馬毛島新基地 今を追う① 民意無視 島民に被害
基地建設が強行されている鹿児島県西之表市の馬毛島(まげしま)。九州から南西諸島にかけて、中国が想定する「第1列島線」上にある無人島です。日本政府は軍事要塞化の重要拠点として、米軍の空母艦載機離着陸訓練(FCLP)・タッチアンドゴーと陸海空自衛隊の訓練が一体化してできる基地と位置付けています。国民の声を無視した建設が強行されるもと、馬毛島から約10キロに位置する兄弟島・種子島では、街のようすが一変しています。馬毛島と種子島のいまを追います。(加來恵子)
防衛省が公表した馬毛島の施設全体配置図
「馬毛島の新基地建設が始まって以来、米軍機による低空飛行と訓練が行われ、午前3時まで飛行することもある。馬毛島に基地ができれば、なし崩し的に種子島本土が基地化されるのではないか」。こう懸念を語るのは馬毛島の情報を発信している種子島・西之表市に住む三宅公人さんです。
三宅公人さん
離着陸2.8万回
2023年1月に新基地建設工事が始まった馬毛島で無数の作業船が接岸し、緑で覆われていた島は地肌があらわれ、地元の人々は心を痛めています。
基地建設の影響に加え、島民に深刻な被害をもたらすのが完成後の訓練です。防衛省によると、米軍と自衛隊によるタッチアンドゴー訓練は年間150日、2万8000回行われるとしています。
馬毛島はもともと緑豊かな島でした。リゾート開発で買いあさられ、ゴルフ場建設や石油備蓄計画などさまざまな計画が持ち上がっては住民の運動で中止させてきました。しかし19年に新基地建設計画が浮上。その直後に「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会」が結成されました。
「売却しない」と公言していた西之表市の八板俊輔市長が、市の所有地である馬毛島の市道1~3号と小中学校跡を防衛省に売却しました。建設工事は環境アセス評価書が出てすぐに始まりました。
これを知った西之表市の住民らは、市民の財産を勝手に売ったとして2度の住民監査請求を行いましたが受理せず。3回目の住民監査請求は半年以上たって却下され、4回目の再請求も11月に棄却されました。そのため19日に市民29人が市有地売却や市道廃止の手続きは違法だとして鹿児島地裁に提訴しました。
種子島に接岸している作業船
医療に圧迫も
馬毛島新基地建設にかかわる労働者が、けがをするケースも発生し、地元病院の医師、看護師不足や待ち時間の解消などの課題が指摘されています。
漁船は海上タクシーに変わりましたが、基地建設労働者の事故発生により救命船の常設が求められ、投資できずに海上タクシーをやめる人も出てきているといいます。
西之表市に隣接する中種子町(なかたねちょう)の町長は基地建設に賛成したため、中種子町民は反対をいえる雰囲気ではありません。しかし、中種子町の漁民からは、漁協に参加する人たち全員に漁業権の放棄採決をかけず、上層部のみで放棄することを決めたことに不満の声が噴き出ています。
「戦争いや」声をあげる住民
「屋久島にオスプレイが墜落した事件が起きて、戦争が忍び寄っていると危機感を感じています」と語るのは種子島・中種子町に隣接する地域に住む川原孝子さんです。
「子どもに基地を残してはいけない。第二の沖縄にしてはいけない」との思いで数年前から「水曜の会」という女性グループで勉強会を重ねてきました。
雰囲気が変化
96歳の戦争体験者の話を聞く機会を得たとき、「声をあげないといけないのは今ですよ」と言われました。
中種子町長は基地建設に賛成したため、町民は話題にしづらく、反対の声をあげつらいといいます。それでも川原さんは黙ってはいられないと考えています。
終戦直後に生まれた上妻伸子さんは、戦争は体験していませんが、食料難や戦争による悲惨な生活を生きてきた人たちの中で育ちました。「基地建設に対しての不安や迷惑以前に“戦争は嫌だ”という気持ちが大きい」といいます。
以前は基地建設反対を表立って言えない雰囲気が徐々に変化しています。上妻さんは、全国の応援に励まされ、基地建設を容認した人や賛成した人たちに対して、「戦争はいや」という思いを前向きに伝えていきたいと語ります。「鹿児島県の鹿屋と知覧には特攻隊員の遺族への手紙が展示されている資料館があります。あの手紙を読んでほしい。隊員の家族つづった思いを知ってほしい」と訴えます。
馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会の前園美子副会長は、馬毛島新基地建設の問題点を三つ指摘します。
上妻さん(左)と前園さん
攻撃の標的に
一つは、全国にある米軍基地が戦中の日本軍基地に取って代わって駐留しました。これに対し、馬毛島に建設される新基地は、まっさらな土地に米軍も使用する基地をつくる初めての例になると指摘。「これを許すことは、“米国がここに基地が欲しい”と日本政府に伝えれば、国がその土地を国有化し、どこでも基地ができることを示すことになる」と警告します。
二つ目は、土地評価の問題です。2019年に45億円と評価されたものが最終的に160億円で売却されました。土地の購入にあてられた税金は、沖縄辺野古新基地建設費用でした。国会審議にもかけることなく、国民の同意や地元住民の理解が得られないまま行われていると指摘します。
三つ目は、騒音問題です。防衛省の説明では、午前3時まで訓練が行われるとしており、住民は騒音に悩まされることになります。「屋久島にオスプレイが墜落したことは人ごとではありません」と不安を語ります。
種子島から馬毛島までわずか10キロ。馬毛島に基地が建設され、戦争が起きれば、攻撃の標的になる危険性が高まります。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年12月25日付掲載
基地建設が強行されている鹿児島県西之表市の馬毛島(まげしま)。日本政府は軍事要塞化の重要拠点として、米軍の空母艦載機離着陸訓練(FCLP)・タッチアンドゴーと陸海空自衛隊の訓練が一体化してできる基地と位置付け。
以前は基地建設反対を表立って言えない雰囲気が徐々に変化。上妻さんは、全国の応援に励まされ、基地建設を容認した人や賛成した人たちに対して、「戦争はいや」という思いを前向きに伝えていきたいと語る。
種子島から馬毛島までわずか10キロ。馬毛島に基地が建設され、戦争が起きれば、攻撃の標的になる危険性が。
基地建設が強行されている鹿児島県西之表市の馬毛島(まげしま)。九州から南西諸島にかけて、中国が想定する「第1列島線」上にある無人島です。日本政府は軍事要塞化の重要拠点として、米軍の空母艦載機離着陸訓練(FCLP)・タッチアンドゴーと陸海空自衛隊の訓練が一体化してできる基地と位置付けています。国民の声を無視した建設が強行されるもと、馬毛島から約10キロに位置する兄弟島・種子島では、街のようすが一変しています。馬毛島と種子島のいまを追います。(加來恵子)
防衛省が公表した馬毛島の施設全体配置図
「馬毛島の新基地建設が始まって以来、米軍機による低空飛行と訓練が行われ、午前3時まで飛行することもある。馬毛島に基地ができれば、なし崩し的に種子島本土が基地化されるのではないか」。こう懸念を語るのは馬毛島の情報を発信している種子島・西之表市に住む三宅公人さんです。
三宅公人さん
離着陸2.8万回
2023年1月に新基地建設工事が始まった馬毛島で無数の作業船が接岸し、緑で覆われていた島は地肌があらわれ、地元の人々は心を痛めています。
基地建設の影響に加え、島民に深刻な被害をもたらすのが完成後の訓練です。防衛省によると、米軍と自衛隊によるタッチアンドゴー訓練は年間150日、2万8000回行われるとしています。
馬毛島はもともと緑豊かな島でした。リゾート開発で買いあさられ、ゴルフ場建設や石油備蓄計画などさまざまな計画が持ち上がっては住民の運動で中止させてきました。しかし19年に新基地建設計画が浮上。その直後に「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会」が結成されました。
「売却しない」と公言していた西之表市の八板俊輔市長が、市の所有地である馬毛島の市道1~3号と小中学校跡を防衛省に売却しました。建設工事は環境アセス評価書が出てすぐに始まりました。
これを知った西之表市の住民らは、市民の財産を勝手に売ったとして2度の住民監査請求を行いましたが受理せず。3回目の住民監査請求は半年以上たって却下され、4回目の再請求も11月に棄却されました。そのため19日に市民29人が市有地売却や市道廃止の手続きは違法だとして鹿児島地裁に提訴しました。
