検証TPP「大筋合意」は何を示したか⑥ 多国籍企業本位に
環太平洋連携協定(TPP)は、国境を越えて利益を追求する多国籍企業が各国の制度の違いを意識せずに事業を展開できるよう、共通の基準(ルール),を定めることを主眼にしています。
国が訴えられる
中でも、投資の章に盛り込まれた投資家対国家紛争解決(ISDS)条項には、将来にわたって必要な規制の導入を妨害し、国家の主権を侵害するものだと、米国を含むTPP交渉参加諸国で強い批判があります。
ISDSは、進出先の国の制度・政策変更などで損害を受けたと主張する外国企業が、その国の政府を相手取って損害賠償の訴えを起こせる規定なのです。
日本政府は、「大筋合意」で、らん訴防止措置が盛り込まれたと強調します。日本が訴えられることはなく、海外進出する日本企業にとって必要な規定だというのです。
しかし、オーストラリア政府は、ISDSの適用対象からたばこを除外しました。このことは、らん訴防止措置の効果を疑わせるものです。除外しなければ、訴えられる危険があると、オーストラリア政府が判断したことを意味します。オーストラリア政府は現に、米たばこ企業の香港子会社に訴えられ、4年越しの裁判を行っているのです。
実は、日本政府も、訴えられる可能性を認めています。政府が発表した「総合的なTPP関連政策大綱」の参考資料は、こう述べています。
「近年、これを活用した仲裁提起の件数が増加している。仮に、既存の投資協定等に基づいて訴訟が提起され、わが国が敗訴した場合には、TPP協定発効後には訴訟経験の豊富な外国企業等による更なる訴訟を招く可能性もある」

シドニーの外交貿易省前で行われたTPP反対集会=3月13日(オーストラリア公正貿易投資ネットワーク提供)
新薬データ保護
知的財産の章に盛り込まれた、がん治療薬などバイオ新薬のデータ保護期間も、米製薬大企業の要求を反映したものです。データ保護期間が長ければ長いほど、安価なジェネリック医薬品(後発医薬品)の市販を遅らせ、高値での独占販売が可能になるからです。
ジェネリック医薬品の普及で医療費を抑えたいオーストラリアをはじめ途上国が5年間とするよう求めたのに対し、日米が実質8年間を押し付けました。
日本政府は、TPPが途上国の市場を開放し、スーパーやコンビニの出店が容易になる(ベトナム、マレーシア)、銀行の支店数の上限が拡大され、店舗外の新規ATM(現金自動預払機)の設置制限がなくなる(マレーシア)など、“成果”を誇ります。
しかし、こうしたことで利益を得るのは、多国籍企業化した一握りの大企業です。それと引き換えに、国内市場を米国などの多国籍企業に明け渡し、農業や中小企業、地場産業や地域経済への甚大な影響を顧みなかったのです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年12月15日付掲載
新薬データー保護で、ジェネリック医薬品が認められるのが、新薬発売から5年から8年に延ばされるなど、製薬会社の利権を保護するものに。
普通の薬品ならともかく、エイズ治療薬などでは、命にかかわる問題になります。
環太平洋連携協定(TPP)は、国境を越えて利益を追求する多国籍企業が各国の制度の違いを意識せずに事業を展開できるよう、共通の基準(ルール),を定めることを主眼にしています。
国が訴えられる
中でも、投資の章に盛り込まれた投資家対国家紛争解決(ISDS)条項には、将来にわたって必要な規制の導入を妨害し、国家の主権を侵害するものだと、米国を含むTPP交渉参加諸国で強い批判があります。
ISDSは、進出先の国の制度・政策変更などで損害を受けたと主張する外国企業が、その国の政府を相手取って損害賠償の訴えを起こせる規定なのです。
日本政府は、「大筋合意」で、らん訴防止措置が盛り込まれたと強調します。日本が訴えられることはなく、海外進出する日本企業にとって必要な規定だというのです。
しかし、オーストラリア政府は、ISDSの適用対象からたばこを除外しました。このことは、らん訴防止措置の効果を疑わせるものです。除外しなければ、訴えられる危険があると、オーストラリア政府が判断したことを意味します。オーストラリア政府は現に、米たばこ企業の香港子会社に訴えられ、4年越しの裁判を行っているのです。
実は、日本政府も、訴えられる可能性を認めています。政府が発表した「総合的なTPP関連政策大綱」の参考資料は、こう述べています。
「近年、これを活用した仲裁提起の件数が増加している。仮に、既存の投資協定等に基づいて訴訟が提起され、わが国が敗訴した場合には、TPP協定発効後には訴訟経験の豊富な外国企業等による更なる訴訟を招く可能性もある」

シドニーの外交貿易省前で行われたTPP反対集会=3月13日(オーストラリア公正貿易投資ネットワーク提供)
新薬データ保護
知的財産の章に盛り込まれた、がん治療薬などバイオ新薬のデータ保護期間も、米製薬大企業の要求を反映したものです。データ保護期間が長ければ長いほど、安価なジェネリック医薬品(後発医薬品)の市販を遅らせ、高値での独占販売が可能になるからです。
ジェネリック医薬品の普及で医療費を抑えたいオーストラリアをはじめ途上国が5年間とするよう求めたのに対し、日米が実質8年間を押し付けました。
日本政府は、TPPが途上国の市場を開放し、スーパーやコンビニの出店が容易になる(ベトナム、マレーシア)、銀行の支店数の上限が拡大され、店舗外の新規ATM(現金自動預払機)の設置制限がなくなる(マレーシア)など、“成果”を誇ります。
しかし、こうしたことで利益を得るのは、多国籍企業化した一握りの大企業です。それと引き換えに、国内市場を米国などの多国籍企業に明け渡し、農業や中小企業、地場産業や地域経済への甚大な影響を顧みなかったのです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年12月15日付掲載
新薬データー保護で、ジェネリック医薬品が認められるのが、新薬発売から5年から8年に延ばされるなど、製薬会社の利権を保護するものに。
普通の薬品ならともかく、エイズ治療薬などでは、命にかかわる問題になります。