20歳のJリーグ⑤ クラブ経営 数字とともに理念も
昨年8月下旬。リーグ戦たけなわの時期に、熱気がしぼむようなニュースが伝えられました。
Jリーグ1部(J1)で経常赤字のクラブが、2009年度の5から10年度は9に増加1。そんな厳しい経営状況を、Jリーグが発表しました。Jlの半数に及びます。
40クラブ共存
現状を打開しようと、Jリークはクラブライセンス制度を今季から施行しました。経営健全化のための基準を設け、場合によっては参加資格を剥奪します。
Jリーグのクラブライセンス事務局アシスタントチーフの岩本鴨(みつる)さんは、経営改善の指導と相談役として各地に足を運びます。細かい財務資料の提出を求めると、難色を示すクラブも。説明を重ねて、応じてもらいます。
「各クラブの情報や悩みを共有して、課題を克服するためのコミュニケーションを欠かさないよう心がけている」と岩本さん。
リーグとして、クラブ経営に深くかかわる出発点となったのが、1998年の横浜フリューゲルス消滅問題でした。親企業・全日空が撤退したことで、クラブは短い歴史を終えました。
Jリーグはこうした事態を未然に防乙うと、翌年に「経営諮問委員会」を設置。しかし、外部有識者による諮問委員会では指導力に限界があり、大分や東京V(ともに09年)など、経営難に陥るクラブが相次ぎました。
そこで、ドイツ・プロリーグが実施し、繁栄につながったライセンス制度を手本に、Jリーグも導入に踏み出しました。
「40クラブが共存するためには、経営的に問題があるクラブはつくらない」と、岩本さんはリーグ共同体としての意義を語ります。経営難に陥ったクラブへの融資など、互助のしくみも残します。この姿勢は、球団の経営にまともな指導や援助ができないプロ野球コミッショナーとは対照的です。
一方で、同ライセンスの高いハードルによって、ひずみも生じています。
今季開幕のPRイベントで、クラブライセンス制度の意義を説いた大東チェアマン(前列中央)=3月2日、東京都内
身の丈とずれ
J2に今季から参入した町田ゼルビアは、1万人以上を収容する競技場を整備しなければ資格を奪われます。
町田市は市民合意が十分でないにもかかわらず、約50億円もの税金をつぎ込んで陸上竸技場と仮設メディアセンターの改修に着手。
工事のために市民マラソン大会が開けず、リーグ戦観戦者のための駐車場整備計画による環境破壊も懸念され、市民から抗議の声が上がっています。
今季のJ2は、1試合平均の観客数が5302人(13日現在)。町田は4000人台にとどまっています。1万人以上の競技場を求める基準は、かつて「身の丈の経営」を求めたJリーグの方針とずれています。
背景には、自国リーグの格を上げて影響力を高めるJリーグのアジア戦略があります。
現在、アジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)でJリーグの出場枠は4。
中韓の各3、豪州の2を上回ります。出場枠は過去の大会実績とともに、リーグやクラブの経営規模なども加味されます。
ACLで優勝すれば、クラブ世界一を決めるクラブ・ワールドカップ(W杯)に出場でき、クラブやリーグの商品価値も上がります。クラブW杯の開催地をめぐり、中東諸国と綱引きをしている実情も絡みます。開催国枠の特権があるからです。
今季開幕直前のPRイベントで、大東(おおひがし)和美チェアマンは同ライセンスが「世界とのたたかいをめざすうえで必要な基盤整備」と説明しました。しかし、背伸びしすぎた結果、足元がおぼつかなくなる事態は本末転倒です。
Jリーグ規約は「ホームタウンにおいて、地域社会と一体となったクラブ作り…に努めなければならない」と定めています。理念や実情にそくした制度の運用が求められます。
あるクラブの元幹部は、制度以前の問題点を口にします。
「社長が親会社からの出向組だから、2、3年で交代する。当然、目先のチケットの売れ行きばかりに目がいって、10年先の戦略が持てない」
企業スポーッを乗り越え、地域に根ざしたクラブづくりを打ち出したJリーグ。数字や規模だけでなく、理念を追求するクラブ経営に向けて、知恵と力をつくすときです。(つづく)
【クラブライセンス制度】
増える赤字体質のクラブをなくそうと、Jリーグがクラブの財政などを審査する制度。基準は①競技②施設③人事体制・組織運営④法務⑤財務の五つ。全部で56項目に及びます。施設ではJ1が「1万5千人以上」、J2は「1万人以上」収容の競技場設置、財務では「3期連続で赤字にならない」「14年度以降、債務超過にならない」ことが盛り込まれ、達成できないとライセンスが交付されません。今季から審査対象。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2012年5月15日付掲載
プロ野球と違って40ものチームがあるプロサッカー。それを支えているのは地元の企業やサポーターの方々です。
だから赤字経営にならないような「身の丈」にあったような運営が求められていると思いますね。