種子島に接岸している作業船
医療に圧迫も
馬毛島新基地建設にかかわる労働者が、けがをするケースも発生し、地元病院の医師、看護師不足や待ち時間の解消などの課題が指摘されています。
漁船は海上タクシーに変わりましたが、基地建設労働者の事故発生により救命船の常設が求められ、投資できずに海上タクシーをやめる人も出てきているといいます。
西之表市に隣接する中種子町(なかたねちょう)の町長は基地建設に賛成したため、中種子町民は反対をいえる雰囲気ではありません。しかし、中種子町の漁民からは、漁協に参加する人たち全員に漁業権の放棄採決をかけず、上層部のみで放棄することを決めたことに不満の声が噴き出ています。
「戦争いや」声をあげる住民
「屋久島にオスプレイが墜落した事件が起きて、戦争が忍び寄っていると危機感を感じています」と語るのは種子島・中種子町に隣接する地域に住む川原孝子さんです。
「子どもに基地を残してはいけない。第二の沖縄にしてはいけない」との思いで数年前から「水曜の会」という女性グループで勉強会を重ねてきました。
雰囲気が変化
96歳の戦争体験者の話を聞く機会を得たとき、「声をあげないといけないのは今ですよ」と言われました。
中種子町長は基地建設に賛成したため、町民は話題にしづらく、反対の声をあげつらいといいます。それでも川原さんは黙ってはいられないと考えています。
終戦直後に生まれた上妻伸子さんは、戦争は体験していませんが、食料難や戦争による悲惨な生活を生きてきた人たちの中で育ちました。「基地建設に対しての不安や迷惑以前に“戦争は嫌だ”という気持ちが大きい」といいます。
以前は基地建設反対を表立って言えない雰囲気が徐々に変化しています。上妻さんは、全国の応援に励まされ、基地建設を容認した人や賛成した人たちに対して、「戦争はいや」という思いを前向きに伝えていきたいと語ります。「鹿児島県の鹿屋と知覧には特攻隊員の遺族への手紙が展示されている資料館があります。あの手紙を読んでほしい。隊員の家族つづった思いを知ってほしい」と訴えます。
馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会の前園美子副会長は、馬毛島新基地建設の問題点を三つ指摘します。
上妻さん(左)と前園さん
攻撃の標的に
一つは、全国にある米軍基地が戦中の日本軍基地に取って代わって駐留しました。これに対し、馬毛島に建設される新基地は、まっさらな土地に米軍も使用する基地をつくる初めての例になると指摘。「これを許すことは、“米国がここに基地が欲しい”と日本政府に伝えれば、国がその土地を国有化し、どこでも基地ができることを示すことになる」と警告します。
二つ目は、土地評価の問題です。2019年に45億円と評価されたものが最終的に160億円で売却されました。土地の購入にあてられた税金は、沖縄辺野古新基地建設費用でした。国会審議にもかけることなく、国民の同意や地元住民の理解が得られないまま行われていると指摘します。
三つ目は、騒音問題です。防衛省の説明では、午前3時まで訓練が行われるとしており、住民は騒音に悩まされることになります。「屋久島にオスプレイが墜落したことは人ごとではありません」と不安を語ります。
種子島から馬毛島までわずか10キロ。馬毛島に基地が建設され、戦争が起きれば、攻撃の標的になる危険性が高まります。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年12月25日付掲載
基地建設が強行されている鹿児島県西之表市の馬毛島(まげしま)。日本政府は軍事要塞化の重要拠点として、米軍の空母艦載機離着陸訓練(FCLP)・タッチアンドゴーと陸海空自衛隊の訓練が一体化してできる基地と位置付け。
以前は基地建設反対を表立って言えない雰囲気が徐々に変化。上妻さんは、全国の応援に励まされ、基地建設を容認した人や賛成した人たちに対して、「戦争はいや」という思いを前向きに伝えていきたいと語る。
種子島から馬毛島までわずか10キロ。馬毛島に基地が建設され、戦争が起きれば、攻撃の標的になる危険性が。