰が一番いい」
「それはなぜ?」
「染色は必ず色を定着させる仲人が必要なんだね。お見合いでもそうだろういい仲人に出会うと良縁が生まれる」
椿の灰汁は繊細で色ににごりを出さず更に艶を出す役もしてくれるそうだ。他の樹皮にない良さだという

「これも延喜式に書いてあるんですか?」
「うん、媒染の王者」
「椿って種類が多いですけどこの椿がいいというのもあるのですか?」
「ここに植わっているのを使ってるね、こだわる輩も出てくるかもしれんけど」

原点に立ち返ったら昔から普通にある椿を昔の人は使っていたのだから
それで十分ではないかね
そこから先は「技」の世界だから人それぞれやってみて決めればいい話で
ここではどういう植物がどんな色を出すかに焦点を当てたいということだった

もっともだ

「ハンカチ持ってるかね」
「はい」
「ちょうどいい白いハンカチだからそれに染めよう。やってご覧」
「エッこの私が?」
「失敗してもあんたのものじゃからねワハハハ」

玉ねぎの煮汁をザルで濾し、その中にハンカチを浸す
「ゆっくりゆっくり」
白いハンカチが端から徐々に黄色に染まっていくドキドキする瞬間

「きゃーすごいすごい」はしゃぐ私

竹箸を渡されハンカチを静かにかき回す
「お上手ですよ、初めてでこんなに染めむらが出ない方も珍しい」
と色香の女性におだてられ得意満面のヒサコさん

「さあこの灰汁に浸けてご覧」
「うわー」
柔らかな淡い黄色がくちなしの実のような大人の黄色にみるみる変化をする
「ふー」つづく 
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着物に教わる 5

2018年08月23日 09時32分48秒 | 日記
週刊誌記者だった頃に先輩たちから仕込まれたので酒には強い私
しかし日本酒は苦手で
(このおじさんと付き合うと日本酒を毎回飲まされるのか)
と思うとちょっと恐怖

立ち上がろうとするとやはり足がふらつく
(飲めませんといえばいいじゃあないの)
自問自答しながらも案内された染め場にトコトコついていく
やはり好奇心のほうがフラフラ足を云々するより強い

先程の小川を引いた家から奥へ行く
庭というより森のなかに入った感じの風景だ
よくよく見ると一本一本の樹木の胸に名札が下がっている
木の名前の横に何色に染まると解説されていた

「草木ということは木だけではなく草にも色があるということですか?」
「そうだわ虹は何色ある?」
「七色です}
「見える色はね、太陽から出る色は無数である!」
とここでいきなり声を大きくするおじさん

「その太陽が出す色の数だけ植物が内蔵しているということですか?」
「そうじゃね」
「それをおじさんいやいけない先生が引き出したのですか?」
「ではないわ、平安時代に編纂されているえんぎしき(延喜式)の染色のところを参考にねいるんだよ」
「えんぎしき?」

(あんた何にも知らのじゃね
という顔は絶対にしない、むしろ嬉しそうに細かく解説をしてくれるおじさんいや先生)

「チョット待って」と言って奥へ入り古色蒼然とした本を取り出してきた
「延喜式」と書いてある

「日本人はすごいよ、こうやってきちんと記録を残してあるからね、読んでご覧」
手にとって恐る恐るページをめくるが確かに日本語で書かれているのに理解不能
「染色のところ読んでご覧」
「はい」

「延喜縫殿寮式」のページ、教わったばかりの「茜」のページを開いた
「深緋。綾一疋茜大三十斤、米五升、灰三石、薪三百六十斤。ひえーーーなんのことですか?」

「緋赤の色を出すにはこれだけの量が必要ということと、媒染に灰汁を使うということが解説されているね」
「たったこれだけの解説で染めていくんですか?」
微に入り細に入り細かく細かく手をとって教えていたら、教えている人の色しか染まらない、それだったら分量通りに染める化学染料とちっとも変わらないではないか、という。

日本にたくさんの色が誕生したのは
「基本は延喜式からかもしれんけど、染める人の感性つまり舌加減、それに季節の植物の状態、また寒冷地や暑いところの地方の色、そういう色が日本の色をつくったんだね」

ふーー深い
日本ってなんて国だ! (つづく)




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