どう見る「円安・株高」③ 「デフレ脱却」 原因を見誤った対策
東京工科大学 工藤昌宏教授に聞く
安倍晋三政権は「デフレ脱却」を掲げています。
そもそも、「デフレ」とは、何らかの原因で、商品やサービスに対する貨幣の価値が上がることにより、物価下落が起きる現象のことです。政府は、市場に出回る貨幣量が少ないことが原因で、物価が下落しているとの短絡的な発想から、「金融緩和」を掲げています。
国民所得が低下
しかし、「デフレ」の原因は、日銀から市場に資金が流れていないからではありません。
もっとも大きな原因は、国民の賃金・所得が低下し、雇用情勢も不安定な状況で、将来への不安が大きくなっていることです。
「デフレ」の原因は、歴代の自民党政権が、企業収益を最優先した政策をとる一方で、国民生活を軽視してきたことにあるのに、安倍首相はその反省がありません。
1990年代に入り、企業収益が増大したものの、雇用情勢は悪化しました。賃金上昇率も低下し、98年ごろから賃金上昇率はマイナスに転じました。
政府や財界は、企業収益を増やせば、雇用も所得も拡大して消費が活性化するといいます。しかし、大企業は、利益を積み増すためにコスト削減で労働者に痛みを押し付けてきたのが実情です。この事実が、企業収益を最優先する政策が誤りであることを示しています。
さらに、政府が、消費税増税や医療費負担増などを強行したことによって、経済の基盤である消費は冷え込み、「デフレ」をいっそう深刻化させました。

衆議院予算委員会で答弁する安倍晋三首相=2月7日
賃上げこそ必要
「デフレ脱却」には、賃上げが必要です。マスコミは、トヨタなど一部企業の一時金の満額回答」を仰々しく報道しています。しかし、一時金の引き上げでは不十分です。来年も維持されるかわからないので、労働者が一時金を消費に回すことは難しいと思います。しかも、流通業などは、非正規雇用の比率が高いため、正社員の一時金を引き上げても、消費活性化の効果は薄いと思います。
基本給を引き上げるベースアップを行わなければ、労働者にとって安心感につながりません。
そして、何より国民が安心して消費できる環境が不可欠です。そのためには、まず、解雇規制を行い、派遣労働といった不安定雇用を、人間らしく働ける正社員へと切り替えていくことが必要です。医療や介護など、国民が安心できる社会保障制度を確立する必要があります。
ところが、政府は年金給付削減をはじめとした社会保障切り捨てや、消費税増税を進めようとしています。
「成長戦略」では、解雇規制の緩和なども狙っており、企業の目先の利益だけを追い求めています。「アベノミクス」を強引に進めれば、「デフレ」はさらに進行すると思います。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2013年4月4日付掲載
「アベノミクス」は、「デフレ」の要因を見誤ることによる失策です。社会保障や年金などの将来不安、可処分所得の減少が消費マインドを冷え込ませています。
市場にジャブジャブ資金を注ぐのではなく、国民の懐に資金を注ぐ。賃金アップや下請け単価の引き上げこそすべきです。
東京工科大学 工藤昌宏教授に聞く
安倍晋三政権は「デフレ脱却」を掲げています。
そもそも、「デフレ」とは、何らかの原因で、商品やサービスに対する貨幣の価値が上がることにより、物価下落が起きる現象のことです。政府は、市場に出回る貨幣量が少ないことが原因で、物価が下落しているとの短絡的な発想から、「金融緩和」を掲げています。
国民所得が低下
しかし、「デフレ」の原因は、日銀から市場に資金が流れていないからではありません。
もっとも大きな原因は、国民の賃金・所得が低下し、雇用情勢も不安定な状況で、将来への不安が大きくなっていることです。
「デフレ」の原因は、歴代の自民党政権が、企業収益を最優先した政策をとる一方で、国民生活を軽視してきたことにあるのに、安倍首相はその反省がありません。
1990年代に入り、企業収益が増大したものの、雇用情勢は悪化しました。賃金上昇率も低下し、98年ごろから賃金上昇率はマイナスに転じました。
政府や財界は、企業収益を増やせば、雇用も所得も拡大して消費が活性化するといいます。しかし、大企業は、利益を積み増すためにコスト削減で労働者に痛みを押し付けてきたのが実情です。この事実が、企業収益を最優先する政策が誤りであることを示しています。
さらに、政府が、消費税増税や医療費負担増などを強行したことによって、経済の基盤である消費は冷え込み、「デフレ」をいっそう深刻化させました。

衆議院予算委員会で答弁する安倍晋三首相=2月7日
賃上げこそ必要
「デフレ脱却」には、賃上げが必要です。マスコミは、トヨタなど一部企業の一時金の満額回答」を仰々しく報道しています。しかし、一時金の引き上げでは不十分です。来年も維持されるかわからないので、労働者が一時金を消費に回すことは難しいと思います。しかも、流通業などは、非正規雇用の比率が高いため、正社員の一時金を引き上げても、消費活性化の効果は薄いと思います。
基本給を引き上げるベースアップを行わなければ、労働者にとって安心感につながりません。
そして、何より国民が安心して消費できる環境が不可欠です。そのためには、まず、解雇規制を行い、派遣労働といった不安定雇用を、人間らしく働ける正社員へと切り替えていくことが必要です。医療や介護など、国民が安心できる社会保障制度を確立する必要があります。
ところが、政府は年金給付削減をはじめとした社会保障切り捨てや、消費税増税を進めようとしています。
「成長戦略」では、解雇規制の緩和なども狙っており、企業の目先の利益だけを追い求めています。「アベノミクス」を強引に進めれば、「デフレ」はさらに進行すると思います。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2013年4月4日付掲載
「アベノミクス」は、「デフレ」の要因を見誤ることによる失策です。社会保障や年金などの将来不安、可処分所得の減少が消費マインドを冷え込ませています。
市場にジャブジャブ資金を注ぐのではなく、国民の懐に資金を注ぐ。賃金アップや下請け単価の引き上げこそすべきです。