冬の雨コート
姪の娘が「今日は初釜なので雨コートを貸して」と電話をよこした
「雨コート持ってるんでしょう?」「なんか気に入らなくて」「とにかく着てみせて?」
現れたら雨コートの上にロシアンシェーブルの毛皮をかけている
東京で一人暮らし、外資系の会社に勤めているのだが姉が彼女を後継者としてお茶を鍛えていたので、姉がなくなったらどうするのかとみていたら、きちんと続けているのを見て胸を撫ぜ下す
「今時毛皮?でも今日は寒いからね」
「これ比佐子おばちゃんにいただいた毛皮ですよ」
「あらそうだった?どうりで何か見覚えあるみたいだったわ、今時毛皮で恥ずかしくない?」
「暖かいですよ、それに雨にも強いし」
変に人の目を気にする世代と違って、暖かいからいいでしょう?割り切っている。
「今着ている雨コートにその毛皮あってるじゃあないの?」
「うーーん、これお仕着せなんだもん、なんかおしゃれでない、急な雨なら仕方ないけどーーー」
「わかったわ」
コート一枚でもおしゃれに着たいという心根を大事にしよう
「あなたのおばあちゃんは若いころ真っ赤な繻子の雨ゴートを着ていてね、急の雨になると紫の蛇の目さして私を学校に迎えに来るのだけど、目立ちすぎて恥ずかしかったわ」
「それって昭和二十年代?」
「そう私が中学生だったから昭和25年くらいかな」
「おばあちゃんってやはり若い時から自分を主張していたんだ、そのコートはないのよね」
「もう布団になってる、私が着てK子が着てさすがにすり切れたわね、それでも色が美しいので布団にしちゃった!」
あの繻子の風合いが忘れられず、それに近い織を織ってもらい群青色に染め、中に真綿を入れて防寒雨に着るようにした。これも二代目で裾が切れ始めている。
「そのおばあちゃんが着ていた赤いコートの切れ端ないの?」
「あるわよ」
「あっきれい私この色で雨ゴート作りたい」
「血筋だわね、今繻子ってなかなか手に入らないけど探してみるわね」
「形は比佐子おばちゃんと一緒がいい」
「この形作れる方亡くなったのよ」
雨ゴート一枚の話をしていても、こうして技術が繋がらないことが多い昨今、話だけでも繋いでいきたいとつくづく思う雨の土曜日
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