シリーズ 原発の深層 第二部・米戦略のもとで⑩ 「安全神話」の源流
「地上最大の力―人類はそれを手中に収め、自らの意思で使うことができる」。米原子力委員会(AEC)が1954年に作成した「平和のための原子力」政策の広報冊子の一節です。
学者の警告は
「6キロの濃縮核燃料で石炭1万8000トン分」(同冊子)という巨大な力を自由に操ることができる―。そう描くために排除されてきたのが、“安全性”に関する議論です。
「現在までいかなる施設でも原子炉事故が起きていないのは、極度に幸せなことだ。しかし、核分裂と原子力の応用が広がるにつれ、これまでの破られざる記録を維持できるとは期待できない」
原爆開発のマンハッタン計画に参加した理論物理学者エドワード・テラーは53年9月、米議会の上下両院合同原子力委員会で警告しました。
しかし、同委員会では、テラー氏の警告を無視。原子炉の安全性に関する議論は一切行われず、54年に民間企業の原発参入を認めた改定原子力法が可決されました。
当時、AECは原子力防護勧告委員会から受け取っていた報告書を公表せず、表向きは「(事故の)可能性を最小限にするためにあらゆる合理的な措置」が取られていると繰り返していました。(ダニエル・フォード『メルトダウン』)
批判的な意見を排除し、都合の悪い情報を隠して「安全性」を強調する―。日本で形づくられてきた原発「安全神話」の源流です。

米国初の商業用原子炉・シッピングポート原子力発電所(ペンシルベニア州)
最悪の事故は
56年6月、全米科学アカデミーが164人の科学者を動員して、「原爆であれ、平和利用であれ、自然であれ、放射能は人間に有害」とする報告を公表。「原子力産業が発展すれば、蓄積される放射性廃棄物は、原水爆戦争で放出される放射能より多くなりうる」と指摘しています。
さらに57年3月には、衝撃的な報告書が公表されました。
「死者3400人、障害者4万3000人」「死者は15マイル(24キロ)、障害者は45マイル(72キロ)圏で発生する」「損害額は70億ドル」
原子力損害賠償制度を定めたプライス・アンダーソン法の制定(同年9月)に先立ち、AECが作成した報告書「公衆災害を伴う原子力発電所事故の研究」(WASH740)で示された「最悪の事故」での予測です。
日本でも60年、同報告を参考に、東海村原発(茨城県)での炉心溶融(メルトダウン)を想定した報告書が作成されました。しかし、最大で死者720人、障害者5000人、被害額3兆7300億円という衝撃的な被害予測は米国とちがって公表されず、79年に「赤旗」が暴露して初めて知られました。
深刻な原子炉災害は起こりうる―。それでも、「安全神話」は拡大されてゆきます。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年10月10日付掲載
批判的な意見を排除し、都合の悪い情報を隠すなどは日本の原発推進や今回の原発事故でも同じですね。
「地上最大の力―人類はそれを手中に収め、自らの意思で使うことができる」。米原子力委員会(AEC)が1954年に作成した「平和のための原子力」政策の広報冊子の一節です。
学者の警告は
「6キロの濃縮核燃料で石炭1万8000トン分」(同冊子)という巨大な力を自由に操ることができる―。そう描くために排除されてきたのが、“安全性”に関する議論です。
「現在までいかなる施設でも原子炉事故が起きていないのは、極度に幸せなことだ。しかし、核分裂と原子力の応用が広がるにつれ、これまでの破られざる記録を維持できるとは期待できない」
原爆開発のマンハッタン計画に参加した理論物理学者エドワード・テラーは53年9月、米議会の上下両院合同原子力委員会で警告しました。
しかし、同委員会では、テラー氏の警告を無視。原子炉の安全性に関する議論は一切行われず、54年に民間企業の原発参入を認めた改定原子力法が可決されました。
当時、AECは原子力防護勧告委員会から受け取っていた報告書を公表せず、表向きは「(事故の)可能性を最小限にするためにあらゆる合理的な措置」が取られていると繰り返していました。(ダニエル・フォード『メルトダウン』)
批判的な意見を排除し、都合の悪い情報を隠して「安全性」を強調する―。日本で形づくられてきた原発「安全神話」の源流です。

米国初の商業用原子炉・シッピングポート原子力発電所(ペンシルベニア州)
最悪の事故は
56年6月、全米科学アカデミーが164人の科学者を動員して、「原爆であれ、平和利用であれ、自然であれ、放射能は人間に有害」とする報告を公表。「原子力産業が発展すれば、蓄積される放射性廃棄物は、原水爆戦争で放出される放射能より多くなりうる」と指摘しています。
さらに57年3月には、衝撃的な報告書が公表されました。
「死者3400人、障害者4万3000人」「死者は15マイル(24キロ)、障害者は45マイル(72キロ)圏で発生する」「損害額は70億ドル」
原子力損害賠償制度を定めたプライス・アンダーソン法の制定(同年9月)に先立ち、AECが作成した報告書「公衆災害を伴う原子力発電所事故の研究」(WASH740)で示された「最悪の事故」での予測です。
日本でも60年、同報告を参考に、東海村原発(茨城県)での炉心溶融(メルトダウン)を想定した報告書が作成されました。しかし、最大で死者720人、障害者5000人、被害額3兆7300億円という衝撃的な被害予測は米国とちがって公表されず、79年に「赤旗」が暴露して初めて知られました。
深刻な原子炉災害は起こりうる―。それでも、「安全神話」は拡大されてゆきます。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年10月10日付掲載
批判的な意見を排除し、都合の悪い情報を隠すなどは日本の原発推進や今回の原発事故でも同じですね。