昨年8月下旬。リーグ戦たけなわの時期に、熱気がしぼむようなニュースが伝えられました。
Jリーグ1部(J1)で経常赤字のクラブが、2009年度の5から10年度は9に増加1。そんな厳しい経営状況を、Jリーグが発表しました。Jlの半数に及びます。
40クラブ共存
現状を打開しようと、Jリークはクラブライセンス制度を今季から施行しました。経営健全化のための基準を設け、場合によっては参加資格を剥奪します。
Jリーグのクラブライセンス事務局アシスタントチーフの岩本鴨(みつる)さんは、経営改善の指導と相談役として各地に足を運びます。細かい財務資料の提出を求めると、難色を示すクラブも。説明を重ねて、応じてもらいます。
「各クラブの情報や悩みを共有して、課題を克服するためのコミュニケーションを欠かさないよう心がけている」と岩本さん。
リーグとして、クラブ経営に深くかかわる出発点となったのが、1998年の横浜フリューゲルス消滅問題でした。親企業・全日空が撤退したことで、クラブは短い歴史を終えました。
Jリーグはこうした事態を未然に防乙うと、翌年に「経営諮問委員会」を設置。しかし、外部有識者による諮問委員会では指導力に限界があり、大分や東京V(ともに09年)など、経営難に陥るクラブが相次ぎました。
そこで、ドイツ・プロリーグが実施し、繁栄につながったライセンス制度を手本に、Jリーグも導入に踏み出しました。
「40クラブが共存するためには、経営的に問題があるクラブはつくらない」と、岩本さんはリーグ共同体としての意義を語ります。経営難に陥ったクラブへの融資など、互助のしくみも残します。この姿勢は、球団の経営にまともな指導や援助ができないプロ野球コミッショナーとは対照的です。
一方で、同ライセンスの高いハードルによって、ひずみも生じています。
今季開幕のPRイベントで、クラブライセンス制度の意義を説いた大東チェアマン(前列中央)=3月2日、東京都内
身の丈とずれ
J2に今季から参入した町田ゼルビアは、1万人以上を収容する競技場を整備しなければ資格を奪われます。
町田市は市民合意が十分でないにもかかわらず、約50億円もの税金をつぎ込んで陸上竸技場と仮設メディアセンターの改修に着手。
工事のために市民マラソン大会が開けず、リーグ戦観戦者のための駐車場整備計画による環境破壊も懸念され、市民から抗議の声が上がっています。
今季のJ2は、1試合平均の観客数が5302人(13日現在)。町田は4000人台にとどまっています。1万人以上の競技場を求める基準は、かつて「身の丈の経営」を求めたJリーグの方針とずれています。
背景には、自国リーグの格を上げて影響力を高めるJリーグのアジア戦略があります。
現在、アジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)でJリーグの出場枠は4。
中韓の各3、豪州の2を上回ります。出場枠は過去の大会実績とともに、リーグやクラブの経営規模なども加味されます。
ACLで優勝すれば、クラブ世界一を決めるクラブ・ワールドカップ(W杯)に出場でき、クラブやリーグの商品価値も上がります。クラブW杯の開催地をめぐり、中東諸国と綱引きをしている実情も絡みます。開催国枠の特権があるからです。
今季開幕直前のPRイベントで、大東(おおひがし)和美チェアマンは同ライセンスが「世界とのたたかいをめざすうえで必要な基盤整備」と説明しました。しかし、背伸びしすぎた結果、足元がおぼつかなくなる事態は本末転倒です。
Jリーグ規約は「ホームタウンにおいて、地域社会と一体となったクラブ作り…に努めなければならない」と定めています。理念や実情にそくした制度の運用が求められます。
あるクラブの元幹部は、制度以前の問題点を口にします。
「社長が親会社からの出向組だから、2、3年で交代する。当然、目先のチケットの売れ行きばかりに目がいって、10年先の戦略が持てない」
企業スポーッを乗り越え、地域に根ざしたクラブづくりを打ち出したJリーグ。数字や規模だけでなく、理念を追求するクラブ経営に向けて、知恵と力をつくすときです。(つづく)
【クラブライセンス制度】
増える赤字体質のクラブをなくそうと、Jリーグがクラブの財政などを審査する制度。基準は①競技②施設③人事体制・組織運営④法務⑤財務の五つ。全部で56項目に及びます。施設ではJ1が「1万5千人以上」、J2は「1万人以上」収容の競技場設置、財務では「3期連続で赤字にならない」「14年度以降、債務超過にならない」ことが盛り込まれ、達成できないとライセンスが交付されません。今季から審査対象。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2012年5月15日付掲載
プロ野球と違って40ものチームがあるプロサッカー。それを支えているのは地元の企業やサポーターの方々です。
だから赤字経営にならないような「身の丈」にあったような運営が求められていると思いますね。