拙著発行を記念して、かつてのだし取り教室を
ふたたびアップします。
2004年,2回目の教室です。
だしを取って料理する教室
「だし」の味を1人でも多くの方に、広めたい
そのだしでつくった料理がどんなにおいしいか、
あじわっていただきたい、
そんな思いから、教室を催しました。
昆布と削りかつおの一番だし。
昆布の旨みは、グルタミン酸、
削りかつおは、イノシン酸
それぞれに旨味はありますが、
両方合わせて出汁をとったとき、
なんと旨味は7~8倍となります。
このだしを一度でも味わえば、
もう一度味わいたくなるし、
料理に興味がわき、料理がおいしくかわり、
暮しが変わるはず、と思ったからでした。
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さて、わたしは、どんな教室にうかがっても、
よほど強制されない限り、
いわゆる高い壇には登らず、
生徒さんと同じフロアに立ち、料理をします。
その土地土地の普段の暮らしぶりが聞けるからです。
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心に残る、だしを取って料理する教室のエピソードVo.1
仙台から10数分の、東北本線岩沼での教室。
生徒さんは、12~3人くらいの女性に混じって、
サラリーマン風の男性お1人。
女性のみなさんは、毎月その会場が主催している料理教室に
参加されている方達で、「だしを取って料理する」というのは、
はじめてなので、申し込まれたとのことでした。
<献立>は、
きゅうりの生姜酢、
若竹煮
筍の炊き込みごはん、
筍の絹皮の吸物。
*絹皮ーー筍の上部のやわらかい部分。
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「センセ、もっと醤油!醤油!」、
だし取りをしているときは、みなさん静かでしたが、
調理がはじまると、
女性のみなさん、わたしの調味料の量にご不満。
そのご不満の最高潮は、筍ごはんのときでした。
「あららーー、そんなもん?」
「あららららら、そんなちょっとの醤油?」
「あーー、だめだぁーー、父さんも息子も箸つけね」
「なーー」
「あーー、食わね、な」
「センセ、もっと醤油入れて茶色にしたら?」
もう、文句タラタラ。
「こら、うまぐね、な」と、
1人の女性は、退室されました。
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しかし、渋々ながらも、いざ、食べはじめたら、
「・・・・・・うめィ、な」
「うん、うめィ、なんでこんなに色が薄いのにうめィんだ」
「だしでねぇが」
「だしでうめィんだな」と。
全員の方からおいしい、と言っていただけました。
食べ終るころは、
「センセイ、今度いつ来る?
次は、漬物もって来っから」と、和気あいあい,
喜んでいただけました。
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終了後、前述の男性が残ってらして、
「今日は本当にありがとうございました」と改めて
ご挨拶いただき、
「いえいえ、お疲れさまでした」と顔を合わせたら、
眼に涙が浮かんでいます。
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「成人病のデパートなんです」
「ちょっとお礼を言いたくて、残りました。
わたしは、今50を過ぎたばかりの00と申します。
若くして妻を亡くし、寂しさを紛らわすために、
乱暴な食生活をしまして、わたしの身体は、
40過ぎから高血圧をはじめ、いろんな成人病の
デパートなんです。
外食は、塩分が多いので、
いい加減な料理ですが、なるべく自炊してます。
医者からは、塩を減らせ、醤油を減らせといつも
言われています。
でも、塩と醤油を減らしたら、ちっともうまくなくて、
食事の楽しみがまったくありません。
仕事もありますし、料理のことだけを考えている
わけにもいかず、
なにかいい方法はないか、なにかあるんじゃないか、
とさがし続けていました。
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「塩と醤油をへらせ」としか言わない医者と栄養士。
検診のたびに、医者は
「もっと塩と醤油を減らせ」としか言ってくれません。
先日は、
「まだ減らしてないじゃないか、このままいくと死ぬぞ、
死んでも知らなねぇぞ」と言われました・・・・・・。
なにか、糸口はないものか、
「どんなことでもやるから」と、
必至になって医者に相談しても、同じことしか言ってくれません。
「塩と醤油を減らせ」こればっかりです。
病院の栄養士もそうでした。
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ほんとうに、もう、精神的にも行き詰まってしまって、
情けないことを言うようですが、
最近は家に帰っても1人ぼっちという実感が強くなり、
さびしくて、不安で、
もう、毎日に希望がもてなくなってました。
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「おふくろは、煮干でだし,とってたな」
そんなとき、センセイの広告をみつけたんです。
タイトルの<だしを取って料理をする>。
だしは、インスタントのダシ××××を使ってますが、
昆布とかつおで取る<だし>なんて考えたこともなかったんです。
タイトルをじーーっと見ながら、
そういえば、料理には「だし」を使うものだったな、
おふくろが煮干しで取ってたな、うまかった、と思い出し、
教室に出席すれば、なにか、ヒントがもらえるかもしれないと、
今日は参加しました。
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「だしをつかえば、調味料も少なくてすむんですよ」
あんなに少しの醤油で炊いた筍ごはん、吸い物、
煮物、初めて食べました。
出汁がうまいから、塩も醤油も少しでいいんですね。
筍の煮物も、吸物もぜんぜん物足りなくなかったです。
ほんとにおいしかったです。
インスタントのだしとは全然ちがってました。
食べながら、ドキドキして、ほんとに嬉しくなりました。
答えがみつかりました。
ありがとうございました」
顔をくしゃくしゃにして、涙が落ちそうな眼で、
にっこり笑って退室されました。
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見送るわたしも、
後姿のその方の青いストライプのシャツが
よろけて太く見えました。
そしてそのとき、
だしは、ほんとうに必要とされている、と確信したのでした。
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