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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

私と資本論③ フランス文学者・神戸女学院大学名誉教授 内田樹さん&政治学者・京都精華大学専任講師 白井聡さん

2020-01-24 08:21:14 | 経済・産業・中小企業対策など
私と資本論③ フランス文学者・神戸女学院大学名誉教授 内田樹さん&政治学者・京都精華大学専任講師 白井聡さん

自由に読み、語れる言論環境
フランス文学者・神戸女学院大学名誉教授 内田樹さん



「私と資本論」というタイトルで寄稿依頼された。引き受けておいてどうかと思うが、実は私は『資本論』を完読したことがない。あちこちつまみ食い的に拾い読みしているうちに長い歳月がたってしまった。
さいわい、いま、『若者よマルクスを読もう』というマルクスの入門書シリーズを、経済学者の石川康宏さんと共著で書いている。『共産党宣言』から始まって、『経済学・哲学草稿』『へーゲル法哲学批判序説』『ユダヤ人問題によせて』『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』『フランスにおける内乱』など順調に解説を書き上げ、残すは『資本論』ただ一冊となった。
だから、たぶん今年中には完読することになると思う。『資本論』の完読を古希まで先送りにしても、マルクスについて論じるに支障はないと知れば、『資本論』未読の諸君も安堵するのではないかと思う。
ただ、そういう芸当ができるのは日本だけかもしれないということは申し上げておかねばならない。というのは、日本はマルクス研究の蓄積においては、かつてマルクス主義を国是と称していた国々や、マルクスの「本国」であるドイツやイギリスに比べてもまったく遜色のない「マルクス研究先進国」だからである。
日本には百年を超えるマルクス研究の蓄積がある。だから、私のような素人が一知半解のマルクス研究書を書いても誰からも叱られないのである。どのような新しい解釈を思いついても、容易には揺るがぬ学問的正系の大黒柱が立っているので、誰でもが自由にマルクスを読み、自由に語ることを許されている。学問的蓄積の厚みがある国では、「開かれた言論」を享受できる。それが政府や党がマルクス解釈を専管している国との違いである。
私たちの『若者よマルクスを読もう』は中国語訳されて、中国共産党の「党幹部必読図書」に指定された。申し訳ないような話だが、それは書き手の手柄ではない。「中国人には決して書けないマルクス論」が日本人には書けるのは、ことマルクスについては闊達(かったつ)で自由な言論環境が日本にはあるということなのである。これは日本が世界に誇ることのできる数少ない知的卓越の一つである。


生活で直面する苦痛の源示す
政治学者・京都精華大学専任講師 白井聡さん



大学生当時『資本論』を初めて読んだ。その頃、デパートの食堂でウエーターをしていた。混雑時は4時間くらい立ち止まる暇もない。逆に、暇なときはすることがなくて、暇疲れしてしまう。そういうときにはレジの陰で本を読んでいた。まさにそこで『資本論』を読んだ。ああいう環境で読むと理解が進む。「賃労働とは何か」を実感しながら読むからだ。
「店長はムカつくやつだ」と思っていると、ある日店長が朝から「憂欝だ」と言っている。デパートの担当者が面談に来るからだ。「売り上げが不十分だ」と絞りにくるのだ。こうして「店長よりもっとイヤなやつがその上にいるらしい」とわかってくる。なんであいつはあんなに威張りくさっているのか。それは大資本の威光をかさに着ているからだ。
『資本論』からわかってきたことには、デパートの担当者と店長との関係、店長とアルバイターとの関係は、それぞれ大資本と小資本、資本家と労働者といった資本制に特有の社会的関係の反映だったのだ。
では大資本とは何か。デパート資本は店子の中小零細企業に比べれば大きいが、日本経済全体で見れば、最大でも最強でもない。さらに経済は世界中でつながっており、日本では大資本であっても世界的に見ればより大きく強い資本はいくらでもある。私が働いていたそのデパートも昨年、百貨店不況のなかで閉店した。
『資本論』は、一方ではグローバルな資本主義の発展傾向といった最も大きな話にかかわっていながら、他方で、自分の上司がなぜ横柄なのか、というような最も身近でミクロなことにもかかわっている。そして、それらがすべてつながっていることを見せてくれる。ここが『資本論』のすごさだ。
いま私は『資本論入門』の出版準備をしている。『資本論』の偉大さがストレートに伝わる本を世に出したい。私たちが生活の中で直面する不条理や苦痛がどのようにして生み出されるのかを『資本論』は鮮明に示してくれる。それを伝えたい。東洋経済新報社から春頃に出る予定だ。

「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年1月22日付掲載


内田樹さん曰く、日本はマルクス主義を国是と称してきた国(旧ソ連や中国か)やマルクスが活動したドイツやイギリスよりも「マルクス研究先進国」。
白井聡さんは、自分がアルバイトしていたデパートの食堂の話し。食堂の店長と労働者の関係、デパートの担当者と食堂の店主の関係。そこに資本の論理を垣間見た。
